第一話 ドラゴンの会合
Prologue
昔々、まだこの大地が出来たばかりの頃、地面の下には一頭の黒いドラゴンがいました。この黒いドラゴンは地面を揺らしたり不幸を招いたりする悪いドラゴンで、地面の上に暮らす生き物達を大変困らせていました。
そこへ、水の神様である赤いドラゴンが黒いドラゴンの巣にやって来て、黒いドラゴンに「悪い事はもうやめなさい」と長い時間をかけて説得したのです。黒いドラゴンは赤いドラゴンの説得を聞き入れてしばらくは大人しくしていたものの、赤いドラゴンが去ると再び地面を揺らしたり不幸を招いたりし始めました。
そこで、赤いドラゴンは黒いドラゴンを懲らしめる為、再び黒いドラゴンの巣にやって来て、その中へと入っていったのです。そうしてしばらくすると、黒いドラゴンの巣から赤いドラゴンの、それはそれは大きな雄叫びが聞こえてきました。
地面の上に暮らす生き物達は、黒いドラゴンの巣から聞こえる赤いドラゴンの雄叫びを聞いて、黒いドラゴンは赤いドラゴンにやっつけられた、だからもういなくなったんだと、それはそれは喜びました。
こうして、赤いドラゴンのお陰で黒いドラゴンがいなくなり、地面の上に暮らす生き物達は、地面が揺れなくなり、不幸も無くなったので、とても幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
Prologue end
ミカエルさんとの面談の中で、僕を首脳会談のオブザーバーとする様にサーゼクス様やアザゼルさんに要請すると言われてしまった。余りに話が大きくなってしまった事で僕達は揃って驚愕してしまい、その中で最も驚きが大きかった当人の僕がふと気が付いたら、ミカエルさんは既に天界へと帰ってしまっていた。家に帰り着いた後でイリナに尋ねると、ミカエルさんが天界に帰る事を伝えた時には「お気をつけてお帰り下さい」と何ら問題なく受け答えをしていたらしい。その事実に全く身に覚えがない事を伝えると、かえってイリナに驚かれてしまった。……習慣というものは、怖いものである。
ただ、僕が和平に関する懸念事項である「危険分子の一斉蜂起もしくは反抗勢力の集結」についてミカエルさんに確認した所、アザゼルさんのここ数十年の活動について何かを察した様だった。……どうやら、聖魔和合の第一歩となる天界と冥界の和平はそう簡単には実現しないものらしい。
そして、その翌日。即ち、駒王学園における首脳会談当日の朝。僕は一つの夢を見てから目覚めた。
「また、あの夢か……」
僕は頭を少し掻き毟りつつ、ここ最近二日に一度は見る様になった夢の内容を思い出していた。
「間違いない。あれはケルトの建国伝承だ」
実は、
何せ、伝承上ではその黎い邪龍と戦って勝利した事で赤い龍はウェールズ地方の守護神となり、後に侵攻してきたサクソン人の守護神である白い龍と戦う事になったのだから。その意味では、黎い邪龍はドライグが二天龍となる為の踏み台となったドラゴンと言えるだろう。
……ただ、ドライグに対してその様な事を言おうものなら、逆鱗に触れられた事で理性を失ったドライグによって僕は嬲り殺されるだろう。
伝承とは、あくまで人間視点でのお話でしかないのだから。
『どうした、一誠? 随分と目覚めが悪そうだが』
僕が夢について考えていると、ドライグが僕に心配そうに声を掛けてきた。そこで、僕は夢を見た事を伝える。
「夢を見たんだ。ここ最近。……いや、こう言い直そう。アウラのお陰で一度は決別したイリナと結ばれて以来、何度も見ている夢を」
『ホウ? それで、どんな夢だ?』
僕の夢に興味を持ったドライグがその内容を尋ねてきたので、僕は一瞬逡巡したものの結局は正直に答えた。
「……黎い邪龍、ウェルシュ・ヴィラン・ドラゴン。かつてそう呼ばれて、今では忘れ去られつつある一頭のドラゴンの夢だよ」
『何だと?』
……ドライグの気配が、明らかに変わった。
「
僕が夢の話をしようとすると、ドライグが声を荒げて話を遮った。更に話を止める様に頼み込んでくる。
『一誠! ……頼む。それ以上はもう何も言わないでくれ』
今まで付き合ってきた中で、ここまで弱々しいドライグの声を聞いたのはこれが初めてだった。……だが、今まで何度もこの夢を見てきた上に巡り合わせが悪ければ全く同じ状況に陥っていたであろう僕には、今のドライグの心情が痛い程理解できる。
「……解ったよ。この件に関して、僕はもう何も言わない」
僕はそう言って話を打ち切ると、改めて首脳会談成功への誓いを立てた。
「ドライグ。僕は改めて誓うよ。この首脳会談、必ず成功させると。聖魔和合の第一歩である天界と冥界の和平の為。そして、龍帝であるお前ですら手にする事が敵わなかったモノにこの手を届かせる為にも」
この誓いはあるいはドライグの逆鱗に触れてしまうかもしれないものであったが、ドライグは僕の誓いを肯定してくれた。
『そうだ、一誠。お前はそれでいい。そうやって覇道でも王道でもない、お前だけにしか歩む事のできない名も無き道をただひたすらに駆け抜けていけ。……ただな、これだけは言わせてくれ。一度は手放そうとし、そして掴み直した手だ。どんな事があろうとも絶対に離すなよ』
……聞いた僕ですら余りにも重過ぎると感じてしまうこの言葉を、ドライグは一体どの様な想いで紡ぎ出したのだろうか?
「解っている。……だからこその、聖魔和合だ」
それを誰よりも理解できるから、僕はこの様に返事した。
『そうだったな』
ドライグは僕の返事に納得していたが、もしこの時のドライグの表情を見る事ができていたら、きっと哀しげな微笑みを浮かべていた事だろう。終生の友が、未だ癒える事のない哀しみを抑え込んででも忠告してくれたのだ。その忠告を無碍にしない為、そして聖魔和合を成し遂げる為にも、まずは首脳会談を成功させる事だ。その為ならば、僕が打てる手は全て打とう。その決意を胸に、僕は日頃の習慣である早朝鍛錬の準備を始めた。
……ただ、気になる事が一つある。この夢がドライグの視点であれば、ドライグの記憶を垣間見たという事でまだ納得がいく。だが、僕の夢はどう考えても黎い邪龍の視点で話が進んでいた。それが、どうにも腑に落ちなかった。
時間というものは重要なイベントがある日ほど早く過ぎていくもので、感覚的にはあっという間に太陽が沈み、夜も早々に更けて、首脳会談の開催時刻三十分前となった。駒王学園の新校舎内に急遽用意された会議室には、豪華な造りの円卓が一つとそれに準じた椅子が五つあるだけだった。椅子は四方に均等な距離になる様に置かれてあり、椅子が二つ置かれてあるのは四大魔王の二人が出席する悪魔側の席だ。そして、悪魔側の席と向かい側にあるのが、オブザーバーとしての参加が急遽決まった僕の席だ。
……だが、まだどの勢力もトップが来ていない。この場にいるのは、天界側がイリナ、堕天使側がヴァーリ、そして悪魔側は僕と元士郎の四名のみ。なおそれぞれの服装については、僕は礼装の
「一つ、訊いてもいいか? 何故、各勢力からドラゴンの力を持つ者を先に会場入りさせる様に申請したんだ?」
すると、元士郎もそれに続く様に自分がこの場に呼ばれた理由を尋ねてきた。
「なぁ、一誠。白龍皇、いや
僕もそろそろ説明しようとした矢先に丁度いいタイミングで二人から質問が来たので、僕は自分が首脳会談にオブザーバーとして出席する為に要した名目も含めて答えを返す。
「あぁ。それもあるし、昨日ミカエルさんとの面談が終わった後でサーゼクス様とセラフォルー様を交えて相談した結果、僕がオブザーバーとして出席する為の名目として、今回の首脳会談は僕が三大勢力のそれぞれに所属しているドラゴンの力と魂を宿す者達を通して行った呼び掛けに応じたものであり、いわば発起人である僕は首脳会談の一部始終を見届ける為に発言権の有したオブザーバーとして出席するという事にしたんだよ。それで今夜、僕が首脳会談を呼び掛けた際の協力者達と共に会場で首脳陣を出迎える体裁を取る為に、今ここにいる三人には先に会場入りしてもらったんだ。その際、悪魔側のドラゴンとしての僕の代役が必要になったんだけど、身近にいる者の中でそれが務まるのがお前以外にいなくてね。一応、最上級悪魔にして元龍王である
僕がここで言葉を切ると、元士郎はタンニーン様の何が問題になるのかを解った様でそれを言い始めた。
「明らかに悪魔側が過剰に戦力を持ってくる形になってしまうか。それじゃまとまる話も拗れてしまうし、そこまで考えると確かに俺が適任だな」
元士郎が自分が呼ばれた理由に納得すると、そこで元士郎とイリナの事が気になったのだろう。ヴァーリが僕に二人の事を尋ねてきた。
「兵藤一誠。堕天使側のドラゴンは
そこで、僕はまず元士郎の事をヴァーリに紹介する。
「ヴァーリ、こちらは匙元士郎だ。今回の会談に出席するソーナ・シトリー様に僕と共にお仕えする
「まぁそういう事だ。一応、証拠は見せておくぜ」
僕の紹介の後で元士郎はそう言うと、右手に黒い龍脈を発現させた。なお、元士郎の黒い龍脈は何匹もの蛇が腕にとぐろを巻き、手の甲にトカゲの頭部がくっついた様な形状から、一頭の東洋型の黒いドラゴンが肘から手の方へと巻きつき、手の甲に頭部を乗せている様な形状へと大きく変化している。ヴァーリは元士郎の黒い龍脈を一目見て感心した様な表情を浮かべると、明らかに僕の仕業と見なして何をしたのかを尋ねてきた。
「ホウ。確かに、本部で見たヴリトラ系神器と同じオーラを放っているな。だが、形状は俺が見た物とはまるで違うし、オーラの強さと純度が桁違いだ。兵藤一誠。一体、何をした?」
……確かに、今日の早朝訓練の時に僕がやった事で元士郎の神器の形状が大きく変わったのは認めるが、何かあったらすぐに僕のせいになってしまうとは、僕は一体どの様な認識をされているのだろうか?
その様な事を考えつつ、僕はヴァーリの質問に答えていく。
「そこまで大した事はしてないよ。ただ、神器を発動する左手から血を流してから、その左手にドライグのオーラを集束させる事で二天龍の血に限りなく近いドラゴンの血を作り出し、それを黒い龍脈に飲ませただけだ」
僕がそう説明すると、元士郎は半ば呆れた様な表情で僕の後に続いた。
「その結果、これだからな。しかもそのお陰で俺の神器の出力も大幅に増していて、今なら相手がケルベロスでも接続した瞬間に生命力を全て吸い上げる事が可能だと思うぜ。……と、こんな感じでコイツは何やらせても想像の斜め上を行っちまうから、付き合うこっちはホントに大変なんだよ。尤も、その内に次は何が出てくるのか、段々楽しみになってくるんだけどな。あぁそれとな、これはあくまで俺の勘なんだが、後は俺の神器に他のヴリトラ系神器を統合させてしまったら、本当にヴリトラの意識が蘇りそうな感じだぜ」
元士郎が最後にヴリトラの意識が蘇る可能性が出てきた事を伝えると、ヴァーリはその情報を誰よりも喜びそうな人について触れた後、次にイリナの事を自身の推測を交えて尋ねてきた。
「その話を聞いたら、アザゼルは色々な意味で大喜びだな。それで、次はそちらだ。気配から察するに、ドラゴンの力を持った天使の様だが……」
……どうやら、ヴァーリの気配察知の技量はかなりのレベルの様だ。ただ、この首脳会談が終わればイリナが
「彼女は紫藤イリナ。今そちらの言った通り、ドラゴンの因子を持つ事からカンヘル、龍天使に相当する天使だ。正確には、コカビエルの起こした騒動の最中に事故で転生したが、元々は聖剣使いの
……ここで僕は一瞬悩んだが、この際だからはっきり言っておく事にする。
「この際だから、はっきり言っておこう。イリナと僕は幼馴染であると同時に、将来を誓い合っている。だから、天界と冥界の和平とそれに伴う共存共栄を謳った聖魔和合を立ち上げたんだ」
僕の爆弾発言込みの紹介を受けて、イリナも自己紹介を行う。……尤も、顔は真っ赤になっていたが。
「紫藤イリナよ。今は駒王町在住でミカエル様直属のメッセンジャーとイッセーくんの監視役を兼任しているわ。イッセーくんが暴露しちゃったから私も言っちゃうけど、実は天使の本能とも言うべきもので世界で一番大好きなイッセーくんを殺す様に仕向けられたから、私にはもう主に対する信仰心なんて殆どないのよ。お祈りも幼い頃からの習慣でやってるだけね。それでも堕天していないのは、ドラゴンの因子が入ってるお陰だとは思うけど。とりあえず、私の方も証拠は見せておくわね」
……流石に僕も想像すらできず、アーシアやゼノヴィアが聞いたら卒倒しそうな事を暴露した後で、イリナは白金色の光を放つ
「……成る程。色こそ白金と他に例を見ないが、その天使の輪は確かに天使の証であるし、翼の方も以前神器の中で見たアルビオンと同じ形の翼だから、ドラゴンの因子を持っているというのも間違いではないだろう。そうなると、確かに彼女は十字教が中南米に布教する際にでっち上げたというカンヘルに該当するな。つまり、でっち上げた想像だけの存在が現実となって現れた訳か。この国の言葉では確か、嘘から出た真だったか?」
ヴァーリが日本の諺を使ってイリナの事を言い表すと、僕はそれを肯定した上で説明を省略する旨を伝える。首脳陣が揃った後で僕やイリナの事情を説明する事になるので二度手間になるからだ。
「まぁ、そういう事だ。詳しい事は後で説明する事になるから、今は省かせてもらうぞ」
すると、ヴァーリは物解りのいい所を見せる形でこの場は退いた。
「解った。今は訊かないでおこう。それと、彼女のさっきの言葉も聞かなかった事にしよう。聖書の神への信仰心が殆どない上に明らかに一個人に執着しているのに堕天しない天使なんて、誰かに教えるよりここだけの秘密にしておいた方がずっと面白い事になるからな」
……先程のイリナの爆弾発言を黙っていてくれるのは有難いのだが、ヴァーリの明らかに面白がっている表情を見ると、とても感謝する気にはなれなかった。ヴァーリの態度に少々機嫌が悪くなっていた所に、イリナが呼びかけてくる。
「イッセーくん」
このイリナの呼び掛けで、僕は今からやる事の予定時間になった事を悟った。
「……時間か。それでは、始めよう」
そう言って、僕が倉庫用の異相空間から取り出したのは一つの赤いオーブだった。
「今から、僕が
僕が各勢力の首脳陣の移動方法を説明すると、ヴァーリはしばらく口を閉ざしていたが、やがて大声で笑い出した。
「……フッ。ハッハッハッハッハッ! アルビオン、聞いたか! ドラゴンしか通れない筈の龍門が、赤き天龍帝の手にかかると龍血晶なる物さえ持っていれば誰でも通る事ができ、尚且つ誰もそれを遮る事ができないという極めて有効な移動手段になっているぞ!」
『……赤龍帝の全てを超越した唯一無二とは、けして伊達ではないという事か』
アルビオンが僕に対して警戒心を高める中、僕は円卓の中央にオーブを置くと、僕の為に用意された席の後ろに立って
「ドライグ。
僕は念には念を入れておこうと考えていたのだが、ドライグは完全に呆れた声色で「やり過ぎだ」と断言した。
『はっきり言ってやり過ぎだ。いくら呼び出すのが天使長と堕天使総督、そして魔王二人と大物揃いとはいえ、お前が極大倍化なんぞやったらむしろ何事かと他の連中に驚かれるぞ』
……確かに、そうかもしれない。何せ、回数が回数だ。どうやら、僕は自分の事をかなり過小評価していたらしい。
「それなら、どれくらいが妥当かな?」
客観的に僕を見れるドライグに確認を取ると、少々少なめな回数と意外な事実がドライグから飛び出してきた。
『十回で十分だ。そもそもだな、自分では解りにくいし俺もお前がコカビエルと戦った事で初めて気付いたんだが、聖魔和合を完全に達成した事でお前の基礎能力がかなり強化されているぞ。それを踏まえると、今のお前はもはや素で最上級悪魔を超えて魔王の領域にすら手が届こうとしている。こうなると、龍拳を使うか、何処かの神話の神を相手取る様な事にでもならない限りは、十回で大抵は事足りるな』
聖魔和合を達成した恩恵がこの様な形でも現れてくるとは思っていなかった僕は、素直にドライグの言葉に従う事にした。
「あまり実感が湧かないけど、ドライグがそう言うならそういう事なんだろうな。解った。倍化は十回に留めておこう」
そして、倍化能力を発動し始めてから十秒後。
『『『『『『『『『『Boost!』』』』』』』』』』
僕は十回分の倍化をまとめて発動し、そのまま強化を固定する。
『Explosion!』
倍化の固定を露わす機械音声が神器の宝玉から聞こえてくると、確かに僕の想定よりかなり上乗せした状態で強化されるのを感じた。
……これは色々と再確認しないと、かなり不味いかもしれない。
僕が己を知らずにいた事を反省していると、アルビオンがかなり驚いた様子でドライグに問い詰めてきた。
『おい、ドライグ! 今のは、一体何だ!』
『何だ? どうした、アルビオン?』
ドライグが悠長に構えていると、アルビオンは更にヒートアップして僕のやった事に対する説明を求めてくる。
『どうしたではない! 今、
このアルビオンの質問には、ドライグの代わりに僕が答えた。
「実は、赤き天龍帝になった事で倍化を発動する際、所持者を認めた歴代の赤龍帝の人数分だけ倍化が加算される形に変わったんだ。それにその人数の範囲内なら、倍化の回数を調整する事もできる。因みに、最大まで加算された状態での倍化を極大倍化、マキシマム・ブーストと呼んでいて、初代のアリスから数えて五十代目となる僕は歴代全員に認められているから、極大倍化は今代における最大回数の五十回だ。それと、譲渡能力の方も対象への接触が不要になった上に、倍化した僕の力ではなく倍化そのものを譲渡する形に変わっている。これによって、仮に重力に十回分の倍化を譲渡する場合、今までは譲渡した僕の力に対応する分だけ重力が強化されていたのが、重力を直接十回倍化する様になったんだ」
僕の説明を聞いたアルビオンは、何ら言葉を発しようとはしなかった。どうも絶句しているらしい。すると、僕の横で説明を聞いていた元士郎が困った様な表情で僕に別の質問をしてきた。
「なぁ、一誠。お前は一体、何を目指しているんだ?」
これはまた、何とも言えない質問だった。だが、尋ねられた以上は極力答えるのが筋なので、僕は現在の心境を正直に話す。
「正直な所、真聖剣と一緒で余りに強力になり過ぎた赤龍帝の籠手の使い所が段々なくなってきているから、僕もちょっと困っているんだよ。今の僕に必要なのは、戦う為の力よりもむしろ他者との繋がりを築いていける力なんだけどなぁ。まぁ、場合によっては戦いを通して語り合う必要があるのを考えると、好都合ではあるんだけど……」
……ひょっとすると、余程の事がない限り、今後は真聖剣と同様に赤龍帝の籠手さえも使えなくなるかもしれない。
その様な一抹の不安が、僕の頭の中を
Overview
元士郎からの質問に答えた一誠が龍門の発動に集中し始めると、元士郎はイリナの側に行って最後の方に出てきた言葉から感じた事をこっそりと尋ねた。
「なぁ、紫藤さん。一誠って平和主義者だとばかり思っていたけど、違うのか?」
元士郎が何を聞きたいのかを悟ったイリナは、一誠のある一面について語り始める。
「イッセーくんって、実は戦う事については全く否定していないの。それどころか、昔の経験からただ殺し合いが大嫌いなだけで、競い合いはむしろ大好きなのよ。真っ向からの真剣勝負に至っては、偽りのない語り合いだからって大歓迎しちゃうし、時には自分から仕掛ける事だってあるのよ。しかも、それで本当に戦った相手と相互理解を果たして、仲良くなっちゃうんだから。召喚契約を交わしている幻想種の半分は正にそうだし、ライザーさんもそれが切っ掛けみたい」
普段は知的で冷静な親友に酷く脳筋な一面がある事を知った元士郎は、溜息を吐きながら一言だけ零した。
「……それって、唯の戦闘狂よりもずっと
一方、聴覚を魔力で強化して密かに二人の会話を盗み聞きしていたヴァーリは喜びを抑え切れなかった。戦闘狂である彼にとっては、正に朗報以外の何物でもなかったからだ。そして、ヴァーリはアルビオンに話しかける。
「聞いたか、アルビオン。どうやら、兵藤一誠はアザゼルよりもずっと話が解るらしい」
『その様だな。この分なら、お前が話をきっちり通しさえすれば、奴はお前との戦いに快く応じてくれそうだ。……これは少々早まったか?』
一誠に対する推測を語った後でアルビオンがその様に問い掛けると、ヴァーリは少々苦笑いを浮かべながらアルビオンの言を肯定した。
「……かもしれないな。まぁ最終的にどうするかは、これから決めるさ。ただ、もし俺の、いや俺達の邪魔になりそうなら……!」
……この時のヴァーリとアルビオンの会話には、何処か不穏なものが含まれていた。
やがて、一誠が赤龍帝の籠手による十回の倍化で増量したドライグのオーラをレッドオーブに流し込み、龍門の術式を発動させる。すると、龍門の入り口が一誠が贈った龍血晶の持ち主の元で展開された。
……駒王町、武藤礼司の教会。
「龍門が開きましたか。色は赤。間違いありませんね。では武藤神父、レオナルド君。参りましょう」
「畏まりました」
「はい。よろしくお願いします」
……冥界、
「おっ、来た来た。色は赤。イッセーで間違いないな。それじゃ行くか。……それにしても、イッセーの奴め。この分なら、コレ以外にも色々作っていそうだな。ソレ等を見せてもらったり、共同で神器を研究したりする為にも、サーゼクスが持ち掛けてきた例の件をさっさと実現しねぇとな」
……冥界、悪魔領首都。
「あっ☆ サーゼクスちゃん、来たよ☆」
「色は赤。イッセー君で間違いない様だね。……ドラゴン以外で龍門を通る事になる悪魔は、おそらく私達が史上初だろう」
「何だか、とっても不思議よね☆ それじゃあ、レッツゴ~☆」
「……サーゼクス様。私は、時々兵藤様が恐ろしくなってしまいます。兵藤様は一体、何処まで行ってしまうのでしょうか?」
「確かに、イッセー君は留まる事を知らずに何処までも行ってしまう怖さがあるのは事実だ。だが、それと同じくらいにどんな事があっても帰るべき所に必ず帰ってくる男でもある。だから、その心配はいらないよ。グレイフィア」
「……貴方のその言葉を信じるわ。サーゼクス」
運命の分水嶺となる三大勢力の首脳会談が、間もなく始まろうとしていた……。
Overview end
いかがだったでしょうか?
なお、今話のプロローグにあるケルトの建国伝承については私のアレンジを加えた拙作独自のものであり、実際の物とは異なっている事をご了承ください。
では、また次の話でお会いしましょう。