がやがやと、教室の中では少年少女が集団を作って、和気藹々と様々な事を話し合っている。
そんな中でも、芥川は誰かと集まる事もなく、ただ一人、目を閉じて椅子に座っていた。
此処は東京武偵高校、その超能力捜査研究科―――通称、『SSR』と呼ばれる学科の教室である。
芥川のみならず、超能力や超心理学を持っている武偵が所属する学科であり、彼等はそれ等を駆使して犯罪捜査を行っている。
だが、芥川のような攻撃的な超能力を持っている人間というのは非常に稀であり、SSRは基本、サイコメトリーやダウンジングといった超能力を主にして超能力捜査を行うのだ。
そんなSSRにおいて、非常に珍しい攻撃的な超能力―――芥川やSSRの担任をしている教師が『異能』と呼んでいるソレを持っている芥川は、とても優秀な『超偵』であった。
「…」
だが、それ故に。
芥川龍之介という一人の少年に、Sランクの超偵という立場に立つ優秀な人間に、他の生徒達は畏怖と尊敬の下、ほぼ関わろうとしないのだ。
まぁ、それ以前に。
芥川の眼光が、まるで悪鬼羅刹を思わせる様な鋭いものであるからというのが、彼に人が近付かない最もな理由なのだけれど。
しかし、当の本人は気付く事も無く、そして、これからもそれを知らぬのだ。
だが、そんな彼にも、友と呼べる人物が居ない訳ではないのだ。
「よっ、芥川。昨日も活躍したんだって?」
芥川が席に着いている所に、遠慮無く近付いて親しく話し掛ける少年が居た。
少年の名前は〝松岡譲〟。芥川の同級生であり、このSSRに席を置く超偵の一人である。
松岡の問に、芥川は目を閉じたまま答え始めた。
「活躍した、などと言える程の事などしていない。僕は只、逃げ惑うだけの愚者を捕えたに過ぎん。」
「相変わらず謙虚だなぁ、お前は。もう少し自慢っぽくすれば良いのに。」
「あの程度、自慢話にも成りはしない。」
「はは、さいですか。」
大した事ではない、と答える芥川に、松岡は相変わらずだな、と言って笑う。
この二人は、武偵における『戦兄弟』というものに属される、謂わば『コンビ』ではない。
そう、この二人は、別にコンビを組んでいるという間柄などでは、ない。
二人の関係は、ただの友人関係に過ぎないのだ。
芥川龍之介に遠慮なく話し掛ける事が出来る友、芥川龍之介が遠慮なく話す事が出来る友。
それが、松岡譲という人間なのだ。
「そういえば、〝遠山〟が倫敦のSランク武偵をパートナーにして〝強襲科〟に戻って来たって話し、聞いたか?」
思い出した、と話題を変えて芥川に問う松岡。
芥川はその情報に、「何だと?」と、閉じていた目を開いて、即座に食い付いた。
「神崎・H・アリア。倫敦じゃ、超有名な強襲科のエリートだ。狙った相手を九九回連続、しかも武偵法の範囲内で全員捕まえ、その間一度も犯罪者を逃した事がないんだと。」
「ホームズ…最初の武偵、その子孫か。」
芥川は呟く。
ホームズ―――シャーロック・ホームズ。
最初の武偵にして最高の武偵と呼ばれる、武偵の偉大なる祖。
汎ゆる武術を我が身に納め、それだけに留まらず剣術や拳銃にも手を伸ばしている武偵の原型ともなった天才だ。
その名前を聞き、神崎アリアがシャーロック・ホームズの子孫なのだろうと、芥川は予測した。
松岡は「よく知ってるな。」と、少し驚きながら、その予測が正解である事を肯定した。
「松岡、その噂、真偽の程は?」
「確かな事実だ。もう全体に広まってる。」
「そうか。」
答えを聞いた芥川は席から立ち上がり、灰色の外套を翻して教室の出口へと歩を進め始めた。
「行くのか?」
松岡は問う。
遠山金次と神崎アリアの元に行くのか? と。
芥川は、こう答える。
「無論だ。」
ただそれだけを残し、芥川は早足で、遠山金次と神崎アリアの下へと向った。
「ドンマイ、金次。俺からは応援する事しか出来そうにない。」
東京武偵高校SSR在席――――――松岡譲。
異能力――――――「地獄の門」。
松岡譲(まつおか・ゆずる)
オリキャラ。現実における芥川龍之介の学友であり、小説家。