武偵校の吠えぬ狂犬   作:全智一皆

4 / 7
#3

 

 東京武偵高校、第一三寮に有る部屋の一つ、その室内にて。

 部屋の主である遠山金次は、頭を抱えていた。

 苦手な先輩にして来訪者である芥川龍之介と、強制的にパートナーを組まされる事となった神崎アリアが部屋に居るのだ。

 苦手な先輩と、そもそも苦手な分類としてる女子。

 苦手としている者が二人も居るなど、金次にとっては耐え難い苦痛であった。

「ロンドンでも、貴男の話しはよく耳にしてたわ。SSRのエリート、芥川龍之介。」

「そうか。異国にも僕の名は届いていたのか。それは畳々。皆と積み重ねた甲斐が有った。」

 金次が出した烏龍茶を飲みながら、芥川は平然とそう語った。

 皆と積み重ねた甲斐―――それが指し示すのは、芥川が同僚や担任―――否、仲間と共に、今日まで解決してきた様々な事件の事である。

 芥川が解決した事件の殆どは、それこそ『強襲科』が担当するような、戦場有りきの事件ばかりだ。

 集団強盗の事件や立て籠もりの人質事件、飛行機ハイジャック事件など様々。

 芥川は、その全ての事件を同僚や担任と共に解決した。

 決して、芥川が一人で解決したという訳などではない。

 確かに、芥川には一つの荒事を一人で制する程の実力が有る。過去、未だ芥川が一年の時は、そのようにして過ごしていた。

 だが、芥川は師たる担任や、共に事件に取り込む仲間達によって、その在り方を変えた。変えてくれた。

「皆って…一人でやった訳じゃないの?」

「あぁ。過去…一年の時は、確かに独りだった。ただ只管に、復讐に疾走るだけの狂犬だった。」

 復讐。その言葉に、神崎と金次は反応した。

 芥川の過去話。それなりに長く芥川と先輩後輩としての関係を持つ金次は、しかし一度として、芥川の昔の話しを聞いた事がなかったのだ。

「独りで戦場を駆けていた。復讐の為に、“妹”の為に、近路ばかりを探っていた。ただ吠え、ただ喰らうだけの狗だった。」

 妹。家族。復讐。

 それは、その在り方は、今の神崎に近しい在り方でもあった。

 神崎アリア。彼女が武偵として活動している理由、その目的とは、武偵殺しと呼ばれる犯罪者の罠によって有罪とされ、死刑宣告を言い渡された母親の無罪を証明する事である。

 対して、芥川は妹の為に戦場を、事件現場を駆け回ったという。

「我が恩師は、僕に力の在り方を教えてくれた。我が友は、僕に獣の飼い方を教えてくれた。その果てに、今の僕が在る。その意味では…神崎。貴女は僕と似ている。」

 仲間と共に戦う事を知る芥川と、高い実力故に孤立してしまった神崎。

 仲間が居る芥川。仲間が居ない神崎。

 確かに、この二人の在り方というのは対極だ。いや、どちらかと言えば、神崎の方が自然だと言える。

 しかし、芥川はそうではない。そうでは、なくなっていたのだ。

「これは人生の先輩からの教訓であり、我が師から教わった言葉でもある。遠山、貴様もしかと聞け。」

「…はい。」

「“己という獣を追うな”。僕が復讐にばかり囚われていた時、師から言われた言葉だ。」

「復讐…わたしは、」

「神崎。貴女が母親の為に活動している、という事は松岡から聞かされた。」

 彼女の言葉を遮って、芥川は続ける。

「…そう。」

「貴女の気持ちは、僕も共感出来る。何せ僕は、妹を奪った相手への報復、復讐が為に吠えていたのだから。」

 母親の為に動く神崎の心情に、妹を奪った相手への復讐の為に生きていた芥川は共感した。

 確かな差こそあれ、しかし家族という関係と、救いたいという気持ちには一寸の狂いも無し。

 互いに、必死の気持ちだ。

「故に心せよ。決して獣に囚われてはならぬ、と。」

 その言葉の重みは、決して軽いものでははなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。