武偵校の吠えぬ狂犬   作:全智一皆

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#5

 

 《武偵殺し》によるバスジャック事件は、神崎アリア率いる遠山キンジ、レキの三人と芥川龍之介の四人によって解決されたとされている。

 だが、神崎アリアは武偵殺しの罠と遠山の失敗によって怪我を負い、自分を理解してくれる相方を失い、倫敦へ帰還する破目となった。

 更には、抑々として超偵である芥川が居たならば、彼等が居る必要など無かったのでは? という意見すら出る始末となってしまった。

 そんな世間の目に対し、芥川は―――

「……」

 何時もよりも鋭い眼光を走らせ、目に見えて明らかな程の殺意と苛立ちを纏って席に座っていた。

 その形相は最早、修羅などという生温い存在では言い表せない。

 それこそ羅刹の域だ。悪鬼羅刹の如き凶悪な形相である。

「おいおい…今日はいつにも増して不機嫌だな? やっぱり世間の評価が気に入らないか?」

 だが、そんな芥川にも恐れる事無く、松岡は何時もの調子で話し掛けた。

「………あぁ。」

 間は長く、そして放つ言葉は短く。だが、その短い言葉に込められた感情は錨の様に重たく。

 声色すら非常に低く、今の芥川は正しく完全な狂犬状態であった。

 何時、誰に咬み付くか。何処に喰らい付くのか分からない程に、憤っているのだ。

「まぁ、そりゃそうだよな。神崎とか遠山も頑張ったのに、二人は酷い評価貰って、お前だけが褒められてるんだから。」

「……」

「しかも、神崎は倫敦に帰還だとさ。まぁ、誰にも理解されないってのは悲しいよな。しかし、遠山も男じゃないな。引き留めようとはしないもんかね。」

「……」

「あぁ、そういえば―――《武偵殺し》は、もう終わったも同然らしいぞ。」

「何だと?」

 その言葉に、その事実に、芥川は即座に反応を示した。

 あの悪名高き《武偵殺し》が、あの数多の武偵を葬ってきた《武偵殺し》が、終わったも同然であると言われたのだから。

 だが、それは当然の事であると、これから芥川は思い知るだろう。

 何故ならば―――

「今回のバスジャック事件を切っ掛けとして…遂に、《猟犬》が動き出した。」

「…《猟犬部隊》か。」

 軍警最強の異能力者集団―――特殊制圧作戦群・甲分隊《猟犬》。

 生きる伝説「福地桜痴」。

 異能力――――――「鏡獅子」。

 血荊の女王「大倉燁子」。

 異能力――――――「魂の喘ぎ」。

 無名の王「条野採菊」。

 異能力――――――「千金の涙」。

 隕石斬り「末広鐵腸」。

 異能力――――――「雪中梅」。

 幻の五人目「立原道造」。

 異能力――――――「真冬のかたみ」。

 政府が誇る最強の特殊部隊であり、最高の異能力者を集めて結成された史上最高の異能力者部隊。

 彼が動き出した時、その事件は必ず解決されるだろうと誰もが思う程の絶対的信頼があり、その事件の解決成功率は100%である。

 これだけでも、《武偵殺し》が終わったも同然であると言える理由ではあるのだが―――それ以上の理由を、松岡は知っていた。

「でも、これだけじゃない。にわかには信じ難いが――――――あの《鬼神》すら、《猟犬》と共に動き出したそうだ。」

「《鬼神》だと!?」

 ガタッ、と芥川は席を立ち上がり、目に見えて驚愕した。

 軍警最強の異能力者集団が《猟犬》であるならば―――《鬼神》は元軍警最強の異能力者である。

 現在でこそ軍警を辞めているものの、しかし元は軍警を纏め上げていた最強の異能力者である。

 かつて、数多の国同士が互いを殺し合った大戦を経験し、そして生き残った数少ない《不死身の兵士》―――それが、《鬼神》。

 即ち、「舩坂弘」。

 異能力――――――「英霊の絶叫」。


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