武偵の名誉というのは尊大で、しかし其れ故に僅かな負傷すらも許されない。
それがSランクの武偵ともなれば、一度の敗北も三日天下へ繋がってしまう事も有り得る。
そんな現状に陥り、さらにはパートナーにすら見捨てられたSランクの武偵、神崎アリアは
評価されるべき者が評価されない理不尽な世論。さらには相方への助言すら出来ない後輩の不出来。
それらが重なりに重なった結果として―――
「……」
芥川は、もはや地獄の閻魔すらも怯えるのではないかと思ってしまう様な、悪鬼羅刹の如き形相を浮かべたまま、廊下を歩いていた。
憤りと苛立ちから殺気すらも滲み出ている狂犬の歩みに、廊下に立っている者達はみな揃いも揃って端へと寄り、座り込んでいた。
だが唯一、彼の友人である松岡だけは彼と歩幅を合わせて隣に立っていた。
「まずは遠山の所だな。彼奴は何処に居るのかね?」
「寮だ。」
「確信か。なら間違いなさそうだ。で、会ったらどうする」
「二回殴って五発撃つ」
「それは遠山が死ぬだろ。『
「……」
「不服か? でも仕方無いだろ、遠山が死んだらお前が捕まる。そんな事になったら俺も銀ちゃんも悲しい。やるとしたら、瀕死一歩手前だ」
(二人揃って何て物騒な会話してやがる――――――!!!)
生徒達の反応は尤もだが、芥川達は知った事ではないと先を急ぐ。
仲間を失う。仲間に見捨てられる。其れがどれだけ辛く、どれだけ苦しい事であるかを芥川は識っている。
あの街で、あの廃れた汚い場所で、子供達と一緒に生きてきた芥川だから分かる。
―――独りが、何れ程までに辛く苦しいものであるのか。
遠山は、それを神崎にした。彼女の事情を知りながら、両親と会えず孤独を過ごした彼女の気持ちを知りながら、孤独を再び味合わせた。
芥川は、それが断じて許せなぬのだ。
「まぁ、今回ばかりは俺も止められないな。思いっきり殴ってやってくれよ、芥川」
「無論だ。全力で殴る」
「遠山が
突如、先程まで誰も居なかった筈の二人の背後から声がした。
何も無い筈の空洞から突如現れた気配。それに対する二人の行動は、話しを合わせていたかの様に、丁寧かつ綺麗に一致した。
芥川は即座に異能力を発動し、その外套から帯刃を顕現して背後の敵の首を裂かんと、素速い一閃を繰り出す。
松岡はその一閃に合わせる様に体を屈め、懐からナイフを取り出し、逆手に持ち構えて太腿へと突きを放つ。
が、その総攻撃は全てが虚しく空振って終わる。
背後の敵は、己の首目掛けて振り抜かれた鋭い帯の刃と、血管が張り巡る太腿へ放たれた刃物の突きを、まるで最初からそれを読んでいたかの如く、体を僅かに逸らす事で、それらを事もなげに躱した。
そして、
「何か、苛立つ事にでも遭ったのか?」と、首を傾げる様にして二人に問い掛けた。
二人は改めて、背後に立った男の全貌をその目に映す。
赤銅の髪、顎下に生やした無精髭が特徴的な、砂色の長い外套を着た男。
その男こそ、二人が所属する超能力捜査研究科、通称《SSR》の担当を務める教師の一人―――
「織田先生」
「なんだ、オダセンっすか…」
「あぁ、織田だが」
《東京武偵高校・超能力捜査研究科担当教師―――――――――
「織田作之助」
異能力―――――――――