武偵校の吠えぬ狂犬   作:全智一皆

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#6

 

 武偵の名誉というのは尊大で、しかし其れ故に僅かな負傷すらも許されない。

 それがSランクの武偵ともなれば、一度の敗北も三日天下へ繋がってしまう事も有り得る。

 そんな現状に陥り、さらにはパートナーにすら見捨てられたSランクの武偵、神崎アリアは倫敦(ロンドン)へと帰還する羽目となった。

 評価されるべき者が評価されない理不尽な世論。さらには相方への助言すら出来ない後輩の不出来。

 それらが重なりに重なった結果として―――

 

「……」

 

 芥川は、もはや地獄の閻魔すらも怯えるのではないかと思ってしまう様な、悪鬼羅刹の如き形相を浮かべたまま、廊下を歩いていた。

 憤りと苛立ちから殺気すらも滲み出ている狂犬の歩みに、廊下に立っている者達はみな揃いも揃って端へと寄り、座り込んでいた。

 だが唯一、彼の友人である松岡だけは彼と歩幅を合わせて隣に立っていた。

 

「まずは遠山の所だな。彼奴は何処に居るのかね?」

「寮だ。」

「確信か。なら間違いなさそうだ。で、会ったらどうする」

「二回殴って五発撃つ」

「それは遠山が死ぬだろ。『天魔纏鎧(てんまてんがい)』で五回殴る、それで勘弁してやれよ」

「……」

「不服か? でも仕方無いだろ、遠山が死んだらお前が捕まる。そんな事になったら俺も銀ちゃんも悲しい。やるとしたら、瀕死一歩手前だ」

(二人揃って何て物騒な会話してやがる――――――!!!)

 

 生徒達の反応は尤もだが、芥川達は知った事ではないと先を急ぐ。

 仲間を失う。仲間に見捨てられる。其れがどれだけ辛く、どれだけ苦しい事であるかを芥川は識っている。

 あの街で、あの廃れた汚い場所で、子供達と一緒に生きてきた芥川だから分かる。

 ―――独りが、何れ程までに辛く苦しいものであるのか。

 遠山は、それを神崎にした。彼女の事情を知りながら、両親と会えず孤独を過ごした彼女の気持ちを知りながら、孤独を再び味合わせた。

 芥川は、それが断じて許せなぬのだ。

 

「まぁ、今回ばかりは俺も止められないな。思いっきり殴ってやってくれよ、芥川」

「無論だ。全力で殴る」

「遠山が如何(どう)かしたのか?」

 

 突如、先程まで誰も居なかった筈の二人の背後から声がした。

 何も無い筈の空洞から突如現れた気配。それに対する二人の行動は、話しを合わせていたかの様に、丁寧かつ綺麗に一致した。

 芥川は即座に異能力を発動し、その外套から帯刃を顕現して背後の敵の首を裂かんと、素速い一閃を繰り出す。

 松岡はその一閃に合わせる様に体を屈め、懐からナイフを取り出し、逆手に持ち構えて太腿へと突きを放つ。

 が、その総攻撃は全てが虚しく空振って終わる。

 背後の敵は、己の首目掛けて振り抜かれた鋭い帯の刃と、血管が張り巡る太腿へ放たれた刃物の突きを、まるで最初からそれを読んでいたかの如く、体を僅かに逸らす事で、それらを事もなげに躱した。

 そして、

 

「何か、苛立つ事にでも遭ったのか?」と、首を傾げる様にして二人に問い掛けた。

 二人は改めて、背後に立った男の全貌をその目に映す。

 赤銅の髪、顎下に生やした無精髭が特徴的な、砂色の長い外套を着た男。

 その男こそ、二人が所属する超能力捜査研究科、通称《SSR》の担当を務める教師の一人―――織田作之助(おださくのすけ)であった。

 

「織田先生」

「なんだ、オダセンっすか…」

「あぁ、織田だが」

 

《東京武偵高校・超能力捜査研究科担当教師――――――――― 

「織田作之助」

異能力―――――――――天衣無縫(てんいむほう)

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