ギルガメッシュは堂々かつ轟々と己が腐れ縁のガデルの起こした『悪事』について語った、それはギルガメッシュ叙事詩に描かれていることでもあるが当事者を交えたならばそれは全く異なる物語に聞こえるであろう。
「さて、まずは悪事第三位! フンババ討伐だ!」
「確か伝承じゃ金ピカとエルキドゥが倒したって話じゃなかったか?」
ギルガメッシュの話に横槍を入れるクー・フーリン(槍)の言うことも尤も。伝承ではそうなっている。
「まぁこれを語る前にこの話の前後を知る必要がある、そう焦るな狗よ、ほれお前の好きな骨でもやろうか、都合良く眼の前にいるだろう」
「えっもしかしなくても俺!? クーさん! やめて! そんな目で見ないで! 戦闘狂はノーサンキューです! 王様も煽ること言うんでねぇ!」
ギルガメッシュが初めに話したのはガデルの困難を超える様子であった、小癪な事に我を超えるために己に苦難を科したことを笑いつつもその気概は認め、千里眼をもってその過程を見定めていたという。
◆
ガデルが困難に立ち向かう事はギルガメッシュ叙事詩には少し触れられているが具体的にどんな困難を受けていたのかには触れられていない、なのでギルガメッシュはそこから語った。
『ギルガメッシュを超えるためには、力でも道具でもなく『技術』と『知恵』が必要である』
神々が困難を与えるに当たってその方針を定めた、ギルガメッシュを超えるという最も大きな困難を乗り越えるために必要な物、警戒するべきはあの宝物庫、それを凌ぐと言う観点から考えて武器すら必要しない圧倒的な『技術』あらゆる搦め手を跳ね除け逆に絡め取る為に『知恵』が必要だと結論を出した。
ザババが『技術』エンキが『知恵』を監修し、イシュタルが実際に困難を授ける担当をすることにした。が、イシュタルがその約束を早々に忘れてしまったのは言うまでもないが、明記しておく。
『イシュタルが名の下に困難を与えましょう』
「どんな困難も乗り越えて見せましょう!」
ガデルが最初に与えられたのは毎日休まずの力仕事、誰よりも働き誰よりも神に尽くすように、もっと具体的には宝石を掘り出しイシュタルに差し出せと神託が下った。
「ぬぅぅぅおぉぉぉぉ!」
「精が出るねぇガデル!」
「これも俺を強くする困難の一つ! それにどうせならイシュタル様にも喜んで貰いたいからさ!」
「お、おぅ……そうか」
ガデルはひたすら掘って掘って掘って掘り抜いて現場を監督する人間すら引き気味に止めに入るぐらいには頑張った、力仕事は得意ではなかった青年でも筋肉を得るまでに時間は掛からなかった。
イシュタルは働きアリのように働くガデルが面白くさらなる困難を追加した、ザババとエンキは潰れては面白くないと反論したが「私の為に働けることは幸せである」と暴論を展開して聞く耳を持たなかったのだ。
神が与える困難はいわば避けられぬ呪い、強制力がありガデルを縛る物だ。逃げ切ろうと思うなら神に頼る他無し。科せられた本人にその気がないなら良いのだろう。
『さらなる困難を与えましょう、金細工職人となり至高の品を我が神殿へ捧げなさい』
「はい! 喜んで!」
この頃のガデルは与えられる困難は全てギルガメッシュを超える為に必要なものだと考えていた、協力してくださる神に疑いを持とうとすら思わない。
イシュタルばかりが困難と言う名のワガママを通していてはエンキとザババは面白くない、だがこの二柱も考えていないわけではなくイシュタルに小言を言われない所で手を出していた。
ガデルの知らぬ間にザババからは戦に適した身体を作るように、エンキからは常に目に入った物を一から十まで確かめ覚えるように呪いをかけていた。
もはや困難を与えて遊ぼうとするのではなく『我々の考えた最強の人間』を作ろうと目的が変わっていった。イシュタルのせいで変えるしかなかったと言うのが正しいか。
「緻密に緻密に緻密に緻密に緻密に緻密に……よし出来た」
「やるねぇガデルさん、本職になりなよ」
「いえ! これもイシュタル様方が私に与えた困難ですので! はい! 今日の分は終わりました! 採掘行ってきます!」
「えぇ……いつ休むんだガデルさん」
イシュタルはたまらなく面白かった、ここまで愚直に私の言いなりになって働き、なおかつそれなりに才能が有るがゆえに捧げ物も悪くない。欲しい物が手に入って面白いものも見れて最高にハイになっていた。
もう毎日機嫌が良いのでイシュタルの神殿に務める神官たちは天変地異の前触れかと日々胃を痛めていた、多少機嫌が悪いほうが平常運転な彼女が何故……そう思うのも無理はない。
ガデルが困難を与えられて二年が経過した、鉱夫としても細工職人としても軌道に乗り安定した頃に久しぶりに神託があった。
『我が神殿に来るのだ』
「この声はザババ様! はい喜んで!」
彼はウルクを離れザババの待つ都市へと走った、戦の神であるザババから直接呼ばれることはなかった為にどのような困難が待ち受けているのか楽しみだ。と思った彼の心は一撃で打ち砕かれた。
「ふむ、ヌルいぞ」
「グググ……一歩も歩けない」
「貴様がかの王に勝つのは更に先の話であるな」
神殿で待っていたのはシュルシャガナとイガリマの二刀を携えた戦神ザババであった、何を理由に武装しているのか、答えは簡単にガデルの修行だ。同じ戦神の側面を持つイシュタルの目を掻い潜り自らの『技術』を教えるために。誓約の神でもあるザババは少しだけ真面目にガデルと向き合っていた、もちろんイシュタルやエンキを出し抜いてやろうと言う思惑も無くはない。
「一ヶ月猶予を与える、その間に我へ一撃入れてみよ」
「ひ、ひぇぇ、俺に出来ますかね」
「やってみせよ、出来なければ首をハネる」
「は、はい!」
そして彼のもがき苦しむ一ヶ月が始まった。
ここまでの話はギルガメッシュ叙事詩に『かの王に挑みし者は始めはイシュタルの奔放さに快く付き合い、その仕事の手際の良さからザババに鍛えられる栄誉を得た』の一文で簡素にしたためられている。
◆
「ブァーッハッハッハッハッ! 滑稽だろう! 実に愚か! 愚か過ぎて腹が捩れるっ! んふっ!? が、かひゅーかひゅー……ここまでの話を聞いて笑わずに入られたものは英雄だ! クハ、我が……ブフッ、認め、アーッハハハハハ!」
「そんな、過呼吸にならなくても! イシュタル様は悪くないだろ! その時はまだ!」
「ちょガデル! まだって何よまだって!」
「えっ事実では?
「うぅ! またそうやっていじめるんだ! もう知らない!」
「喚くなイシュタル! 良かったではないか貴様が一番に信を置く存在が来たのだぞ? ククッ、揃いも揃って天然の阿呆だがなぁ! ガハハハハ! ……ウッ(笑死)」
「ギル! 戻って来るんだ! ギル! ンメディィィィィィクッ!」
◆
結果だけ言うならガデルはザババの試練を乗り越えた、一体どうやって乗り越えたのかはギルガメッシュ叙事詩によれば知識の神エンキの介入があったとだけ書かれている。
『ザババめ、出し抜こうとは愚かなり。知恵を貸そう』
「エンキ様! ありがたい!」
エンキが授けたのは魔術の知識であった、力そのものではなく知識のみだったが今のガデルにとっては宝石にも勝る知識だった。あとは死にもの狂いで一ヶ月の間に魔術の熟達に専念するのみ、猶予を与えた手前ザババはそれに口を挟むことは無いがエンキが介入してきたことに不満げであった。
「さぁ、約束の一ヶ月が過ぎるぞ」
「えぇ……大丈夫だ出来る出来る俺なら出来る!」
「来い!」
「でぇぇぇやぁぁぁっ!」
ザババとガデルの戦いは熾烈を極めたという、片や戦神、片や付け焼き刃の魔術を操る人間、勝敗は決まっているかに思えたが全身の魔力回路を身体機能の上昇に回した素手のガデルがザババの持つイガリマを白刃取りして奪い取り驚いた隙に一撃を入れたという決着がなされ、この決着にザババはガデルに可能性を感じて格別の計らいをした。
「エンキの邪魔があったとはいえ、よくやったと褒めてやろう」
「やったぁぁぁ! 死んでない! 生きているぞ俺は!」
「では、これを持っていけ」
「えっ、これはイガリマではありませんか!」
「いつでも我に挑戦出来る鍵である、上手く使い己を鍛え、超えてみせよ、かの王を。」
「有り難く!」
「早く戻るが良い、イシュタルが我に煩く喚く前にな」
「はっ! ではまたお目通り願いますように祈りまして、ここは失礼いたします!」
こうしてガデルはイガリマを拝領することになった、これによりザババとのホットラインが出来たガデルは月に一回は手合わせをしていたという。晩年のガデルとザババの手合わせはさながら舞のように美しく天に咲く焔の華と例えられている。
戦闘描写はざっくりカット!必要だと感じたら書きます