「フンババ討伐までかなり長いな、黄金の」
「太陽の。腐れ縁の昔話と言うのはどうも話が長くなってしまうのでな、容赦せよ」
「良い! 少なからず我が文明にもガデルの存在は語られていたからな、我も興味がある」
「え、行ってないエジプトまで俺が語られてるのはおかしくない??」
◆
ギルガメッシュは生まれついての王だった、良い王、賢き王である。しかしそれはエルキドゥと言う友が現れたからだ。それまでのギルガメッシュは暴君と言うのが正しく人々を圧政で支配し無慈悲にも乙女の純潔を奪っていったという。
これを見ていた天空神アヌは創造神アルルに命じ泥から形を作り知識の神エンキ(エア)が智慧を与え戦神ザババ(ニヌルタ)が力を込めた獣を放った。
そうして生まれたのがギルガメッシュに生涯ただ一人の友と言わしめたエルキドゥ、今はまだ己すら知らぬ泥の獣である。
そんなことは知る由もないガデルは増えた困難に立ち向かっていた。
『イシュタルが命ずる、森へ行き獣を見つけ猟ってくるのだ』
「お任せあれ!」
ザババに鍛えられること三年、イガリマとシュルシャガナの猛威に晒されながら磨かれた動きと観察眼は一級品、ザババも唸る腕前に成長している。
また金細工師としても優秀であり探鉱者としても右に出る者はない、最近は武具にも手を出しウルクでも人気の鍛冶師である。
世間一般には優秀な技師で戦士である、であるが目標は極みにいるギルガメッシュ、万能が霞んで見えるほどの力を持っている、小賢しいことをしても彼の前ではなんの障害にすらならない。超えるにはやはり彼の全てに立ち向かえるだけの『技術』『知恵』が必須だ。
『エンキより通達である、無闇に森へ向かうことはならん、狩人に技を学べ』
「あ、はい!」
エンキの神託に従い狩人に狩りを教わることにした。エンキの神託はイシュタルやザババの対抗策になることが多くガデルは最も頼りにしている、いずれは自らの神殿にて直接指導をしてやりたいとも思っていた。ガデルはエンキにとって教えがいのある人間だった。
「おやこれはガデル殿、イシュタル様の良き眷属と噂は聞いていますよ」
「えっ(眷属になったつもり無いけど話合わせとこ)まぁそうですね! これも俺の目標の為ですので」
狩人はガデルに自分の持てる狩猟技術を教え込んだ、弓は触れたことのなかった為に手こずりはしたが3日で狩人を超えてしまった。狩人もこれには驚き叙事詩にも『イシュタルの如き美しい業』と褒め称えたという、これが彼の『神に並びし業』の始まりと言われている。
◆
「思えばあの頃から器用であったな」
「まぁ神様方がそう仕込んでくれたしね、おかげで王様ともこうやって話せるわけだし」
「確かに、そうであるな。我を「はい!」間が悪いなマスター」
「どうしたマスター?」
「初めてなのに全部出来るって、それって面白い?」
「まぁそこに至るまでに色んな事してたから出来たって話だ、あらゆる技術は一本道じゃなくて他の技術と繋がる部分があるんだよ」
「この世に無駄なものがないように、此奴はすべてを糧にする。技術を必要とする全てを此奴は完璧、いや神業だ。事実我では敵わん部分である」
「一度やるととことん極めたい性分なんでな、結果そうなった」
「すっごい! 流石王様と同じ出身だ! 無茶苦茶強いこと言ってる!」
◆
そして彼は森でイシュタルに捧げる獲物を探す、かの女神は金星、性愛、美、戦争の神『天の女主人』と称されその性格は苛烈である。それを満足させようとするならばやはり派手で良い毛並みかつ大きくて強い、それがベストだろう。
彼は探した、森の中でイシュタルのお眼鏡に叶う獲物を。
「むっ? あれは何だ?」
三日三晩探してやっと動物を見つけた、サッと身を隠し恐る恐る茂みの中から見ると小さな池の畔に陽光を反射して輝く毛を持つ獣を見つけた。すぐにこれはイシュタルへの貢ぎ物に相応しいと矢を構えるが
「あ、ありゃなんだ……っ?!」
その獣の側にぬるりと現れた泥の獣に驚き照準が振れ矢が当たることはなかった、それよりもあの尋常ならざる存在にこちらの存在を知らせてしまった事に慌てふためきガデルは脱兎の如く逃げ去った。
「ふぅ何とかな……っ! うわぁぁぁぁっ!?」
泥の獣はガデルに追いつき抵抗を許さずその泥で飲み込んだ、どれだけ力を込めて腕をかいても泥はすり抜けてしまうだけで無駄に体力を使うだけだった。
「(息が保たねぇ……っ! かくなる上は!)」
ガデルは魔力を過剰に溜め込み泥の獣を自分もろともに爆発させ、泥の中から脱出に成功したが無理が祟り魔力回路が一時的に麻痺し使えない状態に陥った。
「ゲホッゲホッ、ゲホッ、マジで最悪だ、全身ドロドロだよ」
「あ、う、あぁ」
「……ちょっとそれは予想外だぜっ!?」
弾けた泥がまた一つに集まり人の形を真似て言葉まで発するようになっていた、出来上がったその姿はガデルそのもの。服装まで完全に同じだった。
「あわ、あー、うん。初めましてだぜ? 私はエルキドゥ」
「お、俺? いやいやいやなんで?」
「おや間違えた、こんばんは?」
「えーっとうん、エルキドゥ!」
「はい!」
「一旦俺の家に来い、色々教えるから」
ガデルは状況が飲み込め無かったが流石に放っておくことは出来ないので一旦家に帰ることにした。千里眼にてこれを見ていたギルガメッシュはエルキドゥの素性故に警戒を強め、ウルクに何かあれば即座にガデルごと斬り捨てる心積もりだった。
「さ、エルキドゥ、ここが俺の家だ」
「へぇ、人はこんな所に住むのか」
「……やっぱりさ、エルキドゥって神々が作った存在だったりするの?」
泥で出来た体にあらゆるを模倣するその性能は地上に自然に存在して良い訳がない、簡単な推理として神が作ったのかと気になった。
まぁそれを本人が嫌悪感を感じずにいるのかは分からなかったので少々気を使う訪ね方になっていたが。エルキドゥはあっけらかんと答えた。
「確かに私は神の創造物で目的を持って生み出されたよ。それ以外は何も知らなくてね」
「へぇ」
「だからかな、君の、引いては人の存在に興味が湧いてね」
「ほぉ(これ厄ネタ拾っちゃったかなぁ)」
「君はたまたま私のサンプルになってしまったけどね、しばらく厄介になりたいな」
「良いけど……家事とか覚えてね?」
「その家事? は分からないけどいいよ」
こうして神造兵器エルキドゥとガデルの二人暮らしが始まった、人と人の営みを知らないエルキドゥにガデルはまるで子供のように手取り足取り教え込み、エルキドゥも日々人らしくなっていきその成長にガデルも我が事のように喜んだ。
同じ時期に神々からガデルへの接触が少なくなっていた、エンキ、ザババ、イシュタルからあった神託は無くなりそのお陰でエルキドゥとの時間が取れているのだが、何故か嫌な予感が脳裏によぎる。その予感は当たっていたが結果を知るのはまだ先であった。
ガデルはエルキドゥに人を教えた、人の持てる技術や感情、倫理観、彼が教えられるだけの物を教えた。出会ってから三年経てばエルキドゥも人と変わらない心の機敏を得ていた。元が泥である為に姿は何にでも変えられ、エルキドゥはガデルの姿から街一番の美人に姿を変えていた、友に喜んでほしいと言う気持ちから男性が喜ぶ容姿を選んだのだ。それのせいでガデルと距離が空いた事もあったがそんなことは今は昔。
「人は不思議だ、だからいい」
「そうかい! 良かったなエル!」
「エル? それは誰だい? ひょっとして私を指した名称かな?」
「おっとこれは教えてなかったか、親しくなった人間同士はお互いに本名とは別に名前を付け合うんだ、お前はエルキドゥ、だからエル! ってな具合にな!」
「へぇーだったらガデルは……うん『イブァーブ』と呼ぶよ」
「イブァーブ? どういう意味だ?」
「とっても楽しい私の初めての友達、という意味を込めた。私と君にしか分からない造語、人はこういう特別感が好きだと学習したからね」
「エルお前って奴は……くうぅ! 俺は嬉しいぜ! 今から俺はイブァーブ・ガデル! そう名乗る! 『最高の友』に乾杯!」
「『最高の友』に、乾杯だよ。えいっ」
「うおっ抱き着くな! 色々意識しちゃうだろぉ!?」
「私の体で良ければいくらでも貸してあげれるけど?」
「そういう所はいつまでも変わらないなぁ! アハハハハ!」
月夜に盃を交わし二人は笑っていた、いつまでもこの日常が続くように祈りながら。されど運命は残酷でありこれがガデルとエルキドゥとの最後の語らいになった。
「ギルガメッシュ! 私は貴方を撃たなければならない!」
「泥人形ごときが我に歯向かうか!」
「ヤベェことになっちまったぁ!?」