ファイッ!
カルデアにて語らうチームメソポタミア、エルキドゥが話を主導していた。ここからは自分が話す他ないと譲らなかった。
「ギルガメッシュ、お願いだ。僕に話させてほしい」
「ふむ、他ならぬお前の頼みだ、退ける理由はない」
「エルがねぇ……まぁ一番影響を受けたのはエルだもんな、あれ? エルって僕っ子だっけ? 一人称私じゃなかったか?」
「我が正してやった、貴様が教え方が悪くて友人と恋人を混同していたのでな、男の友は男らしく振る舞えと教えてやったのだ。
そうでもしなければお前は一生女を抱けずにエルキドゥに縛られる生活だったぞ? ……それはそれで愉快であるか、天を繋ぐ鎖が人間ただ一人を縛るのだからな、クハハッ」
「そこまでピンチだったの?!」
「僕としては今でもそうしたいけどね、君が言ったんじゃないか、『私が一番』だとね? 人間たちはこれをプロポーズの言葉にしていたからギルに教えられるまでは君が『その気』だったと思ったけど……それとも噓をついていたのかな?」
「……お、王様、エルからハイライトが消えたんですけど」
「自業自得だたわけ」
◆
エルキドゥとギルガメッシュが争ったと言うのはギルガメッシュ叙事詩の山場の一つと言えるだろう、地形を変えてしまうほどの争いに発展したとまで言われ神代における最小単位の大戦争、それの引き金になったのは他ならぬガデルだった。
最後の語らいより前の日のこと、ガデルはいつものように仕事をこなし自宅へ帰るとキッチンで倒れるエルキドゥを見つけてしまった。床一面が黒に染まり思わず顔をしかめる程の異臭を放っている、まさか毒では無いかと一瞬考えてしまったが今は介抱が先だろうと思考を切り上げ倒れているエルキドゥを抱き上げベッドへ寝かせた。
「エル、何があった?」
「ガデル……私はもう……ダメだ」
「何が? まさか消えるのか!? どの神に祈ればいいんだ!?」
「……料理が」
「え? 料理?」
「料理が……う、上手く、出来ずに、なん、らかの……魔術が、はっ発動、して……毒のスープになっ、なってしま、った」
「あー……うん、エル、気を使って夕飯を作ってくれようとしてたんだよね」
「//////……すまない今は一人にしてくれ、どうやら熱暴走しているようだっ!」
エルキドゥは料理ベタだったようだ、要らないアレンジをした結果自らの耐性をぶち抜く毒料理が出来上がってしまいそれを味見して倒れた、そう分かるとガデルも気が抜けたように座り込んだ。「人騒がせな奴」とだけ言って新しく夕飯を作りエルキドゥと共に味わった。
その調理技術は一級品、万事を極める事がギルガメッシュを超えるために必要であるという理念の元に料理も上手くなった。
ギルガメッシュ叙事詩ではイシュタルが文句を付けられないほどに見た目も味も最高であるとか、死後エレシュキガルが冥界の料理人に召し抱えると生前から約束したとも言われている。
当然のようにそのことはギルガメッシュの耳にも伝わり今度催される宴の際に料理人として宮廷に招かれている、これが初のギルガメッシュとの対面になるかもしれない、そう思うと身がすくみ上がり余計なことを考えてしまう。ギルガメッシュに会うのに神託一つないのも更に不安を募らせる要因になっていた。
◆
「このあと僕たちはギルの宴に料理人として参加して料理を振る舞った、ガデルの料理は受けが良くてね」
「うむ、アレは良い宴であったな」
「そこまでは良かったのに、良かったのに……ギルをよく思わなかった家臣たちが寄りにもよってガデルの料理に毒を仕込んだ」
「我も油断する程に上等な料理に仕込まれて、あの時ばかりは己の失策に余計に腹を立ててしまった」
「ギルが毒を食べる前にガデルが気付いたけど、まぁ、それを許す訳もなくギルはガデルと家族も殺そうとしてね」
「仕方あるまい、物分りが良ければ暴君と呼ばれておらぬ」
「ガデルを守るために僕はギルに立ち向かったんだ、『イブァーブ』を守るためにね」
「その果ては……我が叙事詩には記されておらぬか」
「ガデルは死んだ、僕の手で……今でも思い出すたびに震えるよ、この手が君の……ガデル、君の胸を貸してくれ」
「おーよしよし、怖かったよなぁ。これも全部ギルガメッシュって奴のせいなんだよ?」
「……贋作者よ、とびっきりに強い酒をよこせ、いっそ『
◆
ガデルの料理に毒が入っている、その事実に気付けたのはやはり今回の料理を担当したガデルだった。
自分の作った料理をギルガメッシュに自分で差し出す、ガデルが料理人として王に対する最敬礼のつもりでそうしていた、だからどこにも毒の入る余地がないと思っていた。気付けたのは奇跡にも等しいが毒は用意されていた素材そのもの、後日分かったことだが料理にして初めて致死量になるように食材に薄く塗られていた、王の崩御を企む輩が用意していた作戦にまんまと嵌められた。
ギルガメッシュの前に持っていきいざ口をつけようとしたその一瞬に自分の料理に僅かに異臭が交じっていることを察知して、ギルガメッシュの食事を遮った。
「失礼します、あむっ……ペッ、やっぱり毒だ」
「ほう……なるほどなるほど」
「申し訳ありません、これも私の不手際です。ですが誓って貴方を殺めるつもりはありません! これはなにかの手違いです! どうか、どうかご容赦下さい」
ギルガメッシュに謝ることしか出来ない、料理を提供した責任がある、それはそれとして自分は毒を入れていないのだから許してほしいと懇願する。しかし相手は希代の暴君ギルガメッシュ、それで済むはずがなく。
「貴様、名は」
「ガデルと申します」
「ガデル、ガデルか……その方の一族をもろともに処刑する、王の命を奪おうとしたのだから文句あるまい?」
「なっ! 待ってください王よっ! 私の責任です! 家族は! 家族だけは! お許しをっ! それに毒はザババ様に誓って入れておりません!」
ガデルは必死にギルガメッシュに慈悲をこう、自分のせいで家族にまで影響を及ぼす事は絶対に避けたかった。ギルガメッシュを超えるという無謀な挑戦を何も言わずに黙っている優しい言葉を掛けてくれた母、一人暮らしを始めてからも毎日顔を合わせて一日に起きたことを話し合う父、からかいつつも面倒を見てくれる姉、そして友であり同じ屋根の下で暮らすエルキドゥも含め、家族に手は出してほしくないから。
「ならん」
その願いはバッサリと切り捨てられた、ギルガメッシュが手で数回合図を送ると兵士たちが走っていく、恐らく、いや確実にガデルの家族を探しに向かったのだ。
「王! 私の首は差し上げます! どうか! どうか!」
「貴様の薄汚い首など酒の肴にもならんわっ! 我の機嫌はすこぶる悪いぞ? んん? あぁそれともこういう作戦だったのか? 『毒入りの料理を見抜き王を救い、その懐へ潜り込む』シナリオであったか?」
「そのような恐れ多いこと」
「現に毒はあった、その事実はどうする? 何を言おうがそれが全てである。釈明はいくらでもするがいい、その諸共を斬り捨ててやる」
あまりにも無慈悲、あまりにも邪智暴虐な振る舞い、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「ギルガメッシュゥゥゥゥ! 」
「エル!?」
「件の泥人形か、フッ」
エルキドゥは先程出ていった兵士を全員を金色とすら表現するのもおこがましい程に神々しい輝きを放つ鎖で縛り上げてギルガメッシュの座る玉座に投げ放つが彼は羽虫を払うがごとくそれを片手で払い除ける、受け止められなかった兵士たちは残念ながら致命傷を負ってしまっが他の兵士が救護に向かったので問題なし。
「ギルガメッシュ! 私は貴方を撃たなければならない!」
「泥人形ごときが我に歯向かうか!」
「ヤベェことになっちまったぁ!? 待ってくれ二人とも! ここでっ!?」
ガデルの静止は聞き届けられずエルキドゥは友を侮辱したギルガメッシュに全性能を持って襲かかり、ギルガメッシュは自身に迫る心を持った兵器に自らの財を惜しみ無く解き放ち迎撃する。その2つがぶつかり合えば結果は間違い無く一つだけ、宮殿の崩落である。
「逃げろぉぉぉ宮殿が無くなるぞぉぉぉぉ!」
「うわぁぁぁ!?」
「早く逃げろぉぉぉ!」
そうなれば力なき者は吹き荒れる瓦礫と煙の嵐から逃げるしかない、お互いに逆上している今、もはや災害と称するのが相応しい、戦いの舞台は宮殿に収まらず全てを流す濁流のようにウルク全土に被害が及んだ。
「あの時のエルの目は……初めてあったときと同じ目だった、まさか泥の獣に戻るつもりなのか!? 駄目だ! それは! 俺と過ごした日々まで忘れるつもりかあいつ!」
「貴方どこへ!? そっちは危険です!」
「だからこそ行きます! エルを、エルキドゥを止めなくちゃならないから!」
そしてガデルは暴力の嵐へ飛び込んだ。友が、友のままであるように願うが故に。
エルキドゥがめちゃくちゃ人間くさくなっていますがガデルのせいなので許してね!