「さーてたっぷり休憩したしどこまで話したかな? あ、冥界で遊んでた所だったかな? まぁあそこって何もないけどそれだけなんだよね」
「ガデルの言う通り我も同じ意見だ、何もない事こそ死後は安らぐ、そういうことなのだろうな」
「あ、そうそう、王様聞いてよ! 俺さー自力で自由に冥界に行き来出来るようになったんだぜ? 凄いと思いません?」
「我の肝を抜く程ではないが驚きに値するな……あぁ早々にマスターが貴様を呼んでいれば冥界で年越しをする羽目にならずに「何の話?」いや、忘れてくれ。取り留めのない話だ」
◆
彼が冥界へ来て一週間、地上ではフンババ討伐のために準備を進めていてそれももうすぐ終わりそうだった。
変わって冥界ではガデルが冥界都市を作り上げるためにせっせか働いていた。が、エレシュキガルの一声で休みの日が出来てしまったので今は暇していた。
「ガルラっちガルラっち、まだ?」
「まだだ」
現在ガデルは軟禁されている、ガルラ霊の厳重な監視付きで。これも仕方なのないことだろう、何せ放置しておいたらずっと働き通すこと間違いなし、死んだ後も律儀にあの三柱の神託を守っているのだから。まぁ彼はそれに慣れ過ぎて生半可な労働では満足出来ない体になってしまったけれども。
「なぁなぁ駄目か? 俺はギルガメッシュ王に追いつきたいんだよー! その為に労働してんだぜ? してなきゃ駄目なんだよー!」
「うるさい、これもエレシュキガル様の命令なのだ。大人しく従え、さもなくば……」
「さもなくば?」
「自我を剥奪する、そう聞いている」
「お、大人しくしてますっ!!!」
この冥界においてエレシュキガルは絶対、誰であっても、どんな存在であっても『冥界』と言う世界では無力。秩序であり法、それがエレシュキガルなのだから。そのエレシュキガルがガデルに軟禁を申し付けた、ならば彼はハイの返事しか認められない。逆らうことすら許されぬ。
だからといって彼が何もせずジッとしてるかと言われたらそれは無理な話で。
「何をしている」
「え? 練習だよ、魔力をもっと効率的に扱えるようにね。まぁ強化魔術をメインにジワジワとね」
「お前に休むという概念はあるのか?」
「あるよ、必要なら休むさ、今は疲れを感じないんだ」
「それは錯覚だ、魂は摩耗してすり減り消滅する、最後の時が早まるだけだぞ」
「ダイジョーブダイジョーブ、あと数年冥界に居るつもりだから」
「確かお前に課されたのは1050年の労働だったろう? それよりも早く消滅するつもりか?」
「いや、そうじゃなくて多分だけど俺生き返るよ、勘だけど」
「は?」
「なはは何だその顔ー! イテッ?!」
冥界の死神を前にしてハッキリと生き返ると言ってみせた、これにはガルラ霊も面食らい呆けたような反応をしてしまいガデルに笑われてしまった。故に少し槍で突いてやるのは問題無い筈だ。
そして、更に一週間後。
地上ではエルキドゥとギルガメッシュはフンババ討伐のためウルクを出発した。
冥界ではエレシュキガルとガデルが真正面から対立していて激化する言い争いを止めようとするガルラ霊なんて毛ほども気にしていない。
「では、エレシュキガル様は『イシュタル』様と会わないんですか!? 姉妹なのでしょう?! 仲良くしましょうよ!!」
「それは結構だがアレと私とでは火と水、致命的に噛み合わない相容れぬ定めです。余計な気を使わず立ちさりなさい!」
こうなってしまった理由は二日前、監視役のガルラ霊とガデルがエレシュキガルを話題に話をしていた時のこと。
ガルラ霊がエレシュキガルが万年の単位で外の神々と交流せず地上にすら出ていかないと心配しているんだと言うと、引きこもりだとガデルが笑う、ガルラ霊はそれに反発しエレシュキガルが『役目』に忠実であるがために離れられないのだと言い返した、更に自分達も今の主人は見ていて苦しくなる、神の誰かが助けに来ないものか、特にイシュタルが話し相手になってくれれば幾分気が休まるはずだと、痛切に語った。
それが不味かったのだろう、ガデルはそれに心を動かして軟禁明けすぐにエレシュキガルの元へ走り、神に対し説得を始めたのだ。今すぐ仕事を切り上げて地上に出よう、それかイシュタルの所へ行こうとも。それを聞いたエレシュキガルは『出来ぬ』と一蹴したのだが彼は食い下がり今に至るということだ。
「エレシュキガル様はお一人で寂しくないのですか!? 誰とも関わらず離さず冥界で仕事をしているだけではいずれ限界が来ます! 来るんです!」
「分かった風な口を利くな、何千何万の月日をこの世界で過ごした我の、この心が分かるまい! 分かられてたまるか!」
「いえ、俺には想像できます! 自慢じゃ無いですが神様とは縁がありましてね! 分かるんです! 神様だってつらいものはつらい! 人並みの感情を持っているんだって!」
「小童め! もう良い我手ずから葬ってやろう!!!」
怒りが頂点に達したエレシュキガルが腕を振り上げるとその手には赤い稲妻は迸り、振り下ろすと同時に彼を撃ち抜いた。地の底である冥界が太陽に照らされたかと思うほどの閃光が見ていたガルラ霊達を包み、ガデルがいた場所には何も残っていなかった。
ガルラ霊の頭には消滅の二文字が浮かんで来る、悪人じゃなかったが些か度が過ぎたいい阿呆だったと、僅かな弔いを捧げ仕事に戻ろうとすると
「ちょっと待ちなさいよ」
「え、そのお姿は……っ!?」
「『イシュタル』!!!」
「たかが人間一匹に随分余裕無いんじゃない? オネエサマ?」
握り潰した赤雷がまだ残る手を払い、その反対の手にガデルが抱えている。
◆
「イシュタルの冥界下りってこのタイミングなんですね」
「ガデルに冥界からすっごい祈られたから確かめに赴いたわけよ。それに思うところもあったからね。
あんなところに何時までも閉じこもってちゃダメよ、そうよねガデル」
「はい! エレ様はもっとワガママになりましょう! イシュタル様は落ち着きが欲しい所ですが」
「うっさい眷属のくせに」
◆
エレシュキガルの座する場所は冥界で最も深き所、そこに至るまでに試練がありそこを通るには試練を乗り越えるしかない。だからだろうか、ガデルを助けたイシュタルの服装は『全裸』だった。
「そこそこ痛いわね、貴方の攻撃」
「服と権能を剝いだのによくやります」
「イシュタル様なんで裸なの……?」
「ここに来るまでに色々あったのよ」
確かに色々あった、7つぐらいあった。それを乗り越えてここまで来た目的はなんだろうか、エレシュキガルはイシュタルを問い詰めた。ガデルはまだ抱えられたままだ、離してやれよ。
「何用でこの様な地の底までおいでになられたのですか? あぁ私を笑いに来たのでしょう?」
「違う、全く違う、この愉快な魂のお願いを聞いてやったのよ、神様だからね」
「それは建前と言うものでは?」
「あら? だとしたら何か問題でも?」
「何でもいいから冥界から出ていけ、それだけです」
ガデルは自分が引き起こした惨状とはいえこの想定外の酷さに胃がキリキリ痛む幻覚を覚えた。どちらも譲歩の姿勢を見せず頑として引かない、まだ暴力沙汰にならないだけ理性は保てているのだろうが破裂寸前の風船より軽い切っ掛けで爆発しそうだ。
この空気を双方に刺激を与えず軟着陸させるにはどうすれば良いのか、ガデルは死んで走馬灯を見たときより頭を働かせ、妙案を思いつく。
「(どうするどうするどうする!? このままじゃ不味いぞ、あっちを立てればこっちが立たぬ、まさに窮地! ……はっ!? 無理がある作戦だが、これしかない!)」
と、簡単に行けば良かったがそんなものは思い浮かばず大博打に打って出た。
「二柱にご提案! 穏便に話し合いで「「なにか言ったか!?」」とは行かないのは承知しているのでここは、地上で殴り合いましょうよ! 冥界だとエレシュキガル様が有利ですが天界だとイシュタル様が有利、双方に取って平等な地上で一騎打ち、どうです?」
大博打にも程がある、エレシュキガル有利な今彼女がそれを飲む理由がない、イシュタルもプライドが仕切り直す事を許す訳がない、そして地上に住む人々がそれを許すわけがない。
なんの確証も保証もなくて本人にも先が見えていない提案とも言えないこれは文字通り大博打だった。
が、運はメチャクチャ彼に味方した。
「いいわ、そうしましょう」
「奇遇ね、同じ事を考えてたわ」
「へぇ、そうなのかい。どう思うギルガメッシュ?」
「そもそも議論の余地もないが、しこりを残すよりはガデルの気遣いを立ててやろうではないか」
二柱の会話に入ってきたのはなんとエルキドゥとギルガメッシュだった、どうやって冥界まで来たのかは置いておき、地上代表のギルガメッシュが許した。もちろん止めようとした神々もいたが後から怒りを買いたくない神々がそれを止め、いよいよもって止めるものがなくなった。
果たしてその勝負の行方はいかに……
この主人公現代にいちゃいけないな・・・