JK妻(シーズン3)   作:山田甲八

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七 ご懐妊事件

 のんびりした夏休みも終わり、チャコと僕は東京に戻ってきてカレンダーを一枚めくった。今日から二学期が始まる。マコちゃんは既に全国ツアーから帰ってきていて、九月一日の朝、チャコとマコちゃんと僕の三人は久し振りにそれぞれの持ち場に出かけていった。

 国会は閉会中なので永田町の仕事もそれほど忙しくはない。党の副幹事長である僕のところには色々な仕事が舞い込んでくるが、秘書にできることは秘書に任せ、チャコの祖父で僕の後見人である白石権蔵参議院議員にお願いできることは極力、権蔵先生にお願いするようにしている。巨漢の祖父は威張れる仕事はとにかくホイホイ引き受けてくれるので僕としてはありがたい。ただ、依然として嫌な雑用は僕に押し付けてくる。僕が議員バッチをつけてからというものの、この巨漢の政治家は全国少年少女絵画コンクールの審査副委員長といったような主役級の仕事まで押し付けてくるのだ。ただそんな仕事も退屈な会合に顔を出してご飯を食べ、出席者の前で微笑めばいいだけなので楽かと言われれば楽だ。

 この日は朝からお昼ご飯を挟んで、そんな退屈な会合を何件かはしごし、午後四時半頃、早めの帰宅をした。チャコが産婦人科に行くと言っていたのでそれが気になっていたのだ。妊娠検査薬は昨日、マコちゃんに内緒でテスト済みであり、既に陽性の結果が出ていた。

 僕が運転手付のクルマで帰宅するとチャコはもう帰宅していてダイニングテーブルに今日、学校で配布されたと思われるプリント類を並べ、それらの紙とにらめっこをしていた。何かとてもいいことがあったようでニコニコしている。マコちゃんはまだ帰ってきていない。

「ただいま~。」

「お帰りなさい。パーパ。」

 チャコは普段、決して口にしない言葉を使って、ニッコリ微笑んだ。いつもより甘ったれた声だ。それで僕は今日の検査結果を理解した。僕はダイニングテーブルのチャコの対面に座った。

「そうか。おめでとう。で、予定日はいつなの?」

「五月十八日。だから卒業の頃はちょうど安定してる頃だね。まあこれからしばらくつわりでゲロゲロの日々が続くと思いますけど、どうぞよろしくお願い致します。」

 チャコはそう言ってしおらしくお辞儀をした。

「はい。まあ、何はともあれそれはそれで安心しました。僕はもちろん初めてだからよく分らないけどまた一緒に頑張ろうね。」

 まあそれは想定の範囲内だった。

「は~い。……実はね、話はそれだけで終わらないんだなあ。」

 チャコがいたずらっぽく微笑みながら言った。

「まだなんかあるの?」

「うん。ビックリするようなニュースがあるの。……実はね、……なんと妊娠したのはあたしだけじゃなかったの。」

「はあ?他にも誰か妊娠したの?」

「うん。」

「誰?」

「啓一さんも知ってるとっても身近な人だよ。」

 チャコがもったいぶる。

「誰だろう。まさか……ハ…ルナ、とか?」

「ねえ、それってどういうこと?ハルナちゃんとそういう事実があったっていうの?」

 チャコがプリッとする。でも本気ではないようだ。

「違うよ。身近な人って言うから言っただけだよ。身近な人で、妊娠しそうな人でしょ?マコちゃんのわけないし、……高倉先生とか?」

「あの行かず後家のわけもないよね。今、言った中ではマコちゃんが一番近いかな。」

「誰?」

「実はねえ……、お母さん。」

「お母さんって、え~っ。まさか幸子さん?」

「ビックリだよね。でも冷静に考えるとそんなにビックリすることでもないよね。お母さんまだ三十六だし、初産でもおかしくないよ。」

「そうか。実家に行ってきたんだ。」

「それが違うの。本当にビックリだったの。産婦人科行ったらお母さんがいてさ。実家の近くのお医者さんに行ったからね。ちょうど同じくらいの順番で、まあ最初はお互いに生理不順くらいに思ってたの。お互いにね。事情が事情だからお互いに突っ込まなかったの。それで最初にお母さんが呼ばれて私もついていったの。裕ちゃんのことがあるからちょっと心配でもあったし。そしたら尿検査してくださいって言われて、ついでに娘さんもどうぞって言われて、結果を待って、一緒に聞きに行ったら『お二人ともお目出度です』って言われたの。もう、お互いにビックリだね。」

「そっか。……幸子さんか。そんなこともあるんだね。ねえ、それって高齢出産って言うのかな?」

「お母さんは十八年振りではあるけど経産婦さんだから高齢出産とは言わないね。あたしとマコちゃんがいなくなっちゃったから夫婦でやることがなくなったんだね。きっと。分りやすい夫婦だね。」

「で、同じくらいに出産予定なんだ。」

「お母さんの方がちょっと早いよ。五月の初め。あたしとマコちゃんの誕生日と同じくらいかな。まあ、十八年たっても夫婦の行動パターンは変わらないということだね。」

「じゃあ、チャコとマコちゃんはお姉ちゃんになるんだ。」

「ああ、言われてみればそうだ。そうだね。でも全然、実感湧かないや。母親になる実感も湧かないんだから。」

「まあ、とにかくおめでとう。それともう自分一人の身体じゃないんだから気を付けてね。で、僕はどうすればいいかな?」

「今まで通りでいいですよ。今までも十分大切にしてもらってますから。でも家のことはどうしよう?」

「僕がやるよ。マコちゃんはあてにならないだろうし。大丈夫だよ。裕ちゃんの頃は一人で全部やってたんだから。」

「でもそれは暇な学生の頃の話でしょ?啓一さん、今や政権与党の若きスーパーエースなんだから。家事どころじゃないと思うけど。いっそのことメイドさんでも雇う?」

「いいよ。僕一人で十分だよ。」

「そっか。ここぞとばかりに綺麗なメイドさん雇ったりしたら啓一さん鼻の下伸ばしちゃうか。」

「またそういうことを言う。」

「いっそのことハルナちゃんが来てくれるとありがたいけど無理だよね。」

「まあ忙しさが半端じゃないからね。過労で入院するほど忙しいんだから。」

「そうだよね。じゃあ視点を変えて執事ってのはどう?」

「執事ねえ~。」

「例えば永田さんとかさ。」

 僕は軽くため息をついた。

「そりゃ永田さんなら有能な執事になるだろうけど、今月、代表選が終わったら正式に僕の公設秘書になるんだよ。それも山崎さんが永田さんに遠慮して公設第一を譲るからいきなり公設第一秘書だよ。とても執事なんてさせられないよ。」

「でも啓一さんがご主人様なんでしょ?」

「公設秘書は国庫から給料が出る公務員なんだから僕個人のためじゃなく、国家のために働いてもらわないと。」

「随分固いこと言うね。まあ、しばらくはあたしも動けるだろうからお手伝いさんのことは今すぐ結論出さなくてもいいけどね。」

「はいはい。で、学校にはもちろん報告するんでしょ?」

「そうだね。できればあした。啓一さんにも来てもらいたいんだけどいいかなあ?お仕事の方、どうだろう?一人で話すのは照れくさいからさ。」

「午後なら大丈夫だと思うよ。国会もまだ閉会中だし。党の代表選挙は控えてるけどそれもそんなに忙しくはないから。」

「じゃあ、あした、またいつものように学校から啓一さんの携帯に電話しますね。……あたし、ちょっと横になっていいかな?啓一さんの顔見たら安心して眠くなっちゃった。」

「もちろんいいよ。お疲れ様でした。ゆっくり休んでね。」

「は~い。マコちゃんには啓一さんの口から報告しといてね。」

「もう誰かには話したの?」

「まだ誰にも話してないよ。こんなこと恥ずかしくて言えないし、お医者さんから帰ってきて初めて会うのが啓一さんだしね。本当は嬉しくて話したくて仕方ないんだけど、不思議だね。もちろんお母さんは知ってるけど。まあ、マコちゃんに話したが最後、この噂はライトスピードで世界を駆け回るんだろうけどね。」

 チャコはそう言うとダイニングを出て階段を上っていった。

 

 それから僕はお風呂に入り、晩ご飯の支度をした。

晩ご飯の支度をしていると「ただいま~!」という声がして妻と瓜二つの双子の妹が帰ってきた。今日は始業式で学校は午前中でおしまいである。学校が終わってから一仕事こなしてきたのだろう。

「お帰り。お仕事だったのかな?お疲れ様でした。」

「うん。あれっ、今日はお兄ちゃんが晩ご飯作ってるの?珍しいね。チャコちゃんは?」

 マコちゃんにはまだチャコの妊娠の可能性や妊娠検査薬の陽性判定の話はしていない。まだ正式な結果が出ていないのに中途半端な話をすると話が大きくなると思ったからだ。そうでなくても僕は今までさんざん、この愛すべき妹のデマゴーグに翻弄されているのだ。

「チャコは二階で寝てるよ。」

「体調悪いの?」

「悪いと言えば悪いし、いいと言えばいいよ。」

「まどろっこしいなあ。どうしたの?」

「じゃあキチンと説明するよ。まあ座ってよ。」

 そう言って僕はマコちゃんをダイニングチェアに座らせ、僕はマコちゃんの対面に座った。いつもと違う雰囲気にマコちゃんもいささか緊張しているようだ。

「どうしたの?なんかいつもと違うよ。」

「そう、いつもと全然違うよ。実はね。チャコが妊娠したんだよ。」

「はあ?」

「だからチャコが妊娠したんだってば。」

「ええっ!妊娠って、赤ちゃんができたの?」

「そう。今日、産婦人科に行ってきたんだよ。予定日は五月十八日だって。」

 そう言うとしばらくマコちゃんは呆然としていた。五秒間くらい間があった。

「……お兄ちゃん。」

「ん?」

「女子高生を妊娠させちゃったね。」

「どうしてそういう言い方するのかなあ。まあ事実、その通りだから言い返せないけど。」

「で、どうするの?」

「どうするって?」

「産むんでしょ?」

「そりゃ当たり前でしょ。チャコと僕はちゃんとした夫婦なんだから。」

「そうか。チャコちゃんに先を越されちゃったか。それはおめでとう。良かったね。でもこれで卒業後にチャコちゃんとユニット組む話はボツかな?」

「チャコもそれを狙ったと言えなくもないけど。」

「まあ、ユニットの話は出産後でもできるからね。とにかくおめでとう。チャコちゃんのこと大切にしてあげてね。もう十分大切にしてるかもしれないけど。」

「で、話はそれだけじゃ終わらないんだよ。」

「何?」

「実はもう一人、妊娠した人がいるんだよ。僕たちの身近にね。」

 僕がそう言うとマコちゃんは大きく深呼吸してやはり五秒間くらい間を取った。

「ねえ、それってハルナちゃん?」

「違うよ。僕もそうかと思ったんだけどね。」

「そうかと思ったってハルナちゃんとそういう事実があったの?」

「あるわけないでしょ。まあ身近で妊娠しそうな人ということでね。」

「そうだよね。いくらお兄ちゃんでも商品には手を出さないよね?」

「そういう言い方やめてもらえます。」

「あたしじゃないよね?」

「いくらマコちゃんでも自分だったら自分の妊娠には気付くでしょ?」

「誰だろう?」

「実はね……幸子さんなんだって。」

「お母さん?」

「そう。」

 僕がそういうとマコちゃんはもう一度、大きく深呼吸した。ため息と言った方がいいかもしれない。

「ねえ、お兄ちゃん。チャコちゃんはそのこと知ってるの?」

「知ってるも何も、チャコから聞いたんだよ。産婦人科で偶然お母さんに会ったんだって。そしたら二人ともお目出度でお互いにビックリしたんだって。」

「チャコちゃんは平気なの?」

「うん。結構、喜んでたよ。」

「そう。あたしだったら絶対に許せないけどなあ。だって妻の母親に手を出すなんて信じられないよ。」

 マコちゃんがそう言ったので今度は僕が大きく深呼吸した。

「ねえ、マコちゃん?何か勘違いしてない?」

「勘違いなんかしてないよ。二人ともお兄ちゃんの子どもなんでしょ?」

「なわけないでしょ。幸子さんの方のお父さんは遼太郎さんに決まってるでしょ?」

 そう僕が言うとマコちゃんはやはり五秒間くらい固まった。

「ああ、そうか。そう言われればそうだね。あの二人、夫婦なんだ。そうかそうか。そうだよね。いや~ビックリした。」

「ビックリしたのはこっちの方だよ。」

「そうかそうか。ごめんなさいね。いや~、お母さん妊娠させたのがお兄ちゃんだったらお兄ちゃん、お父さんにボコボコにされちゃうな~って心配しただけなの。そうだよね。それなら分る。」

「だからマコちゃんはおばさんになるとほぼ同時にお姉ちゃんにもなるんだよ。」

「ええっ。そりゃまたビックリだ。そうだね。そういうことか。この年でお姉ちゃんかあ。ちょっと照れくさいな。お姉ちゃんになるには年取りすぎてるし、おばさんになるにはちょっと早いよね。まあいいや。なんだかうれしいなあ。でも、随分、急な話だね。妊娠検査薬とか使わなかったの?」

「東京に戻ってきてから使ったけど、マコちゃんには内緒にしてたの。」

「そっか。あたしおしゃべりだからね。ねえ、お兄ちゃん。妊娠検査薬ってまだ残ってる?」

「ああ。二本入りだったからまだ一本、トイレにあると思うけど。」

「あたしもやってみていい?」

「マコちゃんが?なんでまた?」

「だって、妊娠してるかもしれないよ。」

「誰の子どもなんだよ?」

「それはお兄ちゃんのに決まってるでしょ。」

「なんで僕なの?」

「だってあたしが寝ぼけてる間にお兄ちゃんがあたしとチャコちゃんを間違えることだってあったかもしれないじゃない。ありえない話じゃないよね?」

「確かにありえない話じゃないけど。」

「じゃあやらせてよ。まあネタだと思ってよ。」

「まあ、いいけど。」

「どうすればいいのかな?」

「説明書の通りにやればいいよ。線が二本出たら陽性。妊娠してるってことだよ。」

「はいは~い。線が出ればいいのね。ついでに着替えてくるね。」

 妹は明るくそういうと鞄を持ってダイニングから出て行った。十分位してスウェットに着替えたマコちゃんが戻ってきた。手に何か持っている。妊娠検査薬のようだ。

「ねえ、お兄ちゃん。あたし妊娠してる。」

「ええっ!」

 マコちゃんがしれっと言ったので僕は驚いた。

「だってほら、窓に線が出てるよ。」

 マコちゃんはそう言って僕に妊娠検査薬を見せた。妊娠検査薬には二つの窓があり、右側の窓の方に緑色の線が出ている。

「ああ、ビックリした。これは検査が終わりましたっていうサインなの。妊娠している場合には左側の方にも線が出るの。」

「な~んだ。そういうことか。ちょっと残念。」

 マコちゃんは口ではそう言ったが、妊娠検査薬が使えてうれしかったのか、満足そうに微笑んだ。

「ねえお兄ちゃん、これってハルナちゃんとかには言ってもいいよね。」

「ああ。いいよ。まあチャコや僕の口からは恥ずかしくてなかなか言えないからその方がむしろありがたいかもしれないな。」

 僕がそう言うとマコちゃんは自分のことのようにニッコリ笑った。

 

 それからマコちゃんと僕は一緒にテレビを見ながら晩ご飯を食べ、マコちゃんはお風呂に入ると言ってダイニングから出て行った。僕が晩ご飯の後片付けをしていると二階で寝ていたチャコが起きてきた。時計は午後八時頃だ。

「おはようございます。」

「おはよう。っていってもまだ夜だけどね。眠れたかな?」

「ぐっすり寝ちゃった。」

「お腹すいた?」

「そうだね。食べるものある?」

「うん。晩ご飯、マコちゃんと先にいただきましたよ。」

「マコちゃん帰ってたんだ。」

「今、お風呂に入ってると思うよ。マコちゃんに話したよ。お母さんのこともね。」

「そっか~。反応はどうでした?」

「まあ、喜んでくれましたよ。それで自分も妊娠検査やるって言って、妊娠検査薬で遊んでたよ。」

「妊娠はしてなかったんでしょ?」

「当たり前だよ。ネタにするって言ってた。」

 そんな会話をしながら僕はダイニングチェアに座ったチャコの前に晩ご飯を並べた。それから二学期の予定などを二人で話しているとリビングの電話が鳴った。チャコが食事を止めて立ち上がろうとしたので僕はそれを制し、リビングに向かい、受話器を取った。

「はい、白石です。」

「もしもし、啓一君か?私だよ。」

 チャコの祖父、白石権蔵参議院議員からだった。声で分った。

「あっ、先生。こんばんは。」

「聞いたよ。朝子、妊娠したんだって?ビックリしたよ。おめでとう。」

「はあ?もうご存知なんですか?」

「うん。」

 僕はあまりの情報の速さに驚いた。チャコは僕以外、まだ誰にも話していないはずだ。幸子さんから連絡が行ったのだろうか。

「幸子さんにお聞きになったのですか?」

「幸子?幸子は相変わらず音信不通だよ。そういえば幸子もお目出度なんだってな。」

「はい。それはそうですけど、どなたからお聞きになったんですか?」

「なんとかという新聞記者に今、インタビューされたんだ。インターネットニュースに出ているそうじゃないか。いやはや便利な世の中になったなあ。」

 そこまで聞いて僕は情報の提供者がマコちゃんであることをほぼ確信した。

「そうでしたか。それは知りませんでした。おっしゃる通りです。今日、産婦人科に行ってきました。予定日は来年の五月十八日です。」

「そうか。君はいつもやることが早くて正確だな。本当に感心するよ。朝子のこと大切にしてやってくれよ。まあ、君にはもう言うまでもないだろうが。とにかくどうしても一言君にお祝いが言いたくてな。夜分に失礼した。じゃあ、また。」

 そう言って電話は一方的に切れた。僕は急いでスタジオ兼書斎に入るとパソコンに向かい、インターネットを立ち上げた。マコちゃんはまだお風呂に入っている。ポータルサイトのニュース欄に「マコちゃんの双子の姉、ご懐妊」という見出しが出ていたがそれには入らず、マコちゃんのブログに向かった。パソコンの画面を見ているとスタジオ兼書斎にチャコが入ってきた。

「どうしたの?電話、誰から?」

「権蔵先生からなんだけど、インターネットニュースにチャコの妊娠の記事がもう出てるんだって。きっとマコちゃんだよ。マコちゃんがブログに書き込んだのさ。だからマコちゃんのブログをチェックする。」

 マコちゃんのブログにはすぐにたどり着き、最新のメッセージには「おばさん、そしてお姉ちゃんになります」というタイトルが付けられていた。僕はそのメッセージに入った。チャコが横から画面をのぞき込む。メッセージには次のように書かれていた。

 

みなさんこんばんは~

 

今日はスーパービッグニュースがありますよ。マコちゃんがなんと、おばさんになるのです。

そう、チャコちゃんが妊娠したのです。ビックリですよね。まだ女子高生なのに。お兄ちゃんのなんと手の早いこと。まあ本当の夫婦だからいいけどね。

 

ということでマコちゃんはこの若さでおばさんになります。出産は来年の五月なんだって。みなさんもチャコちゃんとお兄ちゃんのこと応援してあげてくださいね。

 

それともう一つスーパービッグニュース。なんとマコちゃんのお母さんも妊娠したのです。母と娘がほぼ同時に子どもを産むなんて生命の神秘。ということでおばさんになるとほぼ同時にお姉ちゃんにもなります。今までは妹キャラで甘えてばっかりだったけど、これからはもっとしっかりしなくては。

 

ところで妊娠検査薬が一本余っていたのでマコちゃんもトライしてみました。結果は残念ながら陰性でした。あ~、あたしも赤ちゃん欲しくなっちゃったな~。

 

ではではこれからお兄ちゃんとおうちディナーで~す。

 

PS 今日から二学期ですね。学生の皆さん、夏休みボケに負けずに頑張りましょう!

 

 メッセージの後ろには妊娠検査薬の写真が添えられていた。そう言えばマコちゃんは晩ご飯を待つ間、テレビを見ながら携帯をいじっていた。

「特に口止めはしなかったけどね。」

 僕は言い訳するようにチャコに言った。

「マコちゃんさすがにおしゃべりだね。やっぱりマコちゃんに情報を与えたら本当にライトスピードだ。」

 チャコはもっとムッとするかと思ったがなぜかニコニコしている。

「今日は、もう電話は留守電対応にしてさっさと寝た方がいいかもね。」

「でも、かえってよかったんじゃない?」

「よかった?」

「うん。あした学校行ったら、もうみんなあたしの妊娠のこと知ってるんでしょ。自分から恥ずかしいこと言わなくてもいいし、啓一さんもそっちの方が楽じゃない?」

「うーん。」

 そう言われれば確かにそうかもしれない。明日、永田町に行けばみんな「おめでとう」と言ってくれるだろう。面倒な説明を一々しなくて済むのは確かだ。

「結果、オーライだよ。マコちゃんのおしゃべりもたまには役に立つね。あした新聞に載るかなあ。ねえ、啓一さん。ハルナちゃんのブログにも行ってもらっていい?」

「ハルナのブログ?」

「うん。もう、とっくに知ってるはずだからどんなコメントしてるか見てみたいの。」

「はいはい。」

 僕はそう言って画面をハルナのブログに切り替えた。ハルナのブログの最新のメッセージには「おめでとうございます」というタイトルが付けられていた。そのタイトルに入ると次のようなメッセージが書かれていた。

 

みなさんこんばんは~

 

さっき、マネージャーさんから聞いたのですがマコちゃんのお姉ちゃん、チャコちゃんがなんとお目出度だそうです。詳しいことはマコちゃんのブログに載っているのでそっちもチェックしてみてくださいね。

 

チャコちゃん、そして白石先生、この度はご懐妊おめでとうございます。春菜もとってもうれしいです。チャコちゃんは高校との両立、とても大変だろうと思いますけど頑張ってくださいね。私にできることがあればなんでもさせていただきます。

 

野島先生からも「お手伝いに行け!」と言われています。選挙のときのように芸能活動をお休みするということはないと思いますが、事情が事情なので野島先生は白石先生の方を優先していいと言ってくださっています。少しお仕事を減らしていただくかもしれません。

 

春菜としてはせっかく、白石先生にご恩返しさせていただくチャンスですので一生懸命やらせていただきたいと思っています。皆さんも応援してくださいね。

 

では、チャコちゃんのこと何か面白いことが分ったらまた報告しま~す。

 

今日から二学期が始まった皆さん、まだ暑いけど頑張りましょうね。

 

「なんだ、ハルナちゃんお手伝いに来てくれるんだ。それなら話早いね。」

 チャコがボソッと言うとスタジオ兼書斎のドアが開き、双子の妹が顔を出した。

「ここにいたんだ。何やってるの?」

「マコちゃんのブログチェックしてるんだよ。マコちゃんに話したら本当に光の速さだね。もうニュースにも出てるよ。」

 チャコがそういうと妹は「へへ」と笑い、「お兄ちゃん。お客さんだよ。リビングでお待ちだよ」とニコニコ笑いながら言った。

「お客さん?誰だろう。こんな時間に。」

 僕はそう言ってパソコンをそのままにして、リビングに向かった。双子の姉妹が後からついてくる。リビングのドアを開けるとソファに座っていた来客は立ち上がり「この度はおめでとうございます」と言って深々とお辞儀をした。

「どうしたの?こんな遅くに。」

 僕は目の前にいるメイド服姿のサラサラストレートに話しかけた。

「野島先生からすぐに白石先生のところに行って来いと言われたものですから。」

 ハルナがそういうとチャコはすかさずハルナの下に寄り「わあ~ハルナちゃん来てくれたんだ~、ありがと~、助かる~」と言ってマコちゃんと三人で手を取り合って喜んだ。久しぶりに再会した母子のようだった。僕はキャッキャキャッキャ騒いでいる三人をしばらく見つめた。

「なあハルナ。来てくれたのはありがたいけど別に気を使わなくてもいいよ。僕一人で切り回せると思うし。」

「そうはいきません。国会がそろそろ始まるでしょうし、先生もお忙しくなると思いますから。一番弟子として先生をお助けしないわけにはいきません。」

「だけど仕事もあるんでしょ?この前みたいにハルナに倒れられちゃうと僕も責任を感じちゃうから。」

「それは大丈夫です。あれで私も自分の限界が分りました。もう駄目だと思ったら早めに野島先生に言ってお仕事を減らしてもらいます。野島先生もそれでいいとおっしゃってますし。」

 僕が反対できそうもなくなってきた。それでなくても今、このリビングでの賛否は三対一なのだ。

「ハルナ?まさかここに住み込むって言うんじゃないだろうね?」

 その一言は後から考えるとやぶ蛇だった。

「そうさせていただきたいんですけど私自身の仕事もありますから住み込ませていただくわけにはいかないと思います。事務所の寮から通ってきますよ。」

 ハルナがそう言うとマコちゃんが「住み込んじゃいなよ。この前みたいにあたしの部屋であたしと一緒に寝ればいいからさ」と自分のことのように言った。

「もしよろしければそうさせていただきます。では、早速、晩ご飯の後片付けをしますね。先生とチャコちゃんは休んでいてください。」

 そう言ってハルナはリビングから出て行き、マコちゃんはハルナについて行った。チャコと僕がリビングに残された。いつもながら僕の因果関係は僕の意思と無関係に進む。

「ハルナちゃん、ああ言ってるけどホントは事務所の寮よりこっちの方が居心地いいんだろうね。」

 チャコがポツリと言った。

「チャコとしては予定通りかな?」

「予定はしてなかったけどうまくいったね。でもこの方がいいと思うよ。臨時国会が始まった途端に奥さんがつわりでゲロゲロじゃ啓一さんも安心してお仕事できないでしょ。マコちゃんも嬉しそうだし。まあしばらくのんびりさせていただきますよ。この子のためにもね。」

 チャコはお腹をさすりながらそう言い、ニッコリ笑った。

 

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