神魔征服世界 カンピオーネ ~人が神を越える刻~   作:もちゃもちゃの玉ねぎ

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始まり

 

 

生命に競争があるように、歴史にも勝敗がある。

 

“現在”とは正しい選択、正しい繁栄による勝者の歴史。

 

これを汎人類史と呼び。

 

過った選択、過った繁栄による敗者の歴史。

 

“不要なもの”として中断され、並行世界論にすら切り捨てられた“行き止まりの人類史”——

 

これを、異聞帯【ロストベルト】と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

……そこは地獄だった。

人が焼け死に、串刺しになり、蝿に貪られ、人の焼けた匂いが、蝿の気持ちの悪い羽音が場を支配する最悪の地獄。

 

……少年はこの世で最も信頼する家族によって神に、いや神というにはおぞましすぎるナニカの生贄に捧げられた。

 

……少年は絶望した。恐怖した。殺されると生を諦めた。

 

……しかし、と少年は思った。恐怖、絶望、悲歎、それ以上に少年の心は憤怒に包まれていた。少年は立ち上がりナニカに挑んだ。家族の絆を破壊し、友達を喰らい、故郷を破壊し、少年を生贄にし、生き残ろうとした親を殺したナニカを殺そうと挑んだ。しかし、少年などナニカからすれば羽虫と呼ぶにも烏滸がましい程に矮小な存在でしか無かった。

しかしその矮小な少年が自分を殺そうとする姿が面白いのかナニカは少年を殺さずに笑いながら少年を許した。

少年は諦めずにナニカを殺そうとした。しかし殺せなかった。もう駄目だ。と少年がその場に崩れ去ると、その下にいた1匹の蝿を潰してしまった。するとナニカが苦しみはじめ、そして死んだ。

なんとも呆気ない最後であった。その蝿がナニカの本来の姿であったのだ。

 

そうして少年、いや祠桐朔は神殺しとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

……消えたはずの思考に突如声が流れ込んでくる。

 

 

『__________選ばれし君たちに提案し、捨てられた君たちに提示する』

 

 

どこからともなく、突然降って湧いたような実感の無い空虚な声が、俺の思考に介入する。

 

 

『__________栄光を望むならば、蘇生を選べ』

 

 

そうか、俺は死んだのか…生きることに執着は無い。

 

 

『__________怠惰を望むならば、永久の眠りを選べ』

 

 だが蘇生、こんなことが可能な存在は神以外に存在しない。

この世から神を絶滅させる。俺の存在意義。

 

 

『__________神は、どちらでもいい』

 ならば俺は姿もしれない貴様を殺すためにその提案に乗ろう。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

『…く!…朔!ちょっと聞いているの朔!』

久しぶりに嫌な夢を見たと思考の海に潜っていると口うるさい女の声が聞こえる。

 

「聞こえていない。いつも通り声がでかいなオフェリア。」

声の主である。オフェリア・ファムルソローネにいつも通り憎まれ口を叩く。

 

『なっ!?なんですってぇー?!』

オフェリアが声を荒らげる

 

『まぁまぁ落ち着きなさい2人とも、怒ってばっかりだと折角の2人の綺麗な顔が台無しよぉ?』

彼らクリプターのまとめ役であり、世話係でもあるスカンジナビア・ペペロンチーノが2人を宥める。

 

『「ふん」!』

2人揃ってそっぽを向く、全く子供である。

 

『…では、会議を続けるとしよう。』

場に響く声が発せられる。彼らクリプターのリーダーであるキリシュタリア・ヴォーダイムの声である。

 

『__さて、空想樹の発芽から90日……三ヶ月もの時間が経過した。濾過異聞史現象__異聞帯の書き換えは無事成功した。まずは第一段階の終了を祝おう。これも諸君らの尽力によるものだ』

 

『うん? そいつは大げさだ、キリシュタリア。オレたちはまだ誰も、労われる様なコトはしちゃあいない。一番肝心な事はぜーんぶ、異星の神さまの偉業だからな』

 

 キリシュタリアの言葉にベリルが首を横に振った。これを見てオフェリアが顔をしかめる。

 

『……貴方は分かっていないのね。異聞帯の安定と“樹”の成長は同義よ。ならば、異聞帯のサーヴァントの契約と継続。それに全力を注ぐのは道理でしょう。貴方のような、遊び気分が抜けてないマスターは特に』

 

『おっと。睨むのは勘弁だぜ、オフェリア。お前さんの場合、シャレになってないだろう』

 

 わざとらしくおどけて見せるベリル。しかし、次に話す時は真剣な面持ちへと変わる。

 

『それに一度死んでんのに遊び気分でいられる程大物じゃない。また蘇生できるとも限らないなら、生きている内にやりたい事はやっておきたい。殺すのも奪うのも生きていてこその喜びだ。__なぁ、アンタもそう思うだろ? デイビット』

 

『同感だ。 作業の様な殺傷行為は、コフィンの中では体験できない感触だった。オレの担当地区とお前の担当地区は原始的だからな。必然、その機会に恵まれる』

 

『そうとも。オレたちにその気が無くても向こうから殺されに来る。遊んでなんかいられねぇよなぁ?』

 

『…………そう。 貴方たちの担当の異聞帯には同情するわ。ねぇ、朔?』

 

「別に、デイビッドやベリルが楽しめているなら価値の無い劣等共に価値が出来てよかった。としか思わん。」

 

『そのお前の俺たち対する感情とその他の人間に対する感情の違いで酔いそうだぜ。』

Aチーム屈指の変態であるベリルですら朔の言葉に引いている。

 

『………………』

 

『あら、平常運行のベリルに比べて、少し元気無いんじゃないカドック? 目の隈とか最悪よ? 寝不足? それともストレスかしらね?』

 

 彼らのやり取りを横目にペペロンチーノが先程からどうにも窶れているように見えていたカドックへ問う。

 

『……その両方だ。 僕の事は放っておいてくれ。仕事はきっちりこなしてるんだから』

 

『それはちょっと無理ね。 凄く無理。放っておいて欲しいなら、せめて笑顔でいなさいな。友人が暗い顔をしてたら、私だって暗くなる。当たり前の事でしょ?』

 

 ペペロンチーノの語気が強くなる。朔もカドックに視線を寄せ、言葉を放つ。

 

「カドック、お前はここにいる面々に比べれば才能など皆無だ。それが原因でコンプレックスを抱いてることも知っている。お前の異聞帯も中々に過酷な環境だということも知っている。1人で抱え込むなよ。ここにいる面々はお前を認めているし、下に見ている者など居はしない。」

 

『朔の言う通りよ。ちょっとは頼って。それにね、私は私の為にアナタの心配をしちゃうのよ。アナタの事情とか気持ちとか関係なくね。分かる? 独りで居たかったら、それに相応しい強さを身に付けないと。ストレスが顔に出ているようじゃまだまだよ。何か楽しいことで緩和しないと』

 

「楽しいこと?神を殺したりとかか?」

 

『お前ズレてんだから黙ってろよ。』

ベリルにそう言われて口を噤む。

 

『……僕の為に心配してる余裕があるとは、流石だな』

 

『あら、アタシはアタシの為に心配してるのよ。だって、自分から辛くなりたい人間なんて一人も居やしないでしょう? アタシはそんな気分になりたくないし、させたくないから心配するの。分かる?  独りでも平気ってのは、心を殺すことじゃない。相応しい強さを持つことよ』

 

 何かと世話を焼くペペロンチーノ。

 

 その言葉にカドックは不満げに押し黙る。

 

『……無駄話はそこまでにして。キリシュタリア。要件は何?』

 

 それを無言で眺めていたヒナコが話を切り上げるようにキリシュタリアへ問いかける。

 

『こちらの異聞帯の報告は済ませたはず。私の異聞帯は領地拡大に向いてない。私は貴方たちとは争わない。この星の覇権とやらは貴方たちで競えばいい。そう伝えたわよね、私?』

 

『……そんな言葉が信用できるものか。閉じ篭っていても争いは避けられないぞ、芥。最終的に、僕たちは一つの異聞帯を選ばなければならない。アンタが異聞帯の領地拡大を放棄しても、その内他の異聞帯に侵略される。それでいいのか? 座して敗者になってもいいと?』

 

『……別に。私の異聞帯が消えるなら、それもいい。私はただ、今度こそ最後まであそこに居たいだけ。納得の問題よ。それが出来るなら他のクリプターに従うわ』

 

『異聞帯間の勢力争いには興味無い、か。まあ、結果が見えてるゲームだからな、このレースは。オレ達は束になってもキリシュタリアには敵わない。地球の王様決めレースは最後の一戦まではほぼ出来レースだ』

 

 ベリルが呆れた様子で言う。

 

『オレとデイビットの所なんざ酷いもんだしな? あれのどこが“あり得たかもしれない人類史”なんだよ……その点、あいつの異聞帯は文句無しだ。下手すりゃ汎人類史より栄えてる! 次点で朔のとこか、ずるいよな、最初から依怙贔屓されてるときた! やっぱり生まれつきの勝者ってのは居るもんだ』

 

 

『……それでも、私は君達にも世界の覇者になれる素質があると思っている。油断したらひっくり返される。それくらいの事はしてのけると思っている』

 

 キリシュタリアのその言葉に、嘘は無い。本気でそう言っていることが分かった。

 

『とはいえ、負けるつもりも無い。全力でかかってくると良い。こちらも全力で対応しよう』

 

「……貴様のとこ、神がいたな。殺しに行って良いか?」

 

『…それは遠慮してもらいたいな。』

 

「むぅ、仕方ないか、我慢しよう。」

 

『……さて、遠隔通信とは言え、私が諸君らを報告後も引き止めたのは、他でも無い。一時間程前、私のサーヴァントの一騎が霊基グラフと召喚武装の出現を予言した』

 

 キリシュタリアのその報告に、クリプター達の空気が一変し、各々が様々な反応をする。

 

「ほう」

 

 

『霊基グラフはカルデアのもの。召喚サークルはマシュ・キリエライトの持つ円卓だろう。南極で虚数空間に潜航し、姿を晦ましていた彼らが、いよいよ浮上する、という事だ』

 

『死亡していなかったのですね。三か月もの間、虚数空間に漂っていたというのに……』

 

「素晴らしいな正に現代の英雄と言ったところか。数多の英雄を使役し、友好関係を築いたあの少女が簡単に終わるはずがない。」

 

朔には珍しく素直に褒める

 

『珍しいこともあるもんだ。お前が人間を褒めるなんてな。』

 

「もし彼女が俺の所に来るのなら妻にするくらいには彼女を気に入っている。」

 

『なっ!?』『へぇ、ほんとに珍しいこともあるものね。』

朔の言葉にオフェリアとヒナコが反応を示す。

 

『折角コヤンスカヤちゃんが色々と手回ししてくれたのに。人選ミスじゃないヴォーダイム? 私のサーヴァントだったら基地ごと壊せていたわよ』

 

「……あの女狐のことだ。相手を舐め腐って油断でもしていたのだろう」

 

『……同感』

 

 朔の意見にヒナコが頷く。

 

『__あの方法と人選は最適解だった。カルデアの護りは強固では無いが、万全だ。新スタッフとして館内から手引きしてもらわなければレイシフトで対応されていただろう。制圧にはまず内側から潜入し、カルデアスを停止させる必要があった。コヤンスカヤの計画は良く出来ていた。唯一、我々側に問題があるとすれば……サーヴァントが余り積極的に働かなかった事だ』

 

彼らはカルデアを、人類最後のマスターを過小評価し過ぎていた。決して甘く見てはいないが、奴らの底力を知らない。相手は正真正銘の主人公。何よりも最優先に殺さねば行けなかったのだ。

 

とはいえ、コヤンスカヤと神父は我々のサーヴァントでは無く、カドックの送り込んだ皇女もマスターとの物理的な距離が開いた事によって魔力の補給が十分では無かった』

 

『不確定要素の全てがカルデアに味方したって訳か。偶然、ではねぇよな?』

 

『恐らくアラヤの仕業だろう。ガイアが俺達の邪魔をする理由はない』

 

『か──ーっ! 世界も味方してるってか!? いよいよカルデアのマスターが本物の英雄っぽく思えてきた!』

 

「実際、あの者は英雄で主人公だ」

 

『はっ お前はやけに奴の肩を持つじゃあねえか朔。けどよぉ、実際問題カルデアのマスターが人理を修復出来たのって単に運が良かっただけだろ? 女の後ろに隠れてただけで英雄扱いとは羨ましいぜほんと』

 

「そうだ、運が良かった。そして運こそが、人の本質的な力だ。ベリル、人が神を殺すために必要な物はなんだと思う?」

 

『そりゃあ、力だろ?』

 

「違う運だ。圧倒的な運だ。人の域での武力、魔術など神からすればそよ風以下だ。どんな状況でも勝利をもぎ取る運こそが神を殺すために必要なのだ。」

朔の威圧感に全員が押し黙る。

 

 

 

『……それで、連中が何処に現れるのか判明しているのか?』

 

『そこまでは予言されてはいない。あと数時間でこちらに出現する、という事だけだ』

 

『なんだいそりゃ。じゃあ各自、自分の持ち場で警戒しろって__』

 

『出現場所はロシアだ。異聞帯の中に浮上する』

 

 するとデイビットが断言する。

 

『……それは、何故?』

 

「成程。“縁”を辿ったという訳か」

 

 疑問に思うヒナコと納得する朔。

 

『そうだ。彼らが“今の地球”で知り得る事象はカルデアを襲ったサーヴァントだけだ。虚数空間から現実に出るための“縁”はそれしか無い。オプリチニキは彼らにとっての座標でもある』

 

『……ふん。因果応報とはね。やられたらやり返せだ。奴らにとっちゃ僕は真っ先に倒すべき敵って訳だ』

 

『ようカドック! なんなら俺が助太刀に行こうか? お前さんは荒事には不慣れだろう? 俺で良ければレクチャーしてやるぜ?』

 

『結構だ。アンタはアンタの異聞帯に引っ込んでろ。兄貴分を気取るのはペペだけで充分だよ』

 

『えー? 本気で心配してんだけどなぁ、オレ。っていうかペペロンチーノは親父役って感じだろ?』

 

 不機嫌そうにカドックはベリルの提案を一蹴する。

 

ま、本人がやる気なら口出すのは粋じゃねぇな。頑張れよカドック。皇女様への男の見せ所だしな』

 

『カドック、我々クリプターの最終目標は異聞帯による人理再編。それに比べればカルデアの始末は余分な仕事だ。雑務と言っても差し支えない。……とはいえ、脅威であることも否定できない。実際、デイビットが言ったように彼らには汎人類史のアラヤが味方している。__カドック、君の手腕に期待している。障害を排し、一刻も早くロシアの樹を育てることだ。それがカルデアの抹殺にも繋がるだろう。私は総ての異聞帯に同等の可能性を見出したい。人類史の可能性である異聞帯が矮小な歴史のまま閉じるなど許されまい』

 

『……アンタに言われるまでもない。僕だって負けるつもりは無いからな。彼らが来るなら迎え撃つまでだ』

 

 そう言ってカドックが通信を切る。

 

『私も玉座に戻るわ。こちら異聞帯の王は探求心と支配欲の塊だから。放って置くとどんな展開を望むか分からない』

 

『んじゃ俺もこの辺で、ロシアからのSOSがあったら知らせてくれ』

 

 するとヒナコとベリルも通信を切る。 

 

『私も失礼するわ。こっちもちょっと様子がおかしいの。報告は上げたけど、デイビットにも意見を聞きたいわ。アナタ、私の異聞帯の“四角”についてどう思う?』

 

『情報が欠落している。所感でいいか?』

 

『良いわよ。アナタの直感が聞きたいの』

 

『アキレス腱だ。これ以上はない急所だろう。お前にとっても、その異聞帯にとっても。俺やヴォーダイムであればすぐに切除する。だが、お前であれば残しておけペペロンチーノ。そういう人間だろう、お前は』

 

『あらそう。じゃあ様子を見ようかしら……朔、アナタはどう思うかしら?』

 

「……俺ならばそのままにしておく。としか言えん。」

 

『……そう、ありがと』

 

 そして、ペペロンチーノも通信を切った。

 

『では、通信を切る。予定通り、次の会合は一月後だな』

 

『キリシュタリア様、私も失礼します。あと朔も……その、またね』

そう言ってオフェリアも通信を切った。

 

『朔君の異聞帯は中々にイレギュラーだと聞いている。』

 

「そうだな。なんせ王が8人いる。」

 

『君の異聞帯は謎が多い。しかし最後まで残るのは君か私の異聞帯だと考えている。』

 

「そうだな。実際そうなるだろう。俺は異星の神を降臨させたい。それが俺の目的だよ。」

 

『……そうか。では解散にしよう。』

そう言って通信は切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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