神魔征服世界 カンピオーネ ~人が神を越える刻~ 作:もちゃもちゃの玉ねぎ
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クリプターの会談が終わり久しぶりの友との会話を楽しんだ朔は一息着いていた。その朔に後ろから何者かが声をかける。
「王よ。お話は終わりましたか?」
美しい銀の髪を持った美少女が朔に向かって片膝を折り問いかける。
「……ミレアスか。」
彼女の名はミレアス・カレフォード。由緒正しき魔術家系”カレフォード家”の一員であり、カレフォード家始まって以来の才女と言われる神童である。その名称は偽りではなく”ブランデッリ家”の『紅き悪魔』エリカ・ブランデッリや”クラニチャール家”の『剣の妖精』と並び称され『白銀の聖女』と呼ばれている。
「王よ、”羅豪教主”が面会にいらっしゃっております。」
頭を垂れたままミレアスが言う。
「師が?わかった。すぐに向かう。」
”羅豪教主”という言葉に反応し、ミレアスを見ていなかった目はミレアスを見る。
「応接間でお待ちです。案内します。」
ミレアスが立ち上がり歩き始める。
それにしても師がなんの用だろうか?カンピオーネになったばかりの頃師の所に赴き武術を習った。それにより彼女もこちらを弟のように扱ってくるし、こちらも彼女を姉のように慕い、師として敬っている。故にカンピオーネには珍しく俺と師は友好的な関係を築けている…筈だが。
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応接間には絶世の美女が座っており優雅に出されたお茶を飲んでいた。扉を開け朔が入ってくると無表情だった顔が花が咲いたかのようにパァっと笑顔になった
「お久しぶりね朔。」
彼女の名は羅翠蓮。中国のカンピオーネであり、200余年の歳月を生きる古き王である。外見は中華風美少女であり、可憐であるがプライドが桁外れに高く自分の顔を見た者の目を抉る。自分の声を聞いた者の耳を削ぐという残虐な行為を普通に行う。
「お久しぶりです師よ。」
朔も心なしか顔の表情筋が緩んでいる。
「前会ったのは貴方がカンピオーネ”全て”を集めたあの会合以来ね。あの会合で”黒王子”と”妖しき洞窟の女王”は傍観、”剣王”と”狼王”はどちらにもつかず敵対表明、”護堂”と”冥王”は完全な敵対、そしてわたくしは答えをあの場では答えませんでした。今日答えを言いましょう。」
睡蓮の纏う雰囲気が変わる。それに呼応し朔の雰囲気も変わる。
「わたくしは……貴方側に着きましょう。わたくしはわたくしの目的の為に貴方側につきます。貴方はこの世から神を全て消し去るつもりなのでしょう?わたくしは”斉天大聖”と決着をつけたい。故に貴方側に、着きます。」
「……そうですか。感謝します。」
「それだけを言いに来ました。では私はこれで帰ります。なにかあれば呼んでくださいね。」
そういうと睡蓮は席を立ち常人には見えない速さで走り去っていった。
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数日後
コンコンと自室の扉を叩く音がする。
「入れ」
「失礼します。まつろわぬ神が出現致しました。」
ミレアスが朔にそう伝える。
「…そうか。場所を言え。すぐに向かう。」
まつろわぬ神と聞き朝が弱い朔の思考が一気に活性化する。
「茨城県鹿嶋市宮中、鹿島神宮です。」
「鹿島神宮… 武甕槌か。」
朔の体からプレッシャーが放たれる。
「恐らくはその通りでしょう。車を用意致しますか?」
ミレアスはそのプレッシャーを歯牙にもかけずに朔に問う。ミレアスはこの世界で数少ない朔が認めた人間であり、朔も自分からは言わないが自分の従者として、剣としてのミレアスを認め、信頼している。
「あぁ」
「了解致しました。」
そう言うとミレアスは足早に去って行った。
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目的の場所へ近づくにつれ天気は悪くなり雷が轟く。次第に風も強くなる。そして遂には車が風圧により前へと進めなくなった。
「仕方ない。ここからは足で行くぞ。ミレアスだけ着いてこい。」
車からおりそういうと朔は手をポケットに突っ込み歩き始めた。
何も言わずミレアスはその後ろを着いて歩いていく。
歩いていくと風により飛ばされた家の残骸が目に入る。そしてよく見ると人の死体も所々に転がっておりミレアスの顔色が少し悪くなる。しかし朔はそんなことお構い無しとでも言うようにどんどん先に進んでいく。
そして鹿島神宮に到着すると鹿島神宮から溢れ出る神気により朔のカンピオーネとしての本能が刺激され力が増大していく。
「いるぞミレアス。下がっていろ。」
朔がミレアスに言うとミレアスは朔の後ろに下がる。
『……待っていたぞ神殺し。』
声が響き渡る。その声は図太い男のような声で声を聞いただけで常人ならば気を失い、そうでなくてもその場に平服するであろう程の威圧感と威厳が混じる声であった。その声の主は古墳時代のような服装をした筋骨隆々の男であった。
「お前が武甕槌だな。死ね。」
その一言と同時に朔が目にも止まらぬ速さで武甕槌に襲いかかる。
『なんと血の気の多い神殺しよ!だが嫌いでは無いぞ!!』
武甕槌が笑いながら朔の攻撃を受け止める。1度、2度、3度と攻防を繰り返しその度に衝撃波が場に響き渡る。これが神と神殺しの戦い。英霊の数段上を行く超越者達の戦いである。
『ガハハハハ!!やりよるな神殺し!』
武甕槌が楽しそうに豪快に笑う。
「なぜ武神というのはいちいち騒がねば気がすまんのだ。俺は貴様ら神と会話するつもりはない。」
朔が不機嫌な顔をして武甕槌に言い放つ。
『自らと同格の相手と合間見えているのだ。心が踊るだろう!血が騒ぐだろう!さぁさぁ!もっと死合おうぞ!神殺し!!』
そういうと武甕槌がいつの間にか手に持っていた剣で朔に切りかかる。
朔は左手で剣を上手く弾き右手で武甕槌の腹に掌底を叩き込む。しかし武甕槌はその一撃を意に介さず再び朔に切りかかる。そして朔の手の薄皮1枚が切られた。
「がっ?!」
薄皮1枚を切られただけだというのに朔の体を激痛が襲う。朔が後ろに飛んだ。何故だと思考する朔は1つの答えにたどり着いた。
「雷か!」
『然り!!』
武甕槌命それは雷神であり剣神である。つまり先程の攻撃は剣に自身の雷を纏わせていたということだろう。厄介極まりない力である。薄皮1枚であの激痛なのだ。肉でも切られたらどれほどの痛みが伴うのかわかったものではない。
「武神がこのような小細工を使うとはな。小細工神に名を改めたらどうだ?」
朔が武甕槌を挑発するような言葉を放つ。
『ガハハハハ!!自らの力を使わずに何を使うと言うのだ?神殺し!その程度の挑発に我は乗りはせんぞ!』
神とは生来プライドが高く安い挑発にも乗ってくると思っていた朔は少し拍子抜けしたが気を引き締めて武甕槌の動きに集中する。
『貴様も本気を出せ神殺し!権能の温存なんぞするなよ?』
「チッ」
自らが権能を使っていないことがバレた朔は舌打ちをする。
「良いだろう使ってやる。」
そういうと朔は聖句を唱え始めた。
『我が罪は暴食。収まること無きこの痛み。どれほど喰らおうが収まることを知らぬ我が罪よ。ならば汝よ全てを喰らえ。我が痛みを消すために』
権能の名は”暴食の渦”まつろわぬベルゼブブから簒奪せし彼の原初の権能。その能力は全てを喰らうというものであり、彼が触れた物はなんであろうと消失する。それだけではなく彼の周りを渦巻く黒い粒子は彼の盾であり剣でもある。
『それが汝の権能か!なんとも珍妙な!』
愉快そうに武甕槌が言い放つ。
「その余裕の顔、苦痛に歪ませてやる!」
その言葉と同時に朔の周りを渦巻いていた黒い粒子が武甕槌目掛けて飛んでいく。武甕槌は剣を一閃、しかしそれだけでは消滅させきれずに黒い粒子は武甕槌を襲った。武甕槌は黒い粒子に包まれ、繭のようになり、身動きが取れなくなっていた。しかし次の瞬間
『うおおおおお!!!』
という声と同時に武甕槌が繭を切り裂き這い出てくる。
『ガハハハハ!!少し危なかったぞ神殺し!!』
そういう武甕槌の体は所々の服が溶け、左腕は無くなっていた。
『あの黒い粒子。我が左腕を喰らいよったわ!あの粒子1粒1粒が生きておるのか!』
武甕槌は正しい。あの黒い粒子の正体は蝿である。ベルゼブブは蝿の王であり、蝿はベルゼブブの眷属である。朔はそれを使役する。それが朔の権能”暴食の渦”の正体。ただ朔が蝿は気持ち悪いからという理由で粒子のように黒い丸になっているだけである。
「しぶといんだよ。」
『ガハハハハ!この程度では死なんぞ神殺し!さぁ死合いを続けようぞ!』
生粋の戦闘バカとでも呼ぶべき武甕槌は己の片腕がなくなろうとお構い無しに朔えと突撃する。朔も応戦するように黒い粒子で剣を作りあげる
武甕槌の剣と朔の剣が激突し、朔の剣が武甕槌の剣を喰らおうとすると粒子を武甕槌の雷が焼く。剣が朔の肉を切り裂き薄皮の時とは比べ物にならないほどの痛みが朔を襲う。そこからまた剣戟が繰り返され次は武甕槌の脇腹を朔の剣が喰らい抉る。鹿島神宮の大地は既にクレーターが幾つも空き、建物は倒壊し、地獄のような姿に変わり果てている。
既に戦い始めて2時間は経過している。
『やりおるな神殺し!我がここまで追い詰められるとは!』
既に左腕が無くなり、所々の肉が抉られているというのに獰猛な笑みを顔に貼り付け武甕槌が吠える。
「囀るなクソ神がッ!この戦いが貴様を楽しませていると思うと反吐が出る!」
武甕槌とは打って代わり朔は憎悪を募らせた顔で吠える。
「ここで終われよ!武甕槌!」
黒い粒子が空中で数十の剣となり武甕槌目掛けて音速で移動する。
『むぅ!!雷よ!』
雷が槍の形を成して黒い粒子を相殺する。
それと同時に朔も走り出し武甕槌も応戦しようとする。だが、相殺しきれなかった1本の剣が武甕槌の注意を削ぐ。そしてその隙を見逃さずに朔は武甕槌の心臓を穿った。
「終わりだ。」
武甕槌の心臓を突き刺しながら朔がそう口にする。
『見事、、なり神殺しよ。』
そう言って武甕槌は粒子となって消えた。
それと同時に朔も気を失って倒れた。
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「いらっしゃい朔。」
幼い声色だと言うのに男の情欲を燻るような蠱惑的にも聞き取れる声で朔に声をかける少女の姿をした何か。
「……パンドラか」
彼女の名はパンドラ。全てのカンピオーネの義母であり、支援者である。
「新たな権能の獲得おめでとう。お母さんとして誇らしいわ!」
本当に嬉しそうな顔でパンドラは祝福する。
「ふん。お前もいつかはこの手で殺すぞ。パンドラ。お前はまつろわぬ神と違って真なる神だ。それでも必ず殺す。」
「うふふふ、えぇ楽しみにしているわ。」
愉快そうにパンドラは言う
そこで朔の視点は切り替わった。
「……ここは」
「目を覚まされましたか王よ。病院であります。あの後王はお倒れになり3日間お眠りになったおりました。」
ミレアスがいつも通りの無表情、いや心なしか顔を喜びに歪め朔に声をかける。
「そうか。」
あの後倒れたことまでは覚えている。しかしその後3日も眠ってしまうとは、それ程までにあの戦いは熾烈だったということだろう。
「それと王よ。クリプターから通信が来ておりました。」
「なに?何時だ?」
クリプターと聞き朔の思考が仕事を始める。
「昨日です。」
「確認に行く。」
朔がベットから降りようとする
「行けません王よ!まだ貴方の体は万全では無い、ご自愛ください。」
ミレアスが珍しく声を荒らげる。
王の行動を諌めるなど普通の人間であれば自殺行為である。しかしミレアスは違う彼女は朔の騎士であり最も彼に信頼されている人間である。彼女の言葉であれば朔はある程度は言う事を聞く。しかし今回は違うらしい
「もう痛みも無い。あいつらは我が友だ。それに万が一でもあれば俺は世界を破壊するぞ。」
「……了解致しました。主の御心のままに」
……そして朔はロシア異聞帯が滅びた事を知った。