「政治的な問題なんだよね」
二人並んだ少女の黒い方が、そう言いながらコインを指で弾く。キャッチ。それをぼうっと見ているもう一人の少女。
「政治的な問題?」
問い返すと、そ、と軽い返事のあとに説明が帰ってくる。
「つまり、この王女様と、勇者として魔王を倒した私との間の子供が要るわけ。政治的に」
「女の子同士じゃん」
思わず口を挟む。そうだね、と頷かれた。
「まあ、女だって知られるとろくなことにならない……かもしれなかったからね」
それで隠したまま魔王に挑み勝った結果、彼女のいう『政治的な問題』につながったということらしい。
「……で、結局、それを聞かせてどうしろと」
「種馬になって♡」
「女の子がそんなこというもんじゃありません。……つまりそのために俺をわざわざ召喚という名の拉致してきたと」
首を振る、少女二人。一人は緩やかに、一人は慌てたように。
「あの、これは夢みたいなもので、召喚の前の意思確認の場です。そのあたりの手続きはちゃんとしていて、意に沿わず無理やり連れてくるなんて野蛮なことは我が国はやってません」
慌てて首を振っていた、王女様のほうがはじめて口を開いた。鈴を転がすような声音。プラチナブロンドの御髪。息を呑むような美人でありながらどこか安心感を覚える顔立ち。なるほど王女様と言われても違和感がない。
しかし、あれだな。隣の勇者のほうに視線を向ける。強い眼差し。顔立ちは整っていて、周りから放っておかれなさそうな感じだが。
「てことは、魔王に挑んでくれ、勇者になってくれ、と言われて召喚を受けたのか?」
まだ俺からしてみれば年若い、そんな少女が。魔王を倒す旅の長さによっては、もっともっと若かったことになる。それが。
「そうだけど。私のことはどうでもいいでしょ。あなたが抱くのはこの子なんだから。……他の女に目移りするの、よくないよ」
「意思確認の場と言う割に、引き受けると言う前に決まったことのように言うんだな」
女性としては低音の、響いてくるような声に対して言い返す。
「それだけこの子のこと、そんな目でじっと見ておいて? 魅力的だと思ってるんでしょ? 抱きたいでしょ?」
この声でそうやって誘惑してくるの、やばいなあ、と思いながら、
「魅惑的だからって後先考えずに手ぇ出すわけないだろ」
とりあえず言葉を返した。
確かに元の世界に特別未練もない、というかなくなっていた。係累友人その他は事故や災害の積み重なりで失くし。このまま墓にしがみつくようなことをしていたらそれこそ生きていたら姉にどやされそうでもある。死者は死者、死者を想うために墓を使うのはいいがそこに居るわけではないんだから墓に使われてるんじゃない、とか言いそう。
いや、しかしそれにしても種馬はどうなんだ。というかそれで王女様のほうは納得してるんだろうか。そう思って目線を向ける。
色白な肌を紅潮させて、目の前で指を突き合わせていた。目線が合う。
「あの……わたくしでは、お気に召しません、か……?」
何とか耐えきった。危なかった。
本当に俺でいいのかという思いは(なんか知らないけど良さそうなので)脇に置き、具体的な話を――実際の待遇とか、勇者以外の男の存在をどうカモフラージュするんだとか、そういう質問をいくつか浴びせて、何とかなりそうだとなったので。召喚に、応じることを決めた。
「それじゃ、よろしくね」
耐えて質問を始めた頃から感心したような呆れたようなそんな目を向けてきた勇者が右手を差し出してきたので、よろしく、と応えて握手する。
ずるい、という声が聞こえて見てみれば、王女様が膨れていらした。手を差し出す。
「よろしくお願いしますね――末永く」
にっこりと穏やかにしか見えない微笑みを向けられて、思う。
ねえ何でこんなに好感度高いの?