異女子   作:変わり身

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「水族館」の話(下)

 

 

 

ごうん、ごうん。

すぐ近くで、何か機械が回るような音が響いていた。

 

 

「……ん……ぅ?」

 

 

その騒音に鼓膜と脳みそを揺らされて、ゆっくりと意識が浮上する。

 

鼻と、喉の奥に違和感があった。

水でむせ、しかしそのまま吐き出し切れなかった時のような、粘膜がガビガビとする感覚。

その気持ち悪さに小さくせき込めば、微睡が失せ瞼が開く。

 

そうしてぼやけた視界に映るのは、大小様々なパイプの張った無機質な天井だった。

たぶん、電源とか水道管とかそういうのだろう。私はぼんやりしたまま、無意識にそれを目で追って――。

 

 

「――起きたか」

 

「きゃあっ!?」

 

 

その先にあった、見知らぬおばあさんの顔が――見知った『親』の無表情がいきなり視界に飛び込んで、思わず身体を跳ねさせる。

寝かせられていた安っぽいベッドが大きく軋み、タオルケットがふわりと舞った。

 

 

「……その様子なら、問題なさそうだな。はしたないから、まだ毛布は被っていなさい」

 

「は、え? はしたな……うわぁっ」

 

 

その言葉に自分の姿を見下ろせば、なんとびっくりTシャツ一枚きりだった。

下着も何も身に着けておらず、シャツのサイズがぶかぶかだから色々隠せているだけだ。私は慌ててタオルケットを引き寄せ、身体にぐるぐる巻き付ける。

 

 

「ちょっ、これっ、いやここどっ、ええと、何……!?」

 

「ここはスタッフ用の休憩室だ。我々がお前を連れ帰り、密かにここで休ませていた。衣服についてはびしょ濡れだったので、そこで乾かしている」

 

 

そう言って指さされた先を見ると、ごうんごうんと揺れる洗濯機……いや、乾燥機? があった。

スタッフ用のものだろう。さっきから聞こえていた機械の回る音は、これだったようだ。

 

 

「ついさきほど回したばかりだ。お前のその格好は、合うサイズの着替えが用意出来なかったが故の応急措置だ。……一応、紙おむつの類ならば救護室にあるが、どうする」

 

「いらねーよ! てか、びしょ濡れって――、っ」

 

 

言いかけ、そこでようやっと何があったかを思い出す。

煮立つ頭がサッと冷え、吸い込む息が喉で詰まった。

 

 

「……た、助かった……? 出られたのか、私……?」

 

「だからこそ、今お前はそうしている訳だが」

 

 

……そうしておそるおそると問いかければ、あっけらかんと返されて。

そのいつも通りの無機質さが今は深く響き、喉元に詰まる息が自然と吐き出されていった。

 

 

 

 

 

 

「――……水族館でありながら、魚を飾る事に飽いたもの。『あの場所』は、そういったものだ」

 

 

私が落ち着くのを待った後、『親』は少しの間を置きそう告げた。

 

 

「……ええと、さっきまで私が居た、変な水槽ばっかなとこの話だよな」

 

「ああ。奇妙な場所だったろう、あそこは」

 

 

普段であれば、その身体はきっと人好きのする性格のおばあちゃんなのだろう。

そんな柔らかな雰囲気の残る顔つきを無表情に固め、抑揚なく声を重ねる。

 

 

「お前には前もって忠告したとはいえ、『あの場所』に迷い込んで一つも水槽を見ずに済むとは思っていない。最初にどのエリアに引き込まれたかは知らないが……どこであれ、展示物の傾向についてはお前も気付いた筈だ」

 

「……まぁ、魚とは関係ない水槽ばっかだなとは思ったよ」

 

 

『あの場所』とやらで見た様々な水槽を思い出し、げんなりと返す。

 

そう、私が見た限りでは、あそこには魚の入った水槽なんて一つも無かった。

代わりに入っていたのは、犬やら物やら果てはオカルトまで、およそ水族館とは思えないラインナップばかり――……。

 

……犬?

 

 

「って、そうだ犬! 犬はどうしたんだ? 私と一緒に居たヤツ……!」

 

「…………」

 

 

私が水槽から出して、一緒に彷徨った迷い犬。

今になってやっとこさアイツの事を思い出し、訳も無く焦った。

 

別にそれほど深い情は抱いてないし、なんなら若干恨んでさえいる。私が水槽に入れられたの割とアイツのせいだし。

だけどそれなりに行動を共にし、何だかんだ助けられもした以上、安否はやっぱり気になった。

 

そうしてきょろきょろ部屋を見回しその姿を探していると、『親』が少しの間を置いた後、私が座るベッドの下に視線を向けて、

 

 

「……まさかと思うが、それの事か?」

 

「ゥ」

 

「え、うわっ」

 

 

するとその暗がりから覚えのある呻き声が聞こえ、思わず肩を跳ねさせる。

あのいつまでも続く蒼暗い空間の中で幾度も聞いた、件の犬の鳴き声だ。

 

 

「いや、なんでそんなとこ……でもまぁ、良かった――」

 

「――話を戻す。お前がさっき言った通り、あそこに展示されているのは、水族館の展示としては不相応のものばかりだ」

 

「……? あ、ああ、うん」

 

 

少しはホッとし、ベッドの下を覗き込もうとすると、それを阻むように『親』が話の軌道を修正する。

その強引な様子に違和感はあったものの、話の腰を折ったのは私の方かとひとまず黙る。

 

 

「陸や空の生物、或いは生物ですらない無機物。あそこにあるのはそれらの水槽だけであり、水棲生物の展示は存在しない。魚を飾る事に飽いたとはそういう意味だ」

 

「……だから、オカルトとか私も入れられたって?」

 

「……、」

 

 

ぼそっと呟いた一言に『親』は一拍だけ息を止め、すぐに大きな溜息と変えた。

 

 

「……正確には、この水遊園の敷地内に存在し、そして水族館内の水槽に展示されていないものが招かれているのだろう。空域を含めた敷地内に入り込んだ動物、施設の備品や誰かの持ち物、ゴミや虫――施設の職員や来園者の人間に、果てはオカルトもその範疇に含まれる」

 

「げぇ」

 

 

水族館と呼ぶより、泥棒館とか拉致館とか呼ぶのがしっくりくる性質の悪さに呻きが漏れた。

 

 

「その殆どは直接水槽に放り込まれるのだが……人間を招いた場合はその限りではないようだ。水族館としての役割が残っているのか、最初は観覧者として扱い、展示を観て回らせている」

 

「そんで奥まで行ったら、ドボン?」

 

「奥というより、己が入るべき水槽を見つけてしまったら……だろうな。自分が展示される水槽の存在を認めてしまうと、その瞬間に観覧者から展示物へと扱いが変わり、すぐに水槽へ放り込まれる事となる」

 

「……名前見るなってのは、そういう……」

 

 

やっとこさ忠告の真意を理解し、イヤな具合に納得する。

おまけに水槽の中での苦しさを思い出し、ぶるりと身を震わせる私をよそに、『親』は淡々と続けた。

 

 

「あのパネルに記されるものは、存在証明なのだろう。それは種族であり、個人名であり、在り方を示す解説でもある。故に、認めたそこに顕れる」

 

「……よく分かんない」

 

「……パネルに書かれたものは、どのような文であれ、そのものの名前である事に間違いはないという事だ」

 

 

首を傾げる私に『親』はそう付け加え、ベッドの下をじっと見つめた。

「ゥ」低い呻きが、小さく返る。

 

 

「だから厳密な名前が無いオカルトも、展示物として水槽に押し込む事が出来ているのだろう。そして『あの場所』の目玉として、わざわざ取り分けている」

 

「目玉?」

 

「『そんなに』と『あんまりみないの』……そのような、雑なエリア分けがされていた筈だ。そしてオカルトの類は大部分が後者にある。現実の水族館が珍しい生物を展示の目玉とするように、『あの場所』も珍しいものを価値あるものと位置付けているらしい」

 

 

つまり、普通の動物や物がメダカとかイワシで、異常なオカルトがシーラカンスとかって事だろうか。

……納得するようなしないような、なんとももにょるランク付けである。

 

 

「……まぁ、確かにオカルトなんて珍種珍品もいいとこなんだろうけどさぁ」

 

「御魂雲という血も、『あの場所』にとってはそのひとつなのだろう。ターゲットとしては他の人間よりも我々を優先するため、それを利用し敢えて招かれ溺死してを繰り返し、『あの場所』を掣肘し続けている。放っておけば、水遊園の外に被害が拡大しかねないからな」

 

 

その言葉に、かつての蜘蛛の穴を思い出す。

話では、アレはあまりにも力が強大にすぎるため、そういった方法しか取れないとの事だったが……。

 

 

「……あの、あんたでも倒し切れないくらいヤバいの、『あの場所』って」

 

「いいや、本来であれば我々数人の死で対処は可能なのだが……問題は、あそこに集められている大量のオカルトだ」

 

 

そう言葉を落とす『親』の無表情は、どこか疲れているようにも見えた。

 

 

「『あの場所』が無くなった時、あれらがどうなるか予想が出来ない。『あの場所』と共にどこぞに消えるのであればいいが――まぁ、そう上手くはいかないだろう。下手をすれば、あそこにある全てが一斉に外へと解き放たれる事になる」

 

「……うわ……」

 

 

……何個あったっけ、『あんまりみないの』エリアのオカルト水槽。

少なくとも十や二十では収まらなかったそれらを思い出し、血の気か引いた。

 

 

「故に、加減しての現状維持を続けざるを得ないのだ。もっとも、展示物の調達自体は妨げられない以上、人間以外の展示は増え続けているのだろうが……」

 

「えっ……だ、大丈夫なのか、それ」

 

「……水遊園の上役に少しずつ我々を紛れ込ませ、内外から閉鎖の準備を進めてはいる。それが叶えば、ある程度強引な方法も選べるだろう。長い目で見る事にはなるが、対処を放棄している訳では無いよ」

 

 

それを聞いて、少し安心する。

 

水遊園側からすればとばっちりもいいとこだが、こんな爆弾みたいな施設が街にあるとか正直遠慮したいとこだ。

私はほっと息を吐き――その時、ふと『親』がこちらを見つめている事に気が付いた。

 

 

「ひとまず、我々からはこんなところだろう。……お前の方では何があったのか、そろそろ聞いても良いだろうか」

 

「あー……」

 

 

……そういえば、私がどんな状況だったのかは詳しく伝えていなかったっけ。

流れのまま色々聞いたり答えたりしていたけど、そもそもの部分を忘れていた。

 

ここに来て話し渋る意味も無く、とりあえず犬の件と最後の一幕を中心として、ここに至る経緯を手短に伝えておく――と。

 

 

「…………」

 

「……えっと、どした?」

 

 

そうして粗方の話を終えると、『親』が何やらもの言いたげな目を向けていた。

無表情ではあるくせに、どうしてかそれが良く分かる。首を傾げて問い返せば、『親』は暫く視線を彷徨わせ……またベッドの下、件の犬の潜むそこを見つめる。

 

 

「……無事に帰って来てくれた以上、うるさくは言わない。だが……もう少し慎重に行動しなさい。特に彼のインクはお前の生命線だろうに」

 

「ぐ……し、しょうがないだろ、いきなりの事で慌ててたんだよ……!」

 

「だとしても……いや、それはいい。それより……お前が水槽から出したという……犬……の、事なのだが……」

 

「……なんだよ」

 

 

さっきと同様、『親』にしては珍しく歯切れの悪い様子に違和感が募った。

同時にベッドの下に潜む犬の気配が妙に気になり始め、丸出しの尻がムズムズしてくる。

 

言いたい事あるんならはっきり言えよ。堪らずにそう怒鳴ろうとしたその時――突然、部屋の扉が開かれた。

 

 

「っ!?」

 

「乾燥機、乾燥機……あれ?」

 

 

大きな音と共に入って来たのは、水族館のスタッフの一人だった。

 

午前中、広場の生き物探しの時に犬を預けた女の人だ。

何枚かのタオルを持った彼女は、部屋に人がいるとは思っていなかったのか、私と『親』の姿を認めると目を丸くした。

 

 

「あっ、すいません。ご利用なさってたんですね副館長……どうしたんです、その子?」

 

「――ええまぁ、少し気分が悪くなっちゃったらしくてねぇ。救護室よりこっちのが近かったから、使わせてもらってたのよ」

 

 

『親』は瞬時におばあちゃんのものだろう人格を被ると、穏やかに応対する。その身体副館長だったんかい。

 

 

「ありゃ、そうでしたか……騒いじゃってごめんねぇ」

 

「あ、いえ、別に……」

 

 

スタッフの女性はそう申し訳なさそうに縮こまるが、どう返すのが正解なんだ。

とりあえずシャツ一枚の姿を見られないよう、タオルケットをしっかり身体に巻き付け横になり…………………………、

 

 

「……それで、あなたの方はどうしたのかしら。乾燥機使いたかったの?」

 

「あ、はい。ちょっとこの子が粗相しちゃいまして……ほら、こっちおいで」

 

「ワン!」

 

 

――そうして元気よく鳴きながら現れたのは、一匹の犬だった。

 

私が見つけ、スタッフの女性に預けて。

そして『あの場所』で水槽から救出し、行動を共にした筈の、あの犬。

 

何度目をこすっても見間違えようがなく……ゆっくりと、ベッドの下に目を向ける。

 

 

「この子ってば大人しいのは良いんですが、やっぱり野良ですねー……。このタオル自体は別の所で洗ったんですけど、そこの乾燥機フル稼働してまして」

 

「そうなのねぇ。なら……ここのはもう少しで終わるから、ちょっと待っててね」

 

「あ、いえ、西棟のものなら空いてるでしょうし、そっち使いますよ。すいませんお邪魔しちゃって、失礼します。君もお大事にね~」

 

 

スタッフの女性は朗らかに挨拶すると、犬を抱えて立ち去って行った。

……水族館なのに、犬なんて連れ歩いていいのかな。そんな疑問はあったけど、思考を巡らす余裕は無く。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

……沈黙。

私も、『親』も何も言わず、薄ら寒い空気が部屋に満ちる。

 

互いの視線はベッドの下に固定され、他に目が行く事は無い。

さっきまで時々あった低い呻きも今は聞こえず、乾燥機の回る音だけが静かに響く。

 

 

「……お前が犬を助け出したという水槽、パネルに何と書かれていたか覚えているか」

 

 

すると突然、『親』がぽつりとそう問いかけた。

私は目線を動かさないまま、あの時の事を振り返る。

 

 

「……『いまはいぬ』、だったと思う、けど」

 

 

そう、確かあの水槽にはそう書かれていて、それを消したからこそ犬を外に出せたのだ。

私の答えに『親』はすぐには答えず、黙り込み……やがてぽつぽつと語り出す。

 

 

「……『あの場所』の『そんなに』のエリアには、基本的には普通の動物や物が集められている」

 

「…………」

 

「大抵はどこででも見かけるもので、目を引くものはあまり無い。だが……多少、引っかかるものが無い訳では無い」

 

 

ちら、と目線を上げれば、『親』の視線と目が合った。

 

 

「……その水槽には『いまはねこ』とあった。生きている猫が入れられており、やがて溺れて動かなくなった。そのすぐ後に我々も水槽に入り、同じ末路を辿った」

 

「…………」

 

「その次、今度は『いまはとり』という水槽を見つけた。それも生きている鳥が入れられており、また溺死した」

 

 

……話が進むごとに、少しずつおなかの底が冷たくなっていく。

このベッドの上から逃げたかったけど、下手に動くのも怖かった。

 

 

「次は『いまはむし』、その次は『いまはへび』。その種類は様々にあったが、その全てが生きたままそこにあり……我々の目の前で溺死する」

 

「……だから、なんだよ」

 

「『あの場所』に迷い込んだ人間の目の前に、必ず現れる水槽があるという事だ。そして……我々は一度、その水槽の真向かいに位置した水槽に入れられ、死んだ事がある」

 

「え……」

 

 

思わず身動ぎ、ベッドを大きく軋ませた。

……しかしその下の暗がりからは、呻きも何も反応も無く。

 

 

「その時は、『いまはうま』だったか。大型の動物だったため、よく覚えている。それはもがき苦しみながらも、我々が死にゆく姿を見つめていた。肺が大きな動物だったせいか、こちらの方が早く死んだのだ。どういう事か、分かるか?」

 

「……あんたの死で、あんたの水槽が割れたのを見た……?」

 

 

私の答えに『親』は頷き、またベッドの下をじっと見る。

 

 

「……『いまはいぬ』も、水槽の中から見たのではないか。己を助け出す際、お前が何をしたのかを。何をすれば、水槽から抜け出す事が出来るのかを……」

 

「…………」

 

 

『あの場所』での最後の時、まるで見てきたように正解を選んだ犬の姿が脳裏に浮かぶ。

犬のくせに、どうしてあんな行動が出来たのか。なんとなく、分かってしまった気がした。

 

……そしてそれはベッドの下に居る筈なのに、耳を澄ませても呻き声は聞こえない。

私は無言のまま、恐る恐るベッドの下を覗き込み――。

 

 

「――……」

 

 

――何も、居なかった。

 

私も『親』も、絶対に目を離していなかった筈なのに、ベッドの下から犬の姿が消えていた。

そこにはただ埃っぽい暗がりだけが広がって、存在の痕跡すらも見当たらない。

 

まるで……最初からそんなの存在していなかったかのように。

 

 

「……私、水槽から何を出したんだ?」

 

 

ぽつりと呟くけれど、『親』は何も言ってくれない。

ただ、言いようのない不気味さだけが、静けさの裏に張り付いていた。

 

 

 

 

 

 

「――いや~、楽しかったな~水族館。思った百倍堪能したわ」

 

「……よかったな……」

 

 

校外学習の工程を終了し、学校に向かうバスの中。

隣に座る足フェチが眩しい笑顔を浮かべる一方、私はぐったりと座席に寄り掛かっていた。

 

 

「……大丈夫か? 何か途中で居なくなってたけど……体調崩したんだって? 言ってくれりゃよかったのに」

 

「あーまぁ、楽しんでんのに水差すのもなってさ。まぁ蕎麦でおなか冷やしてトイレ行ってただけだから、ははは……」

 

 

一転、心配そうにこちらを見る足フェチを愛想笑いで誤魔化しつつ、影でこっそり溜息を吐く。

 

自分では結構長い間『あの場所』を彷徨っていたつもりだったが、どうも現実世界ではそんなに時間が経っていなかったらしい。

濡れた衣服が乾いたのがちょうど自由時間が終わった頃合いだったようで、そのまま校外学習に復帰出来たのだ。

 

途中で逸れていた足フェチからは当然色々聞かれたが、そこはトイレに籠っていたという事で押し通させて頂いた。

昼前にトイレに行くと誤魔化していた事が説得力に繋がるとは、何事も分かんないもんである。

 

 

「アタシとしては一緒に回りたかったんだけどな~……そこだけは残念」

 

「……そこはまぁ、悪かったよ」

 

 

その明け透けな好意に尻が痒くなりつつ、逸れて良かったとも思う。

 

もしコイツも『あの場所』に招かれてたら……と考えるだけでもゾッとする。

あの犬が居た時点で色々と面倒な事になったのに、その上足フェチもだなんて。正直、二人一緒に生還出来る自信は無かった。

 

 

(……犬……)

 

 

と、そんな事を考えついでに思い出し、また溜息。

……『いまはいぬ』、ねぇ。

 

 

「……いまは、何になってるんだろうなぁ」

 

「え、何が?」

 

「いやなんでも」

 

 

首を傾げる足フェチに手を振って、窓の外をぼんやり眺める。

 

まぁ、アレが今何になっていようとも、考えるだけ無駄だろう。

既にどこかに行ってしまったようだし、私ももうこの水族館に来る事も無い。

 

『親』の話では、どうせその内閉鎖される予定なのだ。水族館に纏わるオカルトなんて、もう金輪際――。

 

 

「――あ、そうだ! タマ吉さ、夏休みにまたこの水族館一緒に来ようぜ! なっ!」

 

「……………………」

 

 

――当然、断ろうとしたけども。

そのかつての誰かに似た笑顔が、拒絶の言葉を蒸発させた。

 

 

「……こ、今度は別のとこ行かない? ほら、アシカショーのあるとことか。ねっ、ねっ!」

 

 

……そうして、どうにかこうにか抵抗し、別の場所には変えさせたものの。

結局また水族館には行く羽目になりそうで、私は心の中でガックリと項垂れるのであった。

 

どうか、そこは魚を飾るのに飽きてない水族館でありますように。ちくしょう。

 

 

 




主人公:水族館が苦手になった。好きな魚はアユで、頭から尻尾まで骨ごと全部食べるタイプ。

足フェチ:水族館が好きになった。好きな魚はドクターフィッシュ、何やらシンパシーを感じるそうな。

『親』:主人公の話を聞いて内心ハラハラしていた。死んだ男性スタッフの身体もキッチリ回収済み。

スタッフの女性:犬についても詳しくなろうかなーと思っている。

迷い犬:水遊園に迷い込んだ、ただの犬。『親』のもとで保護され、水遊園のマスコットとなるかもしれない。
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