異女子   作:変わり身

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「怪談」の話(中⑭)

 

 

 

『――どうも、こんな風になっても五感は通っているみたいでね』

 

 

開かれた赤い革手帳の中、光沢のある黒いインクがそう綴る。

 

 

『床の冷たさ。流れる景色。近くに漂う血の臭い……今の僕には目も耳も鼻も無いのに、どうしてかそれが「僕」に伝わって来るんだ』

 

「…………」

 

『さて、ではこの「僕」とは一体何なのか。一本だけ残ったこの右腕か、今こうして意思を紡いでいる黒いインクか……それとも全く別の場所にあるのか。どう思う?』

 

 

問いかけるように文字が躍るけど、意味がよく分からなかった。

なので何も返せず、黙り込み。その際、無意識に腕の力を強めてしまうと、文字の並びが若干乱れたようにも見えた。

 

 

『……つまり何が言いたいかというとね。こんな状態でも痛いものは痛いし、苦しいものは苦しいという事だ』

 

「…………」

 

『よし分かった。率直に指摘するのもアレかなと色々配慮していたつもりだったけど、ちゃんと文章にしようか。君が大層な力で大切に抱きかかえてくれている「僕」なんだが、そろそろ放してくれても良いんじゃないかと――』

 

「ヤダ」

 

 

にべもなく切り捨て、胸の中のそれを更にぎゅっと抱き寄せる。

 

――肩口に赤黒く変色した包帯が巻かれ、血の代わりに真っ黒なインクを流し続けている、インク瓶の右の腕。

枯れ枝のようなそれがミシリと軋み、紙面の上の黒インクが悲鳴のように飛沫を上げた。

 

 

 

――インク瓶の言っていた合流とは、生身で落ち合うという意味では無かった。

 

いつも私がピンチになる度やっている、黒いインクを紙に垂らして行うおまじない。

そのために必要なものがゴミ捨て場に捨てられているから、それでおまじないを行え……という意味だったらしい。

 

……それ合流って言わねーよ、とか。

そのおまじないってあんたがリタイアしてちゃ成立しねーだろ、とか。

疑問、疑念、その他諸々、言いたい事はたくさんある。

 

あったがしかし、紙の上で蠢く筆跡を――いつものインク瓶を前にしたら、その辺のアレコレなんてみんな吹っ飛んでいた。

 

驚きと安堵にはじまって、自分でよく分からないたくさんの感情が弾けて溢れ、ぐちゃぐちゃになって。

そうして気付けば彼の右腕を必死になって抱え込み、手放せなくなっていたのが今の私の有様だった。

 

 

 

『……とりあえず、別れた後も壮健で居てくれたのはよ~く伝わったよ……』

 

「……や、あの、ごめん……なんか、頭ぐるぐるんなってた……」

 

 

部屋の壁際。ひとまず床の動いてない場所まで移動した後。

その頃には流石に私もちょっとは冷静になっていて、くたびれた筆跡のインク瓶にしょんぼりと謝った。

 

彼の右腕に目を落とせば、そこには私の縋りついていた痕が残っていた。

皮膚や筋肉が冷たく硬直しているせいもあるのだろう。とにかくやたらくっきり手指の形にへこんでおり、それがまた罪悪感を煽る。

 

 

『……そうなるくらいに心細かったんだろ。僕の方こそすまなかった。()()()()ならどうにかなるって判断だったが……こんな事になるのであれば、最初から君に担いで貰えばよかったかもね』

 

「――っ、そ、そうだよ、そもそもどうなってんだよ、あんた……! こんな、う、腕だけって……!」

 

 

そのインク瓶の言葉にようやっと現状を再認識し、今更ながらに取り乱す。

 

ごく自然にいつものやり取り出来てるからなんかスルーしてたけど、こんな右腕一本だけになっても生きてて意思疎通してるとか、冷静に考えなくても奇っ怪にすぎる。つか何だこの手首のインク。

 

ついでにそんなのを抱え込んでいる自分を客観視してドン引いたものの、やっぱり手放す気にはなれなくて。

そうしてさっきとは別の理由で頭をぐるぐるにしていると、手帳の文字が思案するように小さく揺れた。

 

 

『……僕の考えが正しければ、ひゅどろんチの金髪の――ヨート君に助けられたって事になるんだが……ところで君がここに居るって事は、スミト君は見つけられたって事でいいのかな?』

 

「え? う、うん、あんたの言う通り、見つけて、ここの事聞き出して、それで……」

 

 

突然の話題転換に戸惑いつつも答えれば、文字の一部が『目』の一字に変化し、紙上のあちこちを滑るように動き回る。

どうやら周囲をきょろきょろ見回しているつもりらしい。無駄に細かい事するな……。

 

 

『一緒には行動していないのかい? 僕の考えを話す前に、彼から色々と聞いておきたいところなんだが……』

 

「や、私だけ先に来た感じ。ほら、そこの天井の穴、私だったら飛び降りた方が早いし」

 

『……それ、彼も後から降りて来るという意味だったら、少し不味くないかな』

 

「何が――……あ」

 

 

片腕の無い黒キノコの姿と、通路壁の凹凸の浅さが脳裏をよぎる。

 

……これ、アイツ一人で置いて来たのダメだったのでは?

い、いやでも、私は先行ってるって言っただけで、後からついて来いとかは一言も――。

 

 

――あっ、落っこちちゃった。

 

 

その時、また勝手に首が動き、天井の通路に向けられた。

 

そして何かを思うより早く、通路の奥から情けない叫び声が降って来る。無論、黒キノコの悲鳴である。

どうも一人で降りて来ようとして、途中でツルっといったらしい。

 

ビビりの癖になんで思い切ってんだよ……!

私はどんどん大きくなってくる悲鳴に冷や汗を流し、どたばたと受け止めに走ったのだった。

 

 

 

 

 

 

どうやら、黒キノコもそこそこ近くまでは自力で降りて来られていたようだった。

 

私が天井の通路の真下に着いた瞬間、泣き叫ぶ彼が落ちて来たのだが、あまり勢い付いてはいなかったのだ。

おまけに運よく背中側から落ちて来たこともあり、どうにかお姫様抱っこの姿勢で受け止める事が出来た。

 

正直なところ、その際の衝撃で私はともかく黒キノコはそれなりに酷い事になるだろうとも思っていたのだが、いいとこ落下中に壁と擦った小さな傷が精々だった。悪運強いなコイツも。

 

 

「つーか、何で降りて来たんだよ……片腕なんだから危ないって分かってたろ」

 

「あ、あんなとこ、一人っきりで居られる訳ないでしょ……! 真っ暗で、し、静かにしてると壁の外から悲鳴とか、ぺたぺた足音とか、ずっと響いて来ててさぁ……!」

 

 

なんでも最初は大人しく穴の前で待っていたのだが、暗くて狭い場所に一人息を潜め続けるのに耐えられなくなったらしい。

 

私の方も全く音沙汰が無いもんだから、先に行くという体で見捨てられたのではという疑念も湧き始め……悩んだ末に仕方なく壁の凹凸に手をかけて、結局途中で握力が足りずに落っこちたとの事。

勇気とか度胸で進んだというよりも、追い詰められた結果そう動かざるを得なかっただけのようだった。

 

まぁそのおかげでこうして手っ取り早く合流出来たのだから、ひとまずは良しとして。

落ち着きなくゴミ捨て場の様子を窺う黒キノコを床に投げ捨て「いってぇ!?」、軽くインク瓶の件や状況の説明を行った。

 

 

「……は? 何言って――ひっ」

 

 

話の突飛さに胡乱げな目を向けて来た黒キノコだったが、そこでようやく私が脇に抱えている右腕を認識したようで、怯えたように後退る。

 

とはいえ、今のコイツに逃げ道は無い。少しすれば恐る恐るとまた近付いて来たので、とりあえず手帳を渡して後はインク瓶へと丸投げた。

 

黒キノコは最初こそ蠢くインクに大混乱していたようだけど、すぐにその顔から怯えや疑念が消え去って――そのうち、何やら感心しながら手帳をしげしげ眺め回せるまでに落ち着いていた。

どう言い包めたのかは知らんが、流石の口八丁である。文字だけど。

 

 

「……え? あ、はい、あの怪談、元はオレのシナリオで――」

 

 

インク瓶はそのまま黒キノコに聞き取りを始めたらしく、元居た場所へと戻る道中では先の隠し部屋で聞いた話が繰り返された。

 

当然、私が聞き出した時よりもだいぶスムーズな話運びだ。

短い時間でほとんどの情報が黒キノコから引き出され――そうして元の場所へ戻ったタイミングで、革手帳が音を立てて大きく展開した。

 

 

『――うん、聞きたかった情報も大体得られた。現状の話の続きに戻ろうか』

 

 

見れば、私にも見えるよう広げられたページに、そんな一文が綴られていた。

 

 

「…………」

 

 

うっすらと、インク瓶の右腕を抱える手に力が籠る。

そうして手帳のびっくりギミックに驚いている黒キノコを他所に、私は続く文章をじっと待ち――。

 

 

『――まず前提としては、ここはやっぱり「異界」だったって事だね』

 

 

……が、そこに形作られたその一文に、思わず黒キノコと顔を見合わせた。

 

 

「えっと……今更? 分かってっけど、そんなん……」

 

『ここで言う異界とは、現実ではないという意味だよ。この廃病院も、差し込む夕陽も、徘徊する化物も……そして、君達が負った欠損も。この場で起こっている殆どの事柄は、おそらく夢幻のようなもの――と、言うのが僕の考えだ』

 

「……は?」

 

 

夢幻……ゆめまぼろし? え、夢? 何が……? 

ちょっと意味が分からず困惑の渦に叩き込まれたが、しかしインク瓶は淡々と文章を浮かべてゆく。

 

 

『会場のステージにひゅどろんチが立っていた時、怪談の後にヨート君が語っていた考察を覚えているかい?』

 

「えっ、えーーーっとぉ……」

 

「……もしかして、あのムービーについてのやつの事っすか」

 

 

金髪男の話なんてまともに聞いてねーよ……!

そうどもっていると、何か気付いたらしき黒キノコがおずおずと手を上げた。助かった。

 

 

『そう、ひゅどろんチの面々がそれぞれ部位を欠損し、ベッドに寝かせられていたあの動画。彼は、「あのムービーは夢だかパラレルワールドだかみたいなもの」という風な事を言っていただろう。怪談が現実化している今、その文言も現実化しているという事さ』

 

「え、えぇ……? そんな、いくら何でも……」

 

『勿論それだけじゃ弱い。だけど、今の僕の状態がその作り話を補強している』

 

 

その文言に、自然と腕の中の右腕に意識が向いた。

 

 

『……分かっているとは思うけど、その右腕を除いた僕の身体は、まず間違いなく例の化物へと変じている』

 

「っ……」

 

『その際少しだけ抵抗させて貰ったから、化物としては使い物にならなくなったとは思うんだが……まぁ、人間として終わった事に違いは無い。自分で言いたくはないけれど』

 

「…………」

 

 

……何をどう抵抗して、どう使い物にならなくなったんだろう。

疑問には思えど、聞きたくは無かった。あの時目を逸らした現実が付きつけられて、ゆるゆると首が下がるだけ。

 

しかしそんな私の気を引くように、インク瓶の文字が大きく上下する。

 

 

『だけど、どういう訳だか僕はこうして意識を保てている。そこの怪人と同じく、脳なんてどこにも無いのにもかかわらずだ』

 

「え? うわっ」

 

 

その文章に黒キノコが辺りを見回し、遠くの方で転がっているセンシティヴ邦の死体を見つけて飛び上がる。

あのままエスカレーターに流すのもなんだからと一応引きずって来てはいたのだが、流石に死体を傍に置いておくのも気になり過ぎたので、遠くの方に離しておいたのだ。

 

 

『ありえないだろう? 僕もまぁまぁ常人から離れてしまった自覚はあるけど、人間を捨ててる程じゃない。本来なら、腕一本になった時点で僕は間違いなく死んでいる筈なんだ。でも、そうなってない』

 

「……ここが、現実じゃないから」

 

『そう。この異界の中での僕はリタイアしてしまったが――現実の僕はまだ無事だ。だからこうして、君達と話をする事が出来てい√﹀▔︺』

 

 

『無事だ』――それを目にした瞬間、また強く右腕を抱きしめてしまった。

手帳の文字が一瞬苦しそうに乱れ跳ね、すぐに我に返って力を緩める。

 

 

「ご、ごめん……」

 

『ほ、ほどほどにしてくれ、ほんと……とにかく、現実の僕達はおそらく眠りにでもついている筈だ。そして意識だけが、この幾つかの怪談が混ざった異界に飛ばされている』

 

「……あの、つまり今のオレ達、リアルTRPGやってるみたいになってるって事すか……? リアルのオレ達がプレイヤーで、今ここに居るオレ達がキャラクターで……そんでプレイヤーがキャラに乗り移ってる的な……」

 

『……その解釈も出来るね。TRPGとは、言ってみればテーブル上に小さな世界を創り出すゲームといえる。それが元になっているというのであれば、ヨート君の考察――夢やパラレルワールド云々のそれと結び付いてしまった面も強そうだ』

 

 

黒キノコはそれで何やら理解したらしく、インク瓶と話を合わせていたが……私としては全くピンと来ていない。

なんだか置いて行かれているようで面白くなく、割り込むように口を挟んだ。

 

 

「そんで、結局どういう事なんだよ。なんで腕一本でも話してられてんだっつーの」

 

『ああ、すまない。端的に言えば、このインクのおかげだね。これが中継器の役割を果たし、ここで身体を失ってもなお僕の意識を繋いでいるんだろう』

 

 

薄々思ってはいたが、やはり手首の黒インクが何かしらやっているようだ。

右腕を抱え上げ、手首から流れるインクをジロジロ見やった。

 

 

『スミト君は知らないだろうけど、このインクはとある条件を満たすといつでも僕と交信できる霊能力……おまじないが発動する。それには当然ながら、僕が生きていなきゃいけないという大前提がある訳だが……』

 

「……ここでのあんたは、もう居なくなってる。でも現実のあんたがちゃんと無事だから、インクさえあれば普通におまじないが成立する?」

 

『そういう事だね』

 

 

……まぁ理屈はなんとなく分かったけれど、どうにも反則臭い抜け道である。

もっともオカルトのルールに合わせてやる義理なんて無いし、もっとやったれという感じだけども。

 

 

『そしておそらく、現実の僕にはちゃんと右腕がくっついている筈だ。……右腕が締め上げられる痛みは、右腕が無きゃ伝わってこないからね』

 

「わ、悪かったってぇ……」

 

『これは少し楽観的な見方になるが、現実の僕が五体満足であるなら、同じ境遇の君達もまた同様。つまりこの欠損は夢の中だけのもの――現実の君達が何も奪われていない可能性は、十分にある』

 

「……!」

 

 

――右眼、ほんとは失くなってない?

 

インク瓶にしては珍しい断定に、縫われた右眼に指が伸びる。

 

そこにはやはり痛みも感覚も無く、縫い目のざらつきが指先に伝わるだけだった。

けれど、張り詰めていたもののひとつが、ほんの少しだけ緩んだ気がした。そして決して小さくない安堵と共に、また黒キノコと顔を見合わせ――。

 

 

(……?)

 

 

しかし、今度は視線が合わなかった。

 

それどころかあまり喜んだ様子も無く、どこか青い顔をしておなかを抑えていた。

……また、痛み始めたのだろうか。声を掛けようとはしたものの、それより先に黒キノコは顔を上げ、小さな声で問いかける。

 

 

「……あの、だとしたら、全部、本当は無事って事すよね。欠損もそうですけど、クリーチャーになった人とか、ロストした人とか……他の怪我、い、痛みとかも……」

 

『肉体的にはそうだろうとは思うよ。ただ精神的には分からない。起きたら全て忘れるという訳じゃないだろうし……悪夢として済ますには、凄まじい体験もあるだろうからね』

 

 

……酷い音を立てて腕の中に吸い込まれていくインク瓶の姿を思い出し、気分が悪くなる。

よく考えると、アレを体験して普通で居られるってのもだいぶおかしいなコイツ。

 

 

「で、でも……身体は、大丈夫なんでしょ? リアルのオレ、何もされてないっていうか、その、起きても何ともなってない、みたいな……」

 

『……僕の予想では、と付くけれど』

 

「っ……よ、かったぁ。信じる、信じますんで、はい……」

 

『…………』

 

 

インク瓶も様子がおかしいと思ったのか、黒キノコを観察するように文字が揺らぐ。

しかし黒キノコはそれに気付かないまま、無理矢理に自分を安堵させたように見えた。更に強くおなかを抑え、手帳に迫る。

 

 

「じゃ、じゃあ、目を覚ますにはどうすれば良いんですか? 何かあるんでしょ、解決法」

 

『……それはこっちがするべき質問じゃないかな。この廃病院の怪談、君達が作者だろ』

 

「え……あっ」

 

 

問い返されて気付いたのか、また顔が蒼褪める。何でだよ。

 

 

「……なぁ、あんたさっきシナリオがどうのこうの言ってた時、『元凶をどうにかしてクリア』とか言ってなかったっけ?」

 

「あ、う、うん……うんなんだけど……」

 

「だったら、それすれば良いだけじゃないの? 元凶何とかすれば、このオカルトも……」

 

『……ああ、完結までは出来ていなかったんだね』

 

 

最後まで話し切る前に、インク瓶がそう綴った。

何の事だよ――と、問いかける前に、先に聞いた黒キノコの言葉を思い出した。

 

 

――今回のイベントで使うって言い出して、途中で盗っていきやがったの。

 

 

「……ま、まさか」

 

「……クライマックス、手ぇつける前に、兄貴に盗られたから……その……細かいとこ、なんも……」

 

「嘘だろ!?」

 

 

なんでも『元凶をどうにかする』という流れだけは決めていたが、具体的に何をして解決するかはまるで決めていなかったらしい。

どういう謎解きにするのか、どういう敵を出すのか、どういう盛り上がりにするのか、全部ぼんやり。

 

そして完成品という事で会場で発表された怪談も、ただ騒ぐだけで解決と言えるものは何一つされていなかった。

つまり――この廃病院の怪談には、一番重要な『解決方法』の設定が、無い。

 

 

『……気にはなっていたんだ。スミト君は怪談の詳細を全て知っている筈なのに、全く解決に動こうとはしていなかったから。僕としては、単純に恐怖で動けないだけだとも思っていたが……まぁ、そうだね、そうなるか……』

 

「言ってる場合か――あっ、そうだ院長! 病院の院長が原因って言ってたじゃん! だったらソイツぶっ飛ばせば……!」

 

「あ、あのね……オレの設定だとね、院長本人はとっくの昔に死んでてね……後を引き継いだやつを真の黒幕って流れにしようって、思っててね……」

 

「誰それ!?」

 

「……だ、誰だろう……? そっから先ぃ、まだ決めてなくってぇ、背景欄、ステータス欄、ぜーんぶ真っ白でぇ……」

 

「この遅筆!!!!」

 

 

黒キノコのボサボサ頭を引っぱたきたくなったが寸でで堪え、頭を抱えた。

 

どうすんだこれ。解決法が無いってんなら、何をすれば私達は目を覚ませるんだ。

見えかけた出口が突然閉ざされ、ぐるぐると焦りだけが空回り――その時、カサリと紙の擦れる音がした。

 

 

『……当て自体は、なくもないよ』

 

「え」

 

 

顔を上げればその一文。

どことなくイヤそうな文体のその文字は、しかしすぐに黒い矢印と変わり、とある方向へと伸びてゆく。

 

私と黒キノコは、慌ててその先を振り返り――。

 

 

「……えぇ?」

 

 

――目に入ったのは、白目と歯茎を剥いたセンシティヴ。

インク瓶の矢印は、変なポーズを取ったまま転がっているその躯を指している。

 

……ただただ困惑に塗れた声が二人分、エスカレーターの向こうに流され消え去った。

 

 

 

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