イケニエのニッキ   作:チクワ

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生贄は廻る
騎士とお菓子


 

 

 

 

 「先輩(マスター)、ご無事ですか?!」

 

 燃え盛る町、足元に転がるさっきまで動いていた骨。

 そこらに転がっていた鉄の棒を握りしめながら自分で叩き壊したそれを見ていれば、背後より盾を持つ後輩が駆け寄ってくる。

 とてつもない重量のソレを持ちながら心配そうな声色でこちらに語りかける彼女に無言で頷き、残る1人の無事も確認した。

 

 「何よもう、何なのよ......!!」

 

 所長だ。

 驚き震えて縮こまっているが、その身体に目立った外傷は見られない。

 所々に煤がついているがまあ、気にしなくて良いか。

 

 無言でその顔を見つめ続けていると彼女もこちらの存在に気づいた様で、まるでロケット花火のような勢いで立ち上がり、自分とマシュへ視線を向けてぱちくりと大きな目を見開いた。

 

 「......どういう事?」

 

 その後は流れ。

 所員であるマシュ・キリエライトがなぜ自分とサーヴァント契約を結んでいるのかとか、他のマスター候補がどれだけ生き残っているのかなどの話が繰り広げられる。

 

 その辺が終わった後に霊脈地にて召喚サークルを設置し、ようやく一息付いた所で通信が入る。

 何事かと耳を傾けてみれば、画面の向こうにいるドクターはポケットに詰められた虹色の石を指した。

 

 「休んでいる所すまない。

 君が持っているソレは聖晶石といって、カルデアの召喚式においてサーヴァントの召喚を可能にするものだ。

 これから先に何が起きるかわからない以上、戦力は欲しい。

 ソレを使って召喚をしてみてくれないか?」

 

 虹の石3つで一回。

 特に断る理由もないので実行する。

 

 マシュの盾で構築された召喚スペースにて石を置けば、魔力の奔流的な光が溢れ出して3つの光輪を作り出し、光の発生元を囲むように広がった。

 それは瞬く間に収束し、召喚陣から腰に剣を下げた人間──

 いや、この場合はサーヴァントというのだろう。

 

 青い瞳に白混じりの黒髪、白の装衣に身を包んだ青年がまるで走り抜ける様に現れ、その口角を自信満々に上げてこちらに微笑んだ。

 

 「──おっととと?!

 悪い悪い、緊急召喚みたいな感じでな!

 クラスはセイバー、真名シャルルマーニュ! 

 アンタがマスター? よろしくな!」

 

 

 十二勇士のリーダー、領事詩に名高き伝説の騎士。

 手を差し伸べてきた彼の手を取り、固く握手を結ぶ。

 限りなく明るい光の様な彼は、きっと先の見えない道を開いてくれるだろうという確信が心のどこかにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ痛みの残る頬を抑えながら自室へ戻り、道端ですれ違ったマシュに手を振ってドアを閉める。

 それと同時に気が抜けたサイダーの如くベットの上へ寝転がり、今日1日で背負わされた苛烈にして過酷な運命に思わずため息をつく。

 

 町を出て、怪我をしたから病院に寄って、そこで半ば連れ去られる様に飛行機に乗せられて。

 叔母さんはどうしているだろうか、なんて考えた所でどうなるわけでもない。

 人理の焼却。

 それによって世界の時は止まっている様なものなのだ。

 でも不思議とめちゃくちゃな辛さ、というのはない。

 何で?

 

 ドクターには『しっかり休んで』と言われたが、こんな精神状態で休めるわけがないだろう。

 こちとらベンチプレスで無理な重量を乗せられたマッチョの様になっているんだ、実際死ぬほど疲れてはいても、こうしてベッドに寝転んだ所で眠気はゼロ。

 

 やる事が無いなら日記でも書こうかと立ち上がり、背筋を伸ばす動きの一環としてダブルバイセップス的ポーズをした所で。

 

 「ようマスター!! 飯はもう食べたかー......って、ん?」

 

 

 

 

 「──いやー驚いた、マスターが筋トレやってるのかと思ったぜ!

 ()()()()()はガチガチってわけじゃない、アドバイスとかも出来ないからな。」

 

 こっちの俺?

 シャルルマーニュに変なポーズを見られた事は驚いたが、それはそれとして『こっちの俺』と言ったことが気になる。

 彼が持ってきてくれた大して美味しくもなく水分だけ持っていく棒状の非常食と水を手に持ち、先ほどの言葉を詰めてみる。

 

 「ああ、なんていうかな......

 俺、シャルルマーニュって言う英霊はあくまでもカール大帝の一つの面だ。

 俺が物語として、幻想として語られる聖騎士の一面で、大帝の方が忠実の王たる一面。

 だからまあ、俺は人類史に刻まれた『カール大帝』にはなれない、っていう事だな。」

 

 へー、と口に物を入れながらその説明を軽く頭に入れる。

 そんなに要領が良くは無い頭では、カール大帝がムキムキなのだろうな、程度しか解らなかったが。

 

 「はは、まあそうだ!」

 

 それで良いのか?

 それでいいのか。

 結局のところシャルルマーニュも王様に変わりはないのだから、彼がそうと言うのならあっているはずだ。

 物足りなさを感じながら非常食を水で流し込み、素朴な味に故郷の乾飯を思い出す。

 ......とは言え、筋肉ムキムキのシャルルマーニュ。

 少し考えただけでも面白い。

 

 「......うん、良し。

 やっと笑ったな、マスター。

 笑えるんなら、しばらくは大丈夫だ。」

 

 そう言って彼はひとつ息を吐き、ポンポンと肩を叩いて立ち上がった。

 彼の座っていたベッドのところには、甘そうなお菓子がちょこんとひとつ置いてある。

 

 「ドクターからの貰い物さ!

 それを食べて、シャワー浴びて、寝て。

 また明日から一緒に冒険しようぜ! マスター!!」

 

 彼からの気遣いを受け取って『ありがとう』と見送ろうとするが、言い忘れていたことがあったと彼を扉の前で呼び止めた。

 せっかくキメて帰ろうとしたその足を止めるのは申し訳ないが、ひとつ言っておかなければ。

 

 「おっ......と、どうした?」

 

 ──あの時、敵のセイバーに撃った『王勇を示せ、遍く世(ジュワユーズ・)を巡る十(オルドル)二の輝剣』。

 致命打にはならなかったけど、()()()()()()()、と。

 少々照れ臭く言ったそれを聞いた彼は少し身震いすると、目を輝かせてガッツポーズを見せる。

 

 「──っ、本当かいマスター!!

 最っ高の褒め言葉だ! これからもよろしく頼むぜ!!」

 

 そう言って両手を掴みまたも固い握手を交わす。

 元気に扉を開けて消えていったその後ろ姿を見送ると、不思議と微笑みが溢れる。

 優しい兄に出会えた様な、そんな気分だ。

 

 

 

 

 

 『2016年。

 町を出て叔母に連れられて来た都内にて、病院へ。

 そこで空港まで拉致され、人理保障機関カルデアに連れてこられる。

 レフ・ライノールによる爆破に巻き込まれかけるがどうにか生き残り、特異点Fと言われた日本の都市を突破した。

 その際、サーヴァントであるシャルルマーニュと契約。

 他の人物と共に特異点に存在していたセイバーを撃破し、今に至る。

 ......人理を取り戻す戦いになぜ巻き込まれたのだろう。

 Aチームと呼ばれた魔術師たちが都合よく目覚めてはくれないだろうか?

 自分には重い。

 弱音はここまでとして、これからはサーヴァントの日記もつけていこう。

 日課がひとつ増えたが大した苦では無い。

 まずはシャルルマーニュから、別のノートに。

 

 おやすみなさい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぁ、と軽く欠伸をして、深夜の月が光る時間に意識が覚醒する。

 寝る前に水を飲みすぎたか?

 取り敢えずトイレに向かい、ジャーと水の流れる音にやかましさを感じながら机の上を見た。

 

 そこにあったのは適当な箱に入れられた聖晶石。

 数にして30個程であるが、なぜここに置いてあるかと言われれば、倉庫が壊滅状態であるから。

 ここでとある邪に頭が染まる。

 どうせ自分で取ってきた物だし、使ってもいいかな、と。

 

 思ってから行動に移すのは早い。

 結局食べなかったお菓子を咥え、そそくさと足速に召喚ルームへ向かう。

 

 到着して扉を開き、中を確認すると当たり前だが誰もいない。

 召喚陣の上にまた3つの石を置き、待ってみることにした。

 深夜2時。

 

 ドクターが言うには、この召喚から出てくるのはサーヴァントだけではなく、麻婆豆腐とかも出てくるらしい。

 何故と問うてみたがよくわからないと返された。

 何でわからない物がでてくるんだ。

 

 ぼうっとしながらお菓子を食べていると光輪が収束する。

 麻婆豆腐って美味しいのかなと考えていた自分を叩く様に、月の光に照らされた女性が現れた。

 

 

 「サーヴァント……というのでしょうか?

 喚ばれたという事は縁があったという事。しばしの間、貴方方の生存を......

 ......何を食べているのですか?」

 

 おまんじゅう。

 そう答えるしか余裕は無く、今は驚きと明日怒られるだろうなと言う予想しか立てることができない。

 目の前に現れたのは純白の中に青の映えるドレスに身を包み、紅い目をこちらに向ける......

 

 ......お嬢様? だった。

 

 






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