イケニエのニッキ   作:チクワ

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最高に『』な鳥葬

 

 「ハァッ!!」

 

 「Tres-Dosってな!!」

 

 ニフラを守りながら、絶えず現れる化け物を撃っては蹴って、蹴っては切る。

 ずっとゾンビの叫び声を聞かされてウンザリする頃、一瞬の油断がどうしても生まれる。

 今回ソレが来たのは、銃のアタッチメントとして取り付けられたナイフで首を切ろうとした瞬間。

 いつもであれば首の骨にまで刃がいかない様切り付け、回し蹴りで骨を折っていたのだが──

 

 「! どうした!?」

 

 パキン、と甲高い金属音と共に金属の破片が宙に舞う。

 『折れっ』と途中まで言ったところで言葉が止まる。

 結局のところどんな出来事にも対応するエージェントではない一般人、一瞬の油断や動揺につけ込まれれば、歯を突き立てる特異な化け物への対抗なんて出来やしない。

 腕を切り取られて銃を失い、倒れたところへ鋭い牙が突き立てられる。

 

 肉を貪られる感覚と体が無くなっていく恐怖に包まれながら、伸ばした手をも食われて今回の光は消えた。

 

 

 

 

 ノイズが消えて、やり直し。

 今回は油断してナイフが折れたところからであり、『どうした』とこちらを心配する予定のメイソンへナイフを要求する。

 噛みついてくる歯が発達した化け物からの攻撃を後ずさりで避け、顎を閉じるために必要な筋繊維を大体で切り付けた。

 予想通り顎を閉じることができず攻撃能力を失ったソレを蹴り飛ばし、死を回避した。

 

 したはいいが、流石にこれ以上はジリ貧になると言うのはどんな素人でも即座に理解でき、三十六計逃げるに如かずを唱えれば他2人も賛同する。

 とは言え、逃げ道は限られている。

 階段は既にゾンビが封鎖しており、常識的な逃走経路は選択できやしない。

 ならば常識的ではない道を通るしかないだろう。

 

 メイソンにニフラを任せ、まずは自分とテスカトリポカが窓を破って飛び降り、トタンで出来た屋根へ体を叩きつける。

 絶え絶えになった息を整えながら先程までいた建物の3階を見れば、お姫様抱っこされたニフラを振り子のように揺らすエージェントの姿。

 意図を理解してこちらも腰を落とし、PKに臨むキーパーかの様に受け止めOKの体制。

 

 投げられた軽い女性の肉体を落下点に走って行って受け止め、ゴロゴロと回転して衝撃を受け流す。

 腕の中へおさまった彼女は先程までと違いひどく怯えた様子であり、弱々しくてとても見ていられない。  

 しかし立って逃げなければいけない以上、こんなところでうずくまり続けてもらっては困る。

 鼓舞する様な言葉をかければ彼女はある程度心を切り替えた様で、立ち上がって歩き出した。

 無理をした様な笑顔を見て、悪い事をしたなと思う。

 

 「ごめん、もう大丈夫。

 メイソンも無事みたいだから、取り敢えず逃げるんでしょ?」

 

 「ああ、急ごう。

 君がニューメキシコへ来た理由は落ち着いてからでも構わないが、良く生き残れたものだな、本当に......

 全く......ウェスコ隊長、一体何処にいる......?」

 

 

 

 

 

 『2014年 ニューメキシコ

 通信は繋がらない、テスカトリポカ以外の仲間はおらず、そのテスカトリポカもサーヴァントとしての力は殆どなく、本人をして『少し強い一般人程度』と。

 そんな絶望的状況から見れば、今は随分といい方だ。

 米国エージェントが仲間にいると言うのはかなり心強く、銃火器の扱いにも手慣れた様子で頼りになる伊達男と言った感じ。

 もう少しでこの特異点に突入してから1日が経とうとしているが、今のところ特異点解決の手がかりはテロ組織の中に必ずいるサーヴァント。

 メイソンが言うにはECTFは対テロ組織で、テロの原因を撲滅するために動くはずだから事情を話せばそのテロ組織打倒までは力を貸してくれるだろうと言う。

 ......死亡後のやり直しについては、まだわからないことが多い。

 一つ言うのならば、まるでゲームのコンティニューの様な感覚。

 周りの人はそれを認知していないが、プレイヤーだけはその存在にしっかりと気づいてその上で記憶が残り、()()()()という未来を変えられる。

 今はまだ一桁だから大丈夫だが、これが数十数百と繰り返されれば──

 その時、心が無事である保証はない。

 人理修復なんて投げ捨ててしまうかもと言うこともある。

 ......今は、ただ前に進む事を考えよう。』

 

 

 「......ね、ちょっといいかな?」

 

 夜明け近く、日記を書き記していたところにニフラが肩を叩く。

 どうやら睡眠から覚めた様で、その表情は自分自身に疑問を抱いてその疑問に答えが出ていない様子だ。

 隣に座って膝を抱え、小さく包まって彼女は語り始めた。

 

 「少し考えてみたの、わたしがこの州に来た理由。

 ......なーんにも分からなかった。

 どうして日本を出たのかまでは分かっても、アメリカについてそれからは分からない。

 もやがかかったみたいに思い出せなくて...... 」

 

 仕方のない事だ。

 冷たく言うなら、彼女の記憶にこの特異点を超えるための重要な情報があると思えず、ただ巻き込まれただけの日本人の言葉に何があろうと言うのか?

 優しく言うなら、あそこまで不安定になる記憶なら塞いでおいた方がいい。

 

 そう伝えると彼女はそうかもね、と何処か達観した様な仙人的な声色を見せ、懐からあるものを取り出す。

 それはこの部屋にあったのであろうパン。

 手渡しで受け取り、腹が減っていたこともあってすぐに齧り付く。

 ......が、そうしてすぐに頬を染める。

 隣で微笑ましそうに彼女がみていたからだ。

 不思議と不快感はなく、羞恥があるのみ。

 

 「お腹減ってたんだー?

 にへへ、気にしないで食べてー?」

 

 そうは言っても気恥ずかしい。

 イタズラに微笑む彼女は、少しだけ元気を取り戻した様でちょっと良かったなと、朝焼けに思った。

 

 「......わたしは自分がわかんないけど。

 貴方は自分を見失わないで、歩いて行ってね。

 人理救うんでしょ?」

 

 

 

 

 

 「──2人とも、そろそろ行こう。

 今日歩いて行けば、ニューメキシコ南部の都市に辿り着けるはずだ。

 恐らくはそこにECTFもいる。」

 

 残り少ない弾数を数えながら、メイソンからの指示に頷いて立ち上がった。

 ニフラを先に行かせて今度はこちらがバックアップに入ろうと言う時に、こちらもまたイタズラに笑うテスカトリポカが揶揄う様に聞いてくる。

 

 「嬢ちゃんと何話してたんだ?

 良ければこっちにも聞かせてくれ。」

 

 望む様な事は話していない、と少し不機嫌に返してしまう。

 別にそんなぶっきらぼうに返すつもりはなかったが、どうにも戦い続けるというのは自分が思うより心をすり減らしてしまう様だ。

 『そうかい? それは悪かった』と彼は言ったのち、ガラリと雰囲気を変えて肩に顎を乗せ、耳元で囁く様に優しく言葉が耳を撫でる。

 不快感がないのは神特有だろうか。

 

 「あの嬢ちゃん、人間とは少し違う。」

 

 驚いて振り返り、思わず聞き返した。

 それはウイルスに侵されているという意味か、はたまた別のものか。

 結論を急いでいる事はわかっている、今なら正直にアースさんの説教も受けよう。

 ただその言葉の真意を早く知りたかった。

 その捲し立てを止める様に『落ち着け』と頬を掴まれ、ほっぺが凹む。

 

 「ウイルスの方じゃない。

 どちらかと言えば()()()と同じだな。

 ......確証があるわけじゃない。

 が、気をつけておけという話だ、何もなければそれで良い。

 頭の片隅にでも入れておけ。」

 

 そう言って片手に銃を持ち、歩き始めたその背中を追う。

 ......人ではないとして、彼女は何なのだろう。

 だとしても、あの微笑みは敵意とは全く別な──

 

 

 

 

 

 

 「んっ! ありがと!」

 

 ニフラを引っ張り上げ、コンテナが倒れた事で橋になった道を歩く。

 やはりここまで来ると人口も多く、それにつれてゾンビの量も馬鹿にならない。

 しかしここから少し歩けばもう都市だ、そこに辿り着けさえすればゴールも見えて──

 

 「おいどうした、変なものでも食ったか?

 ......うお、どうしたよその目つき。」

 

 ......心臓が大きくドクンと揺れ動く。

 ここまでもあった兆候だ、こうして心臓が揺れ動いた先には強力な化け物や死ぬ可能性の多い場所が現れる。

 いわばチェックポイント。

 ここより先で死ねば、新たなチェックポイントを通過しない限りはここからやり直しと言うわけだ。

 銃を構えて周りを警戒しながらコンテナの橋を歩くが、幸いにもここはゾンビの登れる様な場所ではない。

 ならばこの先かと進むべき道に視線を移した瞬間、何故か体が宙に浮く。

 

 「兄弟!」

 

 「クソ、新しい化け物か!?

 ニフラ嬢は下がれ!」

 

 何者か、どこから現れたのか。

 そんな事を考えながらもがいている内、先程まで立っていた場所よりも少し高い場所へ叩き落とされた。

 ヒビが入った足を引き摺りながら体を起こすと、そこにいたのは人ほどの大きな背丈を持つ、巨大な鳥──

 

 「ギギギギギギ!!!」

 

 とは、似ても似つかない化け物。

 鳥の体、羽を持ちながら、その翼はうまそうな獲物を見つけた様に涎を垂らし、その顔は鳥の様にスリムなものではなくぶくぶくと太った人間の様なもの。

 

 銃を構え直すより早く、その翼がこちらに覆い被さった。

 痛い、苦しい、重い。

 様々な感情が入り混じる。

 羽の口に啄まれ、だんだんと無くなっていく体。

 叫び声をあげてもそれは周りに漏れる事なく、ただただ消えていくだけ。

 

 最高に『趣味の悪い』鳥葬である事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死亡回数:6回 

 






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