ノイズが取り除かれ、さっき心音が鳴ったところからやり直し。
やはり手足をもがれて食われる感覚はいいものではなく、それを何回も経験してれば精神の磨耗も起きる。
この特異点において危惧するべきはマスターである自分の死よりも心をすり減らした事による集中力の低下、それに付随する味方の死亡と雑な判断。
先ほども歩いたコンテナの上を歩きながら、1人空に警戒する。
正味、地上に関してはメイソンとテスカトリポカがほぼやってくれている。
どう取り繕ってもこちらは素人、助かる話だ。
......思えば死からのやり直しに回数制限はあるのだろうか。
ヘラクレスは10回そこらが限度だと言うが、この場合はどうなのだろう。
まあ最善は死なない事だが、どうしようもない時というのはある。
そんなどうしようもない時に死んで、それが偶然たまたま回数制限、打ち止めでやり直せなかったのならそれはもう仕方がない。
死を受け取って召されるだけだ。
「ギャアッ!!」
さあ来た。
待ってましたと言わんばかりに、空から迫る偽鳥へ弾丸を喰らわせにかかる、が。
翼、顔、そして爪に見られるくすんだ白色の装甲らしき骨は鋼鉄の様な硬度を持つ様で、さして貫通力のないハンドガンではよくて傷をつける程度。
4、5発打ち込むが致命傷は与えられず、二度目の鳥葬を拒否する様に横に転がってその爪による捕縛を回避する。
ひとまずは危機を乗り越えた、ここから反撃──と、思ったその時、悲痛な叫び声が聞こえる。
銃声と重なり合ってハーモニーを奏でるその声の方向を見るために立ち上がると、鳥の爪がニフラを掴んで空へと連れて行っているではないか。
「クソ、害鳥め!!」
ハンドガンを連射するメイソンと共にこれはまずいと焦り、鳥が高度を上げ始めた所へ向けて引き金を引いた。
焦りを含んだそれは足の付け根を貫き、鳴き声と共に爪の力が緩む。
そうすれば必然的に掴んでいたものは落ち、べちゃっと何かが飛び立った音が聞こえてくる。
ああ、と後悔と自責を込めたため息を吐くと同時に、テレビの砂嵐の様に視界が包まれる。
またやり直しだ、今度はニフラと一緒にあれを避けて──
「嫌っ── が、ぉっ......」
今回もダメだった。
回避は出来たが、その後の展開が良くなかったのだ。
テスカトリポカは弾が当たらない都合上ゾンビへの対処が主な役割であり、今回の鳥とは相性が悪い。
そして自分はニフラを守りながらの戦いであるため、必然的にメイソン1人で戦う事になる。
すれば火力は分散して鳥は増長し、歯止めの効かなくなった化け物は容易くその羽でニフラを食い荒らしてしまうと言うわけだ。
次はニフラをテスカトリポカに任せ、メイソンと火力を集中させて鳥を叩き落とす。
腹を貫く爪と醜く開かれた口を見ながら、今回ダメだったところを考える。
メイソンとコンビで動くと言う考えは悪くなかった、自分が足止めをしながら誘き寄せ、奴の足が止まったところへメイソンが火力を叩き込む。
テスカトリポカもちゃんと守ってくれている。
しかし、肝心の火力がいまいち足りていない。 それは2人が力を合わせたところで大した手傷を与えてられていないことからも分かる。
こうしてやられているのも火力不足故の弾切れが来る、所謂ジリ貧からくる焦りが原因であり、このままやったとして未来は変わらないだろう。
......確か、その辺に軍人の死体があったはずだ、その死体から銃を拝借しよう。
それでダメならまた別の方法を──
「ウァァア......!」
待ってくれ。
ゾンビになっているなんて聞いていないんだけれど?
まあ。
まあですよ。
これで軍人が使う様なアサルトライフルが手に入った、ちゃんと当てれば火力も足りるはずだ。
このやり直しで鳥を仕留める。
「......チッ! 弾が......!
──ニフラ!!」
「い、嫌っ!!!」
どうしてだ。
確かにアサルトライフルはダメージを与えていた、マガジン一つ分とは言えリロード用の弾もあって、手慣れていそうなメイソンに使ってもらった。
それでも、それでもだ。
これ以上何ができる? 努力はしたはずだ、配置を変えて新しいものを取りに行って警戒心を極限まで強めて。
現地調達で限界まで頑張ったはずだ。
それに加えて、いくら絶望したとして死は救済にならない。
死ねばここに戻される。
いわば、無限地獄の様なもの。
最後にできることといえばひとつだけ。
それをやって、通用しなかったら...... きっと狂ってしまう。
砂嵐が晴れ、また橋の様になったコンテナの上を歩く。
もう銃は構えていない。
ポケットにしまい、このあとすぐに現れる奴に対する行動へ手早く移れる様集中力を高めた。
何度目かの鳴き声が聞こえ、いつもの様にニフラを庇いながらファーストコンタクトを回避する。
そして銃を構えて臨戦体制に入ったメイソン、テスカトリポカを諌め──
「きゃっ、ちょ、ちょっと!?」
「そう言うことか、それには賛成だ!」
ニフラを小脇に抱えて一目散、敵前逃亡。
脇目も振らずに走り、コンテナを飛び降りて金網一枚隔てた先の店へと逃げ込んで店舗の中にあった消化器を蹴り出して銃の引き金を引く。
轟音と共に煙を吐き出した消化器を尻目に窓を破り、また別の家へと避難してカーテンを閉めた。
少しだけ空いたカーテンの隙間から外を見れば、鳥はこちらを見失ってキョロキョロと首を回転させている。
ソファにニフラを落とし、自分も座って深く息をついた。
ドクンと心臓が高鳴ったのを感じ、ようやくあのコンテナ地帯を抜けられたのだと安堵する。
しかし自分にとっては数時間のことでも、皆にとっては数分のことでしかない。
今の数分にそこまで疲れることがあるのかと向けられた怪訝な目線に答える心の余裕というのは既にない。
そんな疲れ切ったこちらを心配したのか、テスカトリポカが『少し待て』と前置いてポケットの中を探り始めた。
マガジン2本を前座として出てきたそれは、奇抜な見た目の茶色い骸骨。
投げ渡され慌てて受け取ると、フワリと甘い香りが漂って来る。
飴?
そう問うと、『まあな』とだけ端的に返してタバコを蒸す。
「いわゆる『甘やかし』ってやつだ。
戦いにおいて糖分は重要だ、頭の回転が早くなる。
......本当は終わった後に渡す予定だったがね、ドラマも映画もアドリブが重要だ。
こう見えて柔軟なのは知っての通りだろう?」
まあ、気を遣ってくれたのだろう。
彼は戦士であれば平等だ。 そして、この特異点に置いて敵であるゾンビはあくまで捕食者であり戦士ではない。
爪のやつも歯のやつも、さっきの鳥も。
戦士はここにいる3人と数人だけならば、こちらに肩入れしてくれるのも自明なのかも。
アイシングクッキーの様な甘さの飴を食べながら、疲れ切った頭で考える。
まだ朝だと言うのに消耗が激しい、どうしよう。
さっき逃げて来る道中で軍人の死体からくすねて来た端末で動画を再生し、少し砕けてしまった飴をニフラの口に突っ込んだ。
ぽりぽりと人参を食べるうさぎの様な姿はちょっと癒しだ。
『隊長、ここにはもう......』
『そうだな、恐らくパクストンボーイズはいない。
だが生存者を探さない理由にはならない、生存者を探しながら俺達はショッピングモールへ向かう。
まだ北部にまでウイルスは蔓延していない、念の為の避難誘導に協力し、北部にて奴らを捜索する。』
『了解!』
『了か── うおおっ!?』
『フィリップ?! コイツは......!』
『あ、ああ! うあぁぁあ!!
......ぐっ、馬鹿みたいに高い所から落としやがって......
足が...... !!
くそ、ゾンビどもが!! ぐおぉぉお!!』
......壮絶な最後だ。
鳥によって空から落とされ、動けないままゾンビに食われる。
嫌な話だ。
しかし、この映像内の彼のおかげで向かうべきところは分かった。
ニフラが言うにはここからショッピングモールまでは数キロ、急げば離脱するECTFの移動についていける可能性がある。
立ち上がり、前を向いた。
困難に立ち向かう事。
それこそがもらった甘やかしに対する、最高の返礼品だろう。
死亡回数:10回
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