到達したのはショッピングモール。
道中相見えた怪物たちもあの鳥を基準に考えればそれほどの脅威ではなく、この道中苦戦する様なことはなかった。
自動ドアの電源が落ちてただの重たい鉄扉となったそれを開け、あの1番に目に入ってきたのは見渡す限りの食料。
冷凍食品は死んでいるだろうが、野菜やレトルトなどはご存命のはずであり、ここに来るまで碌な飯を食っていなかったことを考えればテンションアップも必然だ。
はしゃぎたくなる気持ちをグッと堪え、後ろに警戒しながら店内へと突入していく。
......さて、こうして考えている分には、『大した危険もなくショッピングモールへたどり着いた』と思われるかもしれない。
実はそうではない。
何を隠そう、後ろには──
「ギッギッ!」
さっきの鳥が扉を破らんとその爪を突き立てているのだから。
冷や汗をかきながら下唇を噛み、自戒に意識を割きすぎない様心をコントロール。
今はこの状況を乗り切らなければならない。
テスカトリポカとニフラからの視線が心を刺し、ちょっとその辺に寝転がって居たくなる。
「兄弟、結果が出た後の批評に期待しておけよ。」
「んー!!!」
声を上げて文句を言えばゾンビが現れることを知っている以上、ニフラがそういうことを言ったりはしない。
しかし涙目で頬を膨らませてこちらに視線を向けられれば何より罪悪感が勝る。
何故こうなったのか?
端的に言えば、自分の落ち度である。
ショッピングモールへの道すがら、そう言えばアサルトライフルの回収を忘れて居たことを思い出す。
だが、既にあの場所から遠く離れている以上、どうやっても回収は不可能。
諦めようかと思って歩いていたその時、横目に映ったのは軍人の死体。
その死体の服装やワッペンから察するにECTFであり、どうやらここまで追ってきた彼らの舞台はリーダーを除く皆が死んでしまったらしい。
話を戻して、その死体が抱えていたのは大きなスナイパーライフルと数発の弾。
今後あの鳥の様な怪物が多く出て来ることを考えれば、 持っておくに越したことはないだろうとメイソンの静止を厭わず走り出した。
幸いにして周りにゾンビはおらず、完全にフリーな状態でライフルと弾を回収、ホクホクで戻ろうと振り返ったその時。
「......」
出会ってしまった、この場合は再開したと言った方が正しいか?
目の前に突如現れた鳥の無言の一撃をすんでのところで避け、今に至る。
とは言え不幸中の幸いと言えるのは、こうしてショッピングモールに逃げ込めた事だろうか。
なんとかのショッピングモール、天井が低いおかげで鳥が侵入してきてもその飛行能力は制限される。
幾分狙いもつけやすくなり優位な状況と言うわけだ。
それに加えて、先程の死体から貰ったのはスナイパーライフルだけではない。
一旦物陰に隠れ、リロードを行うテスカトリポカとメイソンに小さく耳打ちする。
鳥に居場所がバレない様ひっそりと。
正味、自信があるかと言われれば......ない。
しかし各々が最善を尽くせば成せる様な作戦だ、そこに間違いはないとはっきり言える。
2人を真っ直ぐと見つめて、嘘偽りなく戦士として参加を願った。
メイソンは少し長く瞼を下ろし、リロードしていたハンドガンを腰にしまってライフルを取り出した。
信じるものを持つ同士の繋がり。
それを心に宿し、地獄を駆け抜けてきたからこその信頼を銃に込めるかの如くスライドを引く。
「......やって見せるさ、ここまで来て止まるなんて言うのはシュミじゃない。
色々とやるべき事もあるからな!!」
テスカトリポカには作戦において最も重要なファクターを手渡し、突き出された拳にこちらの拳を合わせる。
「兄弟、覚えてるか?
いつだかに言っただろう、オレは敵いようのない脅威と戦う人間を、殺されようとも諦めない人間を、戦士として優遇する。
......つまりはそういうことだ。
こう見えて俺は賭けてるのさ。」
コクリと頷き、作戦開始のトリガーであるハンドガンの引き金に指をかけた。
2人とアイコンタクトを取り、鳥の意識が油断するタイミングで──
「行け!!」
発砲し、作戦が始まった。
手始めに自分が適当に引き金を引いて相手の気を引き付け、遮蔽物などをうまく使いながら逃走する。
1番警戒すべきは羽だ、爪を避けたとして連続で羽が振られた時が最も危険。
頬を掠って切れた傷口から垂れる血の温もりに不快感を覚えながら、ライフルを構えるメイソンを基準に縦軸を合わせる様にただ逃げる。
「こんなところにまで来て、狩りの真似事をする事になるとは!
楽しめないのが残念だよ!!」
轟音と共に鋭利な弾丸が飛び、鳥の右翼を貫いて壁に突き刺さった。
予想通り高度を落としたその姿にチャンスを感じ、レシーブをする様に手を組んでその上にテスカトリポカの足を乗せて放り投げる様に持ち上げた。
「チッ!」
しかしここで予想外が発生する。
自分の力が足りず、ギリギリでテスカトリポカの高度が足りないのだ。
だがそこはサーヴァント、咄嗟の判断で拳銃に付いた斧を鳥の翼に引っ掛け、体の揺れによる勢いを利用してもう一段飛び上がった。
風の様に軽やかなその動きに思わず『ナイス』と言ってしまうほどで、流石
鳥の背中に立つと振り落とされない様力強く皮膚を掴み、先ほど手渡された物の電源をオンにして後頭部に貼り付ける。
飛び降りて衝撃を吸収するために転がったテスカトリポカが立ち上がる横を通り過ぎ、手元にあるリモコンに手を掛けた。
そう、テスカトリポカに渡していたのはリモコン爆弾。
ECTFの人から受け取った物。
「──BON!」
テスカトリポカの指パッチンと同時にスイッチを押し、爆音と共に熱、肉片が飛び散り、こちらに向かって来ていた鳥は翼を無くして地に落ちる。
しかしまだ息があり、這いずって逃げようとするソレの前に立って3つの銃口が向けられる。
音にして10発。
もう鳥の鳴き声は聞こえない。
リモコン爆弾で崩れてしまった天井を見ながらエレベーターのボタンを連打するが、やはりエレベーターは降りてこない。
上にあがるには崩れた天井を登るしかないか。
ニフラを小脇に抱えて登ろうとする準備をしようとしたところ、先んじて誰かが上から降りて来る。
咄嗟に銃を構え、横にいたニフラを背後に下げた。
埃の舞う中から現れた人影は銃を下ろし、疑問符を浮かべながらこちらを見た。
その視線はメイソンの方向に向き、更なる疑問符を浮かべている。
「──メイソン!?
彼らは民間人か? それにどうしてここへ?! いやそもそも、パクストン・ボーイズの自爆テロに会いながらよく......」
「......ウェスコ中尉、話は後だ。
合衆国のオペレータールームに連絡は出来るな?
そうだったらヘリを要請してくれ、こっちの端末は奴らに喰われた。」
ウェスコ中尉と呼ばれた強面の黒人らしき様相の軍人は驚きながらも無事を喜ぶ複雑な表情を見せながら、再会を喜ばんとする感情をメイソンに急かされ仕舞い込む。
こんなところに来る軍人などECTFしかおらず、ならば彼がECTFのリーダーか。
ウェスコと呼ばれた彼は怪訝な顔をしたまま通信機を繋げ、合衆国司令部に通信を繋げてメイソンとニフラを回収するためのヘリを呼び出そうと話をつける。
しかしここはニューメキシコ南部、高い建物はそうそうなく、ヘリの着陸に不安があるとスピーカーから聞こえてきた。
「それならECTFのヘリで行こう。
屋上にもう停めてある。
民間人とメイソンを州外で下ろして、俺たちは首都のサンタフェに向かう、それでいいか?」
「ああ、だがこの2人は民間人じゃない。
......説明はそっちからしてくれ。」
放り投げられた説明の権利を受け取り、最初からまた人理修復の云々を伝える。
疲労感に塗れた体を休める様に地に座り込んだメイソンにありがとうと一言礼を伝え、何が起きているのかわかっていない様子のウェスコ中尉へとメイソンの時と同様の話を始める。
正直疲労が溜まっていてちゃんと説明できたかが不安だが、メイソンの存在と手渡したECTF隊員の端末を見て信じてくれた様だ。
「そうか...... わかった。
皆ヘリに乗れ、ひとまずニューメキシコを出る。」
ECTF隊員、ウェスコ・リンダートの指示に従ってヘリに乗り込んだ。
既に運転席には別の隊員が乗り込んでおり、よろしくお願いしますと最低限の礼儀を見せる。
ドアを閉めて左右を確認すると、ニフラが何やらモゾモゾと何かを取り出して手に持ち、パシャリとシャッターを切った。
どうやらショッピングモールからインスタントカメラを持ってきていた様であり、せっかくだからと撮ったのだろう。
「えっと...... はい!」
そうして手渡された小さな写真には険しい顔をしたメイソンとウェスコ、外を見るテスカトリポカ、驚いた顔の自分とニフラが写っていた。
びっくりするほど統一性が無くて、何か面白い。
「特異点ってところを直したら残るのは思い出だけなんでしょ?
だからこうして形に残しておくのがいいと思う!
ね!」
カメラと写真を受け取り、ありがとうとだけ返した。
そろそろ首都近くであり、この辺から軌道を変えてヘリは隣の州に出ていく。
ニフラやメイソンとはお別れかと思っていたところ、何かが割れる音と共にヘリがガクンと大きく揺れた。
何事かと運転手を見れば、その脳天には穴が空いていて脳漿が垂れているではないか。
ウェスコが咄嗟に操縦桿を握るものの一度落ち始めたヘリはもう浮き上がることはない。
鉄塔に突っ込むヘリから放り出されそうになったニフラの手を掴まんとメイソンと同時に手を伸ばし、こちらが彼女を掴んで引き寄せ、そのまま脱出する様に高度のある場所へと飛び出した。
『チッ』と火花が散る様な音が聞こえ、人1人乗っていない乗り物は鉄塔へと突入。
ヘリの激突した鉄塔は支えを失って倒壊し、轟音と共に街に向かって倒れ、大通りまでの道を分断した。
燃える街。
ここはサンタフェ、ニューメキシコの首都である。
そして──
「命中しました。
ヘリは落ちた様です。」
『......面倒だな、まあ孤立は都合が良い。
どうとでも始末がつく。』
「しかし貴方は我らの柱です、ここは我らに──」
ブツ、と切れる音が聞こえて来る。
「......私に口答えをするな、貴様らが選んだ
全く、貴様らもインディアンどもと変わらんな......」
踏ん反り返った態度の英国人が1人。
燃える街の室内から地獄を見る。
その手には、聖杯が炎の光を乱反射させていた。
死亡回数:10回