イケニエのニッキ   作:チクワ

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私の正体と君の理由

 

 燃え盛る街の一角。

 炎の音と呻き声が埋め尽くすその中で、瓦礫の中から覆うものを押し上げてふたつの人影が現れた。

 片方はその強靭な肉体に幾つかの傷を受けているものの、問題なしとでもいう様にライフルを構えて周囲の警戒に努める。

 もう片方はというと右腕が異常な方向へと捻じ曲がっており、銃を構えるどころかゾンビに襲われたとして碌な抵抗もできずに食われるだけだろう。

 そんな彼に守られた女性は瓦礫の山に倒れ込んだ彼に駆け寄り、顔を顰めながら頭部から滴る血を服で拭った。

 

 「これは酷いな...... このハーブを食べるんだ。

 メイソンも愛用してるんだ、いくらか楽になる。」

 

 「ごめんね、私なんか庇ったから......」

 

 私なんかというものではないと彼女を諌め、残った左手を伸ばしてウェスコから受け取ったハーブの粉を口の中に入れる。

 草特有の土臭さと爽快も行き過ぎれば毒になる様な清涼感に吐き戻しそうになりながら飲み込むと同時にブルルと震え、ふわりと麻痺する様な感覚で彼の言う通り()()()()()()になった。

 メイソンが愛用していると言っていたが、彼はこれを食べてはいなかったな。

 それだけ被弾が少ないのだろう、すごい。

 ......で、楽になったとはいえ、だ。

 

 見るのも嫌になるほどズタズタの右腕と落下の際に無くしたハンドガン。

 正直言って戦力としての期待はしないで欲しい。

 礼装での支援に関しても墜落の際に無理して使った『オシリスの塵』のせいでしばらくは使えそうにない。

 やはりというか何というか、クールタイム無しでの連続使用は負担をかけるか。

 誰も死ななかったのだからOK、か?

 少しぼやけた視界を上に向ければ星が見えていた...... が、急に頬の両側を掴まれて地上に引き戻された。

 ゴキッとなった首の痛みはハーブで誤魔化されたが、それでも違和感は残る。

 どうしたのかとその行為に走ったニフラ本人に問うと、彼女は下を向いたり深呼吸したり『んー』や『えー......』と煮え切らない態度をとった後、しっかりとこちらの目を見据えて話し始めた。

 

 「その、ね。

 もうテスカトリポカさんに言われてると思うし、私としてももう君に隠す必要はないから...... 今から()()()()けど、あんまり驚かないでくれると嬉しいな。

 あ、勿論ウェスコさんもね。」

 

 「? 君は何を言って── って、おい?!」

 

 そう前置いて彼女はその爪を思い切り手首に突き刺した。

 ウェスコの静止も聞かず突然奇行に走ったかと思ったが、テスカトリポカにもう言われていると言った彼女の言葉を元に記憶を探って彼の言葉を反芻した。

 

 『どちらかと言えばオレたちと同じだな。』

 

 オレたち、詰まるところは神。

 それを基準に考えるならば彼女はその類の生物なのか?

 その疑問を口にする暇もなく、彼女はその手首から滴る鮮血を大きく開けた口に垂らして飲み込んだ。

 

 「まっず。」

 

 吐き捨てる様に、後悔する様に放った言葉を合図にするかの如く彼女の身体を光が包む。

 その眩い光に思わず左手で目を覆い、それが収まる頃に腕を退かして見てみれば驚きを隠せない。

 それはウェスコも同様で、現れたソレに銃を構えたと思えばすぐに唖然とした表情へと変化する。

 

 『──ちょっと待ってね! んー......!!』

 

 ニフラが変化したのは、何かを間違えた様な()()()()()()

 赤い目に白い体毛が月明かりを反射する、可愛らしい草食動物だ。

 驚くこちら2人を気にせず力み始めた彼女は目を閉じて震え、それこそ本来のウサギならトイレでも始めたのかと思う状況。

 しかし出てきたのはウサギのフンではない。

 それは背中から分裂する様に現れ、可愛らしく『キューキュー』と泣きながら1匹が自分の頭に登り始めた。

 他の3匹は肩に乗ってこちらを舐めたり、服の袖を食んだり。

 手のひらサイズのウサギから目を離して巨大な方を見れば、また唸り声を上げて人型に戻り始めた。

 カルデアにいる英霊でもこんなのはそういない。

 

 そうして人間態に戻った彼女は先ほどまでと少し違った様子に変わっており、純白で長かった髪は肩にかからないほど短くなってその身長もどこか低くなった様だ。

 そうして戻ったニフラはこちらに近づき、その辺をうろちょろしていた子ウサギを鷲掴んでこちらの口に捩じ込んだ。

 

 「はい、食べる!」

 

 「何してる!?」

 

 モゴモゴ言いながら抵抗するが自主的に口内を進んでくるウサギには敵わず、小さくて可愛い生物は食道を通り過ぎた。

 可哀想とか可愛かったのにとかほんのり甘いな、なんて考えていれば、ドクンという強烈な心臓の音と共に右腕が意思とは別に動き出す。

 不思議と痛みはなく、ぐしゃぐしゃだった物が真っ直ぐに戻っていく感覚だけがあった。

 動きが終わり、静かになった右手に力を入れてまた驚く。

 

 なんと、動くのだ。

 それも疲労感など無くスムーズに。

 

 それを見たニフラはホッと胸を撫で下ろし、親指を立てる。

 一体何が起こったのか?

 完全に回復した体を起こして子ウサギを抱え、少し下を向いて彼女に問えば諦めた様に微笑んだ。

 

 「そうだねえ、色々あるよ。

 まず私はテスカトリポカさんとおんなじ様に人から信仰を集めることで生きている、神様みたいなものかな。

 その中でも位は最底辺なわけだけどね、土地神というやつ。」

 

 色々と言いたいことはあれ、そんな神様が何故こんなところに?

 それこそ神様ならスーパーパワーの一つ二つは持っていそうなものだ、ゾンビから逃げ回る必要も無いのではないか。

 そんな疑問を彼女は自嘲しながら否定する。

 

 「あまりテスカトリポカさんと比べないでよ!

 ......その、私やその兄妹は最初から個人として強力な力を持ってたわけじゃ無くて、信仰があるから生まれて信仰が無くなれば死ぬ存在。

 今のわたしって信仰ゼロで、もう少しで死んじゃうの。

 今みたいに神様モードに戻って何かすれば、信仰っていう弾丸じゃなくてわたし自身の存在を使うことになる。

 こうして小さくなっちゃうわけ。」

 

 つまり、今こうして頭に乗ってるこれは彼女自身。

 身を削って作ったものと言うわけか。

 信じられない神は誰かに惜しまれることもなく消えていくと言うのは、何か寂しいものがある。

 

 「そう言ってくれると死にゆく者としては嬉しいな。

 ......まあ、どうせ死ぬならって事で死んじゃった村の人んちに忍び込んで、服とお金を貰ってアメリカに来たのです!」

 

 「......よく空港を通過できたな。

 パスポートはどうした?」

 

 「兄さんに頼んで顔とかを変えてもらった!

 わたしと違って兄さんは信仰者が多いから!

 でも、ニューメキシコに何でいたのかはわかんないんだよね。

 メイソンにわたしの救出を頼んだ娘はちゃんと助けたからわかるんだけど。」

 

 話を聞くだけ聞いても結局なぜニューメキシコにいるのかは分からずじまい。

 しかし紆余曲折ありながらも傷は治り、どうにか動けるどころか完全回復にこぎつけた。

 メイソン達との連絡手段は無いがひとまず目に見えるビルを目指して歩き出す。

 しかして武器がない。

 ウェスコに何か無いかと問えば、少し葛藤の表情を見せた後に空のハンドガンと数個のマガジンが投げ渡される。

 

 「君が使っていたハンドガンよりも口径が大きい。

 反動に気をつけて使え。

 民間人に銃を持たせるのはあまり気が乗らないが、状況が状況だ。

 行くぞ。」

 

 彼もそういう職の人間として思うところがあるのだろう事はすぐにわかった。

 しかし地獄を生き残るために武器が必要なのは軍人でも一般人でも同じ事であり、そこに区別は存在しない。

 銃を受け取って手慣れた感覚でリロードを行いながら、先導するウェスコの背中を追う。

 

 ふと、彼に聞いて見た。

 戦場に来て後悔はしないのかと。

 

 彼は隊長だ。

 ならば部下がいて交流して、仲良くなることもあるだろう。

 そんな大切な部下が自分を残して死んでいく姿を見て何故そこまで冷静になれるのか、悪気ない無邪気な好奇心がその問いを喉から押し出す。

 それに一瞬の間を置いて、彼は腰からドックタグを取り出した。

 ジャラリと鉄同士が幾重にも重なって鳴る音が耳に触れ、それは彼が失ってきたものを映している。

 ジェフ、リード、マルコ、キートン。

 そしてメイソンと書かれたものも。

 見えただけでもこれだけの人間が化け物との戦いで命を落としている。

 

 「......彼らはテロを、パクストンボーイズを滅ぼすためにECTFに参加し、そして死んでいった。

 その中には俺の跡を継いで欲しいと思った、信頼した部下もいた。

 彼の、彼らの残したものと共に俺は戦い続ける。

 意思を継ぐ者として、後悔している暇は無い。

 ......メイソンが生きていたのなら、これを返さなくてはな。」

 

 彼は振り返り、人差し指をトントンと2度こちらの鳩尾に当てた。

 

 「君は人類最後のマスターと言ったな?

 正直信じ切れてはいなかった。

 君の様な子供には荷が重過ぎると思っていたが、ヘリが墜落する中で最悪を回避したのは君のおかげだ。

 だからこそ、四つの世界を渡ってきたと言う君に聞きたい。

 ()()()()()()()()()()()()

 世界の人の為か、自分の為か?

 ......ただ大人の言葉に従って行くのでは、何処かで必ず相棒を失う。

 俺がそうだったからだ。」

 

 ウェスコからの問いに答えることができない。

 彼が指を当てた所にある自分の心の中には何も無いのだ。

 そうだ、自分はずっと、町を出る時もカルデアに来た時も特異点を修復する時も、どこにだって『誰かの為』や『自分の為』という気持ちは存在していなかった。

 自分を動かしていたのは全てを終えた後にあるものへの渇望では無く、目先にあるものの打倒。

 レフ・ライノールから、その矛先は特異点の主へ。

 先は先でも目先しか見ていなかった自分に、何のためだとかは考えたことがなかった。

 ただマスターになったからには、という義務感だけの人形。

 

 「答えられないのなら今はそれでもいい。

 ただ、この特異点とやらを直した時に教えてくれ。

 君の戦う理由を。」

 

 考えながら進むことにした。

 自分の戦う理由は何処にあるのだろう。

 

 ウェスコに一つだけ聞き返す。

 自爆テロに巻き込まれた彼、メイソンとはどんな人物なのかと。

 

 「メイソンか?

 一言で言えば面白い奴だ。

 どんな時でも空口を叩いて緊張する新兵を和ませたり、それこそ女性が敬遠する様なギャグで男の笑いをかっさらったりな。

 だからこそ...... あの自爆テロで彼のいた場所に残っていたこのタグを見た時、俺は相棒を失った様な気持ちを味わったよ。

 このテロを終わらせたら彼ともう一度酒を飲みたいものだ。

 しかし、急にどうしたんだ?」

 

 何も無いと返して歩く。

 今はビルを目指して、神様のニフラとその子ウサギと共にただ、ただ、ただ。

 

 『ガンバレー』

 『オイシイヨー』

 

 よく喋る饅頭みたいなウサギである。

 

 

 

 

 死亡回数:10回

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