『ゾンビと死の匂い』からここまでを書き直しました
壁を蹴って加速してはその歯、その尾を突き立てんとするワニの化け物の連撃をすんでのところで回避し、横に転がって倒れ込む視界が広がった瞬間に銃弾を放つ。
しかしその外殻は弾丸を少しめり込む程度にとどめ、ギロリとこちらを向いた目線から逃げるように後ずさった。
後ろには階段、目の前には口を開き頭を砕いて脳髄を啜ろうと飛びかかるワニ。
多くの選択肢からひとつを選ぶ時間は1秒にも満たないが、この戦場においてはそれすらも命取りとなる事は歯に抉られた自身の二の腕が示している。
飛びかかるワニの下へ滑り込むように寝転がり、きっちり揃えた両足裏を上に向けてそこにワニの腹を乗せた。
そのまま持ち上げるように、蹴り飛ばすように渾身の力を込めて階段の上へ弾き飛ばせば、その先にあったドアへ頭をぶつけてガタガタと転がり落ちてくる。
間抜けなカメのように腹を見せた捕食者へ、終わってくれと言う願いも込めて引き金を引いた。
やり直し数回、ようやく自分のものではない血飛沫が壁にかかる。
しかし傷は浅い。
腹も硬い外皮に守られており、まさに攻防一体と言うところだ。
噛まれて貫かれて潰されてデスロールに巻き込まれて、ゆうに7回はこの戦いをやり直している。
焦りやらが生まれるのは当然であり、これ以上同じ時を繰り返したくないと言うのが心からの本音。
その焦りが脳を伝わって指に行き、狂ったようにトリガーを引く。
そうしていれば必然、
カチ、カチと無いものを叩こうとするトリガー音。
当然の権利として訪れたるは弾切れであり、天に何もかもを見渡す神がいたとすれば『それ見た事か!』と叱責されてしまうだろう。
だが叱責してくる神はおらず、存在するのはぬるりと起き上がって突進する。
骨を砕くその一撃は狙いの人間がいた所にあった壁を貫き、緊急回避後の体制を崩した自分へ牙を突き立てんとする。
破壊された壁から落ちてきた鉄パイプを閉じようとする口腔内に突っ張り棒の如く突っ込んで即死は回避するが、それでもパイプから異音がなっている異常どうにもならない、このまま押し込んでくる力に対抗して耐え忍んでいれば普通に食い散らかされてしまうか。
......だが、打つ手無しでは無いはずだ。
焦る心をギリギリまで落ち着けて周りを見回す。
今の状況は口に押し込んだ鉄棒を逆に利用されて壁に押し込まれ、左右に逃げることは不可能だ。
今ここで、なんとかするしか無い。
周りに利用できそうなものはない、ならばと自身の持ち物を記憶を探って確認する。
ハンドガンの弾、ナイフ、ウサギ......
──焼夷手榴弾。
焼夷手榴弾!
これはかなりの破壊力だ、喰らえばこのワニといえどひとたまりもないだろう。
しかしこの場所で使えば自分もただではすまない。
ここは別の方法を......
──いや、別の方法など無い。
やるしか無いと右手にそれを握り、壁にできた鋭い瓦礫にピンを引っ掛けて思い切り抜いた。
グリップを爆発しないよう強く握り、再び心と息を整える。
勝負は一瞬だ、やるべきことを反芻して行動に移す。
はじめにパイプから手を離してしゃがみ込みながら、閉じられる口の中へレバーを離した手榴弾を投げ込んだ。
ダイニングへ向かい、残っていたイスを両手に掴んで飛びかかってくるワニの口を塞ぐようにして上からイスの背もたれを叩きつける。
すると手榴弾が起爆し、くぐもったワニの断末魔と共に口から漏れた火炎が右腕を焼く。
痛みに悶え、ワニと同じように体を床に叩きつけた。
同じような格好ではあるが、そこには生と死の決定的な隔たりが引かれている。
「──ねえ、大丈夫!?」
適当な戸棚から包帯を引っ張り出して巻いていると、2階に逃していたニフラが静けさに気づいて降りてきた。
彼女を2階へ押し込んだのはやり直し3回目からだ、やはり狭い屋内では隠れてもらった方が都合が良い。
やはり気になるのは腕の怪我やその他細かい切り傷などで、その傷を負った原因というのが自分を守ったが故、と言うのが気に入らないらしい。
アワアワとしながら慣れた手つきで手首を切ろうとするその手を止め、正体を明かしたからと言ってそう身を削るものでは無いと諫めると、彼女は叱られた子のようにシュンと丸くなる。
彼女は神だ。
神であれ人であれ、名前があるはず。
それを踏まえて彼女のワニに対する怯え様、まさかとは思うが本人に聞いてみれば、そうだよねと俯きながらため息を吐く。
「そう、わたしは
あ、七割がた因幡の白兎な事は間違いないよ!』
因幡の白兎。
オオクニヌシに助けられた日本で有名なウサギ。
図書室の本に置いてあったから覚えている。
......しかし、因幡の白兎に兄弟はいるのだろうか、そういう描写はなかったはずだが。
そもそも血縁者とかいるのだろうか?
『んー、
あいや、結局本に書かれていることなんて過去のことでしか無いし、さっきも言った様に純粋な因幡の白兎と言うわけじゃないもの。
......でさ、わたしの伝説って
ダメだよね、信仰もなくて戦えず、回復も碌にできないでワニに恐れ慄く神様なんて。」
そうだろうか?
人間目線で見れば仕方ない様に見える。
イタズラ好きなのはどうにもならないとして、誰であれトラウマや弱点はあるものだ、かの英雄アキレウスも踵が弱点だと書いてある。
だからニフラがそこまで気負うことは無いように思う。
それに、因幡の白兎が情け無いやられ方をした上に大国主の兄弟達に間違った治療法を教えられたことなど歴史書にズラリと載っているわけで、それでも信仰してくれた村の人たちもいるのだから、ダメだと言うことはないはずだ。
「そう? そうかなぁ。
......えへへ、ありがとね。」
嬉しそうに腕に抱きついてきた彼女の指が肩に触れるが、その指はかなり冷たい。
神様にも荷重という言葉は通じるのだろうか。
また誰かが入って来た時に遅れを取らない様に警戒していれば、『遅くなった』とウェスコが戻ってきた。
無事......とはいかない様子で、頬や服のあちこちに切り傷が見える。
「あの化け物は?
......そうか、やったか。
助けに来れなくてすまなかったな。」
ひとまずあの世での再会でなくこうしてもう一度集まれた事を喜び、また歩き始めた。
しかしもう日が暮れ始めている。
現在の消耗具合と比べ、ここはひとまず近場のチャペルへ向かい、そこで休もうと向かい始める。
道中また鳥と出会う事があったが、さすがはウェスコ。
容易く対処する姿はもはや憧れである。
チャペルへ辿り着き、少し重い扉を閉めて一安心といった所。
ひとまず休息しようと席に座る男2人に対し、1人の女はキャッキャと結婚式場であるこの施設に興奮を隠せない様子だ。
神と言っても女性だ、そういうことに興味がないわけではないのだろう。
「すごーい!
この螺旋階段とか柱が無いよ!」
そっちかあ......
と、どこか微笑ましい光景を踏み躙る様にして革靴が石を叩く様な音が聞こえて来る。
どこから現れたのか、背後から聞こえて来るその音へ警戒心を強め、チャペルの奥へ移動し銃を構えるが、未だ姿が見えないと焦り始めたその時。
「いや、失敬という他ない。
やはり期待はするものではないな、我が故郷の兵士では無いこの忌まわしき大地の原住民どもは。
本当に1から0まで役に立たん。」
パチパチと手を叩きながら、まるで霊体化を解除したサーヴァントの様に現れた丸まった髪が特徴的な男がこちらへ歩いて来る。
銃に怯える様子もなく、余裕綽々で腰から下げたサーベルに手をかけながらこちらへと話しかけてきた。
気安い雰囲気こそあれ、その目に殺気がこもっている以上警戒を解くわけにもいくまい。
「──いやはやマスター君、君は想像以上......
ああ、そちらの言葉に直すのならば八面六臂と言うべきだね、失敬。
流石は古くにわが国と同盟を結んだ国の民だよ、ただの人間がここまで生き残ったことには尊敬を表する。
全く── 度し難い!!!」
「貴様、パクストン・ボーイズか?
答えろ!!」
「ウェスコ・リンダート......
君も本当に面倒だ、ここで潰していこうかとも思ったが。
どうやらそこな出来損ないの神は、もう時間がないらしい。
どうかな、そこの彼女をこちらに渡してもらえればこちらとしては危害を加えるつもりはないが......」
「断る!!」
「だろうと思っていたよ、クク。
そうだそうだそうだ、私の知る君はそういう男さ!!」
「俺はお前の事は知らんがな!!」
「冷たいねえ?」
不的な笑みを浮かべ、その男は剣を抜いて高らかに声を上げた。
その気迫に所作、メイソンに見せてもらった宣戦布告の映像にいたサーヴァントに間違いない。
ニフラに下がる様に伝え、離さないようにギュッと銃を握りしめた。
『気をつけろ』と一言だけこちらを案じたウェスコにうなずきを返し、目の前の最終目標に向かい合う。
テスカトリポカと同条件ならば、敵はただの人間なはずだ、銃弾は当たるし動きも追えるはず。
希望はある。
「──我が名、
フレンチ=インディアンの英雄として──」
「行くぞ!!」
「君たちを、叩き伏せようじゃあないか......!!」
死亡回数:19回
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