イケニエのニッキ   作:チクワ

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 アーラシュ、キャスターアルトリアの絆が11になりました。
 頑張ってます。





無力はチャンスを掴めるか

 

 腕を胸の前に構えて固く閉ざしたガードの上から強烈な蹴りが繰り出され、身体が浮き上がり衝撃と共に吹き飛ばされる。

 通常ならそこで攻撃の手は終わりであるはずが、敵対するサーヴァントは軸足で地を思い切り蹴って吹き飛ばされるこちらへ追いついてきたのだ。

 体制が崩れた人間にそれを見切れる訳もなく、まるで煽る様に剣で撫でられた脇腹からは神聖なチャペルを穢す汚泥の如く、びちゃりと鮮血が滴り落ちた。

 

 椅子を破壊するほどの衝撃から来る鈍い痛みと脇腹や蹴られる前に一度切られた足から走る鋭い痛みのハーモニーは、その様なモノに慣れてきた一般人マスターの身体を地に縛りつけるには十分であった。

 うめき声を上げ、痛みに悶える。

 死ぬ時は一瞬だが痛みは永遠。

 はらわたが煮えるような感覚は不快感を飛び越して吐き気すら身体のうちから呼び起こすほど。

 

 「......まあ、たかが人間。

 己で魔術の行使も出来ない一般人如きが私に叶う訳もない。 私もこの特異点の影響を受けて人間に限りなく近くなっている...... とでも予想したのだろうが。

 甘い甘い甘い!!!」

 

 「──うぉぉぉお!!!」

 

 ある種、ゾンビを倒すことによって生まれていた慢心や増長。

 自信の中心を司るそれを槍で串刺しにされたような感覚と共に胸を締め付けられた感覚に歯軋りする。

 その顔面に足が振り下ろされそうとした時、ウェスコが傷だらけの体を引っ張りながらジェフリー・アマーストへ突進していく。

 その気迫は良く言えば決死の覚悟、悪く言って無謀。

 アメリカンフットボールやラグビーを思わせるタックルが命中する事はなく、軽やかな身のこなしで回避と同時に2人蹴り飛ばされた。

 

 チカチカと視界が明滅する。

 一度暗転しまた光が戻る頃には、アマーストの傍らに連れて行かれるニフラの姿が。

 手を伸ばしても届かない。

 サーヴァントと人間の性能差に苦しみ、何故この特異点でアマーストだけがサーヴァントとして動けるのかという疑問で頭にもやがかかる。

 自身の無力に苛立ちながら、チャペルの奥に消えていく2人を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 どれだけ時間が経っただろうか。

 フッといきなり身体が軽くなり、痛みしかない暗闇からタバコの独特な匂いが漂う現実へと引き戻される。

 起き上がってみれば腹の切り傷は治っており、もしやと思い物を入れていたボディバッグを見てみればやはりウサギが1匹減っている。

 隣で足を組み、タバコを蒸していたテスカトリポカとウェスコに聞けばさっき口の中へ入っていったと。

 

 「手酷くやられたな、死にかけた気分はどうだ?」

 

 そう問われたところで、何という事もない。

 死にかけた云々は正直なところどうでもよくて、辛かったのは自分の無力を叩きつけられた事。

 結局のところサーヴァントがいなければマスターなど一般人。

 苦しい。

 それはそれとして、周りを見回してもメイソンがいない。

 てっきりテスカトリポカと一緒にいるものだと思っていたのだが、そうではなかったのだろうか。

 

 「ああ...... ま、逸れたんだよ。

 何、ぞろぞろと出て来る死体を全員ミクトランに送ってやろうとしてたら唐突に爆発が起きてな。

 あのエージェントとやらに庇われて逸れ、仕方ないとここに来た。 本当に、()()()()()()()()()()()()()()

 ここに来たのも音がしたから、偶然って奴だ。」

 

 ? 何か違和感がある。

 なんとも言えない何か、いや、気のせいなんだろうが、何か変な感覚だ。

 しかしそれに関して深く考える時間も与えられず、ウェスコが立ち上がって銃を構えて歩き始めた。

 その目には手酷くやられた事からくる恐怖は見えず、アマーストがこのテロの元凶であるならば命に変えても殺すという力ある一歩。

 強い漢だ。

 

 その背中についていくようにこちらも立ち上がり、チャペルの1番奥である祭壇らしきところを見た。

 確かアマーストはここを開け、地下へと下っていったはずとはウェスコの談。

 

 「こんな仕掛けを作るとは...... サーヴァントとやらの心はわからん......」

 

 祭壇側面の模様をナイフで突けばそこだけが剥がれ、現れたスイッチを押せば石が擦れる音と共に左右へ祭壇が開き、チャペルの雰囲気とは全く違う機械的な階段が現れた。

 アマーストが消えてから自動で閉じた事を考えるとここから先に進めば戻れないだろう。

 しかして止まるつもりはない。

 

 メイソンが来ていない事は気掛かりであるが、止まっていればここまでECTFが近づいていることを理解したアマーストがニフラを連れて逃走しないとも限らず、それによって被害が増えれば特異点の修復は不可能になってしまう。

 だからこそ、止まらない。

 アマーストが何故サーヴァントとしてああして戦えるのかという疑問はあれ、何か秘密があるのなら解き明かすまでだ。

 

 

 

 階段を降りる中、アマーストとは誰なのかという話になる。

 

 メジャーな英雄ならばある程度は知っているものの、いかんせんジェフリー・アマーストという名の男は中学の歴史でも習ったことのない人物だ。

 

 「そうか、だが俺は知っているぞ。

 これでも大学ではアメリカの歴史学を好んでいたんでな。

 ......まあ、英雄でありながら理解を拒んだ人間だよ。」

 

 ジェフリー・アマースト。 男爵。

 14歳で兵士となり、七年戦争や...... アメリカではフレンチ・インディアン戦争で知られる戦争にて名を上げる。

 

 彼がフレンチ・インディアンで名を上げた時期が絶頂とするなら、その絶頂から降る原因となったのは後年のポンティアック戦争。

 インディアンの生活を理解しようとせず、同盟を組んだフランスに対してイギリス、アマーストはインディアンを征服した国の者として扱った。

 だがそれが原住民のインディアンの逆鱗に触れることとなる。

 

 「『貴方方はこの国をフランスから奪ったからその所有者だと思っている。 しかし、フランスは何の権利も持っていなかった。 だからこの国は我々インディアンのものだ。』

 当時のインディアンが怒りを身に宿していた事は想像できる。

 そんな先祖の怒りを忘れない為に、俺は侵略から国を守る軍人になったが...... この有り様ではな。」

 

 そしてジェフリー・アマーストといえば、近代にてそう見ない生物兵器を使った攻撃をインディアンに使おうとした事もあるという。

 それは天然痘に汚染されたタオルやハンカチを配布する事で致死率5割の病気にさせる、卑劣な作戦。

 当時成功したかどうかは定かでないようだが、この特異点においては成功しているというほかないだろう。

 

 敵のボスがアマーストであればパクストン・ボーイズという名前もあながち訳の分からない物とはいえず、ポンティアック戦争の残り香のようにも思える。

 

 ならば彼に付き従うメンバーはインディアンの殲滅などを目標としているのだろうか?

 どうにも理解が及ばない。

 

 階段を下り終わって目の前に現れたのは、研究所のように見える試験管やホルマリン漬けの様にされた化け物が不気味さを演出する不思議な空間。

 繋がりからして、この化け物たちはアマーストが作ったと見て間違いないだろう。

 何か役立つものがないかと引き出しを開けていれば、出てきたのは『Devour-Virus creature』と書かれた研究資料と思われる小冊子であり、ページを開けばそこにはこの施設で研究されたと思われる化け物、ゾンビの写真。

 

 『DV(D-ウイルス)C(クリーチャー)-01 ゾンビ

 

 基礎となるクリーチャーであり、D-ウイルスの特性として発現する極度の飢餓感とエネルギー消費量の影響により絶えず人を喰らい続ける。

 霧として散布したD-ウイルス以外では噛み付いたところで感染しないが、雑兵として優秀。

 作成に協力した医薬品メーカーにはワクチンのレシピを渡しており、それによる利権の確保と引き換えとしてある。』

 

 『DVC-02 ウーニャ

 ゾンビからの変異体であり、筋肉が全身に露出しスペイン語で爪を意味する名の通り手足の爪が異常発達して身体能力が格段に上がる。

 爪の切れ味は人を容易く切り裂くが、発生は運であり数日で細胞が壊死し死に至るため継続的な戦力としては期待できない。(DVC-03も同様)

 しかし自然死の間際に幼体を数体排出する場合がある為、可能性が無いわけではない。』

 

 『DVC-03 コルミーリョ

 スペイン語で牙。 牙の発達と背骨の強靭さ以外はDVC-02と同様。』

 

 「──やはり協力者が......!

 この製薬会社、以前パクストン・ボーイズに侵入されて情報を盗まれたと言った会社じゃないか?!

 しかも()()()()()()()()()()()()()会社だ、この年はまだ社長をやっていたはず! どこまで俺を......!!

 クソ、クソ......」

 

 かける言葉が見つからない。

 自国に降りかかる危険を取り除き、安寧をもたらす為に動いていた彼の守りたい者達の一部がテロリストに加担していたのだ。

 しかしウーニャとコルミーリョと呼ばれる化け物達の情報で気になる部分が一つ。

 背中から幼体を排出する、という事。

 

 まさかと思いながら、疑問を解決する為にページを捲る。

 

 

 『DVC-04 ラアーラ

  DVC-05 ココデイロ

  DVC-06 ウルティモ

 

 ジェフリー・アマースト司令の確保した女性の血液を使うことによって変異の規模、変異後の殺傷能力等が段違いに強化されたD-ウイルスクリーチャー群。

 DVC-06を除いた2体は液状の強化ウイルスを直接打ち込むことによってサナギ状態である『ウエボ』へと変化し、周囲の生物を食虫植物の様に取り込む事で完成する。

 

 DVC-04、05は外骨格を備え、一般的な拳銃では貫くことすらできない。

 ラアーラは飛行能力、ココデイロは力と俊敏性を備えて軽度ではあるが再生能力も持つ。

 再生能力は血液元の女性から引き継いだものであり、これにより単騎でも一部隊壊滅は容易だろう。

 DVC-06はアマースト司令の指示により封印されており、詳細は省く。

 

 追記

 女性が逃走した事によってDVC-04以降のクリーチャーは量産が不可能となったが、実践運用によりDVC-02、03の有用性がわかった為実行日に変わりはない。

 ニフラと言う女性には記憶処理を施しており、この場に来なければ思い出す事もない。

 ジェフリー・アマースト司令の目的、我らの目的が果たされる日は近い。』

 

 

 パタンと冊子を閉じ、木の棒を折るが如くグシャリと握りしめる。

 鳥やワニの頑丈さ、ここに書かれていた背中からの幼体排出などは詰まるところここに彼女を捕らえて研究、何かしらのウイルスと掛け合わせて製作されたD、食い荒らすと言う意味のdevourを冠したウイルスを作り出し、それを罪なきニューメキシコ市民に散布したと。

 

 彼女が何故ニューメキシコに居たのか、どうしてあの地獄から州知事だけ脱出したのか。

 そして...... もう一つの違和感も。

 

 研究室を抜ければ、そこはビルの内部。

 どうやら目的としていた製薬会社のビル地下へと繋がっていた様で、人1人いないエントランスホールを歩いていれば遠くから走って近づいて来る音。

 銃を向けるが、そこにいたのは軽い傷を負ったメイソンの姿。

 

 「メイソン!」

 

 「ここにいたのか皆!

 ......どこから来たんだ?」

 

 「地下からだ、それより恐らくこの上にこの事件の首謀者がいる。

 ニフラも連れて行かれた!」

 

 話すウェスコとメイソンを尻目に、エントランスに入るもう一つの入り口を見た。

 扉の前にはタンクローリーが事故を起こして溢れ出した液体が溢れ出しており、粘度の高く汚く見えるソレの先には驚くほど純白なタイルがこの会社の清廉さをアピールしている様だ。

 

 早く上に行こうと言う2人を先に行かせ、テスカトリポカと2人で話す。

 答え合わせの意味もあった。

 彼はニヤリと笑う。

 

 「ハ、正解だ。

 戦士に対するチャンスは平等だ。 あいつはそれを逃し、お前はそれを手にした。

 なら有利になる様に特典をやらなきゃな。」

 

 そうして渡されたのはずっしりと重い、一回り大きな拳銃。

 煌めく銀色、取り付けられたレーザーサイト。

 ガンショップに置いてあった冊子に書かれていたマグナム、と言う奴だろう。

 

 「さあ乗れ、チャンスを掴んだ報酬は渡した。

 この後どうするかは、お前に任せるさ。」

 

 デザートイーグルと刻印されたマグナムのハンマーを起こし、右手に構える。

 エレベーターで感じる重力に身を任せながら決戦へ向かう。

 地獄は終わらせる。

 ここで、自分達が。

 

 

 

 死亡回数:19回

 







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