チン、と到着を告げるベルが鳴って襖を開ける様にエレベーターの扉が開き、銃を構えながら周囲の警戒にあたる2人の後ろへついた。
エレベーターの移動中に何か横槍が入るかとも思っていたがそれは杞憂、しかし最上階にたどり着いてもテロリストの1人も見えないと言うのは驚きだ。
しかしここにアマーストが居ないのでは、と言う疑いはゼロ。
地上の喧騒も聞こえてこない天空の広間にて、静かに静かに拳銃を構える。
President's office、社長室と書かれたその扉を蹴破ればそこには机の上に寝かされたニフラの姿。
今すぐ駆け寄って無事を確認したい気持ちを堪え、ガラス張りの壁と屋上のヘリポートへ繋がる道を確認する。
メイソンにとっては任務の対象、守るべき者。
駆け寄る彼をウェスコが静止し、『まだ危険がないわけじゃない』と冷静になる様声をかけた。
「待てメイソン!
......まだ本丸が出てきていない以上、迂闊に彼女へ近づく事はそれこそ罠にかかりに行くウサギと一緒だ。
周りに奴の尖兵がいないなら、まだ焦る必要もない。」
「ああわかってるよウェスコ中尉。
勿論そのつもりさ、焦っちゃいない。」
メイソンがその手を腰に付けたハンドガンホルダーに手を伸ばしてそれを抜き、周りの警戒にあたろうとその場で回転してウェスコの方向へと振り向く。
その瞬間、強烈な音と共に鋼の弾丸が打ち出された。
それは肩を貫き、神経をズタズタにする威力。
「がっ......?!」
「──何故、何故撃った!!?」
硝煙が天に立ち上る。
放たれたのはマグナム弾、撃ったのは勿論、自分だ。
戦友を撃たれた事と裏切りに近しい行為に混乱したウェスコをテスカトリポカが抑え、その間にもう一度ハンマーを下ろして引き金を引く。
銃を持っていた腕が跳ね上がると同時に2発目が胴体と腕を繋ぐ関節を貫き、接続がグシャグシャになった肩をテスカトリポカの拳銃に付いた斧を借りて切り裂く。
血が池を作り、くっつかれても困るからと切り離したその腕を遠くへと投げ飛ばしてその姿を見下げた。
後ろで叫ぶウェスコを尻目に、今はただの人間でしかない、
彼はその体をゴロンと転がして仰向けになり、悔しそうな表情でこちらに問う。
「......
『君がニューメキシコへ来た理由は落ち着いてからでも構わないが、
『軍も総力を上げてその潜伏先を探していたが、結局見つけられなかった。
ゴーストの様に現れ、ゴーストの様に消える。
足取りと呼べるものがゼロに等しかったのでは、天下のFBIもお手上げだ。
最初は疑問ですらなかった。
ただの言葉、戦場にて吐き出される軽率な文章だと思っていた。
だが、それが疑いに変わる時があった。
コンテナの上、鳥との戦いだ。
あの戦いにおいて最も奴からのヘイトを稼ぎやすいのは自分でもニフラでもなく、銃を撃っては正確にヤツへダメージを与えていたメイソンのはず。
しかしメイソンが鳥にやられて死ぬ事はなく、自分かニフラがやられるだけ。
その時点ではそういうものとして少々疑う程度でスルーしたが、その疑いが確実になった時がある。
『自爆テロ』と『ウェスコの知るメイソンとの乖離』がこの思考を確実なものにしてくれたのだ。
これは当たり前のことであるが、普通ドッグタグを残して爆散するほどの自爆テロに巻き込まれ、生きていられる人なんて存在しない。
おそらく都合が良いとして何らかの力でその顔を変え、別の誰かからメイソン・シュライグに
そうしてメイソン・シュライグという人間を知らずに演じた事により、ウェスコの語る『ムードメーカー的人間』という評と演じられた『落ち着いた人間』との間に乖離が出来上がる。
こうなってしまえば後は関節をくっつけるだけのプラモデルの様に、結論がパチパチと組み上がっていく。
何故州知事だけ容易く脱出し、メイソンに指令を出せたのか?
パクストン・ボーイズと繋がっていたから。
何故直近の任務でテロに巻き込まれたメイソンに指令が下されたのか。
記憶処理を施されたニフラを確保し、誰も知らないところで思い出さないうちに始末する、またはもう一度利用する為。
墜落するヘリの中で聞こえた『チッ』という音は彼の舌打ちだったのだろう。
つまるところ──
「メイソンは、ジェフリー・アマースト、だと......?」
ウェスコの言う通り、そこがイコールなのだ。
しかしそうすると、サーヴァントが何故こちらの攻撃を普通に受けたのかという話になる。
結論は簡単、
恐らく彼は聖杯にこの世界に現れるサーヴァントは自分含めて人間の位まで落とす、という世界を願ったのだろう。
そして聖杯を持つ自分だけはその世界から隔絶した力場を聖杯の力によって作り出し、サーヴァントとしての力を使って戦う。
だがそれは力場の中にさえ入ってしまえば、恐らくテスカトリポカにも効力がある。
だから自分達と一緒にいる時、何度も殺すチャンスはあったはずなのにも関わらずその手を下す事はなかった。
それをしようとすればテスカトリポカに逆に殺されるから。
そこでヘリの墜落後、テスカトリポカに自身の正体を明かして『戦士の味方であり、双方の敵である』彼の特性からその正体を自分やウェスコに隠す様伝えたのだろう。
そのチャンスを掴んだ末にあったのはこちら側の全滅だったのだろうが、結果として自分が勘づき腕を失う結果になったわけだ。
......あっているだろうか?
テスカトリポカに確認を取れば、パチパチと軽い拍手を打った。
「──大アタリだ。
さて、アマースト? オレはお前の味方を十分な程して、お前は嬢ちゃんを攫ってここまで誘き出しておきながらこの兄弟によって『ウェスコを殺す』という勝利条件を果たせなかった。
......次は、兄弟の味方をする番ってわけさ。」
脂汗を垂れ流し、血に塗れた服を引き摺りながら後ずさるアマースト。
最後の抵抗とでも言わんばかりにその手を振り上げ、危険が訪れることを察知してウェスコをその辺の物陰に引っ張り込んで回避する。
予感は当たり、隠れていたパクストンボーイズが現れてその手に持ったアサルトライフルを乱射する。
「クソォ、クソクソクソ!!!
おい、私を屋上まで連れて行け!!
──ええい2人だけで良い訳あるか!!
彼を逃すわけには行かない。
友がやはり死んでいた事に消沈するウェスコの装備から閃光手榴弾を奪い取り、グリップを強く握ってピンを引き抜いた。
向こう側で身を隠しているテスカトリポカに、投げて爆発すると同時に突っ込んでくれと漸くマスターらしい指示を出してグリップを話す1秒2秒と時間が経ち、彼からの返事が返って来る。
「何秒だ!?」
「OK、兄弟!!」
敵の視界に映らない様横ではなく上に向けて放り投げ、目線まで落ちてきたところで破裂、音と光が全てを奪う。
想像以上の音に思わず耳を塞ぐ手に力が入り、何もわからない。
「──!!」
「──!?」
耳が平静を取り戻し、音が聞こえなくなったと同時にどうなったかと立ち上がれば、そこには戦の神が纏った血を艶かしく舐め取り、右手の銃にかかったものを振り落としている。
「悲鳴が聞こえないってのは不満だが、まあ悪くない!
......ほらどうした、嬢ちゃんを起こさなくて良いのか?
どうせ正体云々は教えてもらったんだろ?」
見惚れて飛んでいた意識を取り戻して寝かされている彼女の元へ駆け寄り、その体を揺り起こした。
目立った怪我はない。
良かった、と安心する。
「......ん、ありがとう。
信仰さえあればこんな...... なんて、負け犬の遠吠えみたいかな。
......正直、死ぬのって怖い。
倒れた君を助けられずに連れてかれてここで殺されちゃうのかなって思った時、ぞわって背筋が冷たくなった。
『どうせ死ぬなら』って言ったけど...... やっぱり、誰にも惜しまれないで死ぬのって、怖いね。
怖いんだ、ねぇ......!!」
机の上から降りて縮こまり、そう言った彼女の背中をさすって微笑みかけた。
そりゃあ死ぬのは怖いだろう。
神の死というのは誰も覚えてくれなくなったからこそのものであり、必然的に自分を思って死を追悼してくれるものなど居やしないのだから。
──なら、自分がニフラの信仰者となろう。
「え......?」
自分が生きている限りはたとえニフラが死んだとしてもその優しさや在り方を胸に歩いていく。
君が居たことは一生忘れないし、他の誰が君を惜しまなくとも自分だけは君を思い続けよう。
許してくれるだろうか?。
「......嬉しいな... うん、お願いします。
絶対ね、約束ね! この約束守ってくれる限り、私も君が大変な時に頑張って助けに行くから!
あ、ほら! ゆびきりげんまん!!」
一転して笑顔になった彼女と固く優しいゆびきりげんまんを行い、屋上へ向かう。
風の吹く屋上、そこに居たのは左手にシリンジを持って死体に囲まれながら不敵に笑うアマーストの姿。
何が起きても対応できる様に心を落ち着かせ、銃口を向けてウェスコが啖呵を切る。
「クソ男爵!!! メイソンの仇を撃たせてもらうぞ!!!」
「......ア〜...... 本当に、いつの時代もインディアンは私をイラつかせてくれるなァー!!!」
そういうとアマーストは上着を脱ぎ、その腹には聖杯がある所に見える歪みの様なものが見える。
そのまま流れる様に首へ注射を突き刺し、中に見えた赤い液体が注射を押し込むより先に首の中へと侵入していく。
血管が大きく浮かび上がり、大きく叫び声を上げた。
「アァァッ、グウッ、フウッ...... フフ、フフフ。
私は生前、良い友人に恵まれたよ...... 彼らを傷つけたくなくて戦争にも出なかった時があった、本当に幸せだった......
アア!! 忌々しいインディアンとポンティアック戦争なんてものがなければなァ!!!!」
叫びが暗くなった空の下に響き渡る。
「奴等のせいで私の人生に汚点が出来た! それはまるで拭いても拭いても、拭いても拭いても拭いても消えない絨毯のシミの様な不快さだ!!
だから私は聖杯に願ったんだよ。
『
「なら俺を殺してから、その世界とやらを完成させてみろ!!」
「言われなくてもするに決まっているだろうがァァァ!!!」
するとアマーストの背中から、ワニに変貌した夫婦の様に背骨が大きく飛び出し、周囲にあった5つの死体を取り込んで卵となり、その殻を割って現れたのは──
「殺してやるぞ、邪魔をする者は全て!!!」
3メートル近くの体躯を持ち、その右手や口には異常に発達した爪や歯を携える巨大な人型。
人間に近しい存在であることを目が訴えながら、脳はそれを人とは似て非なる者として理解を拒んでいる。
恐らくはあの資料に書かれていたDVC-06 ウルティモという奴。
不意打ち気味に射出された爪を避けながらマグナムを打ち込むが、ワニを思い出させる尾が弾丸を防ぐ。
最終決戦。
頬を叩き、集中力を高めて始まった戦いは......
「ごめ、んね、マスター君......」
「俺は、俺は仇をぉぉぉ......」
「......油断したか、マスター?
ああ、オレもだ......」
「終わりだ。」
新たな地獄の、始まりでもあった。
死亡回数:19──
──死亡回数:63回
評価等よろしくお願いします