イケニエのニッキ   作:チクワ

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終わる地獄とリレーの行方

 

 ──チャンバーチェック。

 何一つとして変わり無し。

 

 目の前にはそこらにあった物をその巨大な手のひらで鷲掴み、こちらに放り投げて邪魔者を一掃しようとする化け物、というかジェフリー・アマーストだったモノ。

 横に居たニフラを庇いながら回避し、皆一様にあの化け物に向けて銃を構えれば、次に来るのはウェスコの叫び。

 友の復讐と憎むべきテロを終わらせようとするその意思が困った叫びは暗い暗い夜空に響き、何度目かも定かではなくなって来た決戦が幕を開ける。

 

 「行くぞ!!!」

 

 ああ、何度繰り返したのだろうか。

 こうして何回も何回も味方や自分の死を感じているうち、この戦いにおける味方の思考、行動も絞り込めてきた。

 言ってしまえば、以前カルデアでムニエルさんに見せてもらったゲームの乱数みたいなものだ。

 斧銃で突っ込んで行くテスカトリポカをウェスコが支援して途中まで上手く行くのが4割、ウェスコとテスカトリポカが両サイドから攻め、中央から自分がマグナム弾を打ち込む動きが3割。

 

 どうやら今回はそのどちらにも当てはまらない3割。

 

 「くっ、テスカトリポカ神!!」

 

 「オーケイだ。

 ──燃えな。」

 

 風を切る音を出しながら繰り出された拳を避け、斧で切開した上腕の中にウェスコから渡された手榴弾を突っ込むパターン。

 この場合、テスカトリポカが入れた焼夷手榴弾は半々で起爆しない。

 なので──

 

 「ガゴッ、ウガァァァア!!!」

 

 まずは頭へ向けてマグナムを撃つことでのけぞらせ、テスカトリポカが退避する時間を作ってから手榴弾へもう1発を撃ち込んだ。

 ジェフリー...... この形態の時は研究室に置かれた資料と合わせて、ウルティモと呼ぼうか。

 ウルティモの強靭な皮膚や装甲も体内から迸る熱に対しては熱を逃すことができず、それゆえに痛々しく赤熱した右腕は奴に歯軋りをさせる。

 

 こうなった場合、勝率は悪くない。

 大量のやり直しから生まれた定石的な動きを徹底すれば、負けることは── そう、()()()()()()()、のだが。

 ......本当に、こればかりは自分のわがまま。

 

 熱による暴走で変異を始めたウルティモの背骨から棘の様な触手が飛び出し、全員緊急回避を余儀なくされる。

 自分は無事だ、勿論テスカトリポカやウェスコも。

 しかし、鮮血滴る3本の触手に貫かれた彼女の姿を見て──

 

 「か、はっ...... ごめ......ん...」

 

 『ああ、またダメか』とマグナムを握り直し、トリガーガードに置いていた指をその内側に入れる。

 ウェスコがニフラに駆け寄って声をかけ、テスカトリポカが暴走するウルティモに対応する一方で自分は。

 

 こめかみから少し離した位置に手慣れた手付きで銃口を置き、水平になった拳銃のトリガーを一つの迷いなく引いた。

 右の鼓膜を破る轟音と共に頭蓋の左右が砕いて闇夜に脳漿をぶちまけては、次の自分に対してまるで他人事の様に『自分はダメだった、でも次の君はきっと上手くやってくれるだろう?』と拳銃を投げ渡す。

 本当に最低のバトンリレー。

 

 

 ......既に慣れ、この音を聴いていても寝れそうなほど。

 やり直しまでのインターバルで流れてくる砂嵐の様なノイズに包まれながら、バカみたいだとここまで手慣れてしまった己に対して自嘲する。

 

 初めてウルティモに勝ち、聖杯を手にしたのはやり直しの回数が40...... 5、6の頃だったか。

 達成感があった。

 やっと帰れる、という安堵もあった。

 

 その2つがあっても、納得できないものもあった。

 テスカトリポカも、ウェスコもニフラも、自分を庇って死んでいって、結局自分ができたのは彼らが削ったウルティモの体力をハイエナの様にゼロにしただけ。

 それに、彼等には死んでほしくなかったのだ。

 特異点での出来事は、修正されて仕舞えばそこに居た人やサーヴァントも忘れてしまう。

 今自分がやっている事はそれを考えると言葉で言い表せないほどのバカな行為だとは分かっているし、自嘲する程度には自分自身でも思っている。

 

 それでも、だ。

 もう自分は、彼等が死んでいるのに『助けてくれてありがとう』の一言だけでこの特異点から帰ることができないほどに、ニフラとウェスコの存在は心のスペースを埋めているのだ。

 ......考えれば考えるほど、人類最後のマスターの思考ではないな。

 使命も立場もかなぐり捨てて、何度も繰り返す。

 

 

 

 「行くぞ!!!」

 

 何度も。

 

 「行くぞ!!!」

 

 死んでも。

 

 「行くぞ!!!」

 

 壊れるなら壊れれば良い。

 

 「行くぞ!!!」

 

 ──どうせ壊れても、またやり直しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 何百になっただろうか。

 いつもの様にチャンバーチェックを行い、自分のやってきたことをすり減った心が忘れない様にブツブツと呟く。

 『ここはこう、こうなったらアドリブ、ああなったら......』と。

 ふらつく足で回避行動を行い、立ちあがろうとするも足に力が入らない。

 ああ、ここで終わりなのかなと俯く。

 もう少し強い心を持ってさえいれば、全員生存で生きて帰ることもできたのだろうか。 

 我が儘を通して折れてれば世話ないな、みんなに申し訳ない。

 出来なかったことを言っても仕方がないか。

 そう考えて倒れ込もうとした時、横から伸ばされた腕が死にかけの体を抱き起こして、暖かな体温が身体の側面に当たる。

 

 そっちの方向を向けば、諦める様子など微塵も無いニフラの輝く目。

 なにをするのかと困惑していれば、なんと自分の右手からマグナムを取り上げて慣れない手つきでウルティモに向けて引き金を引くではないか。

 轟音と共にカシャンとマグナムがその掌から落ち、痛そうに手を震えさせる彼女を心配すれば『大丈夫!!!』と一喝。

 同時に兄の真似事だと前置いて、そのおでこをこちらのおでこに当ててきた。

 数秒の後に離された彼女の顔は苦虫を噛み潰した様な表情で、その口からは犬の様な唸り声をあげている。

 

 「......君は何で、そういう重要な事を黙ってるの?!

 私たちを思ってやってくれたのは嬉しいけれど、それでマスター君が壊れてたら元も子も無いじゃない!!」

 

 驚き、狼狽える。

 まさか今の行動で心を読んだとでも...... いや、ニフラは一応神様だ、やれない事も無いはず。

 

 そんな動けない自分を抱え、ニフラはウサギが如くその軽い身のこなしでウルティモの連撃を避ける。

 

 「ここで、そのループを終わりにしよう。

 ()()()()()()()()()()!」

 

 そう言ってこちらに耳打ちされたのは、彼女がこの数秒で考えた急拵えの作戦。

 所々の拙い所は自分が修正しつつ、不確定要素込みでひとつの完成形を作り出す。

 

 回数を重ねた自分と、常識に囚われないニフラの思考の融合。

 テスカトリポカ、ウェスコに対しても作戦内容を共有し、自分も情け無い足腰に拳を打ち込んで奮い立たせる。

 

 「──やれるんだな、少年!?」

 

 やれるやれないでは無い、やるんだ。

 地獄から抜け出すための蜘蛛の糸を待つのでは無い。

 自分の足で抜けなければ、未来は無い!

 

 「で、その重要なブツはどこにある?

 抜くにしても正確な位置がなければ、オレでもミスをする。」

 

 「マスター君が言うには丁度心臓のとこ!

 取ったら私に投げて!」

 

 「注文の多いお嬢だ。

 ......ま、気張れよ兄弟、帰ったらココアで乾杯だ。」

 

 共有を終え、再度チャンバーチェックを行う。

 入り込んでいた小石を揺らして振り落とし、走って行く2人の背中へ向けて銃口を向けた。

 

 ウェスコがその肉体からは考えられない俊敏さで鈍重な右腕の裏拳を回避し、超至近距離からアサルトライフルの1マガジンを脇腹へと叩き込んだ。

 その一方でテスカトリポカは裏拳を空振った右腕を今まででも1番大きく切り開き、ウェスコから貰ったものと自分が渡した二つの手榴弾をその中に突っ込み、ニヤリと笑う。

 

 「兄弟!」

 

 1発、2発。

 経験どおり頭と腕── ではなく、膝を撃ち抜いた。

 体制を崩して復帰を遅らせることによって、この後の動きを制限する。

 3発目を放ち、いつもより少し遅れて手榴弾が起爆した。

 

 ポイントはここから。

 膝を撃ち抜いた事でウルティモは立ち上がれず、悶える動きもそこまでなはずだ。

 そこでテスカトリポカの出番。

 

 「シャアッ!!!」

 

 心臓近くに深く手を突き刺し──

 

 「チッ、そらよ!!」

 

 ウルティモの背骨が伸びるよりも早く、その腹から取り出された()()をニフラに向けて放り投げる。

 しかし、聖杯をキャッチすると同時にその華奢な体を純白の触手が貫く。

 失敗か、と頭に銃を突きつけようとしたその時、いつのまにか肩まで登ってきていた小さなウサギが頬を噛んだ。

 痛みに驚いていると貫かれたはずのニフラの体が小さなウサギへと分裂し、再結集して人の体を形作る。

 

 「魔力十分!

 私は因幡の白兎であり、かの帝釈天に身を捧げ月に昇華されし()()である!!

 人の信仰によって生まれし複合神性、名を二烽螺(ニフラ)!!!

 人々を癒し、邪悪を焼き尽くさん!!」

 

 その姿は神々しく、まさしく神。

 しかし振り返って見せたその微笑みは、変わる事のない優しげなニフラのものだ。

 

 巫女服の様な装束の袖からわらわらと現れるウサギは勇敢にもウルティモに取り憑いて行く。 

 ウルティモも抵抗するが、そのウサギたちは何がなんでも離れる事はない。

 袖から現れたウサギが全て奴にくっ付くと、彼女は力強くその腕を交差させた。

 その瞬間──

 

 「ガッ、アッ、ギャァァァァア!!!!」

 

 全てを焼き尽くす様な青白い大火がその身体を焦がす。

 

 「さ、行って!!」

 

 彼女から受け取ったバトンを手に、マグナムを正面へ構える。

 しかしウルティモも未だ生命活動を停止したわけではなく、自動反撃の様にこちらへ触手を伸ばした。

 だが、既に構えていたはずのマグナムは自分の手には無い。

 回避行動が遅れて脹脛を貫かれこそしたものの──

 

 勝利のバトンは、テスカトリポカの手に渡った。

 宙ぶらりんになりながら親指を立てる。

 

 

 「勇敢に戦ったのであれば、クズでも怪物でも構わない。 オレの冥界に歓迎するぜ、兄弟。」

 

 

 

 びちゃり。

 地獄はもう無い。

 英雄によるバイオテロは、自分の終わりないリレーは、終わりを告げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねー、本当にその足いいの?」

 

 ウェスコの呼んでくれたヘリに乗りながら、聖杯を手放して元に戻ったニフラはこちらの足を心配そうに見つめた。

 まあ、痛みこそあれそう気にする事ではない。

 むしろ怪我をしているのに特異点に送り出すカルデア職員はあまり居ないだろう、都合の良い休みの材料として使わせてもらう予定だ。

 それに。

 

 「それに?」

 

 このウサギは残しておきたかった。

 こう見えて可愛いものは好きだ、だから持って帰りたかったというのが本音。

 

 「ふーーん。

 ......ちなみにそれ、分裂してるとはいえ私だから。

 なんか変な事したら、どこかにいる私に情報が届いちゃうかもね?」

 

 変な事なんてしないので問題はない。

 ああ、よかったよかった。

 みんな生きてる。

 

 「......本当に、やり直してた事はテスカトリポカさんに言わなくていいの?」

 

 無言で頷き、窓の外を見た。

 これはあくまで自分の問題だと言うこと、個人的にあまり知って欲しくはないという事で、テスカトリポカに言うのは見送りとなった。

 ......まあ、言ってなくても知ってそうな感じはするが。

 

 「どうした? オレの顔にゴミでも付いてるか?

 ──ああ、そういや兄弟、()()持ってるなら貸してみな。」

 

 アレ?

 

 「カメラだ。

 せっかくの思い出、そこのお嬢と一緒に撮っておけ。」

 

 そういえばと思い出し、懐からチェキを取り出した。

 幸いにも壊れている様子はなく、少し斜め上に掲げて皆が入る画角でシャッターを切る。

 2回目の写真は仏頂面の者はおらず、皆が皆、その表情に柔らかさを見せている。

 

 ニューメキシコを抜けようと言う所、ついに時間が来た。

 特異点を駆け抜けた2人に軽い挨拶と深い礼を伝え、少しの寂しさを感じて拳に力が入る。

 そんな自分を見かねたか、ニフラとウェスコがあるモノを手渡してきた。

 

 ウェスコからはECTFの刻印だけが彫られたドッグタグ。

 ニフラからは......綺麗な赤色の石が入った、菱形のネックレス。

 石の中には十字星の紋様が見える。

 

 「人理とやらを救って暇ができたら、これに自分の名前を入れてサンフランシスコのステーキ屋に来い。

 美味いのを奢ってやるさ。

 ......そう言えば聞くのを忘れていたな。

 聞かせてくれるか、君の戦う理由を。」

 

 自分は...... 自分の役割が、消えた人理にあるから。

 自分の役割を帰って果たす為に、その為に戦う。

 誰に認められなくても。

 

 そう言うと、ウェスコはそうかと一言だけ返してゆったりと背もたれに体を預けた。

 

 「サンフランシスコで待ってる。

 あそこのステーキは美味いんだ。」

 

 

 

 「このネックレス、ずっと持っててね。

 本当の本当に、君の力だけではどうしようもなくなった時。

 誰よりも早く君の下に駆けつけるから。

 ......頑張ってね。

 新しい私の、最初の信仰者さん。」

 

 

 

 

 

 

 レイシフトから帰り、軽いメディカルチェックと足に包帯を巻かれて部屋に帰ってきた。

 ベッドに寝転がり、左の手首に巻き付けたネックレスを確認した後にとある本を右手に掴んだ。

 それはウルティモ── ジェフリー・アマーストの死体から落ちた、一冊の本。

 彼の日記。

 ふらふらと立ち上がり、それを机の上に置いてその日は眠る事にした。

 

 テスカトリポカが置いていったのであろうココアを飲み干し、暖かな身体を毛布とベッドの隙間に挟み込む。

 

 

 おやすみなさい。

 悪夢を見る覚悟は出来ている。

 

 

 

 

 

 

 

 累計死亡回数:108回

 

 continue? No/No

 

 

 








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