イケニエのニッキ   作:チクワ

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奈良にて

 

 ──また一つ、成長することの叶わなかった命が散った。

 種は花となる。

 卵は幼体となる。

 子は成長し、次代の子を育てる親となって成長という輪廻を回し続ける。

 

 だが今の世はどうか。

 次代を育む役目を持つはずの大人、親はその役目を放棄しては道楽や淫蕩に溺れ子らの成長を妨げる。

 成長を妨げられた子は歩き方を教わらなかった鹿のようにおぼつかない足取りのまま、正道を外れて無間地獄へと落ちる落ちる。

 

 血の涙が怒りの表情を伝い、迸る怒りは拳を固く握らせた。

 我は結論づける。 この地獄を終わらせねばなるまいと。

 たとえ自身に与えられた役目を抛とうと今ある成長を妨げる者たちを打ち払い、新たなる...... 理不尽な剪定の無い世界へと導くのだ。

 

 その為の第一歩として下界に降りる。

 我が血肉より創り上げるは新たなる世界へ至る因果を秘めた、新たなる人の子。

 赤裸々で生まれし者に人の子が編み上げた布を渡し、その頭を撫でた。

 赤い右目は未来を見通し暗黒の左目はこの世の因果を見る。

 

 「名付けよう。

 汝の名は──」

 

 

 

 

 

 

 この現状を憂いていた。

 国とは、舞台だ。 たとえその舞台から人が落ちようとも舞台自体が崩壊する事はなく、それ故に人の子らは生まれ育ち死に、また生まれることができる。

 それは人の子達の中で戦国、そう呼ばれた時代であってもそうだ。

 自身こそが天下統一にたる武将と言う傲慢な思考も元を辿れば国という舞台あってのもの。

 

 つまるところ、人は国の維持にその生を使い、我々はそれを見守る。

 それこそ至上の事であったのだが。

 

 今の世に生きる人の子が見るは国では無く自身。

 舞台に唾を吐き捨てるように外国へと飛び出し、失敗すれば都合良く帰って来て成功すれば国の文句を言って帰ってくる事はない。

 これは由々しき事態。

 

 加えてそのもの者達だけで無く、国土を汚染する者や外界に容易く売りつける者達。

 このままでは国という舞台は崩れ、その上にあった物全てが無に帰してしまうと。

 苛立ちに腰を上げ、宝刀を手に歩き出した。

 

 この国を守る事こそ我が使命。

 その為ならば外道にも染まろう。

 

 「この舞台こそ、我が守るべきものよ。」

 

 

 

 

 

 暗くて怖い。

 寒くて苦しい。

 

 艱難辛苦? 四苦八苦? 

 おそらくどれとも取れないこの苦しみは何なのだろう、自分はまだ生まれていないというのに。

 羊水の様な物に包まれていた体が輝きのもとに晒され、咳き込んで腹に詰まった水を吐き出しながら差し出された毛布で冷えた身体に刺すような風から肌を守り、『成功だ!』と自分のことの様に喜ぶ変な人達を背に抱えた優しげな方が手を差し伸べる。

 

 「名付けよう、汝の名は──」

 

 ああ、この方は自分の親であるのだろう。

 そう思ったのは彼が自分に名をつけたからというだけで無く、身体を構成する全てがかの方に惹かれていたのだ。

 同時に、何故自分をこの世に引っ張り上げたのか?

 それがどうにも疑問でならない。

 

 この方は力を持っている。  

 人ならば容易く蹂躙し、八百万の神々をどうあれ封じ込めるほどの知略もある。

 ならば自分の様な出来損ないなど必要ないでは無いですかと言うと、彼は手の甲でノックする様にコンコンとこちらの頭を叩いた。

 

 「我は未来を見る事は叶わぬ。

 無論因果を見届け、この手に掴むことなどもってのほか。

 ......それにお前には新しき世界に生きる子らの指導者となってもらおうと思っている。

 我はどうあっても人の子と同じ目線に立つことなどできん、それができるのは汝しかいないのだ。」

 

 そういう彼の優しい顔に陽光が重なり、胸がきゅうといったのを脳に刻み込む。

 自分は愛されているのだ。

 ならばその愛に応える事は子として当然のことであると努力を重ねる。

 最も新しく最も古い人類として。

 剣の扱いを学び、銃を片手に戦地を抜けて。

 

 立ったビルの屋上で部下から情報を聞き届け、マフラー越しに小さく微笑んだ。

 

 「とある人物が仲間となったのですが、その......」

 

 「ああ...... 以前聞かせてくれた彼ね、わかりました。

 ──さ、行こうか。」

 

 

 

 2015年2月6日にて特異点発生。

 

 特異点名、『四天結合領域 奈良・須弥山』

 

 

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