イケニエのニッキ   作:チクワ

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駆け引き

 

 「いや、こんな所でお前に会えるなんてなあ!

 この役目をやってて半年になるけど、こんなに嬉しい事は今までなかったよ!」

 

 道路を走るトラックの後部にてベトベトの顔をタオルで拭き、隣に座ってきた誠は未だぬめりが残る服を気にすることなくこちらの方を力強く叩いてはくっついてくる。

 汚いよ。

 

 「良いんだよ、どうせ戻れば着替えがあるんだ。

 ほらヒナもこっちこっち!」

 

 「ちょっと、私はあんまり嫌なんだけど......!」

 

 見るからに嫌そうな顔をして後ずさった日向を逃さない様に誠の腕が彼女の肩をガッチリと引き留め、ゆらゆらとこちらを巻き込んで揺れる姿を見れば本当に嬉しかったのだろうというのは心で理解できた。

 その様子を微笑ましく見守っていたマシュは一息ついた様子で盾を置き、3人の間にできたバリアの様な仲睦まじい姿に申し訳なさそうに口を開く。

 昔馴染みと絡んでばかりではいけないなと両手で誠の腕をどかして話を聞けば、『仲がよろしいのですね』と。

 

 その言葉に対して冷静さを取り戻したと思えば、誠はその辺に置いていた鞄の中から炭酸のオレンジを取り出してマシュに投げ渡す。

 どうやら炭酸であろうと何であろうと投げ渡す性格は変わっていない様だ。

 慌てながらキャッチし損ねたジュースを、横にいたシャルルマーニュが落ちる直前で手の中に収めたのを見届けてから彼はノスタルジーを表情に滲ませて語り出した。

 

 「そうだねぇ。 仲はめちゃくちゃ良い自身があるさ。

 ここ一年近くはこの...... あんた達的に言えばマスター? と会ってなかったんだが。」

 

 「というと......?」

 

 「あー、初めて会ったのが小5でね。

 その時俺の中でやっていた『辛気臭いヤツに話しかけようキャンペーン』で彼に話しかけたんだが、これがまあ運命の出会いで!

 キャンペーン中に話しかけていたもう1人の奴であるヒナと楽しくやらせてもらってたのさ。

 ま、話す事は大概アニメやらゲームやらと相場が決まってた。」

 

 「私と誠が中1の夏に転校して離れちゃったけどね。」

 

 「そうなんだよなー......

 ──あなた達が来たのは2016年なんだろ?

 どうだい、俺たちが居なくて寂しくなかったか〜?」

 

 急にこちらへ話が振られて驚きながら、顎に手を当ててこの一年寂しかったかどうかを考えてみたが......

 別にそんな事はなかった。

 楽しかった日々が元に戻るだけだったので物足りなさとかはなくて、『いつも通りに戻ったな』と思うだけ。

 そう告げると彼は心臓を撃ち抜かれた様にのけぞり、『冷て〜!』と大袈裟なリアクションを取る。

 ──あの頃のままならここで日向が背中を叩いて邪魔だと怒るのだが。

 

 「邪魔!」

 

 「痛って!?」

 

 うん、懐かしい。

 思わず笑みを浮かべて、心配しながら太鼓の様な音を奏でた彼の背中をさする。

 前言を撤回する様だが、こうして懐かしいと思うって事ならそれは自分にとって大切なひとときだったって事だし、もう一度考えてみれば寂しかったのかも。

 

 そうこうしていると走っていた車が止まり、運転していたおじさん達に誘導される様にして降りればそこにあったのは決して大きいとは言えないが物々しい雰囲気を滲ませる建物。

 入り口のガラス戸の横には2人の門番が銃を構えて立ち塞がっており、こちら側にいる2人が帰還報告をすると敬礼を見せてその扉を開ける。

 

 ただならぬ気配に唾を飲み込むと、ここまで見に徹してきたドクターが通話チャンネルを開いて口を開いた。

 

 『ここは......日本の東西における境界線、岐阜か。

 ついて来てくれれば分かると言ったから彼等には向かってもらったが、あなた方はここで何を伝えようというんです?』

 

 「ああさっきの...... そうっすね、あなた方の話をこちらのトップに伝えたら、直接話をしたいって事だったので。

 彼女に会えば大体この日本で何が起きているかは教えてもらえると思います。

 ただ...... ねえ。」

 

 『何か言い淀む様なことが?』

 

 うんうんと唸り始めた彼に対し、ドクターは少し強めの口調で問い詰める。

 少々厳しい様に見えるがこちらとしても命がかかっている、疑わしきはちゃんと知ってから判断すべきであるのは当然だ。

 するとこのままでは埒があかないと踏んだか、日向がドクターの映るホログラムの前に位地取る誠を横にどかしてこれまた冷たい口調でグレーゾーンを口に出した。

 

 「──正直に申し上げると、あなた方の立場から見て彼女を信じて良いのか分からないのです。

 司令は合理的な判断を下しますが、それは兵を駒として扱う様な状況でも変わることがありません。

 ......もしあなた方、というか(マスター)が駒として扱われて死ぬことがあれば私たちはずっと後悔することになるでしょうから。

 それ故に少々...... 末端からは『女豹』と呼ばれていますから。」

 

 『ふむ...... 君はどうする?

 サポートこそすれ、最後に決めるのはサーヴァント達のマスターである君だ。

 ここを拒否するでも、司令との会談に応じるも君次第だ。』

 

 少し考えたのち、アースさん達と軽いアイコンタクトを取ってからその会談に応じる事を彼らへ伝える。

 『いいの?』と最終確認を取られるが、ここで自衛隊的な部隊である彼らとの関係を断ち切って情報や何やらが入ってこない道を選ぶより、多少危険でも捨て駒として使われる可能性があっても、聖杯や元凶の情報が手に入るであろうこちらを選んだ方が良い。

 

 決めたものを変える事はない旨を伝え、誠に連れられて重たい空気の中を掻き分けていけば、そこにあるのは決して大きくはないがとても重い扉。

 それが心による重さなのか素材による重さなのかはわからない。

 ただ『扉が鉄のように重い』という事実がある。

 

 二、三度のノックが廊下に響いた。

 

 「第十部隊、牧原誠です。

 お伝えした彼らを連れてきました。」

 

 「......よろしい、貴方はここまでで構いません。

 そちらにいらっしゃるマスター、という方だけがこちら側へ。」

 

 「......彼は信頼にたる男です。」

 

 「信頼(それ)は私が決める事であり、貴方が決めることではない。

 下がりなさい。」

 

 「ですが──」

 

 扉越しに殴り合おうかという気迫を見せる誠を抑え、大丈夫だよ、と微笑んで見せる。

 熱くなった頭に冷静な言葉というのは随分と効いたようで、落ち着いた彼は周りを軽く見渡してからこちらの眉間に人差し指を刺し、笑ってすれ違った。

 去り際に聞こえてきた『何かあれば叫べよ』という言葉に小さく頷き、重たい扉を開ければその先にいたのは白髪の老女。

 

 その顔はまだ初老の女性を思わせながら、白髪になった長い髪は若年の人が多いこの施設で確かに彼女が歳を取っているという異端さを見せる。

 横にいる中年の男性に視線を贈られながら『どうぞ』と勧められたソファに着席した。

 

 重くのしかかる様な冷たい声が心を刺す。

 

 「......まずは、我らの部隊に対する助力に感謝を。

 市民の通報時点では一体であると聞き及んでおり、念の為3体にも対応できる人数で向かわせたのですが、敵は想定を超える力を持っていました。

 生きて帰ってきたのは貴方もよく知る2人だけですが、これは今後の戦闘において役立つ情報を持ち帰ってきた値千金の勝利と言えるでしょう。

 ......それで、あなた方の欲しているものは恐らくこの事態における元凶、およびその周囲に関する情報ですね?」

 

 見透かした様にものを語る彼女に警戒心を強めながら、あくまで冷静を顔に貼り付けたままそうだと返事を返した。

 既に彼らに話した事は伝わっているだろうから率直に言うが、この事態を引き起こしているのは聖杯と呼ばれる願望器を手に入れた者だろうと。

 自分達はその聖杯による異常を解決するためにこの場所に来た、出来る限りの情報が欲しいのは貴女の言う通りである。

 

 「しかし、私達からすればあなた方の言うサーヴァントも聖杯も夢物語の様なものでしかない。

 信頼していない。 そう言い換えた方がわかりやすいですか。」

 

 しかし自分達がそちらの兵士である誠や日向を助けた事は事実。

 そこに打算が存在していたとしても上辺であり、本質は善に還る人助の精神から成ったもの。

 敵であったとしてここまでの事をするだろうか?

 

 そう反論を言い切る前に鉄が擦れる音が鳴り、音の方を見れば最新式の拳銃をこちらに構える護衛の姿。

 

 「敵は何を使うのか、どの様な手段でこちらを滅しようとしてくるか。

 それが分かりきっていない以上、貴方が敵である可能性は捨てきれない。

 もしも怪物が彼らに成り替わり、その指導者である貴方と共にこの場所に来たとしたら?

 彼らが貴方に洗脳されてここまで連れてきて、内部から私達を破壊しようとする工作兵だったら?

 ......敗北した指導者は皆、その可能性を捨ておいたからこそ必然的に敗北した。

 私はその様な愚行を犯す事はない。

 貴方を信じさせてみたければ、その夢物語をひとつでも現実にする事です。」

 

 彼女がそう言うと同時に男の指がトリガーにかかる。

 ──だが、この目を彼女から離す事は決してない。

 焦ることはなく詰まることもなく、ただ淡々と返したのは『そうですね』の一言。

 

 引き金が引かれると同時── いや、少し早く。

 どこからともなく現れた華奢な手がハンドガンのバレルをスライドごと握りしめた。

 弾が頭蓋を砕くことはない。

 

 「──ほう、良いブツだ。

 しかし...... 戦士ではないお前が持っていては宝の持ち腐れか。」

 

 「貴様は?!」

 

 最新鋭と言えどもトリガーを引かねば弾など出るはずもなく、護衛は驚きと同時にそれを手放して隠し持っていたもう一つのハンドガンに手を伸ばすが、それより早く純白の刃が首筋に突きつけられた。

 一転して静寂が司令室を包む。

 

 「少し汚いやり方だが、動くなよ?

 動けば無事じゃ済まない。」

 

 「くっ......!」

 

 信じてもらえただろうか。

 彼女はため息をつくと懐から端末を取り出し、机の上に置く。

 

 「貴方の負けです、柏木。

 大人しく下がりなさい。

 ......詳細な情報はこの中に。 端的に言って敵の大半は武器を持たない悪鬼で毘舎遮(びしゃしゃ)()()()()()()と呼ばれるもの。

 鳩槃茶(クバンダ)の背に乗って襲い来る事もあるので注意される様に。

 

 そしてあなた方が求める元凶の名は──

 ()()()、加えて()()()

 我が国の四天王、その二柱です。」

 

 敵の大元の名を聞いて驚きながら、差し出された端末を手に礼をして部屋を出る。

 本当に、霊体化と言うのは便利なものだ。

 

 上手くできただろうかと2人に聞けば、返ってきたのは嬉しい返事。

 

 「悪くない。」

 「バッチリだぜ、マスター!」

 

 ──そう、なら良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「行きましたか。

 柏木、貴方も私の剣を名乗るのならば焦りを見せない様に。」

 

 「申し訳ございません......」

 

 「ですが、やはり情報を欲してきましたね。

 あの程度の情報で満足し、兵士として動いてくれる様ならば出し抜かれるのも悪くはない。

 あの情報を出してしまえば迷いが生まれるでしょうから。」

 

 「この先、如何いたしましょう?」

 

 「戦況の確認と......そうですね、隠密性に優れた車を。

 成すべきこと、やれと言われた事をして咎められてはたまったものではありませんので。」

 

 「了解いたしました。」

 

 

 

 「......兵士、指導者。

 そして......魔術師と使い魔。

 ──どこまで善戦できるか、退屈しなさそうで何より。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──では指導者様、我らは少し......」

 

 「うん、いってらー。

 いろいろ頑張ってね。」

 

 「有り難きお言葉...... では、失敬。」

 

 「ふぅー...... さて!

 あと、少しだ。」

 

 

 

 







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