『この特異点に来て数日、今日も前線での戦闘に参加こそするが最終到達点でもある持国天や増長天の情報は得られず。
しかしというか、やはり人間
先日も今日もこうして誠達の家に帰ってきてご飯を作る時間が結構遅くなっているのは、そうやってサーヴァントが切り開いた戦場で彼らに感謝とか尊敬を口にしにくる兵士達が多いから。
......マシュ含め、容姿端麗の人が多いのもある。
別に自分のところにそういう人が来ないのは気にしていないし、今日は我慢しきれないで外に出て、危険な目にあった少女から花をもらったからいいのだ。
結局を言えばこの世界は自分達の生きる世界ではない。
だがそれはそれとして、ああいういい子達が何を気にする事もなく公園で遊べる世の中になればいいな、とは思うが。
助けれて良かった。
そう言えば、この特異点に来た初日から戦闘においてアースさんが自分をよく守ってくれる様になった。
そりゃあマシュが近くにいる時はその頼りになる盾と後輩力で守ってくれているが、戦場というイレギュラーの舞台においてはそう上手くいかない時もある。
そんな時の為にカルデアで英霊達に回避方法とか身のこなしを教えてもらっているわけだが...... 弱体化している、そう言ったのは彼女だ。
どうにも無理をしているというか、何というか。
銃を使わないで後ろでどっしり構えていろ、と、まあ細かいところは違うがそういう事を言ったのも彼女。
その事でテスカトリポカと軽い問答もしていたし、シャルルマーニュの仲裁や誠と日向の視線がなかったら喧嘩になりそうだったし。
彼らサーヴァント3人とはマスターになった最初の方からの付き合いだし、自分が原因でアレになってしまうのなら自分で努力したいがコレはちょっと。
まあ時間もいいところなので、ここらで切り上げて夜ご飯を作ろうと思う。
今日の献立は...... チャーハンでいいか。
P.S.
音楽を最近聴き始めた。
音楽の授業と違って気分が上がっていい。』
「──私のチャーハンと違う食べ物じゃない? これ。」
「えっとその...... 日向さんのチャーハンも美味しいですよ!
それに料理は作る人の思いで美味しくなるから格好は二の次と、エミヤさんという方も言っていました!」
「ありがとうマシュさん...... あっ美味しい。」
「懐かしいな〜調理実習。
バーニングしてたもんな、日向自信の鮭のムニエル。」
「うっさいの!」
微笑ましくしばかれた誠としばいた日向を見ていれば、袖をくいくいと引っ張られ、見てみれば食卓をキョロキョロと見回してからこちらに視線を移したアーキタイプ。
飲み物が欲しいのかと見てみれば水の入ったコップがあるし、何か足りないものでもあっただろうか?
どうしたのか尋ねてみると、どうやら予想通りに
「......味噌汁は無いのですか?」
うーん、と少し考えるが、まあ今の時間から作るのはちょっと......
時間がかからないわけでは無いが材料も無尽蔵じゃ無いし、そう毎日飲んでいては好きな物でも飽きてしまう。
もしあの味が好きになってくれたのなら嬉しいが今は我慢して欲しいと伝え、付け足してカルデアに帰ったらいつでも作る事を約束する。
朝であれアースさんが望むのなら。
「──その言葉に嘘のない様に。
では、いただきましょう。」
納得した様で。
個人として、この交換条件で納得してもらえるのなら悪くはない。
自分も料理自体は好きだ。
材料が結束して新たな存在になってるみたいで、なんていうか好き。
......あと、何にしてもナマモノをそのまま食べたくないからやってるところはあるが。
昔にお肉を生で食べて腹を壊している都合上、ね。
満月だ。
皆が寝静まった夜、忍足でリビングに戻って椅子に座っては月を見てセンチメンタルに浸る。
どうにも今日は寝付けない、コーヒーを飲んだわけでも嫌なことがあったわけでもないが、ついつい月を見上げては自分が生き残るのではなく他の優秀なマスター候補が生き残っていたらと考えるのだ。
もう何度目だよ、と自分でも思うが、人というのは成り得ないifを追い求めてしまう物。
その選択肢があったという過去がある時点で、そう考えることから逃れる事はできない。
少なくとも自分にはそういう性がある。
......窓越しでは下半分しか見えない。
出来る限り音を出さないように窓を開けて室外機を足場に屋根へ登り、埃を適当に払ってゆっくりと腰を下ろす。
綺麗な月。
アースさんが月光浴を好むのもわかる。
ため息を吐いてリラックスして── そこに水を刺す様に黒い影が降り立った。
音もなく、ロングコートをはためかせて現れた異様な姿の人間。
ピシャーチャ等の化物でない事は確かだが、唐突に現れたその姿に警戒せざるを得ない。
立ち上がって後退りするこちらをよそに突如現れた彼は革手袋を外して白い指を露出し、こちらを指差して仮面に隠れた口を開く。
「──君は......」
何だ、『件のマスターか?』とでも言うようならそうだとしか言えないぞ。
対人間ならこちらにだって勝機はある、来るなら来い。
「いや、何でこんな時間に屋根の上で月見上げてるの?
変だよ?」
えっ。
「いや、外出るなとは言わないよ?
でもさあ......私みたいな敵が飛んできたらどうするの?
総司令が言ってたけどキミってサー......サーヴァント? の司令官的存在ならさ、もっと警戒心持った方が──」
2人で屋根の上に座りながら、延々と彼女から説教を喰らう。
確かに油断もしてたし気を抜いていたのは事実ではあるが、何もここまで長々言わなくても。
それにたまにはこうして物思いに耽る夜があっても良くはないだろうか?
カルデアに戻ったら床下に誰かいそうで怖いし、ベッドの下とか。
そうしてぶつくさと愚痴をこぼしていれば、彼女は一旦説教をやめて唐突にこちらの頭を脇に抱えてくしゃくしゃになる程撫でてきた。
「年相応〜!」
驚いてやめてよと抵抗するが、2メートル近い彼女の体から繰り出されるその力は自分では叶わないほどに強く、抵抗も可愛い物だと言わんばかりに頭を撫で尽くされた。
やっとこさ解放されて息を整えていると、さっきまでとは違いフレンドリーながら距離を感じる声で自己紹介を始める。
「いやいや、キミの話は聞いてるよ。
私はカド......加藤! 取り敢えず加藤って呼んでね、さん付けでもいいよ!」
話を聞いている、と言う事はこちら側の人間であるだろう、総司令の方から兵士皆にサーヴァントやマスターの存在が通達されていると言うのなら、彼女も戦場で戦う兵士。
しかし兵士と言うにはその体は華奢で、どちらかと言えば日向の方が彼女より強そうに見える。
「うんにゃ、俺は潜入するタイプ。
だから特別鍛えたりはしてないんだけど、この身長とかのせいでキミを抑え込めるくらいには強い。
もちろん銃の扱いもそこそこ!」
俺?
何か違和感を感じるが、それはそれとしよう。
......しかし、彼女から感じるこの視線は何なのだろう、とても怖いと言うか興味から来る何か── いや、近い!
瞬き一つしないメガネ越しの彼女の視線が目と鼻の先になり、思わず押し除けようとするが彼女の体が動くのではなく、情けないことに自分の体が押し出されてバランスを崩す。
やばいと思ったが時すでに遅し、体が屋根を滑り落ちようかと言うその時、彼女の手がこちらの腕を掴む。
命からがら助かった、と言うやつだ。
「いや、ごめん......ごめん? 別に私は悪くなくないかな、今の。」
心拍が落ち着いたことを確認し、確かに今のは自分が悪かったと謝る。
まさかこんなところで死にそうになるとは、やはり自分はサーヴァントがいなければ一般人か。
......いや、今は一般人に戻れている、そう思うべきだろうか。
すると彼女は何を思ったか、今度はこちらが驚いて落ちない様にガッチリと腕を掴んでからまたその顔を近づけた。
瞬きしないその黄色い瞳はメガネの奥で光り輝いている。
「キミが何を考えてるかはわかんない......ので、キミが何を考えてるかを知りたいんだよね。
サーヴァントって超戦力をどうして持ってるのかとか、キミがそうやって思い詰める顔をする理由とか。
まあ端的に、俺にキミが見てきた特異点の話をしてよ。
何にしても知らない事には信頼もできないでしょう?」
どこか安心する声だ。
まるで悩みを相談する様に、ぽつぽつと特異点Fからの話を大まかに伝えていく。
彼女は聞き上手で、赤ちゃんの様に無垢な表情がコロコロと変わっていく姿が面白い。
次はどんな顔を見せてくれる、どんな反応を見せてくれる?
話す方も聞く方も、気楽な時間だった。
いや、彼女にとって気楽な時間であって欲しい。
アメリカでの事までを話し終わり、ふうと一息を吐く。
アースさんの時もそうだが、何事においても心の中に秘めておいて吐き出さないのでは溜まっていく一方。
こうして解放する時がどんな事でも必要なのだろう── と、考えながら彼女の方向を見ると。
「キミは......」
メガネを外して、黄色い目から涙を溢していた。
何か彼女を傷つける様なことがあったろうか、調子に乗って話したのが不快だったか?
涙を袖で拭おうとすると、急に脇下に手を回されて抱きしめられた。
ロングコートの下に身に付けたセーターに押し付けられ、本当に何なんだと半ば呆れの意味も込めて抵抗するがさっきまでと違って送られたのは優しく、慈しむ様な声。
「すごい...... よく頑張ったね......
自分より上の存在に挑むって、たとえやらなきゃいけなくても実行に移せるものじゃない。
キミはもっと大切にされていい、子供なのに......」
......少し嬉しかった。
アースさんの言葉とは別ベクトルに心が安らぐ様で、これまでやってきた事に涙を流してくれる彼女の心の温もりを感じながら抵抗を緩める。
これまで自分の話を聞いてくれた現地人達はそれぞれの反応を見せていたが、1人たりとも自分の事を子供としてみる事はみんな無かった。
それはそれでその時は助かったが、カルデアでもそうそうなかったこうして抱きしめられてねぎらいの言葉をかけられると言う行為は、足に付けられた枷を溶かす様な暖かさ。
荒んだ心が侵入を許す程度に、彼女の行為は『善』として染み込んでくる。
──加藤......さんは、音楽とか聞く?
「うぇ? 聞くよ、ボーカロイドとか......」
「──結構いいね、邦楽も。
私はボーカロイドの最先端感に惹かれてこれしか聞いてなかったけど、邦楽もこれはこれで!」
自分も想像以上だった。
ボーカロイドというものに触れることの無い生活だったので、きっと彼女に会えなければこれを知る事はなかっただろう。
機械的な音声でありながらも作成者個人個人の個性が感じられ、千差万別な歌声は確かに耳の奥へ染み込んでくる。
次はこれを、と勧めようとするが、ふっと現れた眠気に攫われそうになって大きなあくびを見せた。
すると彼女は『かわい〜』と揶揄う様にして頬を突き、左手に付けていた黒い革手袋を持たせてこちらを屋根から下ろす。
「それは次に俺に会うためのチケットみたいな!
次はこう、友達ー......に、なれるっといいなぁー......」
言うか言わないかどちらにするかを迷って目を泳がせる彼女に対し、ああして話したのだからもう友達だと言えば、その目を輝かせながらこちらの体を抱きしめる。
......どうにも、身長差のせいで胸の辺りに顔がくるのが個人的にちょっと、窒息しそうで避けたくなる。
とは言え嬉しそうな彼女をみると、そんなことも言えないのだが。
「じゃ、また屋根で!
頑張ってね、私の1st友達!!」
そう言って軽やかに夜闇へと消えていった彼女を見送って、布団の中に入る。
自分のために泣いてくれた。
その事実が胸にずうっと、焼き付いている。
『帰ってくる様に。』
「はーい!
フフッ、友達!!」