自分には過ぎた事だったと、あの時から永遠に思い続けている。
中学でサッカー部に入った理由としては、大きめに言って自分の実力が全国でも中堅ぐらいはあると思ったからで、事実一年の頃から県のリーグで良いところまでは行けた。
だが、そこから調子に乗ってプロを目指そうとすると話が変わってくる。
仲間内の意識と自分の向上心の乖離、トレーニングセンターに招集された時に身をもって感じさせられた、上位層と自分の果てしない差。
それだけでは諦めなかったが、何処か...... いつ何日何時かはもうわからないが、何処かのいつかで、『無理だ』と思ってしまったのだ。
腐って沈んで、元来の性格を皆に好かれる気安い性格に矯正して。
果てにあったのがアイツでなければ、今頃俺はどこに居たのだろう。
だから
それどころか心の底から良かったと思う。
銃と剣から手を離し、闘争から離れて、俺は──
「こっちの意思は、
傷を舐め合うことを、辞めようと思うのだ。
明け方、日が登ってから時間も経たない内に起き上がり、既に手慣れた足取りで洗面所に向かう。
本日は先客もおらず静かに歯磨きができそうだと思っていた所、狙ったように端末の着信音という横槍が突き刺さった。
連絡先を見れば総司令官からの直通。
何事かと眠気を覚まし、ドクターとの通信を開いてから通話のボタンを押す。
深刻な声色が端末の向こうから聞こえ、それは電話が直通である事と合わせて事態の深刻さを示しているようだ。
『朝早くから申し訳ありませんが、ご容赦を。
明朝、西日本側を監視していた部隊より連絡が入り、福井方面よりピシャーチャ、鳩槃茶、そして報告にあった融合体の大群が迫っている、と。』
『この画像は......!
こんな数が雪崩れ込めば前線の崩壊は秒読みだ!』
「そうですね、素人でも解る程度には。
──言いたいことはこの現状、お分かりいただけたかと。 既に車は手配してあります、自動操縦ではありますが目的地に送り届けるのに問題はないでしょう。
作戦は追って。 では。」
端末をポケットに仕舞ってきた道を帰り、寝室へ向けて大声で『緊急事態』と叫べば飛び起きた様子の人間二人と既に起きていたマシュや英霊たち。
先程の状況を軽く伝えて準備を手早く済ませようとした時、今度は誠の電話がけたたましく鳴り響いた。
手早くそれを手に取って一度二度相槌を打つと、彼は一瞬表情を曇らせながらこちらを見てもう一度小さく相槌を打つ。
通話を切ってから大きなため息を吐いたかと思うと、こちらの肩を叩いて玄関へと向かった。
「......どうやら俺とヒナ、そしてマスターさんは別行動なんだと。
言わば俺達はカウンターとして西日本に入って、持国天と増長天達の居場所を突き止める。
あの女豹が言うにはそう言うことらしい。
じゃあ行くか?」
「ん。
......じゃあマシュさん、昨日の事は忘れないでね。
それじゃ、
「はい! ......先輩も、ご無事で。」
これまで何度も単独行動を生き延びて来た。
いや、生き延びて来たからこそ向けているのであろう、マシュの心配そうな視線にサムズアップを返し、上着の前を閉めてから玄関の扉を開ける。
......今日は何だか、空気がズッシリと重い。
「──柏木、車の用意は?」
「はい、既に完了しています。
......ですが本当に良かったのでしょうか、このような事。」
「貴方は、将棋の敗北条件を知っているでしょう?
『敵方による王将の奪取』こそが負けであり、最も避けるべき事。
この戦い、この戦争も同じ事でしかない。
駒は王を守る為に切られなければならない、勿論貴方も例外ではない。
さあ向かいましょう、
「ぬ...... 持国か。」
「今日も椅子にそり返って瞑想か? 増長。
退屈で仕方がないだろう、どうせ
「要らぬ、我はただ一つの使命に粉骨砕身で向かうのみ。
此の道に色は必要なく、情や情けを持ち心を揺らがせれば、
玉座の様な座敷に座って瞑想に勤しむ者の前、格を同じくした者は身振り手振りで味わった女の良さを力説する。
快活、そして軽薄な言動の奥にある瞳から光が発される事は決してない。
「へえへえ。 我も試してみたが人の子も悪く無かったがね。
よく鳴きよく感じ、そして何より美人だ!
......此の国を穢した事を考えれば、憎悪しか湧かんが。
にしても、だ。
本当に同僚だったか? アイツら。」
「無駄口を叩く暇があるのか?
争いに関しては汝に一任している、防衛網突破の行動は既に察知されているぞ。」
「わかってるよ、お前はそこでそり返っていりゃ良い。」
持国天はノリの悪い増長天に笑みを返し、大広間から廊下へと向かう。
その道すがらに会った
「姫様、風呂入ってるかい?
身だしなみ整えなくっちゃあ男は振り返らんぞ?」
「問題ありません、お気遣いなく。
......それよりも進行中の彼らに支援を、サーヴァントは持国天様の想像よりも強力です。
時間稼ぎにすらならないかと。」
『へえ、退屈しなさそうだ』と肩を回し、人の女と遊ぼうかとでも思っていた持国天は踵を翻して外、下界へと向かう。
その隣にはいつのまにか現れた増長天もおり、自分の言葉では動かなかった彼に対してからかいが飛んだ。
「おいおい、我の誘いには乗らなくて姫の願いは聞き届けるのか? 幾ら娘みたいなものだからって贔屓が過ぎるぜ、増長!」
「汝は勘違いをしている。
これは全てを円滑に進める為に必要不可欠な事象だ、故に我が出る。」
「おーよく言う! そもコレだって姫様の進言だろうが!
......さて、
南の神...... サーヴァントってのは退屈しなさそうだ── なっと!!」
「ぬん!!」
持国天は宝刀を、増長天は戟を。
各々人の子に振るうには強大すぎる力を持ち、天空に聳える山の様な居城より跳躍する。
ここは奈良、国宝興福寺南円堂上空。
国の端々から霊脈を集結させて天空に新世界を作り上げる、終の場所。
「......私もやるべき事をやらなくては。
一人だ。 あの因果を切れるのは、私だけだ......!」
また別方向から飛び出す指導者が一人。
ロングコートをはためかせ、岐阜へと向かっていく。
おじいちゃんが死んだ時、私を守ってくれる人はいないんだと悟った。
おばあちゃんが死んだ時、安心できる場所はもう無いんだって絶望した。
歌手になりたかった、幸せになりたかった、普通に生きる──
普通に生きると言う普通の願いすら、不必要な非日常に叩き壊されて、『
辛くて、辛くて、辛くて辛くて辛くて。
この場所で傷を舐め合っても何も変わらなくて。
──でも、ここに貴方が来てくれたから、私も誠も自分の道に這い上がれたのかもね。
そんな優しい貴方のために
でも、どうせなら──
「私も彼と変わらない。」
幸せになりたかったじゃなくて、『幸せに生きた』って、思って欲しいじゃない?
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