ガタゴトと、何故電車に揺られているのだろう?
その理由は数分前に遡る。
誠の乗るバイクに乗せてもらいそろそろ岐阜を抜けようかという頃、急に車両が止まった。
どうしたのかと周りを見渡してみれば、止まったのは人通りのまるで無い小さな駅。
人は居ないが、元より無人駅だった様で問題なく改札等は動いている。
後から来た日向に何故駅に?と聞いてみれば、彼女は何を言うよりも前に白い仮面を渡される。
「車両だとすぐにバレるから、ここからはあっちでも使われてる交通機関で行こう。
その為の着替えも持って来た、武器は最小限になるけど......」
......仮面如きでは何にしてもバレるのでは?
「割とバレないぜ?
専門家のお墨付きだ、安心して着替えて安心して着けるといい。」
ならばいいが。
貰ったシャツとジャケットに袖を通し、穴が無いのに呼吸も視界も良好な不思議仮面を顔面に取り付けて改札を潜り抜けた。
改札に入るのは2度目だが、この感覚は悪く無い。
まるで別の世界への扉を通り抜けた様で。
......というか、この仮面は紐とか無いのに何で顔から落ちないのだろう?
──と言うわけで、電車に乗っている。
左右には誠と日向がおり、何事も無く高校に行っていればこんな帰り道もあったのかなとありもしない未来に思いを馳せた。
そんな事を考えていると電車が駅に停車し、扉が開──
「......焦るな、座ってろ。」
驚いて立ちあがろうとした時、腕を両側から掴まれてそれを阻止される。
しかし心拍は上がり続ける、その理由はゾロゾロと入って来た人型だ。
ドアが閉まり、車掌の掛け声で発進する。
両腕を掴まれ、先程の様な事をしない様に拘束される。
マイルドなものであるが、友達である彼らを強引に振り払ってまでそうしようと言う気にはなれない。
自分がこれだけ焦っている中彼らはどうしているのかと言うと、腰のホルスターに収納した銃に興味津々な子供を『ダメだよ』と騒がしくしない様に手振りで諭している。
その様子を見るに、初めてでは無い様だ。
何故、どうして?
疑問符が頭を駆け巡るが、答えは出ない。
次の駅に着いた。
また扉が開き、今度は元気そうな子供が一番乗りとでも言わんばかりに入って来ては、段差で躓き転げそうになった。
思わず左右から掴まれた手を振り払い、その子の頭が地面とぶつからない様落下の衝撃から庇う。
やはり子供といえど頭は重く衝撃を受けた腕部には痛みが残るが、それすら掻き消すほどの拍手が嫌味や妬みを抜きにして自分の元に降り注ぐ。
......いつもならば恥ずかしながらもペコペコとしていただろうが、今回はそんな事をする余裕はない。
感激に包まれた車両と隔絶する様に俯き続けていると、庇った子供から花を差し出された。
純粋な感謝から渡されたそれを震えてで受け取り、『ありがとう』と全てを理解して返した。
「〜〜♪」
喜んでくれている......らしい。
言葉がわからないもので雰囲気で理解するしかないが。
あっという間に終着に辿り着き、電車を降りて賑わう街を行き、辿り着いたのはビルの中にある空きフロア。
右手にはさっきの子供からもらったタンポポがあり、少し遊んだのだろうか、くっついていた綿毛が先に歩いていた誠の肩にくっついた。
彼らは無言のまま空を見つめており、何も言ってはくれない。
乱れる呼吸の中で自分を保ちながら、誠の腰から何故か新しくなっている最新式拳銃を奪い取って距離を置き、銃を構える。
彼らはゆっくりと振り向くと剣を抜き、日向は取り出した銃を誠に手渡した。
仮面を地に落とし、見えた表情は二人とも見た事がないほどに優しそうな顔。
「どうだった? この場所は。
多少なり驚くことがあったとして、悪くない場所だろう?」
何を言っている?
「銃を下げてくれとは言わないさ。
ただ、少し話を聞いてほしい。 ......お前は自分の過去を隠しているつもりだろうが、俺とヒナはもう知ってる。
お前がここに来る数日前に長野の町に行ったから。」
だからどうしたと言うのだ。
何故ここに連れて来た、そう聞いても彼は優しく悲しげな顔をするのみ。
答えは出ない。
「知った上で俺はお前を。 ......親友だと思っているお前を、このままの運命、因果に進ませたく無かったんだ。
だってこのまま行けば、お前は──」
「やめろ!!!」
感情を抑えきれず、大声で叫ぶ。
怒りでもあり焦りでもあり、信じたいと言う願望からくる声だった。
彼は小さく頷き、会話の方向を変える。
「......ごめん。 お前も見ただろう? この街の賑わい、笑顔の子どもたち、正しく誠実に導く大人。
これが俺たちの見たかった
人として?
おかしいだろう、ならば誠や日向にはアレが人に見えていると言うのか?
電車で入って来たのも。
花をくれたのも。
この街で生活しているのも!
全員、
彼らは怪物だ、人を食べるし襲うし殺す。
その街で暮らせなどとふざけた事を──
「彼らが襲うのは基本的に恐怖からだ、誠実では無く成長を阻害する大人達を根源的な恐怖とし、自らの子たちをそれらから守るために命を賭して戦っている!!」
じゃあ誠の母親も、サッカーの仲間も!
日向のおじいちゃん達もそうだって、誠実じゃあない成長を邪魔する人たちだって言うのか!?
「そうだ!!
それに...... あの人達は元を辿れば怪物じゃない。
日向。」
彼は剣を逆手に持ち、地面に立てる杖の様にして俯く。
もうこちらの手は震えているし、涙をこぼさない様にするのが精一杯。
──その上、彼女が次に何を言うのか分かっていながら、違う違うと否定し続ける事しか自分にはできない。
「......ごめんね。 電話で来た指示は嘘だったけれど、コレは嘘じゃなくて真実。 代わりようのない真実だから。
ピシャーチャ、鳩槃茶。 彼らは新世界に対応するために増長天様が作り替えた肉体。
つまり彼らの元は──
私たちと変わらない、人間なの。」
つまり
つまり自分は人を撃ち殺したと
誠を助けるために撃ったあのピシャーチャも、姿形は異形であっても人だった
あの時他のピシャーチャが逃げたのは、仲間が死んだから
......でも、正当防衛だった。
そうだ、そうじゃなきゃ──
「もういいんだよ。」
そう呟くと同時に、誠と日向は手に持った武器を地に落として無防備な状態となり、こちらに歩いてくる。
胸が高鳴り、息は不揃い。
「こっちの意思は、
俺たちはお前に、幸せになってほしいんだよ......!」
「私も彼と変わらない。
一緒に行こうよ、もしあの姿になるのが嫌なら増長天様に頼むから! だから...... もう私達を1人にしないで。」
近づかないでと懇願しても、彼らは歩くのをやめない。
指が震える。
トリガーガードの内に指が入る。
やめろ。
「お願い!」
やめろ!
「この手を取ってくれ!」
「やめろぉぉぉぉお!!!!」
戦闘中、ふと隙間の空いた頭で考える。
日向さんは先輩に酷い扱いをすれば、カルデアを敵として見る、そう言ったはず。
そして今朝、さよならと。
いつもならまたねと言うはずの彼女がさよなら?
何か違う気がしたのです。
一度疑問に持てば、全てがささくれの様に引っ掛かるのはシャーロックホームズを愛読していたからでしょうか?
あの夜、待っていたかの様に現れた日向さん。
それに...... 恐らく、誠さんが通話のフリをしていたあのスマホは!
足を止め、通信を開いてドクターに聞く。
「ドクター! 先輩は今どちらに!?」
『──すまない! 岐阜を抜けたあたりでジャミングがかかって位置情報が見えないんだ!
......出た、滋賀のとある街にいる!』
行きたい、今すぐにでも行きたい!
でもここで退けばこの後ろにいる人たちはどうなる?
これは究極の二択でもあった。
民間人を助けるか、特異点修復の重要なピースでもあり私にとっても大切なマスターのところへ向かうか。
歯を食いしばって盾を持ち上げ、通る様に声を張り上げて叫ぶ。
「アーキタイプさん、シャルルマーニュさん、テスカトリポカさん!!
先輩にイレギュラーが起きました!!!」
私は後者を選んだのです。
ビルの上を飛びながら、先へ先へと気持ちを逸らせていると、頭上より物体が飛来する。
それは『あぁ〜......』と怠そうな声を出したかと思えば、警告無しで刀を振り下ろす。
盾で受け止めた隙をテスカトリポカが咎めるが、脅威的な身体能力と速度で飛び退き、けたたましい笑い声を上げた。
どうやら逆方向のアーキタイプさん達の方にも現れた様で、やまない剣戟の音がこちらまで聞こえてくる。
「あっちが気になる? 人の子。
安心するといい、増長天の方が我より強い。
......申し遅れた、我は持国天。 まあ知ってるか!」
「と言うことは、貴方が......」
「そ、汝ら人の子が倒すべき、特異点の元ってやつさ。
いやはや、南の神というのは全てが鋭いな。 まるで割れた黒曜石の破片が如く!」
「光栄だ、オレとしてもその太刀筋を闘争の中で味わいたいものさ、東方の神格。
──だが、今は少し急いでいるところでね!!」
「やはり退屈せん! 感謝感謝だ姫君よ!」
少しの問答の後に英霊と神格がぶつかり合い、強烈な火花が散る。
しかしまたも、今度は闘いの渦を吹き飛ばすかの様に二つの物体が持国天を吹き飛ばした。
片や槍を、片やボロボロの巻き物と筆を持ち、泰然自若な様子で目線を目の前に向ける神格を見て持国天は豪快に笑う。
「──おっとこれは如何な了見?
人の子で言うところの、数ヶ月ぶりと言うやつか!
なあ、広目に多聞!!」
「変わらず喧しい
我ら二人も何が何やらサッパリよ、ただ分かることは一つ! 貴様を止めねば人の子の未来が死ぬる事!!」
「......盛り上がるのはいいけどぉ〜、僕の巻き物ズタズタなんですケド!? もうやだ、タブレット欲しい......」
「決まらんなぁ広目。
......そこな盾の女子!」
ビシ、と音が聞こえる程の勢いで刺された指に恐縮し、思わず背筋を伸ばし気をつけをして返事をしてしまう。
その様子を見て、多聞天らしき女性は嬉しそうだ。
「行くべきところがあろう! 増長も抑えておく、全て終わったらばいつもの変える場所に戻れ!
わかったな!?」
「は、はい!!」
「して、どうやって復活した?」
「分からんと言っておるのだが喃......
なんだ持国、まさか
「......や、あの女豹もいい手土産を残して逝ったものだ、とな!」
「女豹...... 女豹、とはちと違う喃。
──天女よ。 広目は増長と始めている、こちらもやるよ、持国!!」
「本当に退屈せん!!」
とあるビルの一室。
膝をついた男が一人。
血塗れの服、傷ついた仮面。
その傍には冷たくなった肉塊が二つあり、男は壊れたレコードの様にその肉塊の名前を呼び続けていた。
「嘘......」
「マスター、すまねえ......」
「......どうあっても、そうなるのですね。」
「戦士としてではなく、友として逝ったか。」
すでに終わった光景だ。
駆けつけた四人はただ見ることしかできない。
今更何をしたところで、こうなってしまったと言う事実は変わりようがないのだから。
力無く呟く。
「──ころした...... 誠を、日向を......ころした...
ぼくが...... 僕が、殺した。」
薬莢が、カラカラと地面を転がっていた。
感想よろしくお願いします。