イケニエのニッキ   作:チクワ

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生贄と力

 

 「色々分析した結果〜、増長持国両方が奈良のある場所にいる事が分かったよ。

 阻む者が居なくなったから、新世界とやらの建設を急ぐだろうね。」

 

 「ならば奴らを仕留めるためには今、行くしか無いわね。

 ......さっきはすまぬ事を言った、カルデアのマスターよ。」

 

 大丈夫だと多聞天に気を使わない様返事を返し、長袖のインナーの上にモッズコートを着て前を閉めた。

 居場所がわかった上に恐らくそこにあるらしい巨大なエネルギー源が聖杯であり、奪い取るべき物。

 ゴールが見えたのなら走り抜けなければ終わらせることはできない。

 

 家を出ようとドアノブに手をかけた時、忘れ物をしたと思い出して踵を翻し、机の上に置いていたある物を手に取る。

 右目側にヒビの入った仮面。

 日向の物だ。

 

 未練がましいと笑えば良い、幻影にうつつを抜かしていると蔑めば良い。

 これは自分が永劫に、この特異点でやった事を忘れないために彼女から受け取る罰の楔だ。

 包帯で巻かれた右目が隠れ、表情の見えない人間と化す事に躊躇いはない。

 玄関を開けるとドアのすぐ横でテスカトリポカが壁に寄りかかってタバコを蒸し、まるでこちらを待っていた様に左手の剣をその場に置いて背を向けた。

 それは誠の残した剣。

 鞘から抜けない様丁寧かつ力強くそれを掴んで、奈良へと向かう。

 

 「......決着をつけると言うのなら、オレはそれを喜ぶだろう。 例えそれが戦士らしくあるものか、戦士らしく無い付け方であろうが、ね。

 ──行くぞ兄弟、オレもジャガーの戦士(オセロメー)の闘志が抑えられん。」

 

 小脇に抱えられ、日本のビル群を飛ぶ。

 世を照らす明朝は、既に地平線より這い出ていた。

 

 

 

 

 

 「──増長天様、少し席を。」

 

 「構わぬ、我らも来る異邦の魔術師を食い止める為、出陣をせねばなるまい。

 勝利への準備は万全にするが利口よ。」

 

 許可を貰い、自室へ戻って手袋を外した。

 片方だけの物。

 もう片方は道を違えた親友の手の中── いや、もう既に捨てられているだろうか。

 未来は不確定だ、捨てられる道もあれば大事に守ってくれている道もまた、未来には存在している。

 ならば私は後者に賭けることとしたい。

 手をかざし、ある事が作動する様に刻印を。

 

 「......治療に、集中の術。

 それと最後にふたつ合わせる事で見れる── 遺言を。」

 

 

 

 

 

 

  

 「先輩、到着しました。」

 

 『ここが増長天、持国天の本拠地である奈良か......

 あの塔に聖杯の反応がある、おあつらえ向きだがピシャーチャ達が出てこないうちに──』

 

 「あー、それは無理だね。」

 

 広目天が上を見ながらそう呟いたと同時に、先日の増長天が現れた時の如く天から流星が降る。

 それが地上に降り立つと同時にこちらを斬り殺さんと刀を振り下ろすが、ギリギリの所で広目天の魔術でできた様な半透明な壁がそれを防ぎ、事なきを得る。

 増長天にも負けない大男は朝に出すようなものではない笑い声を上げ、刀を構えた。

 

 「おうおう、変わらず良い防御だなぁ広目!!

 ......さて、お前達を通すわけにはいかんのよ、ここで死んでもらえると助かるが── なぁ!!!」

 

 今度は刺突で来るが、広目天はタブレットの画面にタッチペンで何かを描くと、弾力のある壁を作り出して弾き返す。

 

 「やらせないよ。

 ......マスター君、先へ。 ここは四天王が一人である広目天に格好をつけさせてほしい。

 いいかな?」

 

 勿論と返し、塔へ向かって走り出す。

 ここで止まっていればかえって危険だし、あの広目天の目は覚悟を決めた者の光を宿していた。

 扉は無く、階段を駆け上がる。

 

 

 

 「いい格好をするねぇ、我ら随一の根暗が。

 それも人間に触れる内に得た心の温かさってやつか? それを信じて戦った結果、あの女豹に封印されたと言うのに!」

 

 「悪いが持国、僕としては人の子という広いものを守る為にこの場にいるわけじゃあない。

 むしろ汝と同様に人間なんてどうでもいい、そう思っている方さ。」

 

 「ほう?」

 

 「......僕はたった一人のために戦っているからね。

 その子以外の人間はどうでもいいんだが、彼女が笑顔でいるためには人を守らなきゃならない。

 だから君をここから通さない。 例え負けても、だ!」

 

 「そうかい、じゃあその子の為に死んで見せなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 「マスター、ここは俺と姫様に任せて先へ!」

 

 「止まらぬ様に。 止まればすぐに追い詰められます。」

 

 やはり塔の中はピシャーチャや鳩槃茶、誠達と一緒に倒した融合体などが多い。

 シャルルマーニュ、アースさんに後ろを任せ、一気に最上階へと辿り着く。

 そこにいた2人の力はとてつもないものだと肌で感じ取り、鳥肌と共に重圧が体全体へと襲いかかる。

 

 「来たか多聞、異邦の神、そして人の子らよ。

 我が相手をしよう、この場でその命を散らす事を許す。」

 

 「増長天様、(マスター)は私が。

 目を奪った因縁が有りますので。」

 

 「っ......! 先輩、後ろへ!」

 

 そう言って前に出たマシュを抑え、こちらに向かってくる彼女の方へ自分も歩き出す。

 距離にして1メートル未満の間合い、先に仕掛けたのはこちらの方。

 三連の回し蹴りを仕掛けるものの下段上段と続けて回避され、最後の中段は容易く受け止められてまるでボールを投げるかの様に、浮いた体を壁に投げつけた。

 背中から激突して息も出来ないが、すぐに立ち上がってカドモンに走っていき、あの夜の様に全力の拳を頬へぶつける。

 

 しかし彼女は微動だにもせず。

 お返しと言わんばかりの軽い右ストレートは着けていた仮面を弾き飛ばし、自分のうめき声を掻き消すようにカランカランと高い音を奏でた。

 

 吹き飛ばされ、傍観していたテスカトリポカの足元で血を垂らす。 彼女の目は愚かな者を見るようであり、その表情にも苛立ちが募った。

 どうすれば勝てるか、倒せるか。

 これまでの経験から考える。

 

 サーヴァントに任せれば勝てるだろうが、それは嫌だ。

 なら自分でやらなきゃいけないが、やった結果が今の通り。

 どうする。

 

 「......キミが、俺に勝てるわけ無いじゃない。

 サーヴァントにすら勝てないんだから。」

 

 うるさい。

 サーヴァントに勝とうなんて思ったことはない、こちらはカドモンに勝てればそれでいいのだ── 勝てればそれで。

 何を費やしてでも...... ()()()()()()()()()

 

 ......この手があったと立ち上がり、テスカトリポカの手を取って腹部右側にそれをつける。

 表情が大きく動くわけでもないが確かに驚いた様子の彼── いや、アステカの全能神にある願いを告げた。

 

 「テスカトリポカ神、自分の腎臓を片方捧げます。

 サーヴァントに勝てなくてもいい、今回限りでも構わない。

 ()()()()()()()()()()()()。」

 

 「......ほう。」

 

 心臓は無理だ、死ぬ。

 だから片方無くなってもセーフな腎臓を生贄に捧げて彼に願う。

 

 「先輩、それは......!」

 

 『君は何を言っているんだ?!

 サーヴァントと同等かそれ以下の存在なら彼らに任せればいい! 君が危険に飛び込む必要は──!』

 

 彼は笑い、マシュは焦り、ドクターは止める。

 しかし辞める気は毛頭ない、これは覚悟だ。

 

 テスカトリポカは掴んでいた自分の手を払い、固く握手を交わして上機嫌に語る。

 

 「フフ、悪くない提案の仕方だ。

 今回限り、サーヴァントに勝つ力ではなくあくまで目の前の者と戦える力。

 そう言うが、そもそもアレは弱い英霊となら勝てる女だ。

 事実アレと戦える力と言うのはサーヴァントに勝てる力と変わらん。」

 

 見透かされていた。

 しかしここに驕りはない、その上で騙したわけでもない。

 ただ心にある物を吐き出しただけだ。

 

 「交渉成立だ。 アステカの神、テスカトリポカとして捧げられた生贄の対価に授けよう。

 ......力を得たからには勝て、兄弟。

 ()()はその後だ。」

 

 ズシリと重たい衝撃と共に、腹の中に喪失感が芽生える。

 きっと腎臓の片方が彼の手に渡ったのだろう、ならばと彼女に向き直った。

 

 「......汝は指導者として生き残る役目がある。

 アレがかつての友だと語るならば── 勝て、カドモン。」

 

 「ええ。 ......お父さん。」

 

 テスカトリポカやマシュ達は増長天と。

 カドモンは自分と向き合い、緊張が走る。

 

 コートを脱ぎ、互いに横へ投げ捨てて剣を鞘から抜く。

 

 「やろうか。」

 

 「うん。」

 

 鞘を投げ捨て、それが地に落ちた時──

 

 

 「うおぉぉぉ!!!!」

 

 「ッ!!」

 

 彼女の銃から2発の弾丸が撃たれ、それを人の範疇を超えた反応と力を得た剣で逸らして接近し、銃を蹴り飛ばして鍔迫り合いに持ち込む。

 心は遠い。

 しかして殺し合いとなれば、近づくことはできる。

 

 決戦の幕は、幾重にも重なった覚悟の下に切って落とされた。

 

 

 









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