袈裟斬りを体捌きで避けられ、刀身を踏みつけると同時に彼女が横に振った切れ味鋭い真紅の刃をしゃがんで空振らせると同時に剣を離して華奢な足につかみかかる。
足を取って倒せれば僥倖だったがそううまく行くはずもなく、彼女も剣を天高く放り上げて逆にこちらへ足を絡め、地面に手をついたバク転の形でフランケンシュタイナーか繰り出された。
しかし咄嗟の行動だったからか足の絡みが緩く、そこをついて足での拘束を外し逆に勢いを利用して着地。
そのままカドモンの両足を掴み、先程のお返しに放り投げた。
だが決定打とは成らず、壁に重力があるかのように横に着地すると、膝を思い切り柔らかく使って衝撃を吸収。
攻防はあれど、互いにノーダメージのまま。
さっき彼女が投げた剣を自分がキャッチし、逆に自分が手放した剣を彼女が手に取ってまた向かい合う。
馬鹿正直な正々堂々と言われるかもしれない。
だが、それでよかった。
これはもとより心を折る戦いでもあり、殺し合う戦いでもある。
正面から卑怯な手を使わずに勝つ事で心を折る事も、その延長線上で殺してしまう事も許された戦いなのだ。
たしかこの時代に増長天達が進行してきたのが5ヶ月前。
その時から彼女が修練を積んでいると言うならば、それは自分がシャルルマーニュやローランに剣を師事した時とほぼ同じ。
ここに先程蹴飛ばした銃を2人とも取りに行かない理由があり、心を折る戦いの理由がある。
非常に
でも今は会話せずとも繋がり合い、2人して同じ行動を取る運命的、因果の様な理由となのだから、自分たち2人はそれを変えることはないだろう。
今度はまるでフェンシングのような突きの応酬。
弾き、フェイントを繰り出して意表をつき、それを防いでカウンターに動き。
反応と先読みが支配する二人の空間、そこには横で繰り広げられている怪獣大戦争の様な戦いの音はなく、ただ息遣いと剣戟の音色だけ。
しかしそこに焦りを持ち込んでいたのはカドモン。
彼女は魔眼を持つ。
右眼はほんの少し先の未来を見通し、左眼は因果を見通し貫く力を秘める。
この戦いにおいてもその力は健在であり、敵の未来を見てはそれを潰す行動に徹して
しかしその未来と今起きている現実に、だんだんと齟齬が生まれ始めていたのだ。
しかもそれが防御されると言うひとつの物事に対する事ならばやりようもあったが、これは彼からの攻撃にも影響アリ。
ジンジンと痛む切り傷に疑問符を浮かべながら、優位のはずな戦場において同等の戦いを繰り広げる。
「ふっ!」
未来を見通し、そこにあるはずだった彼の隙を突くが、その剣先はまたも空を切る。
なぜ? どうして? と疑問ばかり浮かんで次の行動を考えるための脳内スペースが圧迫されていることに焦りを抱き、何度も何度も頭をリセットしようとするがうまくいかない。
一度や二度ならば疑問に思うことはない。
人は何気なく生きていたとして、基本的には因果に縛られた生活を送る。
その中でたまに起きるラッキーな事。
100円玉を拾った、行く予定のなかったところに来たら欲しいものが売っていた、など。
それらは生活の中で、
私はこの運命とも言える因果が導いた未来に従い、彼に勝つ為に剣を振るっている、はずなのに。
「っ、どうして......?!」
一旦距離を取り、疑問を脳内から喉へと出力する。
人にできる因果の切断、それは例え運が良くても一度二度を超えることはないはずなのに。
目の前の彼はそれを幾度となく繰り返しているのだ。
思考しても答えに辿りつかない現状に苛立ちが募る。
「何で...... キミに未来は見えないはず!」
服の所々が切れ、血を流す彼は左目を擦り、ただ一言言い放った。
「──こちらは現実しか見ていない。」
またもぶつかり合う。
野球で例えるならヒットは出てもホームランは出ず、得点が入らないような現状。
俺だって現実を見ている、その上で未来を見通し行動を起こしているはずなのに。
緊張と苛立ちが汗を垂らした。
その汗が右眼に入り、剣を持たない方の腕でストレートを放とうかと言うところで思わず目を閉じてしまう。
しまったと後悔したところで遅い、当たる未来の見えない拳が前へと進み、カウンターを受ける覚悟を──
と、思考した時。
拳に柔らかくそして硬いものが当たった感覚が広がり、目を開ければ彼の顔面にストレートが入って吹っ飛ばしているではないか。
喜ぶこともできず困惑しながら、取り敢えず剣を握る。
「何で......」
「......まだ、終わって無い......!」
一撃を入れた側だと言うのに彼の瞳に見えた私の顔は困惑に満ちていて、情け無い── いや、瞳?
彼の瞳がこちらの顔を反射するとしたら。
俺の瞳も、彼の顔や姿を反射するはずだ。
もしその反射した姿が、
仮説は立った。
試しに剣を振り下ろす彼の目の前で右目を閉じ、反応だけでそれを防御して見れば驚愕。
弾いてバランスを崩され、脇腹が無防備になった彼がそこにいたのだ。
驚きと納得を足に込めて蹴りを叩き込めば、血反吐を吐いて転がっていく。
つまるところ、私は一歩先に立って読み合いの立場にいたのでは無い。
彼の幻影を見下しながら、横にいた彼を見ずに戦っていたようなもの。
情け無い。
何が指導者、何が因果を見る!
今も見れないで、誰を導くと言うのだ!
怒りに任せて剣を地に突き刺し、彼に向き直った。
「増長天様......いや、お父さん。
ごめ......ん゛ッ!!」
右眼を引きちぎり、もう未来は見えなくなった。
増長天様の怒りがこもった声が聞こえてくるが、それは今どうでも良かった。
この戦い、いやこの喧嘩。
私が指導者では無く人間として、私が私として生きれる数少ない時間なのだ。
「カドモンッ! 何をやっている!
汝は──」
「うるさい!!!
......ごめんね、私はキミと同じ土俵に立ったつもりだったのに、全然だった。
だからこうして...... 俺も現実を見ようと思うんだ。
未来は先取りするものじゃ無くて現実を見た先にあるものだって、キミが教えてくれたから。」
右手に握った問題の眼をテスカトリポカ神に投げ渡し、清々しい気分で天を見上げる。
「眼、お願いします。」
「そうかい、選んだのはその未来か。」
テスカトリポカ神は足の鏡で未来を見ると言う。
なら、私の考えを見て理解してくれたのだろうか、その懐に眼をしまう。
なら、迷うことは無い。
一歩、二歩。
これで土俵は同じ、どちらが勝ってもおかしく無いし、勝者は敗者を好きにできる。
彼は私を殺すだろうか?
殺してくれたら......後腐れもないが。
「──これは特異点の行方を決める戦いじゃあない、ただキミと私の喧嘩だ!!
私は......俺は! キミの存在に心奪われた者として、キミに勝つ!!」
「......やってみなよ、こっちだって負けられない......!!」
「「──うぉぉぉあぁぁぁ!!!!」」
剣と剣、体と体が血のシャワーを降らせながらぶつかり合う。
絞め、殴り、蹴り、切り。
互いの持てる全てを吐き出して因果を結ぶ彼らの戦いは、戦士の叫びを纏いながらヒートアップして行く。
足を切りつけて膝をついたところに手加減など無い拳が叩き込まれるが倒れることはなく、逆に低い角度のパイルバンカーの様な掌底が腹を貫き。
鍔迫り合いの中で殴ろうとすればそれを皮一枚で避け、反撃に肉を削ぐ様に噛み付く。
それは語った様に、昇華された子供の喧嘩。
殴り合ってボロボロになりながら互いに距離を取り、折れた剣先を手に両者突進の体制に入る。
届いた刃が貫いたのは、互いに胸では無く肩、並びに足。
私は腿に突き刺さった刃の鋭い痛みに膝を突き、彼は左肩からだらだらと血液を流して力強い拳が右手に見え、その拳を振り上げて頭蓋を砕くに足る速度でその力が振り下ろされようとした。
──ああ、終わりなんだと目を閉じる。
未来が見えない不安や恐怖より、現実、今を見る幸せを噛み締めることができたのは喜ぶに値することだった。
それを教えてくれた彼には心よりの感謝をあげなければ。
とは言え、ああ。
絶交に近しい形でサヨナラは、寂しい。
「......?」
風が吹いて、なお意識が消えない。
どうしたものかと恐る恐る瞼を開けば、同時に体全体に重みが乗って思わず体を後ろに倒す。
何事?
その答えは左目からすぐに入って来て、彼がラリアットでもするかの様に自分を巻き込んで倒れたと言うのが答えであった。
押し除ける力すら無い現状に不満は無く、出し切った末のコレ、だったのだろう。
「無理、無理だ。
もう殺せない、
泣きそうな声で言った、優しい彼の言葉に気が抜けてぐでんと地面に手を広げる。
何だ、そっか。
「......私の一人相撲だったんだね。
──負けだぁ。」
痛みに耐えながら足の剣先を引っこ抜き、二人三脚の様に彼の肩に手を回して立ち上がって増長天様に目を向ける。
どこか悲しげなその表情に向けて、私は私、俺は俺として答えるのだ。
「ごめんなさいお父さん、負けちゃいました!」
「......汝は、そう、そうなのだな......」
親不孝な娘だろう。
でもこれが私の成長だから、仕方ないわ。
それに、親子だからこうして言葉を交わせば分かってしまう。
「増長、子の親になる事を選んだのなら、汝自身があの子の成長を止めるべきで無いことはわかっておろう?」
「......」
お父さんはきっと、私が嫌だと言えば辞める方の人。
その為に今西日本を埋め尽くすほどのピシャーチャ達を元に戻す方法も一応、残してある。
そうなってくるとこの特異点も終わり、きっと
寂しい......。
と、センチメンタルなわけでも無いのにそう考えていた時。
視界の端にキラリと光るものが見えた。
右目があれば見れた方向、いわば顔を回転させなければ見えない死角。
それは非常に見覚えがあると同時に死の因果がまとわりついたもの。
思わず彼を突き飛ばした。
「危な──」
逆袈裟に体が裂かれ、血飛沫が舞った。
見覚えのある笑顔に宝刀の輝き、倒れ側に見えたのは、消える自分の因果。
ああ、逃れ得ないこれこそが。
「何をしている......! 持国!!!」
「