イケニエのニッキ   作:チクワ

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駆け足です








 

 地べたに這いつくばる者、天に立つが如く悠然と見下す者。

 はっきりと別れた明暗の中で、広目天はたった一つの北極星の様に輝いた無視できない疑問を頭に浮かべる。

 

 そもそも広目天を擁する四天王それぞれの間に実力差は存在しない。

 それゆえに前回英霊達の元へ救援に現れたときも持国天と同等に渡り合っていた訳であるが、何故か目の前に佇む者は自分を遥かに超える力を有している。

 

 「何故、それ程までの......!」

 

 「──()()()()()()()()()()()、単純明快だろう?」

 

 「ぐ、まだ......」

 

 持国天の言うことを間に受けるのならば、その実力は人を文字通り喰らう事で魂の様なモノを吸収して強くなったと言う事。

 『とんだ悪食』と憎まれ口を叩くことすらできないまま立ちあがろうと力を込める背中に足が乗せられ、圧迫感と共にまた地面へと押し付けられる。

 逆光で見えづらい表情ではあるが、それが憎たらしい邪悪な笑みは見ずともわかることだった。

 

 しかし広目天の目から光が消えることは無い。

 守るべき者、天に座する身でありながら愛した人間がいるからである。

 彼女がいる限り灯が消えることは──

 

 「そうそう、汝が愛した女、なぁ。

 ──()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「──貴様ァァァァア!!!!」

 

 「はっは! 腹ん中で再開できるだけ良しと思うんだな?!」

 

 

 

 

 

 

 場面は戻り、塔の頂上。

 階段にて襲いくるピシャーチャ達を蹴散らして駆け上がって来たシャルルマーニュ達が扉を開けば、そこにあったのは地獄の様な状況下。

 というよりは混沌、カオスと言うべきだ。

 

 マシュは壁際まで吹き飛ばされ、そのダメージは深く。

 彼女の役目、その代役として警戒を強めるテスカトリポカが守るのはカドモンを抱えて声を掛け続けるマスター。

 ──そして、宝刀に腹を貫かれた増長天と槍を受け止められている多聞天。

 

 「俺はマシュを!」

 

 「ええ。」

 

 シャルルマーニュにマシュを任せ、何はどうあれ大きな戦力である多聞天を失うわけにはいかないと消耗の残る体を動かして救援に向かうが、その行為に対して帰って来たのは前方位に振りまかれる様な怒りを含む怒号。

 足を止め、その背に映る覚悟を感じる。

 

 「来るな、惑星の頭脳体よ!!!」

 

 「そう、さな! 今はそこな盾の子を!」

 

 「おいおい良いのかい、助けを拒んじゃあノータイムで喰うだけだぜぇ!?」

 

 そう言うと深いな笑みを浮かべる口角がさらに吊り上がり、多聞天の槍は折られ蹴り飛ばされ、遂にその手が増長天へとかかる。

 だが、不思議なことに彼のその目は絶望や怒りに支配されておらず、視線の先に映るマスターに対して優しい意志を送るのみ。

 

 「楽しかったんだぜ、本当に。

 増長との友情ごっこはよ!! 腹ん中で広目と合わせてやるから、大人しく受け入れな!」

 

 「──そうか、つまるところ広目はまだ意志を持っているか。

 ......ははは、そうか持国、どうやら汝の力が強まったところでその心根は治りきらないらしい。 それが敗因だ。

 カドモンよ。 ()()()()

 ......悪かった、またいずれ。

 ──カルデアのマスター! 後は任せよう、人の子としてこの理不尽な世を生きて成長してみせい!!!」

 

 刀の先から増長天が取り込まれ、目視でわかるほどに持国天の魔力量が上昇する。

 いくら霊脈が豊富で強化弱体化と合わせてプラマイゼロの場とは言え、これを相手取るのは手強いと言える様な状況下。

 復帰したマシュと共に並び立つが、彼女も次の攻撃を防げるかどうかはわからない。

 

 すると横にいた多聞天が全てを理解した表情で一歩前に進み、自信満々と言った表情で槍を回し、ニヤリと笑う。

 

 「......何か策でも?」

 

 「いんやあ、無い喃! ──だが、想いを託すことはできよう。

 此より先の戦闘、例え盾の子とてニ撃は受け止めること叶わん、できうる限り回避行動に徹して隙をつけ。」

 

 「は、はい!」

 

 「それに── 何、これでも戦を司る四天王の一角。

 腹の中で一丁先人と暴れてみるとしよう、汝らの昔話と言うところの一寸法師だ喃!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐっ......うぅ......」

 

 起きた喜びと喋れば傷が開くだろうと言う不安に包まれながら、礼装の救急治療能力で彼女の傷を治療する。

 しかしそれでも血は止まらず、だんだん握り続けていた彼女の指先が冷たくなって来ていることに焦りと因果の無慈悲さを感じていた。

 カドモンは全てを察した様な顔をして天を見上げた後、こちらの頬に手を触れさせて首を振る。

 

 「もう良いよ、私の身体は私がよくわかってる。

 ......もちょっとキミと話していたかったけど。」

 

 その現実は自分の目で見るべきだ、適当な理由をつけて死のうとすることは許さない。

 彼女の言葉を無視して治療を続けながらそう言い放てば、カドモンは自重する様な薄ら笑いを浮かべて視線をテスカトリポカに向けた。

 何事だと彼に聞くが、彼の視線も目の前の女性にしか向いていない。

 雰囲気で分かることだ、コレは自分も関わってくること。

 しかし彼らはそれをこちらに教えてはくれないのだ、できる限り傷つけたく無いから、と。

 

 「確かにじぶんの目で見るのは大事だね。

 ......だから、お願いします。」

 

 「OKだ、心臓を貰うが構わないだろう?」

 

 「ええ。」

 

 何の取引か、何なのか。

 それを激しく問い詰めようとすれば、先手必勝とでも言わんばかりに口に銃を突っ込まれる。

 驚いて冷えた頭でテスカを見れば、いつ何時よりもまっすぐで鋭い目をこちらに向けているではないか。

 彼が神である、その理由がわかる重圧を含んだ言葉が発された。

 

 「──戦士が敗北を受け入れ、想いを託す。

 オレは戦士であれば誰であれ評価し、褒美を取らす事は知っているだろう。

 その褒美に嬢ちゃんが選んだのが、『お前にこの右眼を移植する事』だと言う事だ。

 勝者ならば受け入れろ、戦士である前に友だと言うなら尚更に。」

 

 そう言って右目側に翳された手は暖かい。

 

 「......ああ、みんな。 

 そっちに行くね──」

 

 テスカの手が離されると同時に右手に握っていたモノがするりと抜け落ち、そこにあったものが消えていく。

 向こうではアースさん達が戦っており、多聞天は吸収されて苦戦の様相を呈し始めた。

 辛さは現在進行形だ、それでも歩く必要がある。

 モッズコートを拾って着込み、仮面も拾い上げようとしたところで視界の外から拳銃と手袋が差し出された。

 それはさっき蹴飛ばしたカドモンのものであり、右手に着用しギチギチと音が鳴るほどに強く握りしめ、真っ直ぐ敵を見据える。

 

 「使い方はわかるな。

 ......やってみせろ、兄弟。」

 

 勿論。

 ひび割れて右目だけが露出する仮面を着け、その目、その瞳孔に青の輪っかを映し出し。

 目を見開いて、今をキミと見続けよう。

 

 

 『ぐうっ、おっ?! 

 何故、何故力がまとまらぬ?!』 

 

 『『『我らを腹に入れたところで、黙る者と思うたか!!!』』』

 

 戦いの最中、極度の弱体化を見せた持国天。

 その原因は先程喰らった広目天達であり、その腹の中で意思を持って暴れていたのだ。

 

 『──チャンスです、畳み掛けます......!』

 

 マシュ達が連続攻撃で攻め立て、あと一歩と言うところ。

 ここで唐突に持国天──いや、人の形を外れ神とも言えなくなった姿であると加味して、『四天持国天』と呼ぶ。

 四天持国天は飛び退き、ある物を取り出す。

 

 『馬鹿どもがァァァァア!!』

 

 霊脈の魔力を特殊な方法で固めて作り出す四角形の塊、霊脈石だ。

 あまりに唐突な行動にカルデアメンバーは動けずにその使用を許し、完全回復した四天持国天にジリ貧で敗北する── と言うのが、今自分が右目で見た未来。

 因果の先にあるモノ。

 

 右眼から走った痛みにふらつくが立ち直り、銃を構える。

 良くて2秒から3秒先までしか見えないがそれでも十分。

 

 構えたのはハンドガンのFN57(ファイブセブン)

 とあるマシンガンの相棒(サイドキック)であり、あり得たかもしれない自分とカドモンの関係でもある。

 黒く光るボディに走る赤のラインが輝いた。

 

 「馬鹿どもがァァァァア!!!」

 

 未来が来る、最悪な運命を引き連れて。

 ──されど人はその運命、その因果を力と意思を持って否定するのだ。

 それを振り翳すのが、例え神であろうとも。

 

 『──引けるよ、さあ。』

 

 引き金を引くと同時にガスブローバックの様な音が広間に響き、次の瞬間狂いなく持国天の手首を吹き飛ばしてその手に掴んでいた霊脈石な転々と転がっていく。

 

 「人の子、如きが! 我の邪魔を!!!」

 

 変わった未来の中、叫び声と共にいく千本の針が襲いかかるが、自分の見通すものもやる事も動く事はない。

 一本の針が覆い隠していた仮面を吹き飛ばして砕くと同時に、赤黒い球体が彼を包み込む。

 その背後からは幾度と無く色を変える聖剣が将軍姿の冒険者によって振るわれようとしていた。

 

 「山の心臓、煙る鏡、天と地を所有する者。

 ──第一の太陽、ここに死せり!」

 

 「この輝きで、灼き尽くす!『王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣』!!!」

 

 太陽と光が交差した時、その跡に残るモノは何も無い。

 それは神とて同様である。

 

 「ああぁぁ...... いや、ダメだ、我がいなくなったら国はどうなる。

 どうしてだ、何故、何故......」

 

 塵として消えていった彼の体から落ちたのは聖杯。

 マシュが回収したのを確認し、ホッと胸を撫で下ろしてため息を吐き、その場にへたり込んだ。

 

 「聖杯、回収完了です。

 ......帰りましょう、先輩。」

 

 兵どもが夢の跡。

 きっとここも、人理修復が終わる頃にはただの奈良県に戻っているんだろう。

 それでも彼女がいた事が消えるわけじゃない。

 自分の目として、変わらない今を二人で見続けよう。

 

 

 

 僕の今で、君が満足してくれます様に。

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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