イケニエのニッキ   作:チクワ

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因果の先

 

 『帰還して最初に行ったのは、いつもの様にアスクレピオスの診療所。

 日常的な怪我や病気はドクターがやってくれるが、特異点で負った傷なりなんなりはこうして彼らが診てくれる。

 カドモンの目...... いわゆる魔眼は相当なモノの様で、いつもより細かく調べられたせいでもうヘロヘロだ。

 それと、カルデア職員の人当たりが優しくなった様に感じる。 ......いや、優しくなったと言うよりよそよそしくなったと言った方が正しいのだろうが、ドクターが言うに皆デリカシーのない発言は控えている様で。

 

 それとして、特異点から持ち帰ったのは四つ。

 左右の手袋、カドモンの使っていたFN57。 あとは誠のモッズコートか。

 手袋には魔術礼装に搭載された治療機能とはまた別の治療術式が搭載されており、加えて集中力を上げて銃の狙いをつけやすくする物まであると至れり尽くせり。

 コートにも防弾防刃が施されていて、尚且つ暖かい。

 ......感謝しなければ、カドモンやあちらの誠達に。

 さて、感謝もそこそこに夜ご飯を食べに行かなくてはならない。

 右眼の未来視はメガネをかければ問題ないと言うことを未来視の先輩であり先日召喚した項羽に教えられたので、シグルドと一緒に選んだメガネを装着していこう。

 知的で良い感じだ。』

 

 ──とは言え、メガネというのは必然的に眼精疲労を誘発する。

 頭に乗せたニフラに目頭を押さえてもらいながら適当な窓際に座り、右手の手袋を懐から取り出して装着することとした。

 回復の術式は疲労も取るらしく、帰還してすぐに試してみればその後すぐに走り回れるほどの回復力。

 眼精疲労なんて1発だろう。 ......クールタイムの関係上、24時間に一度だけだが。

 

 月に背中を照らされながら装着した時──

 

 『キャッ?!』

 

 視界が一度闇に包まれた後、草原の中に放り出された。

 見るからにカルデアの中では無く、しかし誰かからの攻撃の様な悪意は感じずそれどころか優しさが頬を撫でる。

 きっとこれは誰かが見せた夢幻、誰も傷つけない優しい世界。

 気のせいかニフラもでかくなり、胸に抱える程度のサイズ感になっている。

 可愛いぬいぐるみみたい。

 

 『ンニーッ......!』

 

 恥ずかしいのか逃げようとするが、抱き心地がいいので逃がさない。

 この手触りならテーマパークでマスコットも出来るのではないか? アースさんもこれにはニッコリだろう。

 そうやって楽しい夢を過ごしていれば、背後から柔らかな重さがのしかかった。

 首に回された手に触れ、しかし決して振り返る事はない。

 

 「こんばんは、それともおはよ?

 ......これは遺言で、キミの声が私に届く事は多分ないから、一方的に話しちゃうね。」

 

 「......アナタ、モシカシテ......」

 

 「あ、うさぎさんにはバレるか......

 しー、まだ内緒。」

 

 自分が言えたことではないが、秘密主義は褒められたものじゃあない。

 出来れば言って欲しいが...... 遺言という事は生前彼女が残したモノ。 この声が届く事はないのだろう。

 ニフラの存在を知るのも、右眼で未来を見たからだ。

 

 「まずこれは、俺の手袋を同時に着けると一度だけ見れる夢。 だから聞き逃さない様に。

 キミの持ってるFN57だけどリロードが要らない、何せ増長天様の骨からできているから、マガジンから弾が成長して作り出されちゃうんだ。

 神性も入ってるからサーヴァントにも効くかも?

 

 二つに、右目の事。

 使い過ぎれば痛くなるし、オーバーヒートして使えなくなればクールタイムが必要になる。

 それでも使おうとすると...... 右眼は力を失ってしまう。

 だから気をつけてね。

 ......こんなとこかな。」

 

 遺言と言うには余りにも淡白であり、業務連絡の様な淡々とした事象の羅列が終わる。

 それはこの夢がもう終わることを意味しており、同時に彼女の存在が消えることを示していた。

 

 「それじゃ、私はキミの悪夢を壊しに行かなきゃだから。

 そうそう、あとね──」

 

 

 

 風が吹き、飛ばされる様な感覚と共に現実へと帰ってくる。

 隣にはいつの間にかアースさんが座っており、その肩に乗せて寝ていたのであろう頭を緊急で退かした。

 少し両の手袋に視線を落としてからいつもの様に微笑み、失礼な事をしたと謝罪するが、彼女はどこか不機嫌なまま。

 

 手のひらサイズに戻ったニフラはこちらの頭から彼女の手元に飛ぶと、悲しげな表情で目線を向ける。

 

 「貴方はあの花火を楽しめるように、この天文台においても美しい物を美しいと感じ、悲しみを悲しみとして受け取れる者のはず。

 もしいつも通りにある事が私への礼であり、彼女への手向けとするならば間違いでしょう。

 ──泣きたければ泣く様に。 その程度で崩れる世界ではないのですから。」

 

 

 

 満月の夜、その光を受けて輝く雫が一つ二つ。

 地面に落ちては花火の様に弾け、一時の夢幻かの如く乾き、消えていく。

 夢の中にいた友に見えた、最後の現実(いま)でもあった。

 

 

 

 

 

 『──言いたい事は伝えたか、増長の子。』

 

 「......はい。 彼の先に会える事がないのは不満ですけど、それはそれで。

 貴方様にも手を借り、申し訳無く。」

 

 『何、奴の子であらば我の子も同然。

 願いを無碍にするわけにもいくまいよ。

 ......そうさな、ならば体を借りたい。 近々来るであろう天地を別つ戦いにお前と言う入れ物を借りたいのだ。

 無論、礼は用意しよう。 どうか?』

 

 「条件次第で。」

 

 『はは、強かよ。 それでこそ人の子。

 ──そうだな、まず......』

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 拳の甲ではなく底の部分を使い、寝ているテスカトリポカを起こす様に扉を叩いた。

 どうやらまだ寝ていなかった様だ、何をしに来たか理解した表情で彼が扉を開けると、『ああ』と一言納得した相槌を見せてある物を手渡してくる。

 

 それは眼。

 カドモンの左眼、因果を見通す瞳だ。

 

 「念の為だ、オレも同行しよう。」

 

 こくりと頷き、誰もいない廊下を歩き始めた。

 ニューメキシコの時を思い出す。

 

 何故こうしてテスカに目をもらったかと言えば、遺言の中で聞いたカドモンの最後の願いを果たすため。

 同時に真っ白な未来を変えるためでもあるのだ。

 

 『──このまま未来に進むと、恐らくキミは死ぬより辛い真っ白な世界で戦う事になる。

 それは望むところじゃないでしょ、私もキミも。』

 

 メガネを外して右眼でカドモンの目へと視線を送れば、示されたのは一筋の道。

 『因果を変える』と言う未来へ辿り着くため、彼女の左目が教えてくれる最短の道だ。

 右手に銃を、左手に眼球を。

 側から見れば気持ちの悪い状況だが、当人は死ぬほど真面目な事を理解してもらいたい。

 

 『因果は線でもあり点でもある。

 どこにキミの運命を変える因果があるかは、右眼で未来を見ながら歩けば自ずとわかってくるはずさ。

 ......でも、それをしたからって幸せエンドに辿り着くかどうかは運、でしかない。』

 

 

 線で導かれた終点に辿り着き見上げてみればそこにあるのは疑似地球環境モデル・カルデアス。

 そこの周りに見える7つの点と2つの線こそがこれからの運命を決定づける因果であり、地球が真っ白になる原因。

 ゆっくりと右手を上げ、手袋の機能である集中力強化を使用し視線をそれらに向けた。

 

 『その上で因果を意図的に砕くって事は、大小あれど寿()()()()()

 良くて一年、事象が大きければ二十年とお父さんは言ってた。

 ......だから、コレをするかどうかはキミに任せる。

 眼はテスカさんに渡してあるから。

 ──キミが、幸せに生きていけます様に。』

 

 彼女の願いを反芻し、流れる様に7つの点に向けて弾丸が射出された。

 それら一つ一つはまるで法則がない様に壁に当たるが、自分の視界には星屑の様に消えていく因果が確かに映っている。

 最後の点を撃ち抜くと同時、強烈な倦怠感と眠気が体を襲った。

 ......割と、疲れるのだな。

 

 「お疲れさん。

 この眼はこっちで潰しておく、それが嬢ちゃんの願いだ。

 ......ま、ミクトランパに来る様だったら歓迎するまでさ。 今は安心して眠れ、兄弟。」

 

 慌ただしく通信を慣らすドクターからのメッセージを拒否し、彼の胸に体を預けて瞼を閉じる。

 ──ああ、うん。

 自分もいつか死んだのなら、ミクトランパのどこかへ行きたい。

 そこで彼女と一緒に、風の唄を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「......兄弟は寝てる、代わりにオレが要件を聞こう。」

 

 『そうかい...... もし起きたら伝えてくれ! 本当にありえない、奇跡みたいな事だが......!

 ──A()()()()()()()()()と!』

 

 

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