島にある霊脈にマシュの盾を置き、本来ならば今頃カルデアにて行なっていたであろう召喚の準備を進める。
さて、ここは第三の特異点。
レイシフト前に見た地図にはカリブ海近くに印がつけられていた事からその辺りにいるのだろうが、いかんせん周りにあるのは島、海、また島。
そのせいで現在地がとてもわかりづらいという嫌な場所だ。
正味、早々に霊脈地を見つけられたのは僥倖と言っていい。
......召喚というシステムは、言うなれば過去に何かの偉業を成した、もしくは恐ろしいほどの悪行を行った英雄たちを呼びつけるモノ。
もとより失礼50%のシステムではあるが、最近そんな召喚という行為に思っていることがある。
──ガチャガチャみたいで、少し楽しい、と。
本当に失礼な事だ。
実際、アースさんにその事を茶の席で相談したら大変呆れた様子で『思っていても絶対に口から出すな』と言われる始末。
どうにも娯楽とは遠く離れた人生を送ってきたせいか、そのあたりにある『何が出るかはお楽しみ』なものに弱い。
ウワサに聞く福袋とかもちょっと欲しい。
......とは言ってもだ。
『カルデアからのバックアップOK。
召喚いつでもウェルカムだ!』
細かなバックアップは通信の向こうにいるドクターに任せ、自分は数回目の手慣れた様子で盾の上に石を置き、さらにその上へ令呪の光る手をかざす。
ここは特異点、ならば楽しむ気持ちは必要無く、ただ今は雀の涙の様な戦力でも欲しいと願うばかり。
三つに増えた光輪も見慣れたものだ。
光の中から現れたのはどこか気安く、どこか荘厳なモノを感じさせる黒いスーツ。
英霊と言うにはあまりにも現代的なその格好はマシュ、並びに自分にも衝撃を与え、サングラスの向こうに見える瞳はその身なりとは対照的に野生や闘争を求めるソレだ。
右手に構えた奇妙で物騒な形状の
「よう、アンタがマスター?
想像よりも小さいが...... 戦士であることに変わりはない、よろしく。」
こちらも右手を差し出して固い握手を交わすが、きっと今、自分の顔は分かりやすく難儀な顔だろう。
初対面にする顔でない事はわかっているのだが、どうにも......どうにも納得がいっていない。
冷静さを欠こうとしている。
『想像よりも小さいが......』
別に小さくないし?
これでも中学のクラス背の順は後ろの方だ。
クラス人数は15人ほどで、男女混合の時はという条件付きだけど。
そんな事を考えているのがバレたのだろう、握手しているサーヴァントの口角が上がり、『悪い悪い』と仕方なしに謝罪を行う。
ハッとしてそのサングラスを見、反省する。
自分の身長は決して小さくないが、これから契約してもらう立場のサーヴァントに気を使わせてしまったのは本当に恥じるべき事。
笑みを浮かべながら自身の言動を訂正する彼に、大変申し訳ないと気を使わせたへの謝罪を行うが、彼はツボに入ったかの様に笑うだけだ。
「──ハッ、これでも神としての威厳には自信がある方だったが......
あそこまでのガンを飛ばしてくるとは、クソ度胸か?
まあいい。 アサシン、テスカトリポカ。
オレは
他人とのお喋りってヤツが一番好きなんだが…… 安心しろ。
実は戦いも大好きなんだ。 そう気負うな。 楽しくやろうぜ、マスター?
......どうした、まだ何かあるってのか?」
思った。
インテリはインテリでも、インテリヤクザでは?
「意見か?」
感想です。
『1573年 カリブ海(の、何処か。)
特異点修復も3度目となり、そろそろ慣れと油断が意識せずとも心に生まれ始める頃だ。
油断は死。
慢心は毒。
人類最後のマスターと言われても結局はポコって殴られるだけで死んでしまう様な、ひび割れた卵の殻の様な人間。
これから敵としてぶつかり合わなければならないであろうすごい英雄、ヘラクレスになんて一撫でで殺されてしまうのではないかと思うと、少しだけ身震いしてしまう。
現在同行しているサーヴァントはマシュ、シャルルマーニュを含めたカルデアの四名。
及び特異点にいたフランシス・ドレイク、ダビデ、エウリュアレとアタランテ、アルテミス。
敵は二転三転し、現在はイアソン率いるアルゴノーツとなっている。
今までと違い落ち着いて物を書ける状況ではない。
これから起死回生の一手として繰り出される作戦は自分が敵のターゲットであるエウリュアレを抱え、それを狙うヘラクレスを誘き寄せてダビデの宝具である
きっとヘラクレスだけをアルゴー号から誘き出すのは容易だが、逃げるのが問題。
そもそもヘラクレスは驚くほど強い。
それこそ捕まれば前述のとおり一撫でで死ぬ。
......明日もまた、日記が書けるか。
ご飯が食べられるか、シャルルマーニュとトレーニングができるか、アースさんと話せるか。
それはこれからにかかっている。
生き残った後にまた書き込める様、空白を残しておく。
頑張る。』
ふう、と一息つき、木を背もたれにして書き込んだ日記を礼装の内側へと仕舞った。
......何もただ自分が走って逃げるだけじゃなく、勿論ドレイク船長やアースさん達も支援してはくれるだろう。
しかし、こうしたプレッシャーがかかっている時に深く深く悪い方を考えてしまうのが人間のサガ。
だからと言って彼らに自分の心を話せば、無駄に不安を強めてしまうだけだろう。
動物のいない静かな森を歩き、波打つ心を鎮めようとすれば、マシュ達の一団から離れたところにテスカトリポカが座っていた。
丸太の上に座った彼が何をしているのかと思えば、どうやら愛用している拳銃を分解してメンテナンスを行なっている様だ。
その顔はまさに集中している渋いものであり、邪魔するのも悪いかと思って通り過ぎようとしたところ、こちらに視線を向けないまま彼はこちらへ声をかける。
「──まあ座れ。
どうせ歩き回ったところでお前の気がおさまるわけじゃない。
なら腰を下ろして、今は待て。
無駄に歩いても足をすり減らすだけだ、違うか?」
テスカトリポカの言う通り、ではある。
けれど...... だとしても、歩かなければいけない気がする。
どうにもならないと言う事は分かっている。
それでも何か別のことをしていないと自分を見失ってしまいそうになる。
一般人がサーヴァントに立ち向かう......とは違う、サーヴァントから逃げおおせれるのか?
その不安からは逃れられない。
自分は戦士ではないから。
「そうか。
何かしていなければ、と言うなら、オレが少し話をしてやる。
......お前が『戦士』であるかどうかだ。」
彼は話し始めこそすれ、その目線をこちらに向ける事はない。
それはきっと、彼が重んじる戦士と言う枠組みが関係しているのだろう。
「お前は自身を戦士ではないと言った。
お前がそう思うならそれでも構わん、だがオレにとって戦士とは、『武器を取り、敵対者を殺さんと立ち向かった者』だ。
その点で言うならばお前はこの海で剣を持ち、自身の喉笛を掻き切らんとした海賊の胸を切り裂き、殺した。
──誇れ、お前は戦士だ。」
そうは言うが、あれは戦士とはかけ離れた動きだった。
慌てて転んで、それのおかげで敵の狙いがずれて外したところに運良くやれただけ。
その感覚は酷く生暖かい物としてこの手に残っている。
「それで良い。
オレは戦いに技術だの訓練だのは求めん。
新米の戦士でも、敵を殺せりゃそれで、だ。
......それにお前が戦士であるなら、たとえここで英雄に殺されたとしても俺の
そう言って彼はおぼつかない手つきのまま銃を組み上げる。
......にしても特異な形状だ、銃剣ならぬ銃斧とは。
かっこよくていいなあ。
「どうした、このオモチャが気になるか?
コイツは良い、握るだけで戦士になれる。
金は頂くが...... 取引、するかい?」
......かっこいいから欲しい、が。
そも給料が入っていない為、今の自分は無一文。
取引は出来なさそうなのであくまでも
そう控えめに言うと、テスカトリポカは笑って膝を叩く。
「ハハハ! ショールーム見学ってワケか?
良いぜ、カルデアとやらに戻れればだ、約束しよう。
死んだら...... その時はその時だ、ミクトランパで考えるのも悪くはない。」
2人で立ち上がり、島の外側へと歩き出す。
ふと気になり、少しだけ聞いてみた。
銃の弾が当たらないのって、どうして?
「......まあ、気にすんな。」
『2016年 カルデア
今度シミュレーターで、テスカトリポカと射撃の訓練をすることになった。
楽しみだ。』
評価等よろしくお願いします