「──かぼちゃ
そう叫んだカドックの気持ちもわかるが今潜んでいるのは敵地の真ん中、至極真っ当ながら今するべきでなかった絶叫を止めるために急いで彼に飛びかかり、背後から固めて口を塞ぐ。
索敵に集中していたペペロンチーノ── 通称、ぺぺさんの顔を伺えば、余裕そうな表情で首を縦に振る。
どうやらバレずに済んだようだ。
さて、今回訪れたのはハロウィンに起こった一大騒動、その跡地。
放っておけば消滅するはずだった特異点は何故か残り、その原因を排除するためにマスターとしてここに来た、のだが。
「ぶはっ!? ──もっと隙間を作ってくれ、呼吸が出来なくなる!」
「あら、少し冷静さが戻ったかしら、カドック?」
どうしてAチームの彼らがきているのかと言えば、数時間前のドクターから言われた言葉を思い出さなければならないだろう。
『レイシフトのシミュレーションで調べたところ、どうやらAチームが入れないのは魔術王が聖杯をばら撒いた...... 言わばメインの特異点。
今回、例えばハロウィンの微小特異点などには本来のレイシフト適正を発揮できるようなんだ。』
そう言う訳で彼ら二人についてきてもらった訳だが、正直言って凄く頼もしい。
彼らは自分より先んじてカルデアに来て訓練をしていたと聞く、いつでも指示を仰げる存在というのは大きいのだ。
......ただ、現在状況は悪い。
マシュやエリザベートと逸れ、この特異点で今頼りになるサーヴァントと言えば──
と、考えていれば帰ってきた彼に視線を移し、索敵の結果を聞く。
「敵のかぼちゃ騎士は一つ向こうの一角に固まっているみたいだ。 ......僕は宝具の準備が出来ているけど、どうするかはマスターの指示を仰ごう。」
そう言うとサーヴァント、ネモ船長はその場に座り、彼のもたらした情報を元に自分は顎に手を当てて現状打開の策へ意識を向けた。
しかし、ネモ船長の宝具において重要となるのは水辺の存在。
残念なことにこの場において水、なんて物は存在していないのである。
それゆえに切り札の宝具も、数人いるかぼちゃ騎士達の前では決定打になり得ないだろう。
......やはりここは令呪を使うべきか?
このふざけた特異点には相応しくない表情でそんな風に思考を巡らせていれば、それまで考えていた事を吹き飛ばす名案が、横槍の様に脳天に突き刺さった。
その発案者の方を向けば、やれやれと言った感じでこちらにため息を落としている。
「全く...... 見た感じだが、ここには
「名案ね。 やるじゃない、カドック!」
流石Aチームだ、求めていたものを提出してくれる。
捻くれたところも魅力的で、きっとカドック自身が思うより彼は他人から魅力的に写っているはずだ。
そう言うと彼は『馬鹿にするな』と反論するが褒められたのは分かったようで、耳が赤く染まっている。
ともかくとして立ち上がり、そんな彼が出した作戦を決行するべくそれぞれ三方向に散開、かぼちゃ騎士の逃げ道を塞ぐようにポジショニングに動く。
まず一。
ぺぺさんが敵の気を引き、該当エリアまで連れてくる。
この作戦はコレが上手くいかなければ成功しないが、そこはスカンジナビア・ペペロンチーノ。
普段の気安く優しい性格からは想像も出来ないほど冷静かつ忠実に、つかず離れずで該当エリアまで騎士達を誘導した。
「役目は果たしたわ。 あとはお願いね?」
であれば、次はこちらの番。
拳銃を胸の前に構え、別の建物から該当エリアに設置されたカドックの言う
距離にして数十メートル弱、遠いと言われれば遠い距離ではあるが──
「やれるな?」
横のカドックからかけられた言葉に頷きで返し、引き金を引いた。
二度引かれたそれを合図に放たれた弾丸は逸れることなく貧弱な足を打ち抜き、轟音と共に落下。
騎士のうち一人が下敷きとなって水が噴き出し、その場は一目見ればわかる
そうすれぱやるべき事は一つ。
その場から離れながら、既に潜水している船長に聞こえるよう地面へ発砲するだけだ。
『了解。
──急速浮上!!』
爆音と共に天を穿つ船首が数体の騎士を巻き込んで浮上する。
その姿は雄々しく、まさに海洋ロマンと言うべき魅力と無骨さ、スマートさを重ねた思考の乗り物。
──
ネモの宝具は最大の力を発揮し、まさに現状という深海のように暗いモノを打ち破ったのだ。
虹を描く様な水滴の乱打に心地よさを覚えながら、隣でため息を吐くカドックに礼を伝える。
彼はここに来るまでどうして自分が、キリシュタリアが行った方が早いのではと自分を下げる様な発言が見えたが、事実としてその実力は他のAチームと乖離している様には見えない。
覚悟、決断力、観察力、発想。 そして、魔術。
そのどれをとっても自分より遥かに上だ。
自分とは力のルーツが違う彼の実力に敬意を表して手を差し出すが、彼は『やめてくれ』と空を見た。
「......本当は僕たちがする筈だった
同時に情け無さもある。 『目の前で、本題の人理修復を見ることしかできない』情け無さが。
......だからコレぐらいならいつでも言ってくれ。
こういう横道の特異点を出来る限りおまえの負担にならない様サポートする事が、
そう言った彼の目には悔しさが見える。
それもそうか、やってみせると意気込んで入ったコフィンが爆破され、起きて見れば本筋の特異点に向かう事はできずやれるのは横道の微小特異点に向かう事のみ。
そりゃ悔しい、そりゃ情けなくもなろう。
──だけど。
そう呟いて、放り出されていた右手で彼の左手を掴む。
「何だ、驚かせようとでもしたのか?」
そうではない。
その答えは『冷たくない』、むしろ暖かいというもの。
......この手、カドック達が来るまでは永遠と冷たいものだった。
いつ来るかも分からない特異点発見の報告、落ち着かない自室、ドクターを挟まないと気楽に話すことも難しい職員、それに皆固い意志を持つからこそ起こる英霊の騒動。
それらは自分を抜け出すことの出来ない緊張の渦に叩き込み、気楽にすることなど夢のまた夢。
最後に心を強張らせる事なく過ごせた時といえば、長野県の花火を見た時ぐらい。
しかしAチームがコフィンから出てきて、自分の心は変わったのだ。
カドックと現代の音楽に関して忌憚のない会話が出来たり、オフェリアの菓子作りにマシュと共に参加させてもらったり。
それこそキリシュタリアやデイビットと共に遊んだビデオゲームなんて脳天を突き破る様な面白さだった。
そんな、カドックを含めた皆のおかげでこの温かさはある。
この温もりがある以上、自分はもう砕けたりしないだろう。
つまるところ、まあ、気恥ずかしいが。
カドックの言うそれは自己満足ではなく、僕という脆い柱を支えてくれるメチャクチャ素敵なひとつの行動なのだと。
その上でもう一度。
「ありがとう。」
「──そこまで言うなら、受け取っておくさ。」
『オフェリア、マシュ、あとぺぺさんと自分でお菓子作りをすることになった。
結果だけ言えばマシュ達は皆上手く出来ていたし、味もとっても美味しい。
作っておいたマーマレードを使用したクッキーを作った訳だが、自分のはそのマーマレードが飛び出てしまっていた。
......昔からお菓子だけは上手く作れない。
べっこう飴なら行けるのだが......
まあ、楽しい時間だ。』
『今回はテスカトリポカ、そしてデイビットと微小特異点にレイシフト。
自由に動き自由に戦士として振る舞うテスカトリポカと関係性を強制しないデイビット、その相性はいい様で、今回はそこまで時間がかかる事なく解決まで進めることができた。
こうしてレイシフトする中で教えてもらったのだが、デイビットはフィールドワークが趣味らしい。
今度連れて行ってもらう事を約束してもらった。
......ただ気になるのは、彼との会話で所々噛み合わないものがある事。
これは失礼かもしれないが、地元にいた頭の切れる認知症のおばあちゃんと話していた時を思い出す。
今度のフィールドワークの際、ちょっと聞いてみようか。』
『第六の特異点を攻略し、帰って来て。
マシュに力を貸したサーヴァントの名前とか、あのシャーロック・ホームズと会えた事とか色々あったが、今一度周りを見渡してみる。
Aチームの面々も微小特異点にてサーヴァントと触れ合うことが多くなり、すっかり馴染んでいる...... というか、これがあるべき姿だが。
さて、ここで思い出すのは獅子王から言われた『絆を育んでおけ』と言うニュアンスの言葉。
仲の良い人と言えば...... アースさんとか、シャルルとか?』
『奈良の特異点の事をAチームに話した。
ちょっと虞美人先輩が優しくなった。』
『バビロニアから帰って来て、テスカトリポカがグランドサーヴァントであることにそう言う感じなのかと理解が深まった。 山の翁には感謝しても感謝しきれない。
で、帰って来てやったのはぺぺさんとの恋占い。
特技らしいが...... 何が悲しいかと言えば、自分は女性との関係性が死んでるんだとか。
......結婚とか出来そうにないな、これでは。
その占い中にフィールドワークの話でデイビットが現れたが、それを見るぺぺさんの顔は乙女のようだった。
まあぺぺさんはぺぺさんで、春を謳歌するのがいいと思う。
あと名前は妙蓮寺って言うらしい。
テスカトリポカが現れる際の霧。
あの中に自分も入って移動出来るのか聞いてみたら、どうやら出来るらしい。
これは戦略の幅が広がりそうだ。』
夜中。
日記を書き終わって眠る準備をし始めた頃、扉が開けられて月の光が入って来た。
振り返る事なくいそいそと就寝準備を進めていると、彼女はまくらの近くに置いてあった銃を手に取ってまじまじと見つめる。
何か気になる点があったのだろうか?
ボソリと何かを呟いたが、その言葉はこちらには聞こえてこない。
「気にする必要はありません。
......それと、今日はこの部屋にて夜を明かそうかと。
別に寝所を奪おうと言う訳ではないのです、その様に驚いた顔を見せるのはやめなさい。」
......なら、いいが。
布団に入って枕に頭を乗せて、ふと彼女に聞いてみた。
考えてみた。
占いにも頼ってみた。
でも、どうにも分からなかったのだ。
彼女は椅子に座って月を見ながら考えるけれど、どうやら、というかやっぱり答えが出なかった様で、どうなのでしょうと前提を置いて曖昧な返答が返ってくる。
「......信頼、友愛、もしくは──
いいえ、答えを出すのはまた別の時にでも。」
彼女に背を向けて瞼を閉じる。
しかし、『ただの魔術師』で無くなったようなのは、少しだけ嬉しい。
満月の夜、答えは無くとも優しさのある問答だった。
青の手袋は普通に着けていれば面倒だったろうが、今は霊子で形作られている。
故に外すのは簡単だ。
生の手で眠った彼の頬に触れ、そのまま滑らせて右の瞼を優しく撫でる。
この瞼の向こうにあるのは彼を突き動かす燃料であり
これはきっと、彼がジュウという鍵を回した事により与えられたモノ。
魔眼である以上日常に戻ったとして狙われることもあるかもしれない。
そうなった時...... 私は彼に善と悪、どちらに肩入れすることもないと言ったが、その言葉を守れるのだろうか。
「私は。 私は──」
私は貴方の、何になりたいのだろうか。
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