イケニエのニッキ   作:チクワ

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神様と戦士達

 

 ──さあ、どうしよう?

 

 本日は珍しくレイシフトやシミュレーターの使用予定が無く、何事も無い休みの日。

 そりゃあ英霊間のいざこざや多少の喧嘩はあるだろうが、それでもいつもと比べれば静かな事に変わりない。

 だが、まあ、静かということは誰も()()()()()()()()()()()()()ということ。

 つまり......

 

 「ありゃりゃ、沢山だね。」

 

 横にいたビリーが言うように、食堂の列が果てしない長さとなっている。

 射撃練習であったからまだ良かったがこれが先日の筋肉トレーニングの様だったら、死んだ目で並んでいたかもしれない。

 遠目に見えるエミヤは大変そうだが、ブーディカ達がヘルプに入っているのも見える為詰まることは無いだろう。

 大人しく並ぼうか、とビリーに提案し、それを飲み込んでもらった事に安堵しながら最後尾に並ぼうとすれば背後から迫る巨凱の影。

 振り向くとそこには快活な笑顔、そして先にある列を見て怪訝な顔を浮かべて拳に力を入れる戦国武将が。

 もうダメそうなので先手を取り、その剛腕にしがみついて置くことにした。

 

 「おうマスター、前が長ぇがぶち殺して開けていいか?」

 

 やめて......

 

 「んならそうすっか。

 マスターが言うなら仕方ねぇ。」

 

 「大きいな、日本人っていうのはみんなこのぐらいなのかい、マスター?」 

 

 そんな事は無いと思う、そう確信が無い答えを返すが、そもそも自分の格好がだっこちゃん人形みたいになってしまっているので何とも。

 説得力はもとより無いのでどうでもいいか。

 

 せっかくだからと森くんやビリーと同席する事にし、彼の腕からずり落ちて普通に話しながら待つ。

 最近銃の命中率がいい話とか、次に行く戦場......というか、素材集めの話だとか。

 その会話の中、森くんの作ってくれる茶の話に飛んだ。

 

 「──茶の湯、って言うの? お誘いありがとう、でも彼は大丈夫かな?」

 

 「構わねえよ。 

 そっちも茶は苦手か?」

 

 「いいや、苦いのはコーヒーで慣れてるからね。

 むしろウェルカムってとこさ。」

 

 二人の微笑ましい会話に笑みを浮かべていれば、会話の切れ目で唐突に視線がこちらを向いた。

 茶碗を持って刺身定食に手を伸ばそうとしていた体がびくりと震え、その頬をビリーのフォークに刺さった肉で突かれる。

 何でと問うと、返って来たのは『にへ』と聞こえて来そうな笑みだった。

 

 「何って、マスターも変だね。

 男二人の談笑を見て嬉しいことでもあるのかい?」

 

 「ひはははは!! まあマスターらしくていいじゃねえか!!」

 

 嬉しい、というよりは笑って食事ができる事をありがたく思っていると言った方が正しいか。

 あと数ヶ月もすれば成功しても失敗しても、こうして食べれることはない。

 だからこそこうして、残り少ない時間を楽しく過ごせていることに喜んでいるのだ。

 それはそれとして、こちらの頬を突いたのならその肉はこちらの物。

 かぶりついて奪い取り、その旨みで白ごはんを食べれば開戦。

 

 3人で笑いながら、互いの飯を分け合う。

 楽しくて仕方がない。 振り回すのも回されるのも、とってもいいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──というわけでよろしく。

 

 「ええ。

 ......そう言えばさっき芥...... 虞美人が出て行ったけれど、何か話していたの?」

 

 サーヴァントの話をしていたのだが、そもそも彼女にとって連れて行くべきサーヴァントは項羽以外あり得ないわけで、話し合いが始まって2秒で要件が終わってしまった。

 そういうとオフェリア、それに自分は『彼女はそういう人だ』と苦笑いし、咳払いと同時に心を入れ替えて話を始める。

 

 彼女の所望していた英霊のクラスはセイバー。

 そこに変わりがないかを聞くと、頷きで答えた。

 

 「変わらない。

 ......でも、そう。 贅沢を言えるのなら人種にこだわりたいと── いいえ、忘れて。

 選ぶのはアナタ。 私はそれを受け入れるわ。」

 

 さて、そう言われてもだ。

 そんな顔をされて無視するわけにも行くまい、手元にあったドクター謹製の資料を見ると、彼女の母親は北欧系らしい。

 そう考えると...... まあ、彼しかいないだろう。

 

 取り敢えずタブレットを手渡せば、隠そうとしながらも少し嬉しそうな様子が漏れ出た表情。

 セイバー、シグルド。

 実力人格、箔も申し分ないはずだ。

 

 問題なければこれでお開きにしようと切り出せば、少し待ってと懐から何かを取り出す。

 渡されたそれを受け取れば、その中に入っていたのは美味しそうなクッキー。

 遊び心だろうか、ニッコリマークが作られている。

 

 「その、マシュ達と一緒に作ったの。

 ぺぺや芥にも渡したけれど、これは私個人からアナタへのお礼。

 ......色々と、覚悟を見せてもらったから。」

 

 それはどうも、と返答してすぐ、袋を開いてクッキーを口に運ぶ。

 ほんのりとした甘さとキャラメルの香りがとても優しく、コーヒーと一緒に食べていればいつの間にかなくなってしまうかも。

 そうだ、もしソロモンとの決戦から帰って来れたのなら、自分もマシュと同様にまたお菓子作りをしたい。

 苦手とは言え、数を重ねれば克服できるはずだ。

 

 「ええ、もちろん。

 頑張りましょう、お互いに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 コンコン、とクッキー片手に戸を叩けば、これまた律儀に扉を開けてくれるのはテスカトリポカ。

 どうした、何があったと問うわけでも無く無言でこちらに背を向け、その背中はこちらを招く声の代わりとして目に訴えかけてくる。

 厚意に甘え室内に入り、灰皿の上に吸い殻が残っているテーブルを見ながらソファに腰を下ろした。

 

 その後さして時間を置くことなく、目の前に真っ黒なコーヒーが置かれた。

 ありがとうとだけ言って、熱いそれを啜る。

 ......やっぱり苦くていい匂いのする泥水にしか思えない、自分が子供だからか?

 

 「──ハ、間違いじゃない。

 何もわからなければ、どんな物であれコレの様に泥水みたいなもんさ。」

 

 コロンブスがカカオを持ち帰らなかったような物だろうか。

 ......思えばこういうのは、身の回りに起こること全てに言えることだ。

 

 好きなアニメが終わったとて、他人から見たらそうですか程度。

 人の死も生も、戦いも平和も。

 戦士であるかどうかもそうだ。

 

 「まぁ、な。

 たとえオレが花の戦争(ショチヨロトル)だと焚き付けたところで、今の人間はそれを白い目で見るだろう?

 ──だが、それでもオレが戦の神であり続け、冥界を司るように。

 関心を得られないことでも、それに向かって戦士として戦い続けることこそが人だとオレは思うワケ。」

 

 確かに。

 この人理修復だって一般の人は気づかない。

 言いふらしたとて『何言ってるんだ頭おかしいのか』と思われるだけだ。

 でも自分や他の皆も意思を持って、戦士として戦っている。

 必死に生きようとすれば、役目や使命を果たす為に命を賭ければ、そうしようとする者全てが戦士なのかもしれない。

 

 「そうだ。

 お前は最初から立ち向かっていたからこそ、オレはお前を戦士としてその横に居る。

 ──勿論、取引相手としてもだ。」

 

 取引相手。

 ならその取引相手として、ある事を頼みたい。

 テスカは唐突なその申し出に顔を顰めるが、こちらは言葉を緩めない。

 

 

 

 「──対ソロモン。

 

 デイビット・ゼム・ヴォイドのサーヴァントとして動いてくれないだろうか?」

 

 

 「......ほう。」

 

 

 

 手は尽くす。

 負けて、全てを失って、空虚(から)になるつもりはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よう、セムの男。」

 

 「その容姿...... テスカトリポカか。」

 

 「兄弟の頼みだ、まあ、好きにやらせてもらうがね。

 ......そろそろって事だ。 オレ達の戦争。 オレ達の終末。

 ──オレ達の饗宴がな。」

 

 

 

 

 

 








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