「おい、これはどういう事だ?
──この猥雑な机では俺が原稿に集中できないではないか!!」
そう言われても。
ようやっと完成した物を入れた紙袋を抱えながら自室に帰れば、投げつけられたのはよくわからない文句。
確かに散らかして出ていってしまったが、それはあくまでも自分の机、自分で使う物だからであってアンデルセンのような言わば他人が使用することなんて考えていなかったからだ。
勝手に乗り込んできて勝手に椅子を使われては困るが、まあ別にいいかと心を納得させ、冷蔵庫の中から作っておいたものを取り出してベッドに座る船長に手渡した。
ストロベリーアイスであるが、周りの人間に手助けされながら用意した手作りの物。
口に合えばいいが。
「そう謙遜しなくてもいい。
......うん、美味しい。 ありがとうマスター。」
問題なさそうで良かった、オフェリア達とのお菓子作り経験が活きたと言える。
さて、どう切り出したものかと思いながら腰を下ろし、体育座りで天井を見上げた。
ソロモン戦に連れて行くサーヴァントのうち、残っているクラスはライダーとキャスターで、ちょうどここに居る2人が当てはまる。
文句こそ言うが随分最初から付き合ってくれたアンデルセンと高い実力で巨大な敵に絶大な力を発揮して来たネモ。
信頼しているからこそ、ここに来て少々提案することに抵抗感が生まれた。
別に他の英霊に対してはそういう考えを持たなかったと言うわけではなくて、ただただこれで本当にいいのかという疑問が渦巻いているのだ。
自分は彼らが納得できる指示を出せるか、縦横無尽に動く皆んなの位置を把握する事が出来るのか。
自分の右目も、鏡の反射などを無くして自分自身を見ることはできない。 少なからず、未来に不安が降っている。
そうしてうじうじしていれば、アンデルセンが深いため息を吐いてからペンを置き、横に用意されてあったコーヒーへ手を伸ばした。
「......せいぜいこき使え、マスター。
たとえ司令塔としての役目で粗相をしたとして、お前の横に居るのは一騎当千の英霊。
その程度蚊に刺された内にも入らん。」
コーヒーを啜ると椅子をくるりと回転させてこちらに向き直り、指を指して何処かしたり顔の様な表情を見せる。
「信じろ。 次の決戦、お前の指示に首を横に振る者はいない、 そうだな、前貸として...... お前の物語を書いてみるか。
うじうじとした無口の男の別れ、別れ、覚悟。
どこに載せたところでろくな評価も貰えず、読者アンケートでもあれば最下位近くを漂う様な物語だが、まぁ……偶には自己満足も悪くはないさ。」
──これは、光栄な事なのだろう。
つまるところ自分は『書くに値する道のり』を進んだ、認められたという事なのだ。
投げ渡された飴を手の中で転がしていれば、脇腹を突かれる。 そちらに向き直れば、薄ピンクの氷が乗ったスプーンが正確に突っ込まれる。
優しい甘さで、美味しかった。
ネモは拗ねた様な顔つきで首を傾げると、こちらを覗き込む様にしながら『ふーん』とだけ。
「......少し信頼が足りないんじゃない? まぁ、いいけど。
──僕はマスターの指示に対して、余程の無理じゃない限りは首を縦に振る。
それは君が誠実であろうとしていて、吐く嘘は大概自分以外を傷つけないためのもの。
その上で最後の最後まで勝機を探り続けるから。
そんなマスターについて行くよ。
......何? 何か言いなよ...」
そう言ってくれた彼を持ち上げ、膝の上に乗せてからギュッと抱きしめた。
その言葉は自分の心に火をつける火炎放射器の様な熱であり、単純にここにいる自分自身を肯定する柱となったからだ。
覚悟は一つだ。 その一つを貫き通す。
「ありがとよ後輩、今度メシでも一緒に食おうぜ。」
部屋から出て行くベリルを見送り、自動扉が閉じると同時に軽いため息を吐いた。
キリシュタリアはカイニス、ぺぺさんはアシュヴァッターマンと決まって、彼のサーヴァントも決定したのはいいが── まあ、疲れた。
一悶着ありそうだから何か守るものを持っておけとは言われていたが、本当に一悶着あるとは思わず。
それに関わってしまった彼女に体を向け、どうしてその様な事をしたのか、軽く問う。
「ナイフを取り出し、喉笛に牙を立てようとした。
それで説明になるでしょう。」
アースさんはそういうが、それにしたって限度がある。
霊体化解除と同時に手首を握り潰す勢いで掴み、ドア側に投げ捨てるなんて。
仮にもベリルはAチームだ、彼が怪我をすればそれは必然的にカルデアの敗北へとつながる。
「......ならば何故、貴方はあの銃を装備しておかなかったのですか?
少なからず貴方はあの男を警戒し、その証拠に刃物を取り出した瞬間防御体制をとっていた。
それは何故です?」
......多少の警戒心があれ、
そう返すと彼女はため息を吐き、不満げな表情を作った。
「貴方は何故そうも......
......いえ、わかりました。 それは貴方の美点であり、どの様な状況でも変わり得ない不動のもの、スタンスなのでしょう、ええ、もう構いません。
少なからずあの男の他にも警戒している者がいるのならば、今私に教える様に。」
え?
何故その様な...... それは人の交友関係を洗うのと代わりない。
いくらアースさんと言えど、この発言には賛同しかねる。
というか何故そこまでして、自分の事を守ろうと?
「正直に言いますが、貴方は危機管理がなっていません。
私の契約者であるならば信頼を盾に近づかれ、そのまま死に絶える...... などという事が許されない事だとお分かりだと思っていましたが。
なので、貴方の警戒するサーヴァントと私の警戒しているサーヴァントをすり合わせて慎重に
これは、心配だろうか?
ある種の執着に見えるし、あるいは── あるいは? あるいはとは、なんだ。
彼女は僕にとっての、何だろう?
「心配、そういう事として受け止める事を忌避はしません。
ですが......私が貴方の何なのか、という問いに答えることは出来ません。
貴方はどう思っているのですか?」
ただ、サーヴァントとマスターという関係ではない。
かと言って好き合う間柄でもない様に思えるし、そもそも彼女に異性愛とかのアレはあるのか?
彼女と同等の仲であるテスカ、シャルルと同じにするのならば、
しかしその返答に彼女は納得のいかない様子で、少しの時間を置く間も無くこの関係に
「友、仲間...... その括りとは違う、そう言うのは我が儘と理解していますが。
少々違う気がするのです。 ......だからと言って行き過ぎた関係としろ、とは言いません、勘違いしない様に。」
それは理解している。
それと違うとなれば、あとは......ひとつ、か。
「......思えば、初めて自分の意思で召喚したサーヴァントなんだ。
そういう意味では少し気持ち悪いかもしれないけど、最初の女、最初の男の関係なのかも...... いや、駄目、やめよう。
気持ち悪い。」
「いえ、それで構いません。
......少々話し疲れました、では。」
やってしまったと思う自分と、何故コレで彼女は納得したのか? と思う自分が交差する。
──何故だか胸が高鳴っていた。
終ぞ、城の中で箱入り娘をやっていては得られない高揚に喜ぶ自分と、それに困惑する自分が居た。
ただ。
ただ。
『『この胸の奥にある感情は、何?』』
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