II /情報室フラウロス。
銃を握りしめ、厄介な相手だと再認識した。
緻密に組まれた作戦は未来を見たとて解決法がわからず、どうにも足が止まる。
火力で押せば柔で、柔で押せば剛で。
突飛なものでは無い正攻法では破るのが難しい、というか不可能に近いだろう。
ならばここで投入するべきは狂戦士、バーサーカー!
「おうマスター、俺の出番か?
行ってきな、コイツら全員皆殺しにして待ってるからよ!!」
自分を小脇に抱えていた森くんの腕を叩き、それを合図に大きく曲線を描く様に放り投げられた。
自分たちを取り囲む魔神柱の包囲から一足早く抜け出し、
その背を追って項羽がその4本腕で大穴を開けた。
しかしその眼は先では無く、背後に広がった戦場を見据えた。
演算の結果が出たか、こちらに向けて耳が割れるほどの大声を響かせる。
「指導者よ、先へ!!!」
項羽、並びに虞美人先輩は大きい戦力であり、それぞれが強烈な広範囲宝具を持つ。
個人的には別々の方が進みやすいかと思ったが── それはそれとして、項羽がそう判断したのならそうなのだろう。
こちらも出来る限りの大声で健闘を祈る旨の言葉を届け、また走る。
残る壁は五つ。
「礼を、森長可。
汝の行動により演算結果が変わり、道を開く方が出来た。」
「あん? 知ったこっちゃねえよ、俺はマスターに頼まれたから殺す。
んで、抱えたまんまだと切っちまうから投げただけだ。
礼なんか必要ねぇよ。」
「了承した。
......諸葛亮孔明、飛将軍呂布。
並び立つことがあろうとは、演算結果にも無かったこと。」
「項羽様、露払いは私が。」
「──虞よ、我は汝と共に走りたいのだ。
共に。」
「──ええ! 勿論です、項羽様!」
「ひゃあははははは!!!
啜れ、人間無骨ぅぅぅ!!!」
「────!!!!」
「我が武辺、此処に示さん! セリャァ───ッッ!」
心臓が止まる様な痛みが走り、思わず膝をついて上半身の中心部を押さえた。
予兆のない痛みと苦しさ、息を吸って吐くだけでも激痛が走る。
ダラダラと流れる汗も気にせず背中を摩ってくれるカドックとキリシュタリアの優しさが、その手を伝わって背中から感じ取れた。
恐らくは森くんが宝具を使ったのだろう。
それに加え、オフェリアや虞美人先輩を通したサーヴァントへの魔力の伝わり方も影響している可能性がある。
そもそも、シグルドや項羽と契約を結んでいるのは自分を通したカルデア。
指示権をAチームに渡した所で、カルデアから流れ込む魔力はそのままAチームを介してサーヴァントに伝わるものとカルデアから自分の体を通ってAチームに流れていくものがあるのだ。
これがまあ、ヤバい。
もし令呪による魔力供給からの宝具という形を取らなかった場合、負担は半々とはいえ巨大なものだ。
だが宝具は切り札でもあり勝利には欠かせない一つの材料でもあるため、使用しないなんてことはあり得ない。
そんな時のため、ある物を作ってもらったのだ。
「おい、大丈夫か?! 息を整えろ、死ぬぞ!」
問題ないとか細く呟き、こちらの二の腕に取り付けてある容器を取って手渡してくれとカドックに伝える。
彼はそれが何かわかっていない様子だったが、手渡したそれをこちらが手首に突き立てる姿を見て察した様だ。
容器から針が飛び出し、液体を注入してボヤけていた視界が鮮明なものになる。
緊急用のアンプルであるが、使うときに使わなければ宝の持ち腐れ。
それは...... いま肩で心配そうにこちらを見るニフラも同じだが、彼女はリスク無しの全回復だ。
最後まで持っておきたい、情が湧いて食べれるかどうかは別として。
「......とんだ無茶をするのね、下手をすれば宝具のタイミングが重なって死ぬわよ。」
そうは言ってもその程度のリスクは飲まなくては。
水清ければ魚住まず、多少の清濁を飲み込まなくては勝利も得られない。
「本当バカなコ。 ......でも嫌いじゃないわ、その在り方。」
ぜいはぁと息を切らしながら、たどり着いたるはIII/観測所フォルネウス。
網目の様に張り巡らせられた触手を抜け、二隻の船......いや、現地で召喚し、その後カルデアに来ることのなかったバーソロミューの船がある。
......懐かしい、テスカトリポカと出会ったのはこの特異点だ。
物思いに耽る暇はないと頭を振り、ネモの方を振り向けばその霊基をフルパワーの物に変更し、宇宙を飛ぶ潜水艦の様にノーチラスを呼び出した。
同時にその上へキリシュタリアがカイニスのサポートを受けて飛び乗り、こちらに軽く手を振る。
「──この観測所は海に近い、ならばカイニスを擁する私が行くべきだ。
デイビット、ぺぺ、カドック。 それにベリルも、彼を頼んだよ。
帰って来たら皆でチバの遊園地とフジキューだ、また会おう!」
「おいあんま身を乗り出すな、落ちるぞ!
チッ、マスター!! 帰ったら酒の一つでも注げよ、コイツのお守りも大変なんだからよ!!」
変わらない彼等は、自分の足に力を取り戻させてくれる。
ああやってブレないでいてくれるというのは、とてもとても安心するという物だ。
多くの人は、二年も会わなければ変わってしまうから。
さて、走り出そうかというその時、フッと体が軽くなった。
何事かと見回せば、シャルルマーニュが自分を傍らに抱えて走り出したのだ。
その横ではカドックが自身に強化魔術を掛け、シャルルマーニュに追いつきながら礼装の医療魔術をこちらに掛けているではないか。
クールタイムの事を考えると自分に使っている余裕は無い、大丈夫だからとやめさせようとするが、彼はそれを一蹴した。
「黙って受け入れろ、こっちも託されてる!
......キリシュタリアのやつ、僕がやる気を出す事を容易く言ってくれる......!!」
「マスター、少し速く行くぞ。
冒険者の姿ではあるけど、聖杯で強化されてる以上喋ってる暇はなさそうだ! 行くぜ、舌を噛むなよー!」
IIIからⅣまでは距離がある。
このまま到達しようかというその時、強烈な一撃が地面を砕いた。
サーヴァントの反応もあり直撃は避けられたが、まともに喰らえばひとたまりも無い鏖殺の光線。
Ⅳ/管制塔バルバトス。
ここがひとつの区切り、それ故の強力さだろう。
飄々とした歩き方でモルガンと前に出たベリルは振り返り、『しっかたねえな』と肩をすくめてやれやれと言った感じ。
そんな彼にモルガンは視線をやる事はなく、真っ直ぐにモードレッドを見つめていた。
「リーダーに言われちゃあ仕方ない、俺はこの辺で楽しませてもらうとするさ。
んじゃあカドック、せっかく出来た弟分だ、ちゃんと見てやれよ?」
「言われなくてもそうさせてもらうさ、死なれちゃ困るからな。」
そんなベリルの後ろ姿を追う様に、アンデルセンも段差を降りてバルバトスへと向かっていく。
こちらに向けたその表情は、どこか清々しい脱稿後のものによく似ていた。
「俺はこの辺りで落ちておこう。
何、これが最も楽そうだ。 ......黒幕の獣に拳でも突き立ててやれ、それさえやれば、話の一つでも書けるだろうさ。」
タブレットを取り出したその後ろ姿に優しさを見た。
しかして戦いはノンストップ。
4人に減ってしまったマスター達はただ、この決戦を走る。
「うわ。」
「っぶねぇ!! トリトン、もっと丁寧に操縦できないのかよ?!」
「......なら僕のノーチラスに土足で上がらないでくれ。
緊急時だから許しているけれど、普通だったらもっと早くに振り落としてる。」
「すまないね、カイニス、ネモ。
......レンジに入った様だ、頼むよ。」
「おう。
──力ある者、僭主カイニスが、参る!!」
「モードレッド。
この私はあなたを知りませんが、貴女を作るほどという事はこちらの私は相応に追い詰められていたのでしょう。
奇妙な縁ですが...... 信頼せずとも結構です。」
「......ま、取り敢えずはアイツのサーヴァントとして、協力してくれ。
オレが行ってぶっ飛ばす。」
「ええ、それで。
行きましょう、別の私の、もう1人の娘よ。」