イケニエのニッキ   作:チクワ

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 いいことがありました。





戦士

 

 また息を切らし、えずきと共に流れる涙を拭いながら、ぼやけた視線の先に現れた新たな魔神柱を見据える。

 Ⅹ/廃棄孔アンドロマリウス。

 

 正直にいえばピンチというやつ。

 あまりにも唐突な敵の増援、予想外の一手に対し、こちらは想定通り動くことに命を賭けた少数精鋭。

 こういう場で予定外のことが起これば、何らかの損害が出る事は必定だろう。

 今回は、どうやら自分の腕がそうだった様に。

 

 「クッ、キリエライト!

 そいつを後ろに退かせてくれ、ここは僕がやる!」

 

 「先輩、先輩しっかり!」

 

 マシュの叫びを聞きながら、どうしてこうなったかの反省に思考を回す。

 結局あったのは油断だろう、勝ちの芽が強く激しく輝き始めたから、その光に目が眩んでアンドロマリウスに足元を掬われた── もとい、燃やされた。

 

 この熱さ、この痛み。

 肩にいるニフラの事もあり、どうしてもニューメキシコの事を思い出す。

 よくよく考えれば墜落するヘリから生きて帰って来れたなんて、とてもじゃないが奇跡としかいえないだろう。

 焼かれた右腕の手首に視線を向ければ、そこには美しく星々の輝きを跳ね返す赤い鉱石が綺麗なネックレス。

 

 ......ああ、そう言えば。

 彼女はこのネックレスを身につけていれば、『誰より速く駆けつける』と言ってくれた。

 朦朧とする意識の中、右手を天に掲げた。

 ──僕はここにいるぞ、と。

 

 

 刹那、空を白光が切り裂いた。

 流星の様なそれは美しく── こちらに近づいてくる。

 

 「──チェストォォォオ!!!!」

 

 矢であり槍であり弾丸でもあるそれは、バンカーミサイルの様にアンドロマリウスの瞳を激しく突き破った。

 カドックに『また知り合いか?!』と問い詰められるが、土煙の中から見えた女性の姿に見覚えが無さすぎる。

 フルフェイスのヘルメットに近未来的なボディスーツ、攻撃を受け流す曲線的な装甲。

 流石にそんなわけ無いだろうと思っていれば彼女はウキウキでこちらに駆け寄り、焼かれた腕に触れると一瞬のうちにその傷を修復してヘルメットを投げ捨てた。

 

 その奥にあったのは、やっぱり見覚えのある顔。

 肩に乗っていたウサギを手に取り微笑みかけるその表情、懐かしいと言わざるを得ない。

 

 「──イエーイ! 有言実行、一番乗り!!」

 

 ニフラ── 複合神性、因幡の白兎であり玉兎、真の名を二烽螺(ニフラ)

 彼女に手を引かれて立ち上がり、その背後に続いてくるサーヴァント達を横目に口の中へウサギを突っ込まれ、ポコポコと生えてくるウサギのうち一体を肩の上に乗せられた。

 これでウサギは二体。

 しかし疑問がある。 その格好だ。

 

 「え、そう? 今回は癒しよりも戦いの方が重要でしょ?

 だから戦闘装束みたいなのを作って来て来たの! 露出度で言えば、盾の彼女の方が高いと思うけど。

 ......もしかして、劣情?」

 

 違う!

 

 「テスカトリポカ神もこんにちは!

 ......アースさんと会ってたのは分裂体だけど、今回はよろしくね?」

 

 「ええ。

 ......マスター、私はここで。 少し黒曜石を。」

 

 そう言って首筋に触れた彼女は何かを刻んだ様子だが、自分にはそれが何かわかりはしない。

 ただ、彼女が食い止めるという気持ちでここに残るというのなら、きっとアースさんは宝具を使うつもりなのだろう。

 

 ......彼女の宝具は他の英霊とは違い、こちらの魔力許容ラインなどを考えると特異点から退去してしまう。

 それ故にここまで使ってこなかったのだ。

 しかし彼女自身がそうしようというのなら、こちらに止める権利はない。

 ただ、そう、ただ。

 

 「きっと、私と同じ事を貴方は言うのでしょうね。」

 

 

 「無事に、また。」

  無事に、また。

 

 

 

 

 

 

 遠くで爆発音と、鎖が巻き付いた様な擦れる音が聞こえた。

 

 「良かったのか?」

 

 そう聞いてくるカドックに対して頷きだけで返し、元気に戻った足を回転させてひた走る。

 それでも廃棄孔の追撃は強烈であり、未来を見ていたとて下手をすれば直撃してしまう。

 一つ避けて未来を見る。

 

 ......見えた未来に驚愕し、思わず立ち止まった。

 口を抑えて考えてみるが、それでも見えたものは変わらない。

 ならば戦う、それが彼女を呼び込む唯一の閃光!

 

 「──そうさな、それで良い。

 キミが優しい子だという事は聞き及んだ。」

 

 不意に現れた2メートル近い人影に背中を任せ、姿を見ずに問答する。

 これは彼女が望んだ事なのか、と。

 親友の肉体に宿った神霊は予想外とでも言うように鼻で笑い、その手に金剛杵を握った。

 周りから襲いくる細い職種に対して破壊の一撃が見舞われ、その間を抜けよう物なら弾丸が根本から撃ち抜き、まさに熟練の連携プレーと言いたくなる様な舞。

 

 「応、全て彼女の望んだ事、我がこの身を借りる事も...... 我が四天王がキミの道を切り開くという未来も。」

 

 そういうと同時に両脇から斬撃が飛び、次の道へ繋がる穴が開いた。

 振り返ってみれば広目天と多聞天が嬉しそうに手を振り、その横には小さくディフォルメされた持国天、増長天。

 はぁ、とため息を吐いた彼女、いや、精神で言えば()は笑って肩をすくめた。

 

 「持国はともかく、あんな風でも増長はキミに感謝していたぞ? 『娘をありがとう』と、直接言ってやれば良いものを......

 多聞や広目も人の可能性に感激していた、彼等がそこまで期待を寄せた人の子を我が守らぬわけにもいかぬ。

 ────さあ行け!!

 この場はカドモンを借り受けた── この()()()が引き受けよう!!!」

 

 これは縁。

 笑って泣いて受け継いで、幾重にも重なった糸を辿り引き寄せた先にあった幻。

 その幻に背中を向け、今を取り戻すために走り出す。

 貰った目も兎も、確かにこの胸で燃えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「む、貴女は...... あの時の玉兎。

 月夜から久しいな。」

 

 「げっ。」

 

 「なんだ『げっ』とは、手助けに来たのに。」

 

 「......友達がいなくなった後に要素の半分の死因が出てきて、嬉しいわけ無いですぅー。

 というか玉兎じゃなくてニフラ! ニフラです!」

 

 「そうか、貴女もまぁ...... 難儀だな。 我もか。

 ......さて、かの神に頼み事は終わらせてある。 これよりは時間が来るまでこの体を傷つけない様暴れ回る事としよう。

 砕くぞ、ニフラ。」

 

 「ええ! 殴り飛ばしちゃうよ、私の信仰者のために!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「......この辺りかしら。」

 

 ぺぺさんが兵装舎の前で立ち止まり、アシュヴァッターマンと並んで魔神柱を見上げた。

 その視線は遥か先を見通し、どこか達観している。

 

 「お願いね、デイビット。

 私、あなたのいない世界で死ぬ気はないの。」

 

 「......ああ。 お友達感覚と言うやつだが、またティータイムにでも誘ってくれ。」

 

 この信頼関係は、誰にも真似できないだろう。

 愛と友情の混濁した奇妙な関係性。

 

 それは2人だけの糸だ。

 

 「マスター、僕もここで。

 見知った顔もいるからね、撃ち合いならそっちの方が気が楽さ。」

 

 ビリーの後ろ姿を見送り階段の様に広がった石段を上がっていく。

 

 

 「こんな感じなら、騒がしいのも悪くないのかもしれない。

 ありがとうマスター、それを教えてくれた恩義に報いるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「きゃー!!! ボルテるわー!!!」

 

 「うお、ウルセェ!?」

 

 「デイビットも罪作りな男ね! ──余計死ぬわけにはいかなくなったわ。

 準備はいい? アシュヴァッターマン。」

 

 「おう、最初(ハナ)っからだ!!」

 

 

 「──運命に、怒って!!!」

 

 「オォォォラアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここが最後の壁ってわけか。」

 

 「ああ。

 ......先に行け、ここから先に事を進められるのはキリエライトと君だけだろう。」

 

 Ⅵ、Ⅶ。

 最後の壁を崩すため、カドックとデイビットが腰を上げる。

 ここまでくれば最後の扉は目の前であり、止まることは戦士としてここに立った彼らへの侮辱。

 無事でいて、と一言を残して歩き出そうとした直前、2人に拳を突き出す。

 すぐに意図を理解してくれた様で、微笑みを浮かべながら骨と骨がぶつかり合った。

 

 

 「ムウ、敵機は無限に近く、我らは100にも満たぬ精鋭。

 ──筋肉がたぎると言うものです。」

 

 「うわぁ、熱血爽やか〜......

 ま、やるだけやってみましょ。」

 

 「支援は任せましたぞ、徐福殿!」

 

 

 

 「トリ公も来てるか。

 ......不平不満はあとで言わせてもらうがね、デイビット。」

 

 「準備はいいな、テスカトリポカ。

 俺たちの役目はこの魔神柱を滅ぼす事だ、その後であれば()()()()()()()()()()()()()。」

 

 「いいや、オレはこの戦場、戦士の為に動こう。

 さぁ始めよう、祭りを、戦士の時間を。」

 

 

 

 

 

 「行けるか、アナスタシア?」

 

 「ええ。 ......子供の頃から、受けた借りは億倍返し。」

それがロシアの作法、私のポリシーだから。

 回路を回しなさい、カドック。」

 

 「令呪も使うぞ、ここでやれる事は全てやる。

 出来るはずだったは無しだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──最後の最後に、私は私の望みを知りました。

 でも少し、ほんのちょっと悔しいです。

 私は...... 守られてばかりだったから──」

 

 最後の言葉を聞く前に、視界をソロモン── 改め、ゲーティアの放った光が包み込んだ。

 熱量に耐えきれず消えていった彼女の残滓を掴む様に手が空を切れば、魔神王の声が聞こえてきた。

 

 「無駄な事。 全く無駄な事だ。」

 

 「ゲー......ティア......!」

 

 殴り掛かりたい、渾身の力を込めてこの怒りを、この無念をぶつけてやりたい。

 でも...... 彼女は、マシュは希望を持っていたからこそ僕を守ってくれた。

 そんな守られた自分が身を投げ出して仕舞えば、それはゲーティアの言う様に無駄なことになってしまう。

 血が滲むほどに握り込み、痛みを持って頭を冷静に。

 

 「──うん、それでこそ君だ。 人理を託せるマスターだ。」

 

 何故?

 その言葉しか出てこない。

 目の前に現れたのは、ただの人間で、気さくで頓珍漢な、ドクター。

 ロマニ・アーキマン。

 

 その手に見えたのは、よく知るデザインの指輪。

 10何個目かの、指輪。

 

 魔術王ソロモン、その人。

 

 「少しやる事をやって、そしたらすぐ君にバトンタッチだ。

 お願いね。」

 

 

 彼は消える。

 マシュはいない。

 

 それでも、それでも、走らなければ。

 あまりに大きな、託されたもの。

 成せと願われたことを、自分の意思で──成す。

 

 僕は戦士だ。

 

 

 「貴様を! 貴様を殺し、我らは事を成す!!」

 

 

 「......いける? シャルル。」

 

 「くっ...... やってやるさ、マスター!

 王として、サーヴァントとして! 友として、戦うとも!」

 

 「テスカトリポカ。」

 

 「おう。

 ......そうか、ならば黒いテスカトリポカは終わりだ。

 オレは、炎と未来を見る者。 

 あらゆる困難に挑み、死を前にして踊る者どもよ。 オレの楽園はお前たちを歓迎しよう。

 ......そしてお前に、帝釈天からの贈り物だ。」

 

 ズシリとテスカが触れた肩から重たい力が流れ込む。

 カドモンとやり合った時と同じ感覚に瞼を閉じ、一歩を踏み出した。

 

 「対価は霊核、特異点から抜けるまで効果は持続するが...... こいつは神の力を入れているのと変わらん。

 寿()()()()()()。」

 

 「大丈夫、ここで死んだら寿命を気にする事もできない。」

 

 盾を掴み、持ち上げて構える。

 右手の甲を掲げ、令呪が強く輝いた。

 

 「令呪を持って命ずる。

 ──全てを出し切れ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

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