イケニエのニッキ   作:チクワ

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銃と鍵

 

 ここはカルデアの技術で再現された、とある射撃場。

 そこでは2人の男性が銃を構えて数メートル先の人型を模した的へと狙いを付けていた。

 

 先に引き金を引いたのは金髪ブロンドの男。

 スライド上部に斧が、フレームに持ち手の取り付けられた奇怪な形状の銃を片手に、反動にも手慣れた様子で一二三四五と連射する。

 至極真面目な表情、ポッケに突っ込まれた左手、銃口から漏れ出る煙。

 形だけで見れば非常にキマッているわけ、だが。

 

 「うーん、これで10の3、か。

 ......カミサマに失礼を承知で言うけど、本当に狙ってる?」

 

 「......ああ、まあな。」

 

 その成績はまあ正直良い物とは言えない。

 仮にもテスカトリポカは戦の神だ、それこそ投げ槍や弓、その他原始的な投擲武器を使えばそれはもう百発百中だろう。

 しかしここまで見てきて、まさか銃の腕前がこれほどとはビックリ。

 いつもの様な軽口、気やすさの裏に神としての意思が見え隠れしていたテスカトリポカの姿はそこには無く、特別講師として来てもらったビリーザキッドの指導を真面目に受けている。

 

 そんなテスカトリポカから視線を切り、礼装に搭載された耳栓がわりの強化魔術を鼓膜にかけて銃声で耳がキーンとならない様に対策する。

 ......どうにも、あの結果に引っ張られそうだ。

 机の上に置いておいたマガジンを手に持った拳銃、そのグリップに空いた穴へと突っ込んでスライドを引いた。

 金属の良い音が聞こえ、銃の中にある細かなパーツが連動して動き、発射準備を完了させる。

 自分の手に収まる程度の小さい銃ではあるが、こうして準備が完了した今これは鋭く鋭利な武器だ。

 

 規定の位置に立ち、最初に教えてもらったアイソセレススタンスという構えをとって、人差し指をトリガーガードの外から中へと移動させる。

 一息ついて震えを矯正した後、意を決して引き金を引いた。

 

 ドン、ドンと強烈な音と反動が体に響く。

 耳は魔術をかけているから『結構うるさいな』程度で済んでいるが、問題は銃を持つ手の方。

 1発打つごとに思い切り殴られている様な衝撃と、金属に手をぶつけた様な痛みが走る。

 ......涙を流す様な痛みじゃないとは言え、一日中打ち続ければ手が無くなるのではないか。

 そう思うほどのダブルパンチ。

 

 マガジンに入れられた弾丸を打ち尽くし、それを拳銃から抜いて机の上にそっと置く。

 物は丁寧に使う方だ。

 

 「うん、いいねマスター。

 5発入りのマガジン2回で、10の7。

 実戦じゃあそう綺麗に構えられることなんて稀だろうけど、1週間2週間みっちりやってコレなら悪くはない。」

 

 そう言うとビリーは手を伸ばし、よしよしとでも言うかの様に自分の頭を撫でて満足げ。

 ちょっと恥ずかしいが、悪い気はしない。

 彼の言う通り、実戦、それも特異点では対する敵は大概サーヴァント。

 ちゃんと構える暇もなければ、それこそちゃんとやったとして効くかどうかもわからない、が。

 それでもその特異点に生きる兵士達への対抗手段は欲しいと思っていた。

 

 セプテムのローマ兵、オケアノスの海賊の様に、なんであれどこであれ人間と戦う事があるならば、こうして銃の扱いを知っておくことは悪くないと思う。

 聞けば現代でも()()()と言うところで銃を撃てると言うではないか。

 ならばこうして安全に配慮した上でやっても問題あるまい。

 

 「まあマスターは及第点として。

 テスカトリポカはもう少し練習が必要かな?

 それこそ人間に命中率でカミサマが負けてたら、お話にならないからね。

 ──マスターは適当に練習するでも、休んでるでも良い。

 でも強化魔術は解かない方が賢明かな?」

 

 一応先生と生徒の関係という事もあり、わかりましたと敬語で返して一度椅子に座る。

 くあ、と大口を開いて欠伸をし、時計を見れば昼の2時間前。

 どこか適当な時間になったら2人を誘ってリフレッシュがてらご飯でも食べに行こう、今日は確か先日オケアノスで取ってきた魚がメインだったはずだ。

 魚は久しぶりだなと町での生活を思い出しながら、頬を叩いて立ち上がる。

 

 休憩は終わり。

 手首を回してストレッチし、次はまた別の構えを試してみようと銃を構えた。

 銃口の穴は特異点に浮かぶ光輪の様に、変わらず丸い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を燃やして楽しいのか。

 それは至極真っ当な、被害者として当然言いたくなる一つの意見であり疑問だった。

 

 魔術王は笑う。

 

 「ああ。

 ──無論無論無論、最ッ高に楽しいとも!!!」

 

 銃が無くてよかった。

 抵抗する為の力がなくてよかった。

 

 きっと撃って、反撃に殺されていただろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室で寝転がり、テスカトリポカから昼ごはんの魚との取引でもらった拳銃を手に取ってライトの光を遮る様に掲げた。

 見た目はシミュレーターの訓練場で使われた拳銃の様に黒くマットな質感で本物に近いが、あくまでコレはモデルガン。

 実弾は出ない。

 

 ゆっくりともう片方の手を銃に近づけ、スライドを掴んで引っ張った。

 流れのまま引き金を引いても弾は出ない。

 

 先日の特異点攻略は一応成功ということになったが、正味自分の心の中ではしっかりとした敗北だと思っている。

 魔術王ソロモン。

 冠位(グランド)の名を持つキャスターで、今回の人理焼却を実行に移したこの事件の元凶。

 魔神柱と呼ばれるあの柱はソロモン72柱と呼ばれるものなのだろう、その柱のうち4本でロンドンで仲間として戦ってくれたサーヴァントは壊滅した。

 

 ......この戦いの終わりには、あれを全て倒さなければならない。

 気が遠くなる。

 

 そしてかのイスラエルの王は自分の問いに『最高だ』と答えた。

 ソロモンといえば、母親と子供に対しての裁きが有名であるが、その話の様に人情に溢れた王として知られていたソロモンが何故人理焼却に踏み切ったのか?

 

 ......ともかく、最終目標としてソロモンの打倒を考えなければならないのは間違いない。

 

 だが、彼の人理焼却にも理由があると思う。

 人はなんであれ、その行動行為に理由がある。

 ご飯を食べるのはお腹が空いたからとか、人を殴ったのはその人が嫌いだから、ムカついたからとか。

 大なり小なりそういうものが元となって行動というのはできている。

 

 彼の行動の理由がもし理解できる物であり、それが道理に適った物だったとしたら。

 自分はこの重たい引き金を引けるだろうか。

 ともあれ、ドクターが言うには次の特異点が見つかるまでは時間がかかるらしい。

 微小特異点は見つかるかもしれないので準備はしておいてほしいと言われた以上、身体の状態は万全にしておかなければならない。

 

 つまり── 寝る!

 

 布団に包まれ、誕生日プレゼントを大事にする子供の様にモデルガンを枕元に置いて電気を消す。

 何か忘れていた気がするが、まあ今は眠たい。

 日記は書き終えているので瞼を閉じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「......」

 

 なにかまぶしい。

 瞼を貫通する様な光量が襲いくる現実から逃れようと寝返りを打って布団で体を包み、饅頭の様な姿になるが、それでも光は止まない。

 

 うめき声を上げながらゴロゴロと逃げようとするが腰のあたりを掴まれ、開店すら許されなくなった。

 

 誰、とか何、とか。

 寝起き特有の浮ついた声で問えば、帰って来たのは呆れた様な冷たい声。

 聞き覚えがあるなと寝起きの心でも理解し、ゆっくり頭を働かせる。

 

 「......貴方は茶の席を破約しておいて、それでも起きようとしないのですね。」

 

 飛び起きた。

 ベッドの横にいるのはその赤い目でこちらを凝視しているアースさん。

 そうだった、特異点から帰って来たらお茶を飲むことを約束していたのだった。

 ちゃんとロンドンから茶葉を持ち帰って来ていたのに、眠気に負けてすっかり忘れていた。

 冷や汗をかき顔面蒼白であろう顔をアースさんに向け、か細い声で心からの謝罪を伝える。

 

 それを見たアースさんはふう、と一呼吸おいたかと思うと、机に仕舞われた椅子を瞬きの間にベッドの前へと置いてその上へ座った。

 行動ひとつひとつに美しい動きがついてくる様で、素直に感心してしまう。

 

 「......寝てしまった事は責めません。

 しかしそれならば寝てしまう前に断りを伝えておくのが礼儀。

 優しさは理解しますが、貴方のそれは粗野が過ぎます。

 無作法、と言うのです。」

 

 そこそこちゃんと怒られた。

 言い返す事もない、コレに関しては全面的に自分が悪い事だ。

 再度そのことを謝罪し、埋め合わせとして明日時間があれば茶の席を設けたい旨を伝える。

 断られても食い下がる気はない、仕方のない事だから。

 

 しかし彼女はわかりましたとだけ言い、その左手の指先でこちらの体を横にして、ちょうど顔の下半分が隠れるところに布団をかけた。

 そして驚いたことに、優しく伸ばされた右手が頭を撫でたのだ。

 驚きのあまり、その目を凝視してしまう。

 それを見て彼女は『理由を言って欲しい』とこちらの瞳から読み取ったのだろう、ビリーと軽く話したことを教えてくれた。

 

 「かの少年悪漢王より聞きました。

 貴方はこうされると喜ぶ、と。

 ......今日のことは水に流します、今はその体を休めなさい。

 明日からは...... そう、エスコートを忘れぬ様に。」

 

 優しいお姫様だ。

 明日のお茶が、とても楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寝静まった夜。

 寝ている時だけは、常に微笑んでいる様なマスターの顔も年相応、安らかな寝顔へと変わる。

 ......彼がその微笑みから表情を変えることはあれ、感情的になろうとしないのは不安を伝染させない為だ。

 憶測ではあるが。

 

 枕元にある()()()と言うものに触れ、手に取った。

 

 練習することを悪いとは言わない。

 しかし、あれは言ってしまえば戯れ。

 戯れで終わればそれで良いが。

 

 これは人を隔絶した次元へと押し上げる、ひとつの鍵。

 戦場でこの引き金を、この鍵を回した時。

 

 「──貴方はただの一般人(マスター)でいられますか?」

 

 

 答えはない。

 三日月の夜に消えた問答だった。

 







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