イケニエのニッキ   作:チクワ

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お茶とココアと休息

 

 「いよっし、やる気十分!

 マスター、お姫様、行こうぜ!!」

 

 「勇敢であることは評価しますが......

 一度下がりなさい、一陣目は私の担当なのですから。」

 

 「ひゃーっははは!!!

 根切り撫で切り皆殺しだぁ!!!」

 

 「...まったく......」

 

 ああ、本日も晴天なり。

 そんな安らかな心を持ちながら、体は冷や汗をかいていた。

 何故なら、作戦を伝えておいたにもかかわらず意気揚々と突進しようとするバーサーカー、森長可の胴体にしがみついているからだ。

 声が届いているのか、届いていないのか。

 サーヴァント特有のスピードの中に居るせいで、全くもってわからない。

 

 するとまるで車が急ブレーキをかけた様にその巨体が止まり、背中に張り付いていた自分が引っ剥がされて森の眼前に晒される。

 

 「おおっとマスターじゃねえか、なんか用か?

 まあ用がねえならそこで見てな。

 あの腕ども、全部まとめて撫で切りにしてやるからよ!!」

 

 やめてね、と懇願して止める。

 一応ちゃんと考えて来たモノがある以上はこちらの指示に従ってもらいたい。

 いや、彼が彼なりにこちらの役に立つ行動をしようとしたことはわかる、それはすごくうれしいのだが。

 もう少し待ってくれないだろうか。

 

 そう言うと少し考えたのち、森長可はゆっくりとこちらの体を地面に下ろす。

 不満にも納得にも見える表情を見せて、槍を肩に乗せて大きく後ろへ下がってくれたところを見るに、こちらの事を理解してくれたのだろう。

 

 「まあ、マスターがそう言うんならしゃあねえか。

 ──じゃあマスター、出番の時は早く言ってくれや。

 待ったなしでぶっ殺してやるからよ!!」

 

 ぶっ殺すのは変わらないのか。

 まあそれでこそ、と言うところはある。

 バーサーカー森長可とどうやって交流していくか。

 当面の課題となりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 くあ、と軽く欠伸をして、カルデアの廊下を歩く。

 別に疲れが溜まっているわけではなく、深くリラックスしたが故の眠気、そして欠伸。

 ちょっと意外だった、()()()がまさかあれほどまでに茶を点てるのが上手いとは。

 まるで別人の様な侘びを見せ、静かな茶室で飲んだお茶はゆっくりと過ぎていったその時間に寂びを生んだ。

 侘び寂びもクソもなかった町のお婆さんに飲まされた抹茶と比べると、それはもう天と地の差。

 

 非常に有意義な時間をくれた森くんにはいつかお礼をしたいものだが、彼は『別に良い』と言った。

 ......戦国武将ってすごい。

 今度作れる様な材料が揃ったら、得意な料理でもご馳走しようかな。

 そう思った昼過ぎである。

 

 と言うわけで、普段あんまりしない種火の回収へと向かっていたわけだが。

 もちろん暇だったからとか、そう言う理由でやってたわけではない。

 ちゃんと使うから取って来た。

 

 ──話は変わるが、第四の特異点を修正してからは()()、いわゆる魔術王が聖杯を誰かに渡した時代の特異点が見つかっていない。

 その代わり、少々の小競り合いかの様な微小特異点はたくさん出て来たのだ。

 最近で言うと、何故か唐突に始まったサマーキャンプとか。

 マシュやら何やら他のサーヴァントも楽しそうだったので文句はないが、あのサングラスの人は誰だったのだろうと言う感想が残る特異点だった。

 

 『なによ。』

 

 ......本当に誰?

 まあ、そんな感じの微小特異点を解決する内に気づいたのは、戦力強化の重要性。

 もし特異点に行く時、限られたサーヴァントしか連れて行けないとなった。

 しかし連れて行けるサーヴァントの力が強化されていないが故、小さなものだったら?

 その様な思考になった結果、カルデア職員の皆に頭を下げてここ一ヶ月はサーヴァント強化に集中させてもらっている。

 最近だと森くん、レオニダスさん、アンデルセンを霊基の限界まで強化した。

 そして今回は先日の特異点攻略で手に入った原初の産毛を使い、眼前の部屋にいるサーヴァントを強化しようと思う。

 

 礼儀として3度のノックをし、『入れ』と言われたから扉を開けた。

 部屋の住人は丁度愛銃本体のメンテナンスを終えた様で、ソファに座りながらマガジンへ玉を詰め込んでいた。

 少しタイミングを間違えたかな、なんて思っていると、彼にノールックで手招きされる。

 

 特に何も考えずに手招きのまま近づいていくと、肩を組まれて座らされ、空のマガジンを渡される。

 何かあるのかとマガジンを覗き込むが何もなく、ハテナを浮かべたまま横を見ればニヤリと笑うテスカトリポカ。

 察した。

 机の上に置かれた箱に手を伸ばし、その中から金属光沢が光る弾丸を手に取ってマガジンへ詰める。

 テスカトリポカはそれを見て上機嫌だ。

 

 「ハッ、お利口な事だ。

 その手に持った塊はオレへの捧げ物か?」

 

 頷き、こちらも箱を渡す。

 テスカトリポカはその中からトゲトゲとしている種火をひとつ取り出し、まるで飴を噛み砕く様に口の中へ放り込んだ。

 ペロリと唇を舐め、フッと鼻で笑う。

 

 「取引成立。

 いいブツだ、気に入った。」

 

 取引?

 疑問が生まれる。

 テスカトリポカの銃、そのマガジンに弾を入れて、さらには種火と再臨用の素材を渡して。

 取引と言うには一方的に見える。

 

 「そう結論を急くな、姫様にも言われているだろう?

 ......何、弾丸装填のやり方を教えてやる。 

 悪漢王のモノと違って俺のは近代的なマガジンタイプだ、役に立つと思うがね?」

 

 どうにも釈然としない。

 ......が、そも自分は力を借りている側。

 こうして対等な取引相手として対してくれていることにまずは感謝するべきか。

 納得し、話を聞きながら細かな作業に勤しむ事とした。

 

 「おっと気をつけろよ、しっかり入れなきゃ弾が詰まる。

 ......それで死にたいのなら、文句は言わないが?」

 

 これがなかなか、集中力を使う。

 慣れるのにそう時間はかからないものの、テスカトリポカが注意するタイミングは大概マガジンへ弾を詰め終わった後なので、1からとなると少し心が軋む。

 まあためになる話をする時もあるが。

 

 「オレは運がない。

 過酷な戦いを望むからだろうな...... 戦場じゃ大抵、最悪の事態を呼び込んじまう。

 そういう時は...... 耐えろ。 死んでも勝ち抜け。

 その後に良いことがある。……まぁ、差し引きで言えば少しだけ、だがね。

 まして、兄弟の望む事とは限らないが。」

 

 そう言ってどこからともなく差し出されたのは、コップに入ったココア。

 温かそうな湯気が立ち上り、甘い匂いがする。

 

 「本当ならチョコレートドリンクが効くんだが、甘い方が好きだろう?

 ミクトランパ製チョコレートドリンクはまたの機会に取っておけ。」

 

 ......少し前に調べたのだが、アステカでのチョコレートというのは戦士に力を与えるものであるらしい。

 正確には少し違うんだろうけど、今だに彼の中で自分は戦士でいられている様だ。

 認められているという嬉しさをココアで洗い流す。

 人並みの承認欲求が満たされていく。

 

 「疲れているんだろう?

 身も心も、あの魔術王に会った時から。

 オレに嘘は通じん、見え透いたものなら余計にな。

 戦士に休息は必要だ。

 時間の許す限り、休むといい。

 ......王様や姫様にバレて、説教を喰らう前にな?」

 

 ......そうか、バレていたか。

 ソファの端に置かれていたクッションを抱き抱えて瞳を閉じる。

 まどろみ始めたその時──

 

 『──先輩、ドクターからの要請です。

 北アメリカで微小特異点が見つかった、と。』

 

 ......マシュからの通信にわかったと返し、起き上がった。

 隣でタバコに火をつけようとしていたテスカトリポカは真顔になった後、それを机に置いて笑った。

 

 「どうやら運が悪いのはお互い様か?

 着替えてこい、商売の時間だ。」

 

 ココアを飲み干してから自室へ戻り、途中でテスカトリポカと合流して管制室へと向かう。

 

 戦士は休息を許されない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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