イケニエのニッキ   作:チクワ

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ゾンビと死の匂い

 

 ここはデパートなのだろうか。

 

 電力の途切れて灯りを灯さなくなったシャンデリアが入り口を入ってすぐの広間に落下し、未だこの建物の外を見れていなくても、この世界がどうなっているかを予想させる。

 体育座りのまま柱に寄りかかり、左を見ればそこにはさっきテスカトリポカが処理した人だったものが沢山積み上げられていた。

 大概の死体は銃で撃ち抜かれているのではなく、切り裂かれたことによる身体の損害に耐えきれず動かなくなっている。

 

 ここがなんなのかと思考を巡らせていれば、一旦外の様子を確認しに出て行ったテスカトリポカが神妙な面持ちで戻って来た。

 少々の寂しさから、帰ってきた飼い主に駆け寄る犬の様に立ち上がり、拳銃のリロードをしながらこちらを見るテスカトリポカの横にくっついて歩き出した。

 

 「外もこの建物の様に、()()()が跋扈してやがる。

 死者が多い事は神のオレとしては喜ばしい事だが、サーヴァントのオレとして時代に合わせた表現をするならば......

 

 ──()()、か。」

 

 この特異点へ来たのは、ほんの数分前に遡る。

 

 

 

 

 マシュに呼ばれた管制室で告げられたのは、新たな微小特異点の出現とその舞台がアメリカ合衆国の北、ニューメキシコであるという事。

 ......これはややこしい話だが、ニューメキシコとメキシコは違うらしい。

 メキシコは埋め立てられる前までテスカトリポカが信仰されていたアステカ文明があったと聞く。

 そちらなら少し行ってみたかったが、まあ特異点という存在に贅沢は言えない。

 

 そんなわけで、テスカトリポカにシャルルマーニュ、アースさんにマシュ他のサーヴァント達で乗り込もうとしたわけだが──

 ここで、重大なトラブルが発生する。

 レイシフトが完了して周りを確認した時、明らかに人が少なかったのだ。

 

 そう、マシュもアースさんもシャルルマーニュもいない。

 果てはカルデアとの通信もつながらず、この特異点にいるのは無力な1人のマスターと1人のサーヴァントだけ。

 それに加えて更なる異常が自分達を襲う。

 ひとまず気を取り直して周りを探索しようと足を踏み出した時、こちらの歩みを止める様にしてテスカトリポカが『マスター』と呟いて銃のスライドを引いた。

 

 この声色は警戒している時によく聞いた声であり、加えて彼がこちらをマスターと呼ぶ事はそうそうない。

 また何か異常が起きた事を察させるには十分なもの。

 息を整え、何が来ても大丈夫な様に準備をして振り返った時、薬莢が1つ地面に落ちた。

 

 「──悪いな、説明は簡単に、単純に済ませる。

 ()()()()()()()()()()()()()

 それこそ強い人間レベルに、な。」

 

 打ち出された弾丸は自分の頬を掠めてその後ろにいた何かに当たり、その何かはべチャリと不快な音を立てて地面に倒れ伏すが、さして時間を置く事なく立ち上がり、うめき声を上げた。

 急いでテスカトリポカの後ろに周り、礼装に搭載された魔術を準備して臨戦体制へと切り替えて暗闇へ向かい合う。

 影から光の下に晒されたその姿は、非常に醜い成れの果て。

 彼はつい失笑し、飛びかかって来たその体を斧で両断した。

 血がこちらまで飛び散る。

 

 「おいおい、ここはB級映画か?

 まあいい。 意思がなくとも、オレの前に立ったのなら戦士として対するのが礼儀というやつだ。

 ──心臓を戴くぞ、()()()。」

 

 

 

 そして今、太陽の煙った下にある町を隠れながら歩く。

 街中の至る所では車が事故を起こして炎上している形跡があり、この街が随分前からこうなのではなく、ここ最近こうなってしまった事を示していた。

 どこを目指すべきなのか、どうやって乗り越えればいいのか?

 それを支持してくれていた管制室が今回いない以上、とにかく歩くしかない。

 弾薬が限られているので道中にいるゾンビを避けながら、出来うる限り裏道を通っていく。

 ......と、いっても、仕方なく接敵してしまう事もあり、ジャンプスケアかの如く現れるゾンビ達には疲弊させられるばかりだ。

 弱体化していると言ったテスカトリポカも疲れを見せ、先刻言い放った言葉が嘘ではない事を信じるには十分。

 

 弱体化とは、どこまで?

 休憩と称してタバコの火をつけたテスカトリポカへ問えば、心臓のあたりをさすりながら確信とも憶測とも取れない雰囲気で語り始めた。

 

 「あ? ああ......

 言ったら、強制的な受肉と同様ってわけだ。

 それに加えてサーヴァントとして持ってた力もほぼ無い。

 まあ、近接格闘に関してはそこらの人間の数倍は強いが、それでも奴らの頭蓋を砕くには足りん。

 弾も当たらん、どうにもな......」

 

 弾が当たらないのは元からでは。

 その言葉を半分ほど口から出したところで堰き止める。

 ......見てわかる程にテスカトリポカが、凹むので。

 

 悪手だったな、と自戒する。

 目標が見えず、解決策も見つからず、ただでさえ気が滅入るところにツッコミの様なものと言え追撃を当ててしまうなんてのは悪手以外の何者でもない。

 

 とりあえず立ち上がり、都市部を目指すことにした。

 この街、デパートがあるとはいえ民家も建物も州の中心地であるという感じがしない。

 ここは取り敢えず中心地へ向かって行くことが正解だと思う。

 弾の残り少ない愛銃を見ながら俯いているテスカトリポカへ弾を探しながら向かう事を伝え、熱さに耐えながら果てしない距離を歩いて行く。

 果たして希望はあるのか。

 

 

 

 

 

 「──おい兄弟!!! 

 見ろ、ガンショップだ!!!」

 

 わー!!!

 希望はあった。

 

 興奮の声に反応して近づいてきたゾンビの脳天に、先程民家に入って拝借した大きめの包丁を突き刺してテスカトリポカに駆け寄る。

 これは大変嬉しい。

 テスカトリポカも弾が無くなって斧で延々と戦っていたし、自分としても噛みつかれたり爪で引っ掻かれたりするのに疲弊していたので、このタイミングでの遠距離武器は救いの手に他ならない。

 

 礼装での応急処置にも限界を感じていたところだ。

 

 揚々とガンショップの扉を開ければ、そこに広がるのはこの状況における宝の山。

 数個の銃やディスプレイされていたであろう弾は無くなっているが、それでも『ここにある』という事実に感謝せざるを得ない。

 

 テスカトリポカは自身の銃に込める弾を手早く引き出しから回収し、その辺に立てかけられていた銃をこちらに投げる。

 近くに置かれていたアタッチメントも同様に、だ。

 少し焦りながら受け取り、投げられたものの中にあったナイフをつまんで危ないと文句を言えば、『神からの贈り物だ、文句は無いだろう?』と。

 どこか調子が戻って来た様な彼に微笑み、渡されたハンドガンにスパイクのついたマズルガードを取り付け、それにあるスリットへ持ち手のないナイフを取り付けた。

 天井からもたらされる途切れ途切れの光に掲げて見れば、どこか小さな銃剣(バヨネット)の様に見える。

 

 「なんだったか、少し前のブツだ。

 CZ75 SP-01 Phantomとやらでな、ハンドガンであり近接武装が付いて、実質オレとお揃いだ。」

 

 ありがとうと元気に返事をし、人並みに喜んだ。

 と、こちらはさっさと用意を済ませたが、どうやらテスカトリポカの方はまだかかりそうな雰囲気。

 情報収集に取り掛かるとしよう。

 

 少し周りを見回せば、カメラのついたベストを身に纏っている軍人の死体。

 ゾンビになっていないところを見るに、恐らく殺された側、なのだろう。

 合掌してからそのカメラに手をつけ、録画されていた映像を再生した。

 

 

 

 

 

 『──奴ら、舐めた真似をしてくれる!

 俺たちだけでなく、合衆国政府にまで宣戦布告するとは......』

 

 『落ち着け、ジェイ。

 ......ニューメキシコ南部だけで済んでいるのは奇跡的だ、()()()()()()()()()()め......

 バイオテロにまで手を染めるとは、何を考えている?』

 

 『隊長、何か音がしませんか?

 梯子を登る様な......』

 

 『! ジェイ、避けろ!!』

 

 

 

 「──兄弟、避けろ!!」

 

 映像から目を離し、梯子を登る様にコツコツという音が聞こえて来た天井を見上げれば、そこには両手の爪が剣の様に鋭く光る化け物の姿。

 状況を把握して回避行動をとるよりも早くその怪物は落下し、自分の上に馬乗りとなって胸へと爪を突き立てた。

 背中を貫通し、引き抜かれた臓物は床にばらける。

 

 視界は赤くなり、命が尽きる感覚を覚えながら、光を手放す。

 あまりに唐突な死は誰にも予見できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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