「──てコトは、そっちの伊達男は合衆国のエージェント。
そこのお嬢を助ける為にヘリで来たは良いが、テロリストに狙撃されて墜落、
......こんな所か。」
「ああ、飲み込みが早くて助かる。
......見たところ一般人の様だが、良くここまで生き残れたな。
バイオテロは初めてじゃないのか?」
「まあ色々経験して来たタチでね。
そこでお嬢の擦り傷を治してる大将も同様だよ。」
アメリカ合衆国を治める大統領や、大統領に州知事が要請することでその物事を速やかに解決する国家直属のエージェント。
そこのエージェントであると自称するメイソン・シュライグの指示に従い逃げ込んだ小部屋にて、先程派手に転んだ女の子の膝に応急手当をかける。
焼ける様な痛みの走る血だらけの傷が完治とはいかなくても歩けるまでに治る様子を見て、当事者の女の子は目を丸くして驚いている。
治療を終えて立ち上がる様に言えば、恐る恐る足に力を入れると同時にパァッと表情が明るくなった。
まるでウサギの様に飛び、部屋を走り回ってこちらに礼をしてくる。
「すごいすごい、魔法みたい!
ありがとー!」
......魔術であって魔法ではないのだが、まあ見るだけで言えばたいして変わらないのか。
レフ・ライノールに似た様な事を言って半ギレにさせてしまった事を思い出しながら、深い疲れを癒す様に椅子に座り込んだ。
実を言えば、ここにくるまで
1回目は自分が爪の化け物に階段から落とされた事による死。
2回目3回目はなんと、彼女が死んだ事によるやり直しだ。
これで分かったのは『やり直しは自分の死だけがトリガーではない』という事。
つまるところ、やり直しをせずに特異点を修復して帰るにはあの子も自分も守っていかなければならない。
頼れるエージェントが現れたとは言え、難しい。
結局のところ彼らはサーヴァントではなく人間で、この特異点における現地人。
この特異点を産んだ黒幕について知っているかと聞けば、そこまで踏み込んだ事はわからないと帰ってくるのみだ。
ふと気になったこととして、少し前にガンショップで見た端末を懐から取り出してメイソンさんに見せた。
見覚えがある様で、身を乗り出して食い入る様に見てくる。
ひっくり返してみれば裏にはECTFの文字。
何か知っていないかと聞けば、戦友がいる組織だと。
「ECTF、Emergency CounterTerrorism Forceは国連管轄下の対バイオテロ組織だ。
国連管轄下と言っても部隊の人間の大半、それに指示を出す
この映像を見るに...... この街を地獄にしたのは
自分自身で納得してそれ以上話さないメイソンさんに横槍を刺すかの如く、そのパクストン・ボーイズとやらが何なのかを問う。
情報は命だ、敵の行動理念がわかってさえいれば、ある程度の予測はできるのだから。
彼は少し考えた後、こちらの目を見据えて話し始めた。
その目には疑問、疑いの意思がこもっている様だ。
「パクストン・ボーイズはここ数ヶ月、アメリカを騒がせているテロ集団でな。
主に製薬会社に忍び込んで警備員や研究者を殺害、機密情報を盗んでは米国内に声明を上げている。
軍も総力を上げてその潜伏先を探していたが、結局見つけられなかった。
ゴーストの様に現れ、ゴーストの様に消える。
足取りと呼べるものがゼロに等しかったのでは、天下のFBIもお手上げだ。
なかなかのものだよ。」
幽霊の様に現れて消える。
まさかと思い、テスカトリポカとアイコンタクトをした。
2人の予想が正しければ、そのテロ組織を動かしている、またはそのテロ組織に属する人間がサーヴァント。
この特異点を作り出した張本人であり聖杯の保有者。
そう言えばあの映像にて、パクストン・ボーイズはアメリカに宣戦布告をしたと聞いた。
なれば映像があるはずだ、見せてほしいとメイソンさんに願うが、彼は渋い顔を見せる。
「......一般人だと言ったが、間違ったか?
普通はここまで探ろうとはしない、そこまで詳しく聞こうとしてくるのはドキュメンタリー映画の監督か......
──それとも、また別の脅威か。 どうだ?」
テスカトリポカ、メイソンさんが同時に銃を構える。
一つの銃口はメイソンさんの脳天を狙い、もう一方は自分の眉間にあと数センチ。
冷や汗が頬を伝い、一触即発の雰囲気と米国エージェントの殺気に気圧される。
しかしここで礼を欠いたのはこちらだ、テスカトリポカに銃を下げる様に伝え、両手を肩ぐらいまで上げる。
確かにこちらばかり探る様な事をしてすまなかった、非礼を詫びると前置いて、こちらが今置かれている状況を伝えた。
カルデア、特異点、聖杯、サーヴァント。
この世界がこちらから見て過去だと言うことも全て。
それを聞いた彼は頭を抱え、横で聞いていた女の子はこちらの顔面に顔を近づけて未来の事を興味津々に聞いてくる。
結局メイソンさんは銃を下ろし、不満ながらも納得した様だ。
そこの対応はエージェントが故の損得判断だろうか?
それでも信じてもらえたのなら良かったと胸を撫で下ろす。
「......ドキュメンタリー映画監督どころか、ハリウッド映画監督を拾ったか。
分かった、ひとまず信頼しよう。
これが宣戦布告の映像だ。」
そう言って見せられた映像は、どこか古臭いもの。
キッチリと隊列を成している装備に身を包んだテロリストの真ん中には少し前のイギリス人の典型の様な人が佇んでおり、淡々と宣戦布告を宣言した。
言ってしまえば、面白みや驚愕の瞬間というものは微塵もない。
しかし最後の最後、そのリーダー格が退場する時に見せた透明化に、テスカトリポカと並んで思考を確信に変える。
「こいつはサーヴァントだな。
霊体化してやがる。」
「という事は、あんた達の目的はパクストン・ボーイズの壊滅か。
確かにそれならECTFを頼った方がいい。
こっちとしても自分の端末が壊れてる。
ECTFの方から合衆国に連絡してもらって脱出用のヘリを手配する必要があるんでな、暫くは共同戦線か。」
頼りになる伊達男だ。
彼女がついてくるのが心配ではあるが、それを補って余りある戦力増強だろう。
マガジンを交換し、テスカトリポカを先頭にして歩き出した。
後方はメイソンさんに、テスカトリポカが撃ち漏らしたゾンビは自分が処理をする。
......女の子は怖いのか、ピッタリとくっついたままだ。
「怖いに決まってるじゃん!」
じゃあ離れないで、守るから。
そう言って崩れた家屋の影から現れた牙が発達した化け物へ2、3発弾を撃ち込み、その頭へナイフを突き立てる。
ヒュウ、とメイソンさんが茶化すが、その余裕を見るにこんな状況にも慣れているのだろうか?
「慣れたくはないが...... 少し前に巻き込まれたのさ、パクストン・ボーイズの起こしたテロに。
それと、メイソンで構わない。
期待してるぞ、おかしなナイト?
死なない程度に気張ってくれ、こちらも死なない程度には支援するさ。」
「ハ、戦士でナイトか!
悪くない、称号は貰えるだけ貰っておけ!」
「......さっきから、テスカトさん当たってなくない?」
あー......
いくら女の子でも言っていい事といけない事がある。
他はともかく、これを言われた時のテスカトリポカは傷ついてしまうのだから。
「さっきから女の子女の子って、私にも名前はちゃんとあるし!
ニフラって名前があるの! 日本人だし!
同郷!」
日本人だったのか、思わず驚いて『えっ』と声を出してしまうが、それは彼女にとって地雷だった様だ。
貸していた手に噛みつかれ、思わずのけぞって弾を外してしまう。
カバーにテスカトリポカが入った事で事なきを得たが、かなり危うかった。
「なめんなー!!」
......とは言うが、そう言えば何故ニフラはニューメキシコへ来たのだろうか。
観光するだけならサンフランシスコとか、もっと有名なところはあったはずだ。
何も選んでニューメキシコに来る必要はなかったはずだが。
それを聞けば先程までの勢いはどこへ行ったのか、彼女は小さくなって考え始める。
「うん、私もサンフランシスコに行こうとして──
......じゃあ何でニューメキシコに?
どうして? わたしは何で......」
自分の記憶に自信が持てないのか、震えながら自問自答を繰り返すニフラに声をかける。
大丈夫か、しっかりして、と。
しかし返事は返ってこず、彼女の回復を待つ暇も無くメイソンの声が飛ぶ。
「旅行の話はストップだ!
団体様がお出迎えしてくれるらしい!!」
「死体の山か。
普段なら喜ぶところだが、生憎今のオレは機嫌が悪い......!!」
爪や牙の化け物── B.O.Wとやらと、多くのゾンビが気づかない内に自分たちを取り囲んでいる。
どうやら、ゆっくり考えさせてもくれない様だ。
ここを切り抜けなければ。
死亡回数:4回