その日の夜。任務を終えて戻ってきた五条は、いの一番に直哉の部屋に向かった。
直哉の性格から、虎杖(偽)への虐待を心配したのだ。
特級依頼だの、並行世界からの旅人だの、今日はイベントが起きすぎる。
本当は泊まって来るところを、瞬間移動を使ってまで強行して帰ってきた。
だって直哉である。クズの直哉である。
なんだ、うるさくするって。なんだ、同室って。
悪い予感しかしない。むしろ絶対に虐待している。
そう確信を持って、上層部の命令とはいえ特級任務に一年を連れて行こうとした伊地知に圧力を掛ける事すら後回しにして、件の部屋へと急いだ。
部屋の前まで行くと、直哉の声が聞こえてくる。
「そして、ヒーローOFAが、見事ヴィランのAFOを打ち破ったのです。ということで、悪いことしたらあかんねんのやで。なんや、もう寝たんか?」
その優しい声音と言い聞かせる際の微妙な必死さに、五条は引き返した。
さすがは並行世界である。いい先生してんじゃん。先生ってより親だけど。
ヒーローだのヴィランだの、もう高校生なのに絵本の読み聞かせしてんのかよ。
じゃあとは伊地知叩き起こして文句つけなきゃ。
代わりに任務片付けたことは借りに入れといてやるよ。
さて、翌日の授業である。本当は仕事があるのだが、無理を言って顔を出す。
目的はもちろん、並行世界組の様子見だ。もちろん、寝不足は表には出さない。
授業の内容は歴史だった。
「スゥ……スゥ……」
寝る子は育つ。
「堂々と寝るな」
「疲れてんだろ、昨日特級任務片付けたんだし」
「うーんすげー熟睡っぷり」
一年生3人は呆れた顔をしている。もちろん教師の直哉(偽)もだ。
「あー、授業内容全然違うからしゃーないねんな」
「そんなに違いますか?」
「さすが並行世界やな。半端に似てる所もあるし、やっぱり授業別にした方が良さそうや。数学くらいかな」
歴史の教師も虎杖(偽)も責めないその様子。なるほど直哉とは別人のようだ。
若干違和感があるから性格面を除いても2人の区別もついた事も安心要素である。
「次は訓練なんだけど」
「訓練!!! 俺好き!!」
ガバッと起き上がる虎杖(偽)。やる気があるようで何よりです。
「よかったね、悠」
「?」
「悠二が2人いて面倒だろ。とりあえず、君は悠。で、直」
流石にいつまでも脳内で偽の、とか並行世界のとかもう1人の、とやるのは面倒である。
その言葉に、その場の全員が頷いた。全く違う名前だと咄嗟にわからないし、2人とも一字削っても変ではない。
「あー。悠は体術はともかく、他は混ざれるレベルやないんや。せやから自分とマンツーマンやな」
「俺、直哉先生、とと、直先生と戦うのも好き!」
今日も元気でいい子の子犬がワンと吠える。五条悟は和んだ。
「え。でも特級だろ? 術式もないみたいだし、よっぽど呪力練れるんじゃないの? それとも、建物爆破したの直? でも呪力低めに見えるけど」
そうなのだ。直の呪力は直哉に比べるとやや低めであり、術式は大規模破壊に向いてない。
その戦い方もよく知っている。翻って虎杖。こちらも術式はないが呪力があまりに膨大……と言うわけでもない。
むしろ直より低い。だが、特級であることも、建物破壊も事実である。持ち帰った宿儺の指と被害額が証明している。
「直先生だよ、建物爆破」
「級いくつ?」
「あー。二級や」
低い。直哉は特別一級であり、一級より上だから、二つ違う。この差はとてつもなく大きい。。
「じゃあ、特級倒したの悠?」
生徒の方が強いのかよw w wなんて揶揄ったりはしない。この業界は、才能が全てなのだから。
それに、宿儺の器は色々と異色でもあるし。
「んー。俺が弱らせて、先生が倒した。あと、俺、先生に勝てた事ないから! 先生対人つえーの! 呪霊は苦手だけど」
「???」
呪霊が苦手とは。呪術師の意味ある???
「あー。世界が違えば戦いかたも違うって事で。あんま見られたいものでもないんや。奥の手があると思っておいて。体術の練習だけ混ぜたってくれればいいから」
「えー! 俺なんでもありがいい!!」
「僕も見たーい!」
未知の奥の手。きっとそれはよっぽど凄い。この呪力で特級を倒しているのだから。
ギンっと直先生が悠を睨んで黙らせる。
優しいだけでなく、ちゃんと手綱も握れるのね。でも、何を隠しているのだろうか?
「今日の放課後、お買い物連れてったるからわがまま言わんで」
「はーい」
悠を賄賂で黙らせ、直はきちんと五条に向き直った。
「自分らの奥の手、自分とこの五条家には気持ち悪い言われてるし、あんま面白いもんじゃないで。自分も気分悪くさせちゃったことあるし」
「えっ 逆に気になるんだけど」
「悠くん、使ったらあかんよ」
「うー。でも俺、術式ないんだろ。でも伏黒達、術式あるんだろ。じゃあ、対等「駄目や」」
そして、体術の訓練をする事となった。なんだかすごく気になるやりとりである。
そもそも、気持ち悪いだのなんだので呪霊退治に有効な手を排除するのはありえない。
一体、どう言うことなのか。
さて、今日は2年生が戻ってきたので顔合わせである。
真希は直哉と面識がある。何せ同じ禪院家である。だが直哉は真希に気づかなかった。
「げっ 直哉」
「? 自分、並行世界から落ちてきたんや。直先生って呼んで。こっちは悠」
「無視かよ」
「並行世界にはいないのかもだろ」
「しゃけ!」
パンダが言うと、棘が肯定する。それに納得して、嫌そうに真希は名乗った。
「禪院真希だ」
「はああああ!?? 真希ちゃん!?? えー真希ちゃん!? 真希ちゃん!?」
「嘘だろ、真希先輩がこんなに可愛いはずがない!」
反応は劇的。悠と直は2人で真希の周りをぐるぐる回り、穴が開くほど全身を見る。
「喧嘩売ってんのか一年!」
「写真見せて貰えばいいだろ」
またしてもナイスな発言をするパンダ。
だが並行世界組の2人は何故か断固拒否をした。世界の違いとは一体。謎は深まるばかりである。
さて、放課後、お買い物である。
買ったのは悠ばかりだった。
ドールハウスと有精卵、そしてケージをいくつか。まるで意味がわからない。
うるさくするとはまさか鶏の飼育なのか。謎は深まっていく。
それはさておき、悠は特級ということで、外の仕事もしてみる事になった。
引率できる人間がせっかく2人いるからという事で、悠仁もそちらに行く事となった。
「ってことで、脱サラ呪術師の七海です!」
「宜しくナナミン! ナナミンはそのまんまだな!」
そういって、直先生に小突かれる悠。
「虎杖悠仁です。悠と呼んでください」
「俺も虎杖悠仁! 悠仁って呼んで!」
「そのままとは」
「同じ名前で全然違うやつ、こっち多いんだもん」
「そうですか。しかし、ちゃんと挨拶はしなさい」
「「はーい」」
一応、七海も事情は聞いている。前途多難と思いつつも、3人を引率した。
並行世界とは大きな違いがあるらしく、お上りさん3人である。
キョロキョロと周囲を見回す3人に、思わずため息も出るというものだ。
という事で、映画館まで来た虎杖達御一行。
悠は昨日買った虫籠のようなケージをなぜか持っている。
早速映画館の残穢を追って、化け物を見つけた。少し数が多い。
「センセー」
「ん。ええよ。ここは悟くんおらんしな」
直が許可を出すと、悠は無造作に敵の化け物に触れる。瞬間、小さくなったそれをケージに投げ入れた。
触ってそのままつまんでケージへ。触ってそのままつまんでケージへ。
あっという間に敵が片付く。何せ、掴んでケージに入れるだけだ。
「せんせ、これ食べていい?」
「後で唐揚げ買ってあげるから食べたらあかんよ」
「……食べる、とは」
ようやく、それだけ口に出せた。特級術師とは聞いていたが。まさか。
「悠くん、小さくしたものはなんでも口に入れるんや。まだ力に振り回されて危なっかしい部分があってな」
幼児か。
「そんな問題ですか? 術式はないと聞いてましたが」
「術式やないもん」
ケージを悠から没収しながら、直哉は言う。化け物は食べてはいけません。
そうして、ケージの中身を覗いて一言。
「ん、これ人やな。呪霊やない」
「なんですって?」
悠仁は吐いた。
それはそれとして、自分もその技を使えるかはしっかり聞いて来たのだが。
悠仁は自分も魔法みたいな必殺技を使うことに憧れがあるのである。
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