「虎杖悠は危険なのではないか」
「そちらでは何故秘匿死刑になってないのだ」
上層部の質問に、さほど動揺もなく、んーと悩んで直は答えた。
「理屈はいくつかあるけど……せやな。キリがないからや。自分らの世界では、悠くんの個性は割と強力な個性やし、悠の精神状態は、ちょっと注意すべきや。けど、強い子ほどアクが強いのは当たり前や。平均とは言わんけど、今の所は突出した危険人物でもないわ。要経過観察ではあるけどな。食べ物への執着が強くて、小さくしたものを食べる事も個性の一貫なのではないかって疑われとってな。えーと、個性と術式の違いを説明した方がええ?」
「もちろん」
「術式と個性の1番の違いは、それ自体に意思があるかどうかや」
「は?」
ざわざわとざわめきが走る。それぐらい、その言葉は意外だった。
「んー。意思があるっていうのは語弊があるかな……能力に本能が紐づいとって、例えば自分は、爆破したいっていうのは本能なんや。せやけど術式は鍛えなならんとは思うけど、いくら封印しても使わないと発狂するまではいかん。悠くんの場合、小さくするのが本能なのか、小さくして食べるまでが本能なのか、というのが問題視されてるんやな。今、小さい農場を作らせて、そこの生き物を食べることで本能を満足させる試みを行ってるんやけど……そういう本能の管理が必要になってくるんや。抑えすぎると、個性に乗っ取られるというか、性格が豹変してしまうんや」
「ドールハウス買ってたのって、その為?」
先ほど、人間を、というか自身を小さくさせていた直を思い出し、五条は聞く。
頷いてほしくないなと思ったが、当たり前のように直は頷いた。
「自分がたまに個性くらってやって、そのドールハウスで生活してやったり、小さな農場を作らせたり……。まだ悠くん、自分の本能と付き合えてへんから、そうすることである程度こっちでコントロールしてるんや」
それはかなり怖い。考えてみてほしい。マッチ棒程度のものに自分を変えさせて、人形のように遊ばせる。
恐怖である。
暴走した時の危険度も、それはそれは高い。
だってそれこそ、非術師をさらってまわってドールハウスに閉じ込めることも可能なのだ。
呪力を小さくできるのだから、呪術師だって可能だろう。
「かなりの問題児に思えるけど、それが平均な訳? どうして直がそこまでするわけ?」
「せやかて自分教師やで」
その言葉は、なんというか五条と何人かの胸に刺さった。
「自分かて、同じこと言われて育ってきたしな。小さい頃はなんでも爆破したがったし、実際したわ。結局、折り合いつけるの成人ぐらいまでかかったわ。その上、個性は世代を経るに連れ、強力になるんや。発現率も高くてな。術式とちょうど逆って言うたらわかる? 前例に吸血とかの個性とかもあったし、小さくして戻すだけなら、悠仁は個性としてはちょっと強力ぐらいや」
なるほど。サラッと言っているが、確かに爆破して回るなんて大変だ。それが成人まで続くとか冗談ではない。
発現率も高すぎる。何せ人類の八割である。
「ちょっと強力ねぇ? 特級がそうホイホイいる訳?」
「おらんよ。呪力持ちがそもそも少ないもん。術式と個性は別や」
それから、直はうーんと考えながら話す。
どうすれば無個性に伝わるかな、と悩みながら。
「個性の格としては、自分の爆破も割と強いんやで? 呪力も自分の方が少し多いくらいやし。せやけど、悠仁は相手を呪力ごと小さく出来るから、特級呪霊にも通用するいうことで特級やな」
上層部の者達に視線を送られたので頷く。確かに呪力まで込みで縮小していたし、それなら虎杖の呪力でも対処可能だろう。
「自分は術式と個性二つ持ちやけど、うまく連動出来んし、爆発に呪力載せられんから、二級や。んー。例えば、腕が四つある個性なら、非術師なら呪霊相手に無力やけど、呪術師ならその四つに呪力まとわせて攻撃する事は簡単やろ?」
かなり乱暴な例えだが、なんとなく理解した。
「そんなふうに、役立てる事は可能やけど、個性は術式とははっきり別物なんや。個性としては強力無比でも、呪霊にはなんの効果も及ぼさないとか普通にある。術式の剥奪や個性の剥奪の前例はあるけど、個性の場合は奪われると人格も個性に付随される事が確認されとる」
どこまで自由なんだ個性。
ここまで、会議の雰囲気としては、言ってしまえば得体の知れない個性などというもの、悠は処分できないか、という流れだった、
だが、直がこの後付け足した言葉で、流れは変わった。
「悠くんは、有望な術師である他に、素直やし、身寄りもなくて自衛ができて暗殺も出来るから、普通に上層部肝入りで育てとる子でもある」
そう言われたことで、急に悠がゴミとか邪魔者から宝にジョブチェンジしたのである。上層部の脳内で。
反感的な五条悟みたいなのはいくら強かろうと邪魔でしかないが、自分達に忠実なら話は別。わかりやすい。
逆に五条はムッとする。悠を心配して。
しかし、その心配は的外れなものであるのだが。何せ、悠は図太い強い、やらかしが心配である。
であるならば、上層部にがっちり守ってもらえる忠実な駒というのは決して悪い道ではない。
何より、並行世界の呪術界は腐っていないのだから。
「言われてみれば、宿儺の器ではないわけだしな……」
「しかし、危険ではないのか」
「自分、一級呪霊倒すんはしんどいけど、一級呪詛師くらいやったら何人でも倒せる自信あるわ。悠くんにも負けた事ないし。そこら辺、個性と術式とで力関係複雑でな。呪霊倒すのは五条家で、そこまでの護衛は禪院加茂とか普通にあるし。五条家、個性混ぜとらんせいか呪力持ちの割合は多いけど、一般人の個性持ちに勝てへんから」
「禪院加茂が五条家の護衛だと!?」
「何を馬鹿な!!」
「うーん、褒められてるのか貶されてるのか。一般人に負けちゃうわけ?」
上層部のいくにんかが即座に噛みつき、五条は怒ることなく問うた。
だが、そんな事を言われても直も困る。何せ事実だ。
「事実やし……。個性持ちの一般人は呪霊に勝てん。でも、呪霊を倒せる術式持ちは、個性持ちの一般人には負けるんや。五条家が100%人間なのは知られとって、高く売れるし……」
サラッとすごい事を言う直である。だが事実だ。並行世界は腐る暇がないほど治安が悪い。
「術式と個性の成長率は比較にならんからな、500年前ならともかく、今は術式だけで勝ていうんは無理や。例外は悟くんくらいやで。五条家って、前代の六眼が個性持ちとの結婚禁止令出しとってな。でも今代の六眼が生まれた事やし、個性を取り入れるか、そのまま人間としてお家断絶するかでまだ御三家会議で揉めとる……これは関係なかったな」
「いや、聞きたい。禪院加茂は弱体化してるわけ?」
自分は向こうでも最強らしい。そこを確認し、ほっとしつつも他のニ家について確認する。
まあでも、直哉より直の方が若干呪力が低いため、予想はつくのだが。
「呪力自体は五条家に劣る傾向にあるわ」
ざわめき。
「その代わり、強い個性持ち多いし、もちろん自分筆頭に戦える術師もおるけど。総合的にみれば、禪院家が一等強いんちゃう?」
自負も何もなく、ただの事実を言っているという口調で直哉は言う。
それゆえ、不思議と反感も起きなかった。
「婚姻については、御三家は御三家で相談しつつやっとる感じやな。個性と呪力、どっちを優先するか。呪詛師と一般人の個性犯罪者と呪霊って区別つけるの大変やからな。頻発する個性犯罪、まあ要は一般的な犯罪やな。それも呪術師が最終的に捜査するんや。警察やらヒーロー協会やら、一般の個性持ちの手伝いもぎょーさんおるけど、とにかく匙加減が大変でな」
なんと、クソ忙しいこちらよりさらにクソ忙しいことが容易く予想がつく状況である。
全体の一割どころか1%もいない呪術師達が犯罪捜査もやるなんて想像しただけで発狂する。
それはともかく、御三家の仲は悪くないらしい。
「うわ、聞くだけで関わりたくない……」
「せやろ? まあ、迎えがきたらすぐ帰るし、こんな面倒な個性持ち取り込もうとも思わんやろ? それまでの短い間、なるべく迷惑にならんようにするし、手伝いもするから、よろしゅうしたって」
「迎えは来るわけ?」
「全人類の八割やで? 世界を飛び越えての探し物くらい、誰か出来るやろ」
術師八割の世界の人のこの貫禄よ。誰かできる個性持ってるだろう。すごい考え方である。
呪術師ならば絶対に考えられない。何せ総数が少ないし、方向性が呪いゆえ限定される。
「来なかったら?」
「子供作らんようにするし仕事するから、置いたって」
それには上層部の者達は納得した。いっそ迎えなど来なければいいレベルで納得した。
「悠が問題を起こしたらどうするのだ」
「起こさへんように、セットで行動させて。悪い子やないし、自分も止められる力くらいあるし」
そこで尋問は終わり、ひとまず任務に戻される事になったのだった。
そうして、任務に戻ることになったのだが。
「悠くん。一つ言っておく事があります。人間は食べてはいけません。元人間もです」
任務にあたり、七海は悠に言い聞かせる。
「おう! 人間ちゃんはいじめちゃダメってじーさんも言ってた!」
「何かずれているような気がしますが……。はぁ」
「ごめんナナミン」
思わず悠仁が代わりに謝る。
「君が悪いわけではありません。悠くんもですが。しかし、悠くんが平均的でどんどん強くなるというなら、未来はどうなるんですか?」
「せやから五条家が人間として死ぬか、化け物に染まるか悩んでるんやろ。もう八割バケモンやから、今更排斥も無理やし。まあ順当に凶暴な能力持ちと性格もちが増えてって、ジリジリ地獄になるんちゃうかなぁ」
「うわぁ……」
思わず五条家に同情する悠仁である。
それは化け物扱いされた直も同じ気持ちだった。
だって直も自分は化け物だと思ってるし、最新世代は割と怖いと思っているので。
「迎えがきたら早く帰ってくださいね」
「もちろんや。迷惑かけたらあかんもん」
七海の言葉に、直は深く頷く。
ぶっちゃけて言えば、直は一般市民にこの世界の事がバレるのが怖い。
何せ全員人間ちゃん。人間の嫁でもおもちゃでも手に入れ放題なのだから。
まあ、呪術師達にそんな迂闊なことをするものはいないと信じているが。
「そんなわけで俺強いからさ、戦いなら任せろー」
悠が自信たっぷりに告げる。この戦いに関する躊躇のなさよ。
だがそれは呪術師としては適性があると言うべきなので、直はグッと堪えてノーコメントにする事とした。
「子供とはいえ、そう言った世界の上層部の肝煎りならそうですね。そのつもりで引率します」
そういうわけで、まずは順平への接触をする事になったのだった。
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