「まず、順平くんが呪霊が見えるかのチェックをします。これは悠仁くんにお願いします」
七海が聞くと、悠はきょとんとした顔をして聞いてきた。
「こっちは洗脳の術式とかねーの?」
「総数が少ないからな。そんな多彩な手段はないやろう」
「洗脳とかあっさり言うなよ……あってもやっちゃダメだろ」
悠仁が注意すると、悠はさらに不思議そうな顔をする。
「なんで? 今時、歌手も魅了の個性の一つや二つ持ってるだろ」
「悠、無い物ねだりはあかんよ。あと、魅了の個性を使った歌手は自分は好かん……」
苦々しい顔をする直先生に、不満そうな顔をする悠。
「えーいーじゃん。かっ飛べるぜ」
「新世代の倫理観ほんま迷子やな」
まるで近頃の若いものは、と言いたげな口調だが、内容は精神操作系の能力の一般活用についてである。
かっとべるとは。まるで怪しいお薬のような言い方に不安が募る。
「年寄りー。悠仁も俺の世界の歌手の歌聞く?」
「なんでその会話の流れで聞くと思った?」
それを年寄りで済ますあたり、若い子の間では普通に受け入れられているのだろう。
こちらの治安がものすごくいいと言っていたあたり、並行世界の治安に不安が募る。
だが、今は任務である。話が完全に脱線していたので、七海は仕切り直した。
「私語をしない! 悠くんは、私と一緒に呪霊を追います。引率の直先生も一緒に」
「えっ 俺1人!?」
「伊地知くんがいるので、頑張ってください。悠くんは私より等級が高いので妥当でしょう」
「ちぇー」
子供だからと言われれば承服できないが、単純に等級の問題だと言われれば、悠仁も受け入れざるを得ない。
「本当は3人とかオーバーキルだと思うのですが、これは私の任務ですからこちらの探索は譲れませんし、直先生抜きで悠くんの手綱を握るのも不安が残ります」
「後で訓練付き合ったるから、許したって?」
「しゃーないから許してあげる!」
止めに、直先生の取りなしと訓練の約束で、悠仁は機嫌を直した。
ウィンクして直哉が手を合わせる直先生。七海はそれをじっと眺めた。
「……なんや?」
「いえ、こちらの直哉さんとだいぶ違うなと。とても良い教師をしているようなので、驚きました」
優しく言い聞かせる様子はとてもいい教師である。こちらの直哉とは似ても似つかない。
「んー。そう言ってくれると嬉しいわ。自分、頑張っとるもん」
自分で言ってしまっているが、確かに頑張っているのは節々から感じ取れた。
直哉と比べると尚更である。
「直先生大好き」
「直先生俺も好き」
「ありがとうな、2人とも」
そこで、伊地知の携帯に電話が入った。
「あのっ え!? しかし、そんな!」
あからさまに嫌な知らせである。
上層部もこの任務、もっと言えば宿儺の器と並行世界人には注目しているので、物言いはある程度覚悟していた七海である。あとは、なるべく被害が少なければいいのだが。
ハラハラしながら話を聞く。
「すみません! 一級呪詛師がこの近くで出て、直哉さんにお願いしたいそうです」
「は? いや、呪詛師やったら一級上でもどうにかする自信あるけど……。流石に悠くん連れて行くんは」
内容は、断固拒否するほどでもないが、中々に厄介な依頼。
そもそも、直先生は対人得意とは自分で話していたとはいえ、二級術師である。等級違いだ。
「悠くんはそのまま七海一級術師が引率していただけると」
「はぁぁ。不安ですが、まあいいでしょう。悠くん、私のいうことを聞けますか?」
あからさまな分断工作。なんとか許容できる範囲とはいえ、二の矢が飛んでくるかもしれない。
七海はため息をついて問う。
悠は若干不安そうである。それもそうだろう。級は七海の方が低いのだ。
実際には、悠は無個性であることを懸念したのだが、懸念は懸念である。
「悠くん、人を食べたらあかんで! 元人も駄目や! 七海さん食べたら爆殺やからな!」
「爆殺!」
顔を輝かせる悠。この辺の感覚はさすが並行世界人である。
「嬉しそうにせんで……やめた、食べたら無視や無視。ずっと無視」
訂正。並行世界の若いもの独自の感覚である。
「わかってるよ。ナナミンは食べない。俺が守る!」
「まあ、相性はええやろ。小さいもの攻撃できる程度の精度はあるやろ? 大人の親指くらい」
「問題ありません」
悠が小さくする。そして七海が切る。特級相手にやっていた戦法である。
そして、不安にかられながらも、三手に分かれて行動する事になった。
やってきた、残穢の色濃い下水道。
「あっ ここにもいた!」
悠は呪霊を捕まえ、小さくして摘み上げてケージに入れる。
小学生の昆虫採集である。もう7体はケージに入れている。
「凄まじいですね。疲れないですか?」
「いや? 全然。でもケージいっぱいになっちゃうね。一度出して潰す?」
「いえ。どうやら、向こうから来てくれたようですし。そのケージは潰さないように」
たまに繰り出す無慈悲ムーブはやめてほしい。あなたは子供なのですよ。
っていうか、人を殺した経験がないはずって本当ですか?
それらの言葉をグッと飲み込み、しっかり釘を刺して、現れた呪霊へと視線を向ける。
「ようこそ、もう1人の虎杖悠仁」
「誰?」
「僕の名前は真人だよ」
「……(情報が漏れている)」
やれやれ。やれやれ。やれやれやれやれ。
上層部と呪霊が繋がっているという確信を得たに等しく、七海は重いため息を吐いた。
「俺、悠仁! でもややこしいから悠って呼んで!」
だがしかし、悠はいつだって元気な子犬さんである。人懐こい。
大丈夫かそいつ敵やぞ。
「異世界人の魂、俺、触ってみたかったんだよね。俺の術式は魂に触れて形を変えるものだから。君は魂と肉体、どちらが先に来ると思う?」
「んー? 両方! だって個性奪うと遺伝情報変わるし、性格もついてくるし! でも個性って体に宿るもんだし」
「個性。個性ね。とても興味深いよ。人間を小さくするのは僕もできるんだけど、君ほど上手くなくてさ」
「呪霊なんかに俺の個性が真似できるわけねーじゃん」
あはははは、とナチュラルに見下して悠は笑う。
並行世界の直と悠は性格取り替えっこでもしたのかもしれない。
どこまでも善良な悠仁と比べて、ナチュラルクズな所もある直哉に似たところがないとも言えない悠である。
無邪気な子供というのは共通しているのだが、こう。なんというか、傷つけることに関してあまりにも戸惑いがない。
「そうだね。もっと近くで見せてよ」
「遠慮すんなよ、体験させてやるから」
ぞくり、と七海は肩を振るわせる。
不可視の力が確かな圧迫感を伴って悠の両手に集まる。
軽薄な中のドス黒い強さ。それには覚えがあった。
ああ、しかし。
今の悠仁は、呪霊のように、呪霊以上に嘲りと傲慢に満ちた邪悪さを秘めていた。
要は人外なのだと実感したのである。
触ったら終わりの能力者同士の戦いが始まった。
「たす……ケテぇ……」
真人に化け物にされ、投げられた被害者が掠れた声で訴えるが、悠はいささかも動揺をしない。
ただ手を振り抜き、その手にぶつかった化け物はそのまま小さくなって薙ぎ払われる。
小さくなって振り払われて、ゴミのように飛んで落ちていく被害者。
止めを刺されることすらされない。
「悠はさ。動揺とかしないの?」
「なんで?」
「呪術師だろ。人助けたりとかさ」
「んー? じゃあお前、これ戻せんの?」
「いや?」
「だよな」
何当たり前のことを言っているのだろうとでもいうように、いや、あくまで日常のことを語るようにして。
そして、トントンと軽く飛ぶ。
力を込めて跳躍。スピードを出して、真人に飛びついた。
悠の呪力操作は未熟である。ろくに身体強化が出来ない。
それがどうした?
個性因子に侵食された体は、人間よりもずっと強い。
宿儺の器たる体は、只人よりもずっと強い。
それは、容易く高レベルの術師を凌駕する程に。
そして、手で触れさえすれば終わり。
圧倒的有利な鬼ごっこ。その後にある人形遊び。
悠にとって戦いとは、そのようなものであった。
それに、悠は個性戦に慣れている。
変幻自在の体? 触られたら終わり? そんなものはいつものことだ。
しかし、真人もさるもの。
大量に保存してあるストックで攻撃と防御を両立している。
飛びついてきた悠をいなし、攻防を続ける。
カウンター。
真人の体を変えた一撃と、悠の蹴りが交錯する。
真人が子供ほどの大きさとなり、呪力が半分となる。
蹴りでも干渉できるなんて聞いてない。真人はそれでも強気に笑った。
「……君、何級って言ってたっけ」
「トッキュー!」
「へぇ」
もはや悠は人外である事を、隠そうともしていない。そう、姿は人間だが、六眼などなくとも一目で分かる異質。
楽しそうに戦いながら、きゃらきゃらと悠は笑う。割と大きめな怪我もしているのだが、傷などモノともしない。
この興奮状態をどうすればいいのか。七海は困惑していた。速やかに落ち着かせないと大変な事になる気がする。
「ねぇ、悠。君、呪詛師の方が合ってるんじゃない? 僕らの仲間にならない?」
「はぁぁー? 俺はOFAみたいなスッゲーヒーローになるんですぅー。恵や釘崎や直先生と楽しく殺し合って、たまに小さくさせて人形遊びさせてもらってさ。幸せ計画!」
「それ呪詛師でも出来るよね?」
「あ?」
勧誘の言葉に、悠が初めて気がつきました! とでもいうように声を上げる。
「いっぱい人をお人形にできるよ」
「……」
「直先生に無視されますよ!」
「ゼッテーやだ!」
誘う声に考え始めた悠だが、七海は慌てて1番効くであろう言葉を放った。
子供である悠は、子供らしく反射的に答えて、戦闘再開。
腕を伸ばす悠だが、真人は凄まじい速さで引いた。
「今日のところは撤退かな」
「あっ 待て!」
真人は去って行ってしまう。
「……」
七海は心臓がバクバクするのを抑えきれなかった。最悪の場合、今から戦闘である。
手当たり次第に攻撃して暴れ出しかねない、そんな化け物的な雰囲気が戦う悠にはあったのだ。
悠が振り向く。
「ごめんっナナミン! 譲ってもらったのに逃がした!!」
パンっと合わされた手に、七海はほっとした。
そして、被害者たちをかき集めてケージに入れて、帰還した。
そうでもして力を使わせないと、悠の力が暴走しないか恐ろしかったのである。
術式は暴走せずとも、個性は暴走すると、直感は実感で理解していた。
そこで、戦闘中で出れなかった電話が再度鳴る。
どうやら、容疑者のお家でお食事の模様。なんでそうなった。
「えっ 悠仁ご飯ご馳走になってるの! ずるい! 俺も食べに行く!!!」
「悠くん、いけません」
「行こうぜナナミン! 来てもいいって! お腹すいた!!」
「……ハァァ。悠くんだけで行ってきてください。私は後片付けがありますので」
テコでも動かなそうなのと、疲れていたのと。……悠からほんの少しだけ、離れたかった。
その後、悠を1人で行かせたことをとても後悔するのだが、それはまた別の話である。
なんちゃって戦闘シーンですが、私の中では今まで生きてきて人生1番の出来かも(*'▽'*)
雰囲気だけは出てる気がする!
お気に入り、評価ありがとうございます!
感想お待ちしてます。
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今度からマシュマロ返信することに致しましたので、
返信不要の場合はお題箱の方に感想をくださるか、返信不要とお書きください
お題箱
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