「ごちそーさまです! すげー美味しかった!!」
「ふふふ、いい食べっぷりね」
お腹いっぱいになった悠と悠二と順平は、3人で話そうと部屋へと向かった。
「順平はさ。呪霊好き?」
「へ? どう、かな。最近見えるようになったから、わからないや」
悠の言葉に、誤魔化しつつも順平は答える。
嫌い、とは言えるはずもなかった。順平は真人が好きだ。人間よりもずっと。
「俺は好き! どれだけ力を振るっても、怒られねーもん!」
「……悠仁くんとはだいぶ考えが違うんだね」
やや軽蔑を込めた言葉に、悠は無邪気に笑う。
「順平はさ。一生走るなって言われたらどうする?」
「ええ? 嫌だよ」
当たり前である。
「力を使わないって、そういう事だろ。俺の体の一部なんだからさ」
「それは、確かに……」
「でも、わざわざ他に振るわなくてもいいだろ」
流されかける順平だが、悠仁はしっかりと釘を刺す。
しっかりした善を持つ男、それが悠仁である。ふわっふわしている順平と悠とは違うのだ。
「んー。人間ちゃんにはわからないかな、この気持ち」
「君は呪霊なの?」
「似たようなもん、なのかな。本当は」
首を傾げて問う順平に、少し真面目な顔で答える悠。
「いや其処は人間って言おうぜ」
是非ともそこは人間を主張し、人間の生き方を実践してほしい悠仁である。
「俺、呪詛師も好き」
「話聞こうぜ」
「だから、俺、順平が好き」
悠仁は意味がわからなかった。好きと言いながら、殺気が出る。
危険を感じた順平がバックステップで下がる。だが悠のほうが早い。
順平を小さくして、ケージに入れる。
「悠、どうして!」
「真人といたろ。残穢ベッタリ。帰ってから話聞こうぜ」
「真人?」
「真人さん!?」
悠はこれでも特級である。まだまだ不安なところはあるが、一応残穢は見れるのだ。
真人のことを知らない悠仁は首を傾げ、順平は真人を案ずる声をあげる。
「じゃ、腹ごしらえもしたし、行こうかな」
「どこへだよ」
「真人の所。俺、自分が小さくしたものの場所わかるからさ」
その報告をしなかったのは、忘れていたからか、七海を人間ちゃんと見下して認めていなかったのか、手柄が欲しかったのか。ただ単にお腹が空いたから一旦引くことに決めただけだったのか。
最後が1番可能性が高いのが頭の痛いところである。
そして、悠は悠仁にも力を振るおうとする。
【近づくな】
「運んでやるだけだって」
宿儺の殺気混じりの言葉に、宥めるように悠がいう。
ピリッとした空気が漏れる。
その後、悠は笑った。
「連れてってあげようと思ったんだけど。じゃあ帰る?」
「順平は?」
「真人に会わせてみるから連れていく」
「俺も行く」
「じゃあ行こっか」
2人は窓から大脱出。
こうして、子供だけで特級呪霊の巣へ向かう暴挙を果たしたのである。
「虎杖くんが行方不明とか……! 彼から目を離さなければ……!」
「ヒィィ、五条さんに殺される!」
「電話でろ電話でろ電話でろ」
ここで3人の擁護をしよう。
まず、七海は伊地知に悠を送らせ、送迎を頼んでいた。
つまり、下の階で伊地知は待っていたのである。
そして、様子がおかしいと上に行ったらもぬけのからだった。
更に言えば、その後すぐに直先生に連絡をしている。
3人はすぐに合流し、下水道から残穢を追っていた。
後でしこたま怒られる3人だが、頑張ってはいたのである。
問答無用で子供達が悪いのだが、それですまないのが悲しい世の中だ。
大人は子供のやらかしの前提の上で頑張らねばならないのだ。
さらに呪術界では、上層部の無茶振りも前提に入ってくる。ブラックである。
さて、下水道の奥の奥で偽夏油と真人が会話をしていたその時だった。
「!!」
「こんにちは死ね!」
挨拶は大事。だから悠はしっかり挨拶をする。
気づかれたと同時に、偽夏油に石の全力投球。人間ならば呪力を込めない石でも有用である。
無論、それを喰らう相手ではない。
「やあ。2人とも、どうしてここに?」
「順平もいるぜ! じゃ、再戦しよ!」
「えっと、あの小さいのが真人? 子供にもできんの?」
「そー。でも2人だけかー。残念ハズレ!」
そろそろ味方と合流するかなーと思ったんだけど、と悠は付け足す。
確信犯であることがここに証明された。
ちゃんと報告するべき案件なので、ここに悠への説教スペシャルが確定した。生きて帰れればの話だが。
「真人、君、つけられてたね」
「ごめーん」
「脳無確認! 呪霊確認! 殺してよし!!」
ビシシッと2人を指差す。
バウっと擬音すらつきそうな勢いで、悠は順平の入った籠を放り出して走り出す。
脳無ってなんだ。いい意味ではなさそうだ。偽夏油が口を開こうとしたそのとき。
「真人さん! この人、小さくしたものの場所がわかるって!」
「順平!」
順平のアドバイス。ここに順平は呪霊側だと確定した。
ここに順平への説教スペシャルが確定した。生きて帰れればの話だが。
「おっとすごいね君」
「俺が小さくしたの潰してって! 出来るか!?」
「できる!!」
偽夏油が出した呪霊が悠の手で小さくなる。弾かれたそれを、悠仁が踏み潰した。
「厄介な」
そもそも姿を見られた時点で大誤算である。
そうして、偽夏油は呪霊に指を食わせる。
呪霊は凄まじい勢いで成長した。食わせた指の数、2本。
「ねぇ、悠。改めて、勧誘したいんだけどどうかな? 君じゃあ、人間の世の中はつまんないんじゃない?」
「全然! すげー楽しい!」
「そっか。でももっと楽しくなるよ」
真人の勧誘をきっぱりと断る悠だが、交渉の余地はかなりありそうなので、真人は勧誘を続ける。
偽夏油は夏油ほどではないが、単体の戦闘技術も極端に高い。
特級呪霊二体、そして偽夏油と真人。
あっという間に囲まれた。
「んー。ちょっときついかも!」
当たり前である。
「どうしよう!?」
「ちょっと待ってね。大丈夫、直先生近くまで来てる」
悠は首に掛けていたロケットペンダントをあけ、中のそれを投下。
轟音。白煙。
そして、それが収まった時、いるのは悠だけだった。
小さくした煙玉を入れていたのである。それで撹乱した。悠の奥の手だ。
「悠仁はどこかな」
「個性でどっかやった」
「個性。君の個性は小さくする事だろ?」
「それだけって言ったっけ?」
「……なるほど」
これは厄介な。だが、多勢に無勢。そう思った時だった。笑顔のまま、悠は告げた。
「ところで、俺、親がすぐ死んだのと、名前封印されたのとで、自分の忌み名、学校に知られてねーんだ」
「忌み名?」
「そう。でも俺はいい子だから、自分の名前、教えてもらわなくてもちゃーんと言えるんだぜ。偉いだろ!」
「それは偉いね。名前を聞いても?」
「小喰羅(こくら)。小さいと書いて、難しい方の喰らうとかいて、羅刹の羅! 呼んでみて!!」
「小喰羅……?」
偽夏油が思わず言葉通りにすると、ズァッと悠の気配が強くなる。
「なぁ、もっと呼んでよ、名前」
「うーん、何かの儀式かな?」
「真の名を呼ばれる時、本性が顕となる。本当は結婚相手にしか教えちゃダメなんだけど、お前ら強いから特別に俺の名前を教えてあげた! ねぇもっと呼んで?」
「私の知ってる忌み名と違うね、悠くん」
術式開示みたいなものだろうか。随分と不思議な風習と力である。
「あっはははははははは!! 面白いじゃん、小喰羅! 小喰羅小喰羅小喰羅!!」
「イッタダッキマース!!」
真人は大喜びで名前を何度も呼び、悠は楽しそうに飛びかかった。
夏油はため息をつき、呪霊を暴れさせた。
式神で作った小さな鳥が、小さくなった悠仁と順平をまっすぐに直の元へと運んでいた。
もちろん呪力はいじっていないが、宿儺は非常に御立腹である。
直も悠の小さくした物を持っているので、式神を直の方に飛ばせて合流させるくらいは軽い。
さすがは特級、できる子である。もうちょっと複雑なことをさせろと言われたら困ってしまうが。
そして、直先生と合流をしかけたその時。
直の持っていたペンダントが急に弾けて開き、中から直の装備が巨大化して飛び出ると同時、悠仁や順平も元の姿になる。ケージを壊す形で出た順平は七転八倒した。普通に痛かった。死ぬかと思った。
個性の解除は悠がやったことではない。
ただ単に、悠が倒されて力が解除されただけである。
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