真人は、気を失った悠を持ち上げる。
「あはっ 元の姿に戻った♡ まだ回復しきっていないのに、ありがとう。漏瑚」
「全く、こんな小僧に押されよって」
漏瑚は先日、五条悟に首だけにされたばかりなのだ。
漏瑚の攻撃で、悠の服はボロボロだ。片手は手首から上が炭化して失われているが、足も同じくズボンが黒焦げなのに何故か綺麗な足である。
「凄まじいね。流石に五条悟や夏油傑とは比べるべくもないけれど、呪力の衰退した世界で特級というのは納得かな」
「ねぇ、こいつは器じゃないから、めちゃくちゃにしていい?」
「そうだねぇ……。異世界人は2人いるし、あっちなら良いかな。これは予備で取っておきたい」
振り向いた先に、ビリッとした空気を纏った直先生がいた。
悠仁に場所を聞き、一足先に走ってきたのである。呪力も使って全力で走ってきたのだが、息切れひとつしていない。
「君の忌み名はなんていうのさ。呼んであげるよ」
「爆 轟」
名乗った途端に、その顔つきが、雰囲気が豹変していく。髪質すらも変わったようだった。
「爆轟! ははっ 凄いな爆轟! 顔つきまで別人じゃん爆轟!! そっちの方が好きだよ爆轟!」
「参ったな。なんで好んで敵を強化するんだか。私は先に失礼するよ」
直哉の体から着物が滑り落ち、ヒーローのようなスーツが現れる。
足元の爆発を推進力にして、直哉は飛んだ。
引いた偽夏油の代わりに出たのは漏瑚だ。火についてなら、漏瑚も誰にも負けるつもりはない。
「ほう。爆轟か。良かろう爆轟。相手をしてやろう爆轟」
「爆 殺 する」
「やってみろ、爆轟」
煽るように名前を連呼する呪霊一行。
漏瑚の腕と直の腕が接触する。大爆発。
「ふむ。凄まじいが、込められた呪力は見た目ほどではないな、爆轟」
巨大なクレーターの上で、なんてことないように漏瑚は言う。
呪霊は呪力でないと死なない。いくら威力がすごかろうと、呪力がさほど込められてないなら、恐れる必要はないのだ。とはいえ、全く呪力が込められていないというわけでもない。今、漏瑚は弱ってもいる。
油断しなければ問題なく勝てる、と行ったところか。漏瑚はそう判断する。
「うっせー爆殺する!!」
「やれやれ。忌み名を呼ばれると理性も飛ぶのか? 爆轟」
「爆殺する!」
「そのようだな。会話も出来ぬか」
「爆殺する!!」
「倒したら殺さないでちょうだいよ、漏瑚。上手くすれば爆弾にできるかも」
ワクワクした様子で、真人がねだる。応援が来ても困る。直の爆破を伴った連打をいなしながら漏瑚は決断した。
「手早く済ませるか。領域展開」
「ぶっ殺す! ぶっ殺す! ぶっ殺す!!!」
直の興奮が最高潮に達したかのように見えた時。
直を中心に、領域が展開した。
「爆・殺・陣!!」
「おっ 領域展開? 個性でも出来るんだね」
その段になってようやく現場に到着した七海は、速やかに真人から悠を奪還。回収する。伊地知は五条悟に連絡である。凄まじい戦いに怯えた順平は自分たちを守るように澱月を出す。
一応、忌み名だなんだというやりとりは聞こえていた。さらに言うなら、知っているもう死んだはずの人間の声も聞こえた。あまり考えたくない事態である。
こんな鉄火場とは思えないほど、すぴょすぴょと平和に寝息を立てていた悠は、爆殺陣の声で目を覚ました。
即座に悠は澱月を小さくして喰らった。炭化した手首がにょきっと生える。綺麗なお手手である。
七海達はギョッとした。
「爆轟センセー♡ 漏瑚を喰ったら俺もお揃いになれるかな?」
展開された漏瑚の領域に、触れる。領域が縮小して、破れた。
なんでもありですか、と思わず呟いたのは七海。
現れるのは、ぎょっとした顔の漏瑚と興奮しきった直。
「いただきまーす!」
「爆殺する!!!」
直は興奮のままに漏瑚と悠を双方ぶん殴る。その人生徒ですよ、直先生!
だが殴られた悠はいい笑顔だ。
「あっははは! セーンセ♡ 久しぶりにやろうぜ!」
「爆殺する!!!」
「獣には付き合ってられんな、アホらしい。わしは引くぞ、爆轟、小喰羅」
完全に目的とか敵とか人として大切なものとかを見失っている2人に呆れた漏瑚はさっさと撤退をした。
「なんなんですかこれは。完全に理性を失ってるようですが」
さらに言うなら、見た目も若干変わっているし異質さも醸し出している。
「ち、違う名前で呼ばれてから様子が変わったように思えます」
「ひとまず、正しい名前で呼んでみますか」
「虎杖悠仁くん! 悠仁くん!!」
「直哉先生! 直哉先生!」
「悠、悠、悠、悠、悠……!」
「何事?」
現れた五条が暴れる2人を見て問う。
「それが、ある名前を呼ばれた途端、様子が豹変しまして。忌み名とか言ってました」
「うーん、後で聞いてみるかな。とりあえず、取り押さえるよ」
そうして、五条は速やかに2人を気絶させたのだった。
「放せオラ、爆殺すっぞあ“あ“!?」
呪力の籠った鎖で拘束されてなおもがきあばれる直先生に困惑する呪術師達。
完全に別人である。直哉より酷い。
「悠、一体どうなってんの? 忌み名って何?」
「忌み名ってのは、赤ちゃんが生まれると、両親がいくつか名前候補を出してせーので見せて、一致した中でこれしかないって思える名前の事。個性持ちは、必ず名前に特徴があるんだ。例えば、爆轟先生の場合は、すげー爆発って意味で爆轟。でも、名前で個性が人に推察されちゃうのと、その名前で呼ぶと個性の性質がより育ちやすいって検証結果が出て、忌み名として隠すようになったんだ。んーと。お告げみたいなもの。無個性だと、お告げがないから名前が一致しなかったり、一致しても普通の名前だったりする」
直先生と比較すれば、あまり変わりがない様子の悠は、軽く説明してくれる。
簡単に言うが、かなり不思議な現象である。
「悠はこくらだっけ? どんな字を書くの?」
「小さくして喰らう羅刹! 先生が喰らうが名前に入ってたらどうしようって魘されるから言わなかったけど」
「うーん。つまり、忌み名を呼ばれると人格変わるの?」
すげー名前とすげー新事実である。少なくとも尻尾を振ったドヤ顔チワワの顔でいうことではない。そういえば、上層部に個性をお披露目した時に直先生は喰うが個性に入っているかどうか気にしていた。納得である。
「そういう人もいる。本性が暴かれるっていうの? 個性を嫌って押し込めてる人ほど、個性の人格にサクッと乗っ取られて元にもどんなかったりする」
「戻んないの、これ?」
流石の五条も困惑した。直先生がいい人というのは短い時間で実感できたし、それが豹変してしまって戸惑っているのもあるが、人格としては死も同然なのかと思うようなそれを、悠が軽く話していることに戸惑ってしまう。
五条だって、人の死を笑ったりしない。特にそれが、大好きと言って憚らない恩師なら、心配するのが普通ではないか。
「親や親しい人から忌み名じゃない名前を呼んでもらうと、戻ってきやすい」
「それって直毘人の爺さんでも大丈夫かなぁ……。伊地知、ちょっと僕の名前でお願いしてみて」
「はっ はい!」
伊地知はすぐに席を外して禪院家に電話をする。
直毘人に協力を要請するにあたり、自分の名前を使い、「お願い」という単語を使うあたり、五条が本気で心配しているのが感じ取れた。とにかく話を続ける。
「で、直先生が変わった領域展開してたって聞いたけど」
「爆轟先生の領域展開?」
「直って呼んであげようね」
「俺、こっちの先生も好きだよ」
恩師が乗っ取られていると言うのに、さらっと言う悠。この辺り、異世界人だと強く思う五条だった。
それとも、人にすぐ懐く人懐こい悠の性質ゆえか。
傍にいる悠仁と順平は手を取り合ってドン引きしている。
何せ、縛られてても暴れもがき爆殺する様は普通に凶悪で一般人にしてみれば恐れるに値する姿だ。
悠仁と順平はこの前まで、一般人だったのである。
「会話成り立たないから、僕は直の方がいいかなー。で、領域展開についてだけど」
「んーと。領域展開って、術式とその人の心に大きく影響を受けるけど」
「うん」
「人格変われば心象風景も変わるよねって話。直先生、個性に溶けた時だけ、領域展開使えるって言ってた。術式のみでの領域展開が出来ないからまだ未熟、とか」
「誰が未熟だ爆殺すっぞ!!」
「なるほど。面白いね、個性」
「個性因子は呪力に適応しつつあるって五条さんが言ってた」
「なるほど」
向こうの六眼が言うなら間違いはないだろう。
「後、五条さんも割と仲良かったから、五条先生も直哉って呼び掛ければ多少は効くと思う」
「そうなんだ? 性格穏やかだしね直」
こっちの直哉はあり得ないが、直先生なら普通に会話するぐらいはするかもと五条は思う。
「直先生には内緒ねって言って、たまに直先生の事聞いてくるくらいには五条さん直先生のこと好きだよ? 俺達も代わりに直先生のこと聞いたりする」
それは意外だ。五条悟は目を見開いた。自身はそんなふうに興味を持ったり迂遠に話を聞いたりするタイプではないからだ。まあ、並行世界の六眼というだけで、別人といえば別人なのだが。
「初耳だぞコラァ! 何個人情報漏らしてんだよ爆殺すっぞ!」
「え。そんなに仲良いの? どんなこと話してんの?」
「んーと。直先生、小さい頃呪詛師から貰われてきた子供だと思ってたんだって」
「なんで? 直哉、術式直毘人の爺さんと一緒じゃん。呪力もそっくりだし」
五条からしたら、それはもう疑いようのない事実だ。それとも直毘人の術式が向こうでは違うのだろうか。
「って五条さんもそう言ったんだけど、自分1人だけ個性が爆発で凶悪だから、もう駄目だきっと呪詛師から貰われてきたんだ、だから自分だけ学校に預けられるんだって将来捨てられるんだって。全然話聞いてくれなかったって。あれは今でも疑ってると思うって言ってた。術式一緒だろって言ってもそっくりって言っても聞かねーんだって。何でもかんでも爆破するのをやめればすぐにでも学校行かなくてよくなるんだよっていくら言ってもダメだったって」
「今は疑ってねーわ!! つーか何話してんだ爆殺すっぞ!!」
「えーでも酔った時ポロッと」「うっそマジで疑ってたの? 直哉。直毘人の爺さん可哀想」
直先生の抗議は、以前は疑っていたと認めるも同義で、しかもさらに何やら悠は言い募る。
五条としては、五条でなくともあり得ない。だって、多種多様な術式があって、一卵性でも双子でも違うのに術式が同じなのだ。これを血縁、相伝と呼ばずなんと言うのだ。
「後、直先生が爆破の個性持ちのヴィランの所にお父さんって貰われにいった事件の話する?」
「wwww直哉お前ww」
堪えきれずに、ブッハと五条悟は吹き出す。そんなおもしろエピソードがあるなら、確かに話は聞きたい。
直先生の恥ずかしいエピソードをコレクションしたい。
むしろ、自分の後輩でなかったことが残念な程だ。俄然直先生に興味が出てきた五条である。
「わああああああああ爆殺する!!! 絶対爆殺する!! 何言ってんだ五条のボケ!!!」
「どっちかっつうと直哉がボケで僕がツッコミだったみたいだけどwww」
あっ僕うまいこと言っちゃった? などと五条がふざけ、張り詰めていた空気は弛緩する。
どうやら、多少は同一性があるらしいし、会話も通じるようになってきた。
このまま、直、直哉、直先生と呼び続ければなんとかなりそうだ。
「ハァァ。直哉先生、会話は通じるようになってきたみたいですね。後どれくらい呼びかければ元の直哉先生に戻るんですか。あ、直哉先生、お腹空きませんか? 私は空きました。ちょっと休憩して軽く夕食を食べましょう。直哉先生。悠くんは、もっと詳しく状況を教えてください」
七海は意識して直先生の正しい名前を呼びかけ続ける。
そこで、食堂から食事を運んできてもらい、食べながら悠仁、悠、順平から聞き取り調査が行われた。
無事、情報を回収しきったそのあとは。
お説教大会である。
お説教大会である。
悠と順平はもちろん、悠仁もしこたま怒られた。
特に順平は親御さんからもそれはもう凄まじく怒られて泣かれて大変な事になった。
そう、呪霊に近づいて、犠牲者を一緒に眺めた時点でアウトである。まごうことなきアウトである。
しかも呪霊に情報を漏らしてもいる。
これは呪詛師と言われても仕方がない。
そのあと、大人達は大人達で大反省大会となったのだが。
何せ、不穏な空気が最初から出ていたのに、子供達から目を離してしまったのだ。
これは責められて仕方のないことである。
それとは別に、五条によって光の速さで「直先生貰われっこ説」は広められ、直先生はそれを聞いた直毘人に優しく呼びかけられてヨシヨシされて無事戻ったのだった。
直哉先生の黒歴史がまた1ページ増えた瞬間だった。
読み返しすらされない……_:(´ཀ`」 ∠):
自分の中では割と楽しい話なので、地味にショックです。
そんな中、マシュマロ(お題箱)くれる方、とっても感謝です。ありがとうございます。
感想、ここ好きなどいただけたら喜びます。
よろしくお願いします。
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