その人の心は本当に、内側まで綺麗なままですか
小さな頃から、私は常に『いい子』だった。
大人に望まれた通りに振る舞って、愛想良く、礼儀正しく、ワガママは大人の叶えやすい可愛いお願い程度ばかり。
それは幼稚園でも、小学校でも、中学生だろうが高校生、大学生になったって同じで。
おもちゃをワガママな子に取られれば、『貴方は優しい子だから譲ってあげてね』。
やすみ時間に大して親しくもないクラスメイトにお気に入りのノートに勝手に絵を描かれようが、『そんなことで友達と喧嘩しては駄目よ』。
高校生。部活で頑張って始めてとったソロパートは、同学年の同じ楽器の子があんまり泣くから、結局その子に奪われた。
大学生は“大人”だから、勝手に振り分けられた班でメンバーがどんなに課題に協力しなかろうが、『それをちゃんと終わらせるのが貴方の役割』。
そんな世界がようやく終わって、さぁ社会人だ、仕事だ。
貴方達は一番新人だから、先輩にやらせられない雑務を仕事時間外に責任持って終わらせましょう。
もちろん新人だから、新しい仕事が欲しいならどんどん勉強して技術を身に付けてね。それももちろん、業務時間外でやりなさい。
『じゃあ私達は自分の勉強がしたいから、この片付けは、あの資料のまとめは、明日の支度は貴方がしてね』。
そう身勝手に押し付けて、“新人の責任”を放棄した奴らが技術を掴んで出世して言う。『貴女はまだこんなことも出来ないの?』。
なにも知らない上は言う。『同期の子達はこんなに成長しているのに、貴女は』。
それを見ていた社長が言う。『お前の代はお前が駄目だから責任を果たさないし、下がさらに駄目になるんだ。お前には指導をする資格もない。口を出すな』と。
そして次の日。皆が私を指差して言う。『あれが終わっていないのは、下が育たないのは、自分達のやりたいように仕事が進まないのは、お前がなにも言わないからだ』。
私の上げた声なんて、何もかも握りつぶした癖に。
限界が来たとき、私がこれを話せたのは、家族の中でも母だけだった。
父は頑固で短気で、自分が全て正しいから、ろくに話せないまま『お前のここが駄目だからそうなる』と、説教で何時間も終わるから。
だから、母にだけこっそり吐き出した。それでも抱えきれない理不尽を、ただ同意してほしかった。何かして欲しいなんて考える余裕もないまま、本当に、ひび割れた心からただ痛みがこぼれただけだったのに。
話を聞いた母は言う。『それは相手にはこんな考えがあったのだから、貴方も相手を思いやりなさい』と。
………………………………………………………………は?
そうじゃねーんだよ。何が思いやりなんだよ。
何で私になにもしてくれない、奪えるものは奪い尽くす奴らにこっちの優しさをくれてやらなきゃならないんだよ。
技術の進歩だ?出世だ?てめぇらのやること全部人に押し付けずやってから言えや。
優しさ、善意、思いやり。それは無限の泉じゃない。
皆が身勝手に汲み続ければあっという間に涸れ果てるし、汚された源泉はもう綺麗には戻らない。
私の心は汚染されたまま、次は内側からの毒でどんどんどんどん、濁るだけ。
だから、せめて、まだほんの少し残っていた清んだ水が涸れないように、少しだけ。ただ、『頑張ったね』、『辛かったね』と、寄り添ってほしかっただけなのに。
私に命をくれた人すら、それさえ、してくれない。
私は『云い子』。
幸せになりたい“誰か”の言いなりになって、今日も泉の水を流す。
私が全て涸れ果てる前に、こんな世界が枯れてしまえ。