IS×FGO   作:如月/Kisaragi

10 / 11
お待たせしました、#10です。


#10

IS学園の整備室。

そこには未完成の鉄の鎧が、一つ置かれていた。

 

打鉄弍式。日本の技研──倉持が作り上げた、第三世代機。

いや、正確には『作り上げる途中で開発放棄された、未完成品』の第三世代機。身勝手な大人たちのエゴによって捨てられて、命を受けることもできなかった未完の鎧。

 

生を与えられず眠ったままのそれの前に、1人の少女が静かに立つ。

水色の柔らかな髪、閉ざされた双眸。側から見れば神秘的な光景──実際のところ、彼女の周りには()()()()()()()()()()()()()()()のだが、それを感知できる人間は今ここにはいない──の中心に立つ女は、そっと眼を開いた。

双眸が覗く。輝き澄んだ真紅には、強い意志が浮かんでいた。

 

「……必ず、あなたの事を完成させてみせる。私のためでなく、誰かのためでもなく、生まれることができなかったあなたのために。だから──少し待っててね、弍式」

 

慈愛のこもった顔で、女──更識簪は微笑んで、それから整備室から出た。

 

 

 


 

 

 

整備室での一幕の裏側で、一年一組の面々は『織斑一夏 クラス代表就任おめでとう』パーティを開いていた。

彼が代表に決定してから、素早く横断幕とその他の準備を済ませたのだから、彼女たちのその行動力には舌を巻かざるを得ない。

 

「ねーねー、次のクラス対抗戦の優勝でもらえる景品、知ってる?」

「確かアレだよね、食堂で使えるスイーツ食べ放題券!」

「そうそう!私、スイーツ大好きだから……織斑くんには是非とも、勝ってもらわなきゃね」

 

和やかな談笑。その中心では、次のIS学園のビッグイベント、クラス対抗戦の話が広がっている。

花の女子高生たちだ。スイーツに心惹かれるのはわかるなぁ、と壁際で立香はため息と同時に一人ごつ。

ゆっくりとした動作で口に紅茶を含み、少し舌で転がして飲んでみると、もう一度今度はさっきよりも深いため息をついた。

口直しの代わりに自ら焼いたスコーンを放り込み、表情を取り繕ってから、もう一度パーティ会場を見渡してみる。

 

会場のおよそ中央部では、主賓が多くの女子に囲まれて話しかけられている。その会話の速さたるや、それを全て受け止めている一夏の目にぐるぐるが浮かぶほどである。後で助けに行ってあげよう、後で。

あと一夏、きみ、解放された後は離れたところで不機嫌そうにしてる篠ノ之さんのことどうにかしてあげてね。もうすごい形相してるからね。

 

そしてその喧騒から少し外れたところでは、自分たちとリボンの色が違う生徒に話を聞かれているセシリアがいた。腕に『新聞部』という腕章をつけて、メモ帳に一心不乱に何事かを書き込む女性は、どうやらエリートのようである。時々聞こえてくる質問の中にはとんでもないことを聞いていたりしていたが、そのすべてを涼しい顔で受け流すセシリアはやはり育ちがいい──というか、場慣れしているようである。

 

机からジュースを取ってきて、口に一杯含む。甘い味が脳に染み渡りながら一息つき、そして──この人混みの中で、どこかから自分を見ている人間がいることに少し気を害した。

 

見ているというよりも、これは監視だった。少しでも不審な動きをしたら確実に仕留めるというレベルの、最大限の警戒。その証拠に研ぎ澄まされた殺気をひしひしと感じている。数は……少なくとも2、いや3か?

 

……今、考えても仕方ない。これをしている主犯格さんの正体はわかりきっているけど、それを悟らせるわけにはいかない。

 

心にそう誓ってから、立香は一人、外へと出た。

 

 

 


 

 

 

「……この学校、色々なこと起こりすぎだね」

『はい。……リツカは、このような生活はお嫌いですか?』

「ううん。寧ろ好ましいくらいだよ」

 

心地よい4月終わり頃の、潮の匂い混じりの道。

側から見たら虚空に話しかけているようにしか見えない立香。

その隣には、実際には立香の側には一人の女性が立っている。アルトリア・キャスター。アヴァロンの妖精、そして立香のISに力を貸した、一人目のサーヴァント。

彼らは、なんでもないように歩みを進める。カルデアの頃と同じ光景が、そこで繰り広げられていた。

 

『……それは、あの少女の存在もあってのことですか?』

「んー。……まあ、簪が俺のことを理解していてくれているのは、嬉しいかなぁ」

『……なるほど』

 

その話を聞いてから、アルトリアは少し微笑む。自らの主人が、心を許せる友人に出会えたことが嬉しかったからだ。

それと同時に、彼女は立香の抱える思いにも薄々気づいた。彼自身は納得していないし、まだ気づいてもいないみたいだが……それを言うか言うまいか迷ってから、結局何も言わないままにすることにした。きっと今は、言ってもそれを理解できないだろうから。

 

ふと、立香は歩みを止めた。

その視線は一点に注がれており、やがてその方向へと歩み始める。

 

「すみません、何かお困りですか……?」

 

声をかけられた少女──おそらく、転入生だろう彼女は、少し驚くそぶりをしながら立香のことを見つめている。

 

「ん、ありがとう。実は、事務室ってところに用があって……ってかアンタ、二人目の男性操縦者の藤丸立香よね?」

 

溌溂そうな声だ、と思った。元気って言葉が相応しい、はっきり言ってしまえばロリ。だがその裏には豊かな知性と行動力がある……ように、見える。それが藤丸立香の抱いた第一印象だった。

そして同時に、顔をよく見てから気づいた。彼女は確か、中国国家代表候補生の『凰鈴音』ではないか、と。IS学園に入学する前にIS関連の人物の顔はインプットしてあるから間違いないはずだ。

事務室に用があるということであれば、きっと編入手続きをしにきたに違いないはず。

 

「うん。そういう君も、確か中国の国家代表候補生の凰鈴音さんだよね?」

「そうよ。よく知ってるじゃない、藤丸?」

「立香でいいよ。編入手続きが必要なんだよね?俺が案内するよ」

「いいの?それなら助かるわ。……全くあの守衛も、もう少しくらい詳しく道を教えてくれたらいいのに……」

 

先頭に立ち、ゆっくりとした歩調で歩き始める立香の隣に、鈴音が並び立つ。

お互いの話やISに関わるきっかけとなった出来事などを話しながら、ふと彼女はこうこぼした。

 

「どうせなら一夏と同じクラスがいいなぁ……」

「……一夏の知り合い?」

「昔の幼馴染よ。今でも同じ風に考えてくれていたらいいけど……」

 

あの朴念仁、二人も可愛い幼馴染がいるのに平然とした顔でいられるのか。

そう口に出しそうになりながらもそれをグッと堪えた立香は、「まあ、覚えているといいね」と言って、この話から引き下がることにした。

 

「そういえば一夏のクラスの担任……まあ、俺たちの担任は織斑千冬先生だから、あまり変なことしないほうがいいよ」

「えっ、それ本当?早めにそれが聞けてよかったわ……」

 

顔を顰める鈴音──いや、さっき『鈴』と呼んでと言ってきた少女。きっと昔に何かされたんだろうなぁと思い返して、そういえば織斑先生の一撃は凄まじく強いということを思い出した。あの折檻のことを思い出して、立香は少しだけ身体を震わせた。

 

「っと、ついた。ここが事務室だよ」

「ありがと立香!今度何かお礼させてちょうだい!」

「気にしないでー!」

 

元気そうな声を放つ鈴に釣られて、こちらも大きな声で返す。

小走りになりながら、ぴょんぴょんと跳ねるように駆けていく彼女の姿はまさしく小動物のようであった。別に貶してるとかそういうことは思っていない。

 

それにしても、と立香は思う。あの少女と篠ノ之箒がエンカウントしたら、何が起きるのだろうか、と。

……想像してみたらなんだか寒気がしたので、考えることをやめた立香は、パーティー会場へとまた足を進めるのであった。

 

 

 


 

 

 

「……いいヤツだったけど、なんか。

──アイツ以外に、何かいなかったかしら?」

「……ま、気のせいか。考えても仕方ないし」

 

「……あのヒト、私の存在に気づいた……?」

「……いえ、たまたまでしょう。ですが確かに、()()()()()()()ように思えましたが……」

 

「……ふふっ」

「面白いわね」

 

 

 


 

 

 

藤丸立香の朝は早い。

毎日朝4時に起床し、朝食と弁当の用意をする。同居人()もすっかり餌付け……料理の虜となったので、今や同居人が喜ぶ食事の献立を考えることが、立香の愉しみになっていた。

 

そして全ての仕込みが終わると、朝の軽いランニングをしに外へ出る。

寮の周りを5周程度、人に見せられる全速力で走り切り、それから10周ほど軽いジョギングをする。

それからスパルタ式筋トレ、各種武技のイメトレ、時には簪のためのIS設計……という風に、朝の日課を消化し切る。

 

寮の自室に帰ると、たいてい簪が起きて配膳をしてくれている。

毎日嬉しそうな表情と機嫌の良さそうな鼻唄で歌いながらそれをやってくれているものだから、それを見届けるのもまた立香の日課だ。

それに最近は生活リズムが改善されてきたからか、血色や体調も良くなってきているようで、ルームメイトの疲労回復などにも一役買っていた。

玄関先に用意してあったIS学園の制服とぬるめのスポーツドリンク、それからタオルを手に取ってから、先にシャワーを浴びる立香。

ルームメイトが朝から元気そうで安心したのか、こちらの表情もまた晴れやかなものだった。

 

ちなみにこの様子を見た(ロマニの千里眼で盗撮した)管制室は阿鼻叫喚であり、血涙を流す職員、叫ぶ独身男性職員にその肩を思い切りぶっ叩く女性スタッフ、ニコニコと微笑む職員、青筋を立てるサーヴァント、なんならすでに暴動を始めた一部連中と、それを止めるために躍起になるものたち、そしてその全てを見て高笑いする黄金色がいた。エミヤは目を覆って、白色の妹はコロコロと笑って、モルガンがキレた。ロマニとゴルドルフの胃は死んだ。

 

閑話休題(それはさておき)

 

それまでの様子を見ていたことを悟られぬように、素知らぬ顔で簪に「おはよう」と告げ、食卓に着く。そして両手を合掌し、互いに「いただきます」の一声。

他愛もない話から真面目な話、昔話など、雑談に興じながら静かに過ごすこの朝が、立香にとっての安寧と休息であった。

静かに過ぎて行く時間。気づけば、時間はもうまもなく8時というところまで来ていた。

 

「じゃ、行こう」

「うん……少し、待ってて」

 

互いに荷物を持って立ち上がる。が、そんな中で簪は立香を呼び止めた。

少し迷った素ぶりを見せる簪。だが、それはすぐに晴れたのか、意を決して言い放った。

 

「ねえ。前にも言ったけど、今日からしばらくの間、放課後手伝ってほしい」

 

その言葉は、これまでの彼女が終ぞ放つことのできなかった声であった。

その声を受けて立香は、迷いなく、返答の間隔を開けないで言った。

 

「もちろん」

 

互いの返答は短く、思いは強く。

それだけであった。

 

 

 


 

 

 

朝のホームルームでは大騒ぎだった。主に一部の人間が。

篠ノ之さんは凍った視線を放つわ、鈴は宣戦布告のようなことを宣うわ、クラスメイトの皆は大騒ぎ。

だが鈴はなんの気もなく、昼に会おうという言葉を残して早々に二組へと向かっていった。一夏に放った言葉を残して。

 

曰く、

「中学校ぶりの再開で、鈴と一夏は親友以上の間柄」

「二組のクラス代表になった」

「どこのクラスにも負けないから覚悟して」

ということを告げて、唖然としているクラスメイトたちからの視線を気にすることなく去っていった、らしい。

セシリアは面白いことになった、と一夏を見つめ、一夏は動揺からかいまだに顔が固まっている。篠ノ之さんは心なしか表情がいつもより冷たい。クラスメイトたちは一斉に息を吸った。

 

その予備動作を受けて、俺とセシリアはすぐに耳を塞いだ。

瞬間、炸裂する音響。軽く窓ガラスが揺れたように見えたのはきっと気のせいだ、と半ば現実逃避するように思考して、織斑先生早く来てください、と祈るばかり。

 

しばらくして織斑先生が騒ぎを一喝し、ホームルームを行った後授業を行った。

……がクラスメイトたちはいまだにソワソワしている。特に篠ノ之さんはそれが顕著で、織斑先生の出席簿アタックを何回も喰らっていた。一夏も同様であった。

 

そして昼にも一悶着あった。

食堂に向かう途中で、鈴が一夏を捕まえて昼食を誘った。ただしその横には篠ノ之さんがいた。

一夏は互いのことを紹介するが、それを契機になぜが互いに険悪ムードが止まらない。そしてノンデリカシー(本人は無自覚)な一夏が、「どうして喧嘩しているんだ?」の一言を放つ。俺とセシリアは目を合わせて、それから一つ溜息を零した。その後の一夏がどうなったかはよく知らない。なにせ俺はそこのグループから離れて、食堂の端で一人黙々と食事している簪のそばに行ったからだ。

 

そんな一悶着も二悶着もありつつ、今は放課後。

簪に案内されて訪れたのは、IS学園の第二整備室。

そこにはただ一つ、物悲しく存在する未完の鎧が鎮座していた。

……打鉄・弍式。倉持技研の第三世代機として生まれるはずであった、簪の専用機。大人たちのエゴに潰されて、産まれることのできなかった機体。

 

「とりあえず……なんとかして、クラス代表対抗戦までに、最低限戦えるレベルにしたい。だから、この前見せた武装だと調整が間に合わないから、代わりの武装を組むのを任せてもいい?」

「そう言われると思っていくつか用意があるよ。ダヴィンチちゃんに頼めば、たぶん半日くらいで着くと思う」

「……チート」

「使えるものを最大限まで利用してる、って言い方にして欲しいかなぁ」

「冗談。……じゃ、始めよう」

 

軽口を叩き合いながらアセンブリを始める。

関節をもっとキツくだとか、どの工具がいるだとか、機体コンセプトと武装案だとか、そういうのを爆速で決めていく。

本来なら無謀なこの作業。作業期間ごく僅かの中で、第三世代機にふさわしいものを用意するという、暴挙であるはずの作業。

 

ただ、予感だけがあった。

──この作業は、確実に大成功する、という予感が。

 

「左肩、これ使いたい」

「パワーバランス的にはこっちが楽じゃない?」

「近接戦はロマンを求めたい」

「わかる。パイルバンカーとか、チェンソーとか」

「無線誘導……マルチロックオン……フリーダム……」

「身体が闘争を求めてる」

「ヒャッハー!コーラルキメていくぜ!」

「やはりロマン……ロマンが、全てを解決する……!」

「脚部にブレード仕込もうぜ」

「トゥッ!ヘアーッ!モウヤメルンダ!」

「もうだめだろうここのスタッフたち……!」

「(カドックの肩を優しく叩くエミヤ)」

 

……大成功、するのだ、きっと。

だからカルデアから通信を飛ばしてくるスタッフたち、頼むから余計なことを言わないでくれ。ロマンは確かに大事だけども。

 

「藤丸くん、ボクはこれとかいいと思うけどなぁ!」

「立香くん、とりあえずその場で武装作れるキット持って今からそっちいくから宜しく!」

「ふはははは!人気者ではないかリツカ!我は疾く小娘の機体と、小娘自身のことを公表したいぞ!」

「良いではないか黄金の!既に記者会見の用意はできておるぞ!」

「あ、あのギルガメッシュ王!オジマンディアス王も、どうか落ち着いて……」

「……(胃薬を飲みながら顔を青ざめさせているゴルドルフ所長)」

 

だからこそ思う。

絶対に簪の機体は、ロマンと実用性を兼ね備えた、しっかりとした機体にしてみせると。

 

あと所長、一回しっかり休んでください。休めるような情勢じゃないのは理解してますけど。

 

 

 


 

 

 

「……高機動型のオールレンジ機で、一対一性能と一対多の性能どちらにも対応している、第三世代機……」

 

作業が一通り終わった整備室内。

誰もいなくなったその空間に一人、水色の髪の女がいた。

更識楯無。ロシアの国家代表にして、日本の対暗部組織「更識家」現当主。

 

そして、今データを見ている機体の乗り手──更識簪の、姉。

 

「左肩のアンロックユニットにはソードビット、それから荷電粒子砲。右肩にはミサイルコンテナ……背面ユニットにもソードビット、それから高機動戦用の大出力スラスター。

射撃兵装にはリニアガン、連射も単発でも撃てる射撃セレクタ付きの、突撃銃(アサルトライフル)モデル。そして近接戦闘用の薙刀には高周波振動加工が施されている、と。……これ、本当に第三世代機?」

 

疑問を感じながらも、手を動かすことはやめない。

馬鹿げた機体性能と搭載火器の量に冷や汗が流れた。それが背筋を這うのは、この機体への恐怖からか、それとも。

 

「拡張領域にはほとんどモノが入っていない。

エネルギー構成比も一般的なISと変わりなし、姿勢制御や火器管制システム、運動機能の方も……少しピーキーな性能をしてるけど、基幹は忠実。一般的なプログラム構成ね」

 

大方の内容について確認を終えて、コンソールを閉じる。閲覧履歴が残らないようにこの場のデータは全て自然なように改ざんしてある。

監視カメラの映像も差し替えてある。彼らにバレる心配はない、はずだ。

だというのに──この言葉にできない、違和感と胸騒ぎは一体何であろうか。

 

不安になって辺りを見回しても誰もいない。

予めこの辺りは夜に清掃業者が入ると偽って、更識の人間を手配済みだ。その監視網を潜り抜けることも、できるはずがない。

 

「……杞憂、よね。きっと」

 

脳裏に記憶が蘇る。妹と仲が良く、共に楽しく過ごしていた時の記憶が。妹に避けられるようになって、少しずつ擦れていく関係の記憶が。

妹に、勘違いとなる一言を放って、ついに会わなくなった時の記憶が。

 

漠然としたこの不安はきっと、妹と会えないからに違いない。

誰にいうわけでもなく独りそう思考して、楯無は部屋から出た。

 

 

 


 

 

 

放課後の屋上にて。

藤丸立香は困惑の渦中にあった。隣に立つセシリアも同じように、この状況に頭を悩ませていた。

彼らの眼前にいるのは、目を赤く腫らして泣きながら縮こまる、凰鈴音がいる。

 

彼女がこのようなことになったのにはもちろん訳があった。

ことの発端は鈴が一夏を食事に誘い、その時起きた。篠ノ之さん──箒さんと軽い言い合いになったそうなのだ。

 

鈴が一夏のIS訓練のコーチになることを提案したところ、箒がなぜか拒否。

現在コーチを担当しているのはセシリアであるのに、そのセシリアの意思も解さずに断ったそうだ。そしてセシリアに対しても、一夏のコーチになると言い張って聞かない。セシリアは仕方がないので一旦引き下がり、機を見て再びコーチになることを選んだ。

 

ここまではまあ、まだわかる。

昔、一夏と親しかった箒さんとしてはきっと一夏のもう一人の親しい友人と聞いて気が気でないのはわかる。だからこそ強く当たるのもわかる。

 

だがしかしその後に起きたことが問題であった。

放課後、箒さんとの訓練が終わり小休止を取る一夏の元へ向かい、鈴は昔の話をしたそうだ。

曰く、「料理の腕が上がったら、毎日酢豚を食べて欲しい」という内容。

すこし婉曲気味ではあるが、これが意味するところの意味はわかる。要はあれだ、「毎日味噌汁を飲んで欲しい」という日本流の告白を、少し中華風に変えただけだ。

理解するのに時間はかかるが、意味は通るだろう。

 

ただ一夏の朴念仁さは予想のはるか上を突き進んでいた。

一夏はその言葉の意味を、「毎日酢豚を奢る」という意味だと思っていたらしく、それを馬鹿正直に鈴に言い放った。

プロポーズのつもりで言い放ったその言葉を勘違いされていたことを知った鈴は、まあ荒れた。一夏に手痛い一撃を与えてから、逃げるようにして去ったらしい。

 

それを最初に聞いて、朝に鈴が、一夏と自分は親友以上の関係だと公言していたのか。……なんというか、まあ、鈴もストレートに伝えることを覚えるべきではないかな、なんて思ってしまう。

まあそれにしても、一夏の鈍さには首を傾げてしまうが。

 

そして彼女は、泣きながらも俺たちにどうすればいいのか、と聞いてきている。

 

(……ねえセシリア、これどうするべきだと思う?)

(逆にリツカさんはどうされるべきだとお思いですか?)

(……一夏が改善されない限り、どうしようもなくない?)

(……そうですわね)

 

困ったように目元に皺を寄せて、二人して頭を抱えてしまう。

今の状況の鈴に何か言っても逆効果になる気しかしない。時間が蟠りをなんとかしてくれることを祈るしかないが……あの天然朴念仁に、あの言葉の意味を理解できるとは、失礼ではあるが全く思えない。

言葉に窮して、うーとかあーとか呻いていると、鈴が立ち上がった。

目元は赤く腫らしているが、その目つきはここ最近よく見た鋭いものへと変わっている。

意を決したように息を浅く吸ってから、鈴は言った。

 

「うん、今はとりあえず考えない!あの朴念仁で馬鹿な一夏を一発、クラス対抗戦の時にISで吹き飛ばす!」

 

少し鼻声ではあったが、快活に鈴は言い放つ。

目には闘志が浮かんでいた。立ち直ったのだろう、この前の溌剌さが戻ってきている。

俺とセシリアは互いに目を合わせてから、頷いて、言った。

 

「頑張ってくださいませ、鈴さん」

「一夏を倒してきなよ」

 

俺たちの言葉に鈴は獰猛な笑みを浮かべて、声を上げた。

 

「当然!」

 

 

 


 

 

 

「……やっぱり。改竄されてる」

「うわ、本当だ。よく気づいたね簪」

「この手のことは得意。任せて」

 

あのあと、意気を上げて盛り上がっている鈴と、友人に呼ばれていったセシリアの二人と別れ、簪とアリーナの準備室へと向かった。

打鉄・弍式の最終テストとして、すでにIS学園に到着しアリーナで待機中のダヴィンチちゃんと共同して、仕様確認を行う……予定の一幕で、コンソールをいじっていた簪が違和感を抱き、そうして改ざんに気づいたのだ。

俺から見ても改ざんには気づけないレベルだったので、簪を素直に称賛するとくすぐったそうに顔を綻ばせて笑った。

 

『んー。かわいいね簪ちゃん?』

「か、可愛いっ……そんなこと、ないです」

『初心だねぇ、若いなぁ。私の方でも不自然な改竄を確認したよ、調査に当たらせるさ。今はともかく試験をしようじゃないか』

「はい。少し待っていてもらえますか?」

『うん、おっけ〜。どんな機体に仕上げたのかまだ知らないから楽しみだぜ!』

 

アリーナのダヴィンチちゃんと会話を交わす簪を横目に、俺は準備室のドア前に立つ。そして細く息を吸ってから、ドアの奥にいるであろうヒトに声をかけた。

──いつまで、ウジウジしてるんですか。

 

しばらく経ってから、足音が聞こえる。遠ざかっていく足音。

……素直になれないのだな、と思ってしまう。簪も、あの人も。

さて、どうするべきだろうか。ここまで関係を拗らせた人は初めて見た、かもしれない。

ため息を一つ吐いてから、今はとりあえず簪の近くにいてあげようと思って、再び歩みを進めた。

 

 

 


 

 

 

「メインシステム、起動率56%。火器管制システムオールクリア。マルチロックオン射撃システム起動、48連プラズマミサイル『山嵐』、荷電粒子砲『春雷』、アサルトリニアガン『秋雨』、ソードビット『夏霞』状態に問題なし。近接戦闘用薙刀『夢現』、全工程起動を確認」

 

四機の仮想キーボードが、軽快に音を立てる。

スクリーンに流れていく数多の文字列の行進、それはこの機体が完成へと近づいていることの何よりの証左。

 

「姿勢制御システム、ISコアへの接続を確認。シールドエネルギー臨界、絶対防御起動、ISコアリミッタープログラムの正常動作、問題なし。

──打鉄・弍式、システムオール・グリーン」

 

機体の一次移行(ファースト・シフト)が、終わる。

白銀と漆黒、金のラインを模った、打鉄・弍式が完全に起動する。

 

近くを見渡す。整備を手伝ってくれた立香が、静かに手を叩いていた。

そして彼は目線で、早くアリーナにいるダヴィンチさんに見せてあげな、と語っている。

その視線を受けて、私はスラスターに火を入れた。

 

「打鉄・弍式……出る!」

 

学年別クラス対抗トーナメント、その3日前。

更識簪の専用機、打鉄・弍式が、空を舞った。




#10、ご読了ありがとうございます。

まず最初に、ご読了ありがとうございます。そして、長い間お待たせしてしまって申し訳ございません。
長い間皆さんを待たせてしまいました。毎回言っていることではありますが、ここから頑張って行くので何卒よろしくお願いします。

感想返信を少しさせていただきます。

>セシリアの独自設定
IS勢の中でもお気に入りキャラですので、本当は設定をそのままで書きたかったんですが、FGO要素を薄れさせたくない+捏造が大好き作者なので、魔術師になっていただきました。ですが彼女自身、すぐれた魔術の才能を持ってはいますが魔力を自覚していないので、魔術を使うことはないです。おそらくは。

>藤丸くんの特殊演出
変身中の攻撃にはロマンがない!でも狙われるのは嫌だから、それなら狙われても無敵バリアできれば良くない?→対粛正防御(ロマニ:私が作りました)。
この設定が生きる時が来るかは未だ不明。

>オリバー・オルコット
彼のオリジナル幕間書きたい〜けどほんへ優先なのでオリバーくんはあくまでもちょい役になるかな?
ただすごい考察されてて嬉しいです。オリキャラなのに……本当に感謝です。

>楯無さん
おい、その先は地獄だぞ(ガチ)
このままだと楯無さんかんちゃんと仲直り出来なさそうなんですけど……どうしよ。仲直りはしますけど、紆余曲折がすごいことになりそう。

>弍式に掎角一陣積もう。自然回復する一夏くんを弾丸にして。
これぞ鬼畜の所業。いいぞもっとやれ。
……正直、ネタ集で書きたい。本編関係ないギャグ時空で。

今回もたくさんの評価、感想ありがとうございました!
また感想、評価お待ちしています!

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